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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査63巻4号

2019年04月発行

雑誌目次

増刊号 検査項目と異常値からみた—緊急・重要疾患レッドページ

1章 全身疾患

ショック(出血性,敗血症性,心原性)

嶋津 岳士

pp.344-346

 ショックとは,生体に対する侵襲あるいは侵襲に対する生体反応の結果生じた,血圧の低下など循環動態の変化を主体とする全身状態の急変である.末梢循環,特に重要臓器の血流障害により細胞の代謝が障害され,組織・臓器の機能障害を生じる.典型的な症状は蒼白,冷汗,虚脱,微弱な速脈,呼吸促迫であるが,敗血症性ショックでは冷汗はみられず,皮膚は温かい.いずれのタイプのショックであっても生命の危機に至る病態であるため,早期の的確な認識と迅速な対処が不可欠である.

浮腫

山谷 哲史 , 藤井 秀毅

pp.347-349

 浮腫とは,組織間液が増加し,体の一部が腫脹して観察される状態をいう.一般的に多く認められる浮腫は,間質に水分が貯留した圧痕性浮腫である.浮腫の分布や性状は一様ではなく,さまざまな原因より引き起こされる.分布が全身性か局所性(両側性,片側性)か,また,性状が圧痕性か非圧痕性かを確認することが重要である.全身性浮腫の原因として主要なものは,腎性,肝性,心原性であり,緊急加療を必要とすることもあるため注意を要する.一方,局所性浮腫の原因である深部静脈血栓症(DVT)では肺血栓塞栓症を合併することもあり,蜂窩織炎では治療が遅れることにより敗血症に至る可能性があるので,浮腫をみた際は,重篤な病態となりうることも念頭に置いておく必要がある.

脱水(熱中症含む)

木村 守次

pp.350-351

 脱水とは体液量が減少した状態で,英語では溶質を含まない水(自由水)の不足(dehydration)とナトリウム(Na)を含んだ水(細胞外液など)の不足(volume depletion)などに分けられる.その原因は,水の摂取不足,喪失のいずれか,もしくは両方によるものである.水摂取不足の原因としては意識障害や消化器症状などが挙げられ,喪失に関しては腎臓による喪失(腎性)とそれ以外(腎外性)に分けられる.また,脱水症は,張度(後述)により低張性,等張性,高張性に分類される.熱中症は,高温,多湿環境下での体温上昇→発汗による体温上昇抑制→脱水,電解質の喪失→発汗抑制→体温上昇により多臓器に障害を生じるが,熱中症における脱水は,高張性脱水に分類されることが多い(表1).

広範囲熱傷

猪口 貞樹

pp.352-353

 広範囲熱傷は,体表面積の30%を超える重症熱傷である.受傷後に全身の毛細血管透過性亢進により血漿が間質へ移行し,循環血液量が減少してショックに陥る(熱傷ショック).この状態は半日〜数日間続くため,大量の電解質輸液によって循環血液量を維持してショックの進行を回避し,臓器障害を防止する必要がある.また,広範囲熱傷はしばしば気道熱傷を合併し,Ⅰ・Ⅱ型呼吸不全をきたす.

 広範囲熱傷の急性期治療では,動脈血液ガス分析,末梢血液検査,血液生化学検査を数時間ごとに繰り返し測定し,全身状態を継続的に把握することが重要である.

黄疸

海老原 裕磨

pp.354-355

 黄疸とは,ビリルビン代謝が疾患により破綻し,血清をはじめとする体液にビリルビンが貯留した状態である.黄疸の診断・治療には,体内におけるビリルビン代謝経路を理解する必要がある.ビリルビンは赤血球中のヘモグロビンが変化してできた物質で,肝臓で作られる胆汁の主成分の1つである.赤血球が分解され,血液中から肝臓へ運ばれたビリルビンは肝細胞内でグルクロン酸抱合を受け,胆汁の成分として胆管内に排泄される.これらのビリルビン代謝のいずれかが障害されることにより,高ビリルビン血症(黄疸)となる.黄疸の原因は,肝胆道疾患の存在,溶血性血液疾患など多岐にわたり,緊急処置が必要となる場合も多いため,その診断は迅速かつ正確であることが求められる.

