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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査60巻6号

2016年06月発行

雑誌目次

今月の特集1 もっと知りたい! 川崎病

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河合 昭人

pp.585

 日本人の名前が病名となっているものにはいくつかありますが,そのなかの1つに川崎病があります.川崎病は,川崎先生が初めて発表されてからもうすぐ50年となりますが,その原因については現在もなお詳細はわかっておらず,全身の血管炎を引き起こし,特に冠動脈病変に注意しなければならない疾患です.

 小児科領域の心エコーを実施している施設では,とても有名な疾患である川崎病ですが,心エコーの専門書では川崎病を取り上げる分量が少ないのが現状です.本特集では,心エコーのみならず,疫学から診断・治療に至るまで,読者の皆さまに,川崎病に対する知識のアップデートしていただくことを目的として,各方面で活躍されておられる先生方に執筆をお願いしました.

 川崎病を日常の担当業務とされている方々にはもちろん,心エコー以外のモダリティーを受けもたれているなど,担当業務でない方にも興味深くご覧いただける内容となっています.皆さんのスキルアップの一助となれば幸いです.

川崎病の疫学と病態

中村 好一 , 牧野 伸子

pp.586-591

Point

●わが国ではこれまでに30万人以上の乳幼児が川崎病に罹患しているが,その原因はいまだに不明である.

●1月に患者数が多く,夏場にも患者数の増加が観察される.年齢別の罹患率は0歳後半にピークをもち,一峰性に分布する.

●疫学像から,感受性をもつ宿主に対して感染症が引き金となって川崎病が発症することが推察される.

●川崎病の本態は,組織壊死因子α(TNF-α)を中心とするサイトカインによる血管内皮細胞の活性化が引き起こす全身の血管炎である.

川崎病の臨床所見と診断基準

小川 俊一

pp.592-599

Point

●川崎病は臨床症状から診断される全身性の血管炎症候群である.

●川崎病の急性期には,腫瘍壊死因子α(TNF-α),インターロイキン(IL)-1,IL-6などのサイトカイン,IL-8,MCP-1などのケモカイン,細胞間接着分子(ICAM-1),血管細胞接着分子(VCAM-1)などの接着因子が増加し,血管炎を助長する.

●川崎病の血管炎のバイオマーカーにはPTX3やtenascin-Cなどが有用である.

川崎病の心エコー検査での評価

布施 茂登

pp.600-606

Point

●冠動脈の部位を解剖学的名称および冠動脈番号で表記する.

●冠動脈の全領域を観察するために,被検者の体位やプローブの位置を工夫する.

●冠動脈径を適切に計測するためには,ゲインコントロールが重要である.

●冠動脈拡大の評価のため,冠動脈径は実測値の他にZスコアでも表記する.

川崎病の心エコー検査以外のモダリティでの評価

渡邉 拓史 , 神山 浩

pp.608-612

Point

●川崎病冠動脈障害(CAL)の評価には,小児期からの反復検査が必要となる.心エコー検査に加え,特に遠隔期では冠動脈CT造影(CCTA)や冠動脈MRI(MRCA)などの低侵襲性モダリティの利用を積極的に試みる必要がある.

●モダリティは,それぞれの長所・短所を考慮して患者の身体的,時間的,経済的負担を軽減するように選択する.

●検査に伴う鎮静処置は時に重篤な合併症を起こしうるため,個々の患者の鎮静リスクの認識と合併症への迅速な対応のための事前準備をしておくことが重要である.

●“冠動脈の何をみたいのか”を含む検査情報について,臨床検査技師と医師間でコミュニケーションをとることが適正な検査の施行につながる.

川崎病の急性期治療と予後

小林 徹

pp.614-620

Point

●免疫グロブリンとアスピリンの併用が川崎病の標準的治療である.

●risk scoreを用いた重症川崎病に対する初期治療強化療法が行われている.

●冠動脈病変合併頻度は劇的に減少したが,中等度以上の冠動脈病変合併患者数は大きく減少していない.

遠隔期川崎病の管理

三谷 義英

pp.622-625

Point

●川崎病既往者の約半数は成人期に達している.

●冠後遺症を伴う川崎病既往者は,成人期の急性冠諸侯群の危険因子となる.

●冠後遺症を伴った川崎病既往者は,生涯にわたる経過観察を要する.

●遠隔期川崎病冠病変の評価における超音波検査の役割は限定的であるので,マルチモダリティーの画像診断が重要である.

