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寄生虫屋が語るよもやま話・15
マージャン牌のサイン…—トキソプラズマ症
著者: 太田伸生1
所属機関: 1東京医科歯科大学大学院・国際環境寄生虫病学分野
ページ範囲:P.314 - P.315
文献購入ページに移動トキソプラズマ(Toxoplasma gondii)という原虫は本来,ネコの消化管上皮細胞に寄生する.感染ネコのふん便中にオーシストが排出され,それをヒトが偶然に経口摂取して感染することもあるが,多くはオーシストを取り込んだ動物の肉にシストが形成されて,それを生か不完全加熱調理で食べて感染する.鳥や獣肉の刺し身が重要な感染源であると推定される.ヨーロッパなど食肉文化圏では感染陽性者数が驚くほど多い.ヒトの病気としては先天性トキソプラズマ症と後天性トキソプラズマ症があり,前者では主に網膜障害が問題となるが,後者ではほとんど症状を呈さない.問題は,いったん感染したトキソプラズマ原虫が生涯,私たちの体内にとどまることであり,厳密な意味では“完全治癒”は起こらないことである.健常人では感染後に有効な免疫が誘導されて,トキソプラズマ原虫は体内各所で囊子として潜伏することになる.したがって,トキソプラズマに対する抗体陽性者とは原虫保有者であることを意味する.日本人の場合,かつては抗体陽性者が“10歳代で10%,20歳代で20%,30歳代で30%”などといわれた.さらに“東高西低”といって,東日本のネコは西日本のネコより原虫保有率が高いとされたのであるが,最近では信頼に足る疫学調査の報告がない.先日の日本臨床寄生虫学会では,沖縄県のトキソプラズマ症の血清疫学データが報告されていたが,それによれば,中高年で感染率は依然として高いようである.
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