意識障害

多村 知剛

pp.356-358

 意識障害は中枢神経(脳血管障害,てんかん発作,頭部外傷,髄膜炎・脳炎など),全身性の病態(血圧低下,呼吸不全,低血糖,電解質異常,中毒など),あるいは精神疾患により起こる.検体検査は,全身性の病態に起因する意識障害の鑑別に有用である.特に検体検査は速やかな病態把握と治療を行うためのスクリーニングとしての意味合いが強く,緊急度が高い項目が多い.したがって,迅速で正確な分析と臨床医への異常値のフィードバックが重要である.

高血糖・低血糖

宮下 大介 , 白川 純 , 寺内 康夫

pp.359-361

 高血糖とは,血液中のブドウ糖濃度が高値の状態を指す.糖尿病の背景をもつ患者の初診時,治療中断時,シックデイ時,ソフトドリンク多飲時,外傷時,手術時などに起こりやすい.自覚症状としては口渇・多飲・多尿を呈し,時に意識障害を起こしうる.低血糖とは,血液中のブドウ糖濃度が低値の状態を指す.糖尿病の加療中,アルコール多飲後,内分泌疾患のインスリノーマや副腎不全などが原因となる.自覚症状としては冷汗・手の震え・動悸・眠気・極端な空腹感・麻痺が生じ,時に意識障害を起こしうる.

出血性素因

涌井 昌俊

pp.362-363

 先天性および後天性出血性素因は,止血機序の見地から,血小板止血異常,凝固線溶異常,血管異常の3つに大別される.血小板数(Plt)および止血スクリーニング検査〔プロトロンビン時間(PT),活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT),フィブリノゲン,フィブリン分解産物(FDP),Dダイマー〕で異常があれば,前者2つが考えられる.異常がない場合,それらが正常となるような血小板止血異常や凝固線溶異常の鑑別に必要な検査を追加する.それらがいずれも除外されたら,血管異常をきたす原因疾患を検索する.

血栓傾向

橋口 照人

pp.364-365

 血栓傾向を診断する最も代表的なバイオマーカーはDダイマー,フィブリノゲン・フィブリン分解産物(FDP)である.その考え方の基本は,“凝固が起これば線溶が起こる”という二次線溶反応の機序である.凝固反応の結果,フィブリンが生成されると,フィブリンに親和性の高いプラスミノゲンアクチベータとプラスミノゲンがこのフィブリンに結合して,フィブリン上でプラスミノゲンからプラスミンの生成が効率よく起こり,プラスミンはフィブリンを分解してDダイマーが生成される.

貧血

岡田 定

pp.366-367

 貧血とは,末梢血中の赤血球成分が少なくなっている状態である.自覚症状としては労作時息切れや全身倦怠感が多いが,血液検査をして初めて貧血がわかることも少なくない.赤血球成分の指標には赤血球数,ヘモグロビン(Hb),ヘマトクリットがあるが,赤血球の酸素運搬能に相関するHb値が最も重要である.貧血はHbによって診断する.世界保健機関(WHO)による貧血の診断基準は,成人男性や新生児ならHb≦13g/dL,成人女性や学童ならHb≦12g/dL,高齢者や妊婦,乳幼児ならHb≦11g/dLである.貧血の鑑別には,平均赤血球容積(MCV)と網赤血球(Ret)が鍵になる.

代謝性アシドーシス

竹田 孔明 , 谷澤 幸生

pp.368-369

 動脈血ガス分析は,日常的に行われる検査であり,患者の代謝や呼吸の状態を理解するうえで重要である.水素イオン指数(pH),動脈血酸素分圧(PaO2),二酸化炭素分圧(PaCO2),重炭酸イオン(HCO3-)などを測定し,pHが7.35未満を示す病態をアシドーシスといい,HCO3-の低下により引き起こされる場合に代謝性アシドーシスと判断する.原因は,下痢などHCO3-の喪失によるものや,糖尿病性ケトアシドーシスなど不揮発性酸の蓄積によるものなどさまざまである.不揮発性酸の蓄積状況は,代表的な陽イオンと陰イオンの差〔アニオンギャップ(AG)〕を計算し,知ることができる.代謝性アシドーシスは,重篤な病態のサインであることが多く,早急な対策が必要となる.