今月の特集2 CKDの臨床検査と腎病理診断

フリーアクセス

阿部 仁

pp.627

 腎臓は“肝腎要”と表現されるように大変重要な臓器の1つですが,長い経過を通じて末期の腎不全になってしまう患者さんが増加しています.このような状況のなかで,慢性腎疾患の早期発見の手段として慢性腎臓病(CKD)という新たな概念が提唱されました.

 CKDは末期腎不全(ESKD)へ進行して人工透析療法や移植腎による腎代替療法が必要となり,さらに心血管疾患(CVD)の重要な発症危険因子であることがわかってきました.早期に発見して適切な管理と治療をするためには,臨床検査の果たす役割は非常に重要です.

 本特集では,CKDを理解していただくために,定義・症状・治療などの臨床情報,早期発見の手掛かりとなる検査と診断,臨床医へ適切な治療方針を導く重要な情報を提供する病理診断とその検査方法を解説していただきます.

 臨床検査のCKDのかかわりへの理解が,いっそう深くなることを期待しています.1人でも多くの方に参考にしていただければ幸甚です.

CKDの臨床

木村 秀樹

pp.628-632

Point

●慢性腎臓病(CKD)の主たる診断基準は,0.15g/gCr以上の蛋白尿または30mg/gCr以上のアルブミン尿の存在が,あるいは,糸球体濾過量(GFR)が60mL/分/1.73m2未満の状態が,3カ月以上持続することである.

●CKDの原疾患は糖尿病,高血圧,腎炎,多発性囊胞腎などが主体であるので,原疾患を認識することが診療上で重要である.

●CKDは心血管疾患(CVD)の合併が多く,CKDとCVDは多数のリスク因子を共有し,両者の進行とともに相互に影響する悪循環を形成する(心腎連関).

●基本的治療は,生活習慣(禁煙,減塩,肥満)の改善,糖尿病・高血圧・脂質異常症の改善である.蛋白尿が0.5g/gCr以上,蛋白尿と血尿の合併,GFR低下(40〜60mL/分/1.73m2未満)の場合は,腎専門医との連携が必要である.

CKDの検査と診断

岩津 好隆

pp.634-640

Point

●慢性腎臓病(CKD)の診断のために,腎機能検査,尿検査,腎超音波検査を行う必要がある.

●CKDは推定糸球体濾過量(eGFR)とアルブミン尿(蛋白尿)によって重症度分類がなされている.

●現時点では,ネフロン障害部位を尿中バイオマーカーでは特定できないが,尿沈渣では特定できる可能性がある.

●CKDの診断は,複数の検査を組み合わせて行うことが望ましい.

CKDの病理

橋口 明典

pp.642-648

Point

●慢性腎臓病(CKD)患者の生検の意義は,疾患の層別化にある.

●CKD患者の生検の多くは慢性・硬化性病変を伴っているが,これらは非特異的な所見である.

●硬化性病変が進行した症例では,しばしば病因の特定が困難であるが,これを可能な限り同定するために,標本作製にも慎重さと工夫が求められる.

—腎生検による組織検査法①—光学顕微鏡検査と電子顕微鏡検査

岡村 卓哉 , 古谷津 純一 , 上田 善彦

pp.650-657

Point

●腎生検は,光学顕微鏡検査,蛍光抗体法,電子顕微鏡検査の所見を合わせて診断する.

●腎生検では糸球体が10個以上採取されていることが望まれる.また,髄質も含まれていることも診断上で重要である.

●腎生検で良質な標本を作製するには,検体の切り分けから固定,染色に至るまでの工程で細心の注意が必要である.

—腎生検による組織検査法②—蛍光抗体法

堀田 茂

pp.658-668

Point

●腎生検組織は実体顕微鏡などでよく観察し,適切に各種検体用に組織を切り分ける.時には,臨床データを参考にすることも重要である.

●腎生検組織を正しく迅速に凍結し,2〜3μmで連続切片を作製することが,その後の蛍光染色の結果に大きく影響する.

●蛍光抗体法は,フルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識抗体を用いた直接法が一般的であるが,間接蛍光抗体法や蛍光多重染色を駆使することで,より正確な診断が可能となる.

●各種腎疾患における免疫染色の染色パターンや特徴を把握する.凍結標本による蛍光抗体法とパラフィン標本による酵素抗体法の染色性の違いを把握しておく.