代謝性アルカローシス

徳山 博文 , 伊藤 裕

pp.370-371

 代謝性アルカローシスとは,動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)の低下を伴わない細胞外液中の重炭酸イオン(HCO3-)濃度の上昇である.ヒトは生体内代謝活動において酸を産生するため,本来アルカローシスにはならないはずである.仮に,アルカリが大量に負荷されたとしても,腎尿細管からのHCO3-排泄により,アルカリは蓄積しない.したがって,代謝性アルカローシスの病態は,アルカリの負荷・蓄積と尿細管からのHCO3-排泄障害の両方が存在することを意味する.動脈血水素イオン指数(pH)>7.45,HCO3->28mmol/Lのとき,代謝性アルカローシスの存在を疑う.

アルカリ蓄積,酸喪失の原因の確認

 アルカリの負荷の原因となるもの(輸血,高カロリー輸液)の有無,脱水など体液量減少の有無を確認する.次に,酸の喪失として,嘔吐(胃酸の喪失)などの臨床症状,利尿薬投与,高アルドステロン血症〔血漿アルドステロン濃度(PAC)>240pg/mL〕,低カリウム(K)血症(血清K濃度<3.5mEq/L)の有無を確認する.

尿細管でのHCO3-排泄障害

 腎臓機能低下そのものでHCO3-排泄は起こる.また,体液量減少などレニン-アンジオテンシン系が亢進している状態や低K血症の状態がHCO3-排泄の妨げとなる.さらに,代謝性アルカローシスの際には集合管(β間在細胞)での塩素イオン(Cl-)チャネルとの交換によるHCO3-排泄が生じるが,クロール(Cl)欠乏(体液量減少)ではこれが破綻し,HCO3-が排泄できない.

呼吸性アシドーシス・アルカローシス

徳山 博文 , 伊藤 裕

pp.372-373

 体内に酸が負荷されると,緊急避難緩衝系によって動脈血水素イオン指数(pH)の急激な低下は避けられるが(図1,①),重炭酸イオン(HCO3-)濃度の低下は免れない.ここで,腎臓が中性物質から同量のHとHCO3-を生成して(図1,②),Hは尿中に排泄し,HCO3-は体内に回収することを行っている(図1,③).腎でのHCO3-の調整機構は,近位尿細管におけるHCO3-の再吸収,皮質集合管でのHCO3-の産生(Hの排泄)である.不揮発性酸の排泄は皮質集合管でのHの分泌そのもので起こるのではなく,それによる尿pHの低下によって,滴定酸(HPO42−)やNH3がバッファーとなってHを受け取り,尿pHを下げ過ぎないようにして行われる.1日の代謝活動により約15,000molのCO2が末梢で産生されるといわれ,呼気中に排出される(図1,④).肺でのCO2排泄は換気量に依存する.換気は延髄,頸動脈での化学受容体により,動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)と動脈血酸素分圧(PaO2)によって調整される.呼吸性アシドーシスは換気低下によって起こり,呼吸性アルカローシスは過換気によって起こる.

K代謝異常

古瀬 智

pp.374-375

 体内ではカリウム(K)の大部分は細胞内に存在し,血清K濃度を規定するのは摂取,細胞内外の移行,排泄の3つである.是正に緊急性があるのかどうかを評価しつつ,上記要素のどこにアプローチするかが重要である.

Na代謝異常

神山 貴弘 , 土谷 健

pp.376-378

 ナトリウム(Na)は細胞外液における主要な陽イオンであり,細胞外液の浸透圧を規定している.そのため,血清Na濃度を適正な範囲に維持することは重要であり,主に腎臓がその役割を担っている.低Na血症では倦怠感,頭痛などを,高Na血症では口渇感,脱力感などをきたすが,症状が目立たず血液検査で初めて異常を発見されることも多い.血清Na濃度の異常をきたす原因としては,体内のNa量の増減または細胞外液量の増減が考えられる.そのため,血清Na濃度の異常をみた際には,Naの出納のほかに,溶媒である自由水の出納についても考える必要がある.本稿で概説する検査項目は,このようなNaと自由水の出納を評価するうえで有用なものである.