心臓物語・3

拍動の謎を解く鍵,介在板

島田 達生

pp.584

 心臓が収縮と弛緩(拍動)するのは,すべての心筋が協調して働くことができるからである.不思議だ.心筋は,組織学的に骨格筋と同様に横紋筋に属するが,筋線維が網状配列していることが特徴である.なぜ,その心筋線維のすべてが同期して動くのであろうか? 光学顕微鏡の対物レンズを40倍にして,光を絞ってみると,心筋線維は横紋筋特有のしま模様がみられ,また,所々筋線維を横切る横線がある.この横線には光を強く屈折させる性質があるので,光輝線(Glanzstreifen)と呼ばれていた.1μm厚のエポン切片のトルイジンブルー染色は光輝線を鮮明に捉えることができる([1]).

 心筋線維は骨格筋線維と同様に合胞体(細胞境界がなく,細胞質が合わさった状態)であると信じられていた.Bielschowsky-Gomoriの細網線維鍍銀法(1934年)は,膠原線維を赤色,細網線維(好銀線維ともいう)を黒色に染め分ける染色法である.この鍍銀染色を心臓に応用すると,心筋線維が合胞体であり,長軸方向に並んでいるように見える([2]).光輝線は電子顕微鏡が開発されるまでその機能は全く不明であり,人工産物や,異常な収縮などとするさまざまな説が長年続いた.

検査レポート作成指南・10

聴覚検査編

山崎 葉子 , 奥野 妙子

pp.670-679

 聴覚検査には種々の検査項目がある.原則的に最初に行われるのは純音聴力検査であり,求められた最小可聴閾値から難聴の有無や程度が評価され,次に,目的に合わせ,また必要に応じて検査が依頼される.これらの検査結果によって得られた聴覚障害の程度や推測される原因は,そのまま診断につながり,治療の選択や手術の可否を決定することとなる.そのため,依頼医からは,的確な手技で検査が行われることと,矛盾のない適正な検査結果を得ることが求められる.検査担当者は被検者の反応を観察し,個々に合わせた説明や協力を得るための工夫をして,各検査結果に矛盾がないかを検査中に判断する必要がある.また,医師が検査結果を判読する際に,出力されたデータだけでは知り得ない情報をコメントとして記録することも大切である.

 聴覚検査は検査項目が多く,症例によっては再現性を確認する必要もあるため検査日が複数日にわたることもある.また,検査結果は波形のパターンから判読されるものが多い.

 報告書は,耳鼻咽喉科の医師が全ての検査結果を判読したうえで作成している.主な目的は検査結果を一括して記載し,記録として残すことである.

検査説明Q&A・17

自動血球計数機の測定値には機種間差があると聞きましたが,その実態を教えてください

近藤 弘

pp.680-683

■はじめに

 一般に,同じ試薬を用いても自動分析装置の機種が異なると測定値の測定精度に差が生じることを“機種間差”という.血球計数機の測定対象は液性成分ではなく細胞であるため,市販されている自動血球計数機の測定原理や試薬系は極めて多様であり,機種またはメーカー固有の測定試薬が必要になることから,これらに起因する測定値の測定精度の差をまとめて一般に機種間差あるいはメーカー間差と呼んでいる.

 本稿では,筆者が担当している公益社団法人全国労働衛生団体連合会の外部精度管理評価(external quality assessment:EQA)結果(2010〜2013年)を例にして,自動血球計数項目の機種間差の実態を述べる.このEQAプログラムでは,本調査用の加工血液試料のほかに,参考調査用として静脈血液をCPDA(citrate-phosphate-dextrose-adenine)液入り血液バッグに採血したのち,さらにエチレンジアミン四酢酸二カリウム塩二水和物(ethylenediaminetetraacetic acid dipotassium salt dihydrate:EDTA-2K)を添加した新鮮血液試料を配布している.

寄生虫屋が語るよもやま話・6

検査技師さんの執念に脱帽—戦争イソスポーラ症

太田 伸生

pp.684-685

 前回(60巻5号)に続いて,これも私が岡山大学に勤務していた時分の話である.県内西部の医療機関から検査依頼の連絡をいただいた.患者は50歳代の男性で,主訴は持続する下痢である.特段の既往歴はなく,全身状態もさほど悪くない.下痢便の検体を拝見したが,実をいうと診断はすでについていた.その病院の検査技師がまごうことなき寄生虫を観察して,念のための確認依頼であったからである.“貴院の診断で間違いありません”と回答文書を作って返送した.

 下痢便中にみられたのは戦争イソスポーラ(Isospora belli)であった.少々変わった名前の虫で,トキソプラズマなどアピコンプレックス門の腸管寄生原虫である.その名前の由来は,第一次世界大戦中に兵士の間で流行して戦力に無視できない影響があったことからだそうで,わざわざ“戦争”という名前が付いている.症状は一過性の下痢で,健常人の場合は自然治癒するが,免疫状態が低下している人では下痢症状が持続する日和見感染症である.正直に告白させていただくならば,私が戦争イソスポーラ症の検体に接したのはこれが最初であり,大変勉強になったケースであった.

元外科医のつぶやき・18

尿失禁に悩む

中川 国利

pp.686

 前立腺癌でリンパ節郭清を伴う腹腔鏡下前立腺全摘除術を受けた.術前から想定はしてはいたが,最大の合併症である尿失禁に苦労している.

 尿失禁は尿道括約筋の損傷や,尿道括約筋に分布する神経の損傷で生じる.前立腺摘除術直後はほぼ全例で尿失禁が生じ,時間の経過とともに改善するとされている.具体的には,手術3カ月後には6割,6カ月後には8割,1年後には9割以上の患者で,パッドの使用枚数が1日1枚以下になる.

書評 医療レジリエンス—医学アカデミアの社会的責任 フリーアクセス

柴垣 有吾

pp.687

現代医療に疑問を持つ方に読んでいただきたい一冊

 本書は2015年に京都で開催されたWorld Health Summit(WHS)のRegional Meetingで取り上げられたトピックをそれぞれの専門家が解説したものに加えて,同会議の会長を務められた京都大学医療疫学教授の福原俊一先生による世界のリーダーへのインタビュー記事から成っている.WHSの全体を貫くテーマは「医学アカデミアの社会的責任」とされ,さらにそのキーワードとして医療レジリエンスという言葉が用いられている.

 大変に恥ずかしい話ではあるが,私はこれまでレジリエンス(resilience)という言葉の意味をよく知らなかった.レジリエンスはもともと,物理学の用語で「外力によるゆがみをはね返す力」を意味したが,その後,精神・心理学用語として用いられ,脆弱性(vulnerability)の対極の概念として「(精神的)回復力・抵抗力・復元力」を示す言葉として使われるようになったという.今回,評者がこの書評を依頼された理由を推測するに,評者が最近,超高齢社会における現代医療の限界・脆弱性を指摘していたことにあると思われる.もっともその指摘は身内に脆弱高齢者(frail elderly)を抱えた個人的体験によるもので,アカデミックな考察には程遠いものである.

書評 —記述式内膜細胞診報告様式に基づく—子宮内膜細胞診アトラス フリーアクセス

青木 大輔

pp.688

形態学による子宮内膜細胞診のアプローチ

 子宮内膜細胞診は非常に難しいと常々感じている.判定者間の再現性が高いとは言えず,世界的にみてもコンセンサスを得られた検査法としては確立されているとは言い難い.本書のイントロダクションにもあるように,日常的にこの検査を行っているのはほぼ日本のみであろう.その日本においても細胞診所見の判定基準に統一した見解を持ち得ていない.

 現在,わが国では子宮内膜細胞診の所見についてどのように記載し判定していくか,どこまで統一見解を持ち得るものかを模索している.めざすべき方向としては,有意な所見とされるものの再現性や科学的な根拠があるかどうかを検証し,また内膜細胞診が子宮内膜癌の診断や検出にどのように寄与し得るか否かについても臨床的な取り扱いとともに科学的に検証することであるが,今回はそのプロセスの第一段階ともいうべき取り組みとして,たたき台となる最も重要な判定の枠組みの提示をしていただいた.