Ca代謝異常

竹内 靖博

pp.379-381

 意識障害や急性腎障害を伴う高カルシウム(Ca)血症は緊急症であり,積極的に血清Ca値を低下させるための手段を可及的速やかに講じる必要がある.高Ca血症の原因疾患の診断には,血中副甲状腺ホルモン(PTH)濃度の評価が必須である.

 低Ca血症はテタニー,喉頭痙攣あるいは全身痙攣の原因となるため,有症状の場合は速やかな治療開始が必要である.低Ca血症を認める場合は,血清マグネシウム(Mg)濃度の評価が必要である.

高血圧緊急症

崎間 敦

pp.382-384

 高血圧緊急症とは,単に血圧の異常高値だけでなく,直ちに降圧治療を開始しなければ標的臓器障害が急速に進展し,致命的になりうる病態である.高血圧緊急症が疑われる症例には,迅速な診察と検査によって病態の把握を行う.本稿では,高血圧緊急症に対する初期検査から,疾患ごとの病態を把握するための重要検査項目について概説する.

 頭痛,意思疎通困難や嘔吐を含む脳神経症状を認める患者,胸背部痛や呼吸困難などの心呼吸器症状を訴える患者で,来院時の血圧レベルが異常高値(多くは180/120mmHg以上)を認めた場合,高血圧緊急症・切迫症を疑い(表1)1),診察および検査を進める1〜3).また,表21)に高血圧緊急症が疑われたときに行うべき緊急検査を示す1〜3)

腹水貯留性疾患

池田 隆明

pp.385-387

 腹腔内には生理的に50mL程度の液体が存在する.腹水とは,これを超えた量の液体が腹腔内に存在する状態やその液体を指す.超音波検査は腹水貯留の診断に有用である.腹水貯留性疾患の代表は,肝硬変などの門脈圧亢進を伴う疾患である.全身的な体液貯留に関連した腹水は,ネフローゼ症候群,心不全で認められる.ほかに癌性や感染性腹膜炎,内分泌疾患,膠原病による腹水などがある.血清と腹水のアルブミン濃度差(SAAG)は,腹水の原因が門脈圧亢進によるか否かの指標になる.疾患を特定するため,さらに腹水中の細胞診,白血球数の確認や生化学的検査を行う.腹水貯留の病態,治療に関連した電解質異常の把握も重要である.

2章 脳神経・筋疾患

痙攣・てんかん

星山 栄成 , 大沼 広樹 , 平田 幸一

pp.388-389

 痙攣とは,全身または体の一部の筋群が一定時間,不随意に発作性の収縮をきたすことである.その病変部位は,脳,脊髄,末梢神経,筋などであり,原因となる病態として,てんかん以外には,炎症,感染,血管障害,腫瘍,電解質異常,代謝疾患,薬物などが挙げられる.一方,てんかんとは,慢性の脳の病気で,大脳の神経細胞が過剰に興奮するために,脳の発作性の症状が反復性に起こる1).本稿では,夜間や緊急時に施行すべき救急脳波検査を中心に記載する.

髄膜炎

浅野 裕一朗 , 細矢 光亮

pp.390-391

 髄膜炎は脳脊髄膜に炎症が起きた病態であり,髄膜刺激症状・兆候により髄膜炎を疑い,髄液細胞数増多によりくも膜下腔における炎症の存在を確認して診断する.髄膜炎には髄液から細菌が検出される細菌性髄膜炎と,検出されない無菌性髄膜炎がある.無菌性髄膜炎の多くはウイルス性髄膜炎であるが,結核菌,真菌なども髄膜炎の原因病原体として挙げられる.感染症以外にも白血病,川崎病などのほか,ワクチンや免疫グロブリン製剤などの医薬品も原因となる.細菌性髄膜炎や結核菌性髄膜炎,真菌性髄膜炎は緊急対応を要する疾患であることから,その原因を素早く同定することが重要であり,そのための検査について概説する.

急性脳炎・急性脳症

山内 秀雄

pp.392-393

 発熱,痙攣と意識障害の3徴候を認め,画像検査で中枢神経における炎症・浮腫の存在を得ることが急性脳炎・急性脳症の診断のための重要なポイントである.急性脳炎には主にウイルス感染の中枢神経への直接的浸潤による一次性脳炎と,感染を契機とする宿主の免疫反応異常によってもたらされる二次性脳炎(免疫介在性脳炎)がある.急性脳症とは,何らかの機序により急激に中枢神経の機能破綻をきたし,その結果として病理学的に急性脳炎と異なり,炎症細胞浸潤を伴わない浮腫を認めるもの指す.