書評 組織病理カラーアトラス 第2版 フリーアクセス

三上 哲夫

pp.689

医学生から前期研修医まで使用できるアトラス

 2008年に初版が発行された,『組織病理カラーアトラス』の第2版が刊行された.初版の序に書かれているように,本書は基本的には医学生を対象に編集されたものである.本書の旧版は病理組織実習の携行書として多くの医学生に使われていたが,今回の版もその基本的なところは継承しており,総論・各論に分けて,その両方を行き来しながら病変と疾患の概念の理解を深めていけるように配慮している.扱っている項目は基本的に変わりないが,この7年間で変化した用語や概念に対応しており,いくつかの点で明らかな違いが指摘できる.例えば,子宮頸部の重層扁平上皮の腫瘍性病変は,旧版では「異形成−上皮内癌−微小浸潤癌−浸潤性扁平上皮癌」と項目立てされているが,新版では「子宮頸部上皮内腫瘍−微小浸潤癌−浸潤性扁平上皮癌」となっており,cervical intraepithelial neoplasia(CIN)の用語,概念を前面に出した記載となっている.同様のことは膀胱の尿路上皮性腫瘍や,甲状腺低分化癌などの記載にも窺える.また,医学生にとって理解しにくいと思われる非上皮性腫瘍について,旧版では総論の部分でさまざまな腫瘍を紹介していたが,新版では総論での記載を最小限とし個々の腫瘍の紹介は各論に移している.この新版の配置のほうが医学生には使いやすいと思う.

 実際にページをめくってみると,総論はさらに代謝障害,循環障害,炎症,腫瘍などの章に分けられており,そのうち,例えば循環障害の章では,出血,浮腫,血栓などの項目が基本的に1項目1ページで扱われている(重要な項目は数ページに及ぶところもある).各項目ごとに冒頭に「概念」として簡潔な説明がまとめられ,その後に項目の説明文が続き,代表的な1〜数枚の組織像が簡単な説明文とともに提示される.各論部分も基本構造は同様で,こちらは臓器ごとの章となっているが,各項目では冒頭に「疾患概念」としてその疾患についてまず理解しなければいけないことがまとめてあり,続いて「病理診断のポイント」として診断上の重要所見が説明され,さらに写真,という配置になっている.各論部分で工夫してあるのは,各章の最初に「基本構造のチェック」という項目が置かれ,簡単な模式図とともに臓器の正常構造の説明がなされている点である.医学生は以前に学習したマクロ解剖学と組織学の知識を忘れていることが多いため,このページは自己学習に有効であろう.組織写真は旧版同様見やすく,大きく配置されており理解しやすい.

あとがき フリーアクセス

佐藤 尚武

pp.692

 この原稿は,東京でも桜の開花宣言が出た時期に書いています.少し前の3月11日前後には,各テレビ局で一斉に東日本大震災の特集が組まれ,もう5年もたったのかと,あらためて感じさせられました.原発事故のあった福島をはじめ,全体的に復興の遅れが目立ち,津波被害の恐ろしさを再認識した次第です.地震だけであれば,復興のピッチはもう少し速かったろうと思いますし,原発事故も起きなかったと思われます.特集番組をみながら,津波被害の恐ろしさは,教訓として後世に残すべきと感じました.

 さて,本号の第1特集は「もっと知りたい! 川崎病」です.実は,川崎病には思い出があります.私は医師免許取得後すぐに臨床検査の分野に進みましたので,医師としての診療経験がほとんどありません.ただ,1年弱の期間,学生時代のクラブの先輩に誘われて小児科で研修を行いました.これがほとんど唯一の診療経験ですが,このときは川崎病が大流行した年でした.中村先生の“川崎病の疫学と病態”をみると,1982年のことだったと思います.そのため,川崎病の症例をたくさん経験しました.当時は川崎病の原因究明が小児科領域の大きな課題でしたが,今回の特集を読むと,まだ原因は不明とのことであり,この疾患の難しさが感じられます.また,私は日赤医療センターの染色体検査室に知人がおり,同施設を訪ねた際,知人の紹介で川崎富作先生にお目にかかる機会を得ました.川崎先生はもちろん“川崎”病の発見者であり,当時は日赤医療センターの小児科部長だったと思います.すでに有名人でしたので,面会の際は大変,緊張したことを覚えています.30年前も冠動脈の障害は川崎病の重要な合併症でしたが,その診断に心エコーが大活躍することになるとは,当時は知る由もありませんでした.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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64巻12号(2020年12月発行)

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今月の特集2 臨床検査とIoT

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増刊号 がんゲノム医療用語事典

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今月の特集1 やっぱり大事なCRP
今月の特集2 どうする?精度管理

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今月の特集2 臨床検査領域における次世代データ解析—ビッグデータ解析を視野に入れて

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今月の特集2 百日咳,いま知っておきたいこと

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今月の特集1 もっと知りたい! 川崎病
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60巻5号(2016年5月発行)

今月の特集1 体腔液の臨床検査
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60巻4号(2016年4月発行)

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今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

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今月の特集2 smartに実践する検体採取

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今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

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59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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