Guillain-Barré症候群

大石 真莉子 , 古賀 道明 , 神田 隆

pp.394-395

 Guillain-Barré症候群(GBS)は,急性に四肢筋力低下をきたす自己免疫性の末梢神経疾患で,人口10万人当たり年間1〜2人が発症する1).治療せずとも,発症から4週間以内に自然寛解傾向を示すことが特徴であり,教科書的には予後良好と記載されている.しかし,急性期には致死的な不整脈や呼吸不全などの出現に細心の注意が必要で,また長期的には重篤な後遺症をきたすこともまれではなく,早期の診断・治療開始が望まれる.

 GBSの診断は,基本的に病歴と臨床症候に基づいて行う.検査としては,末梢神経伝導検査が最も重要で,その他の主な検査としては,通常の血液検査〔筋疾患や低カリウム(K)血症,ビタミン欠乏症などの鑑別〕,脳脊髄液検査,脊髄MRI(脊髄症の鑑別),血中自己抗体測定(ガングリオシド抗体など)が行われる.

3章 消化器疾患

消化管出血

小林 健二

pp.396-397

 食道から大腸にわたる消化管からの出血を指し,その原因は多岐にわたる.出血部位がトライツ靱帯より口側の場合を上部消化管出血,それより肛門側の場合を下部消化管出血と分類する.上部消化管出血をきたす疾患として,食道静脈瘤,消化性潰瘍などがある.また,下部消化管出血をきたす疾患には大腸憩室,潰瘍性大腸炎,大腸癌などがある.臨床所見は,出血部位と出血速度により異なり,短時間に相当量の出血をきたすと,吐血,タール便,鮮血便や血圧低下,頻脈,時にショックを認める.一方,少量の出血が慢性的に持続する場合には,便潜血,鉄欠乏性貧血をきたす.

急性虫垂炎

問山 裕二

pp.398-400

 急性虫垂炎は虫垂の急性化膿性炎症性疾患であり,急性腹症の原因として最も多い.発生の機序は虫垂内腔の閉塞であり,閉塞の原因として,リンパ組織の過形成,糞石,異物,寄生虫,さらには腫瘍などがある.閉塞により虫垂内圧が上昇し,腸内細菌異常増殖,循環障害が生じ,二次的感染が加わることで発症する.虫垂炎は炎症の程度により組織学的に3つに分類され,カタル性,蜂窩織炎性,壊疽性の順に進行する.カタル性虫垂炎は保存的治療でほぼ治癒しうるが,蜂窩織炎性,壊疽性虫垂炎は外科的治療が必要となる.

急性ウイルス性肝炎

八橋 弘

pp.402-405

 急性ウイルス性肝炎とは,主に肝炎ウイルスが原因で起こる急性のびまん性疾患で,黄疸,食欲不振,嘔気嘔吐,全身倦怠感,発熱などの症状を呈する.肝炎ウイルスとしてはA,B,C,D,E型の5種類が確認されているが,D型肝炎ウイルスは,HBVとの同時感染が必要で頻度が低いため,本稿ではA,B,C,E型を中心に記載する.肝炎ウイルスではないものの,Ebstein-Barrウイルス(EBV)による伝染性単核球症やサイトメガロウイルス(CMV)感染に伴う肝障害は,急性の肝障害の原因としての頻度が高く,鑑別しなければならない.急性肝炎の予後は一般に良好だが,急性肝炎患者の約1〜2%は劇症化し,一度劇症化すると高率に死亡する.

 肝炎ウイルスマーカー測定の目的は,急性肝炎の原因診断,B型とC型の持続感染例での病態の把握,治療適応や治療中のモニタリング,効果判定などである.原因診断,病態診断は,複数のウイルスマーカーの測定結果の組み合わせで行わなければならない.

急性肝不全(劇症肝炎を含めた)

中山 伸朗

pp.406-407

 正常肝ないし肝予備能が正常の症例に肝障害が生じて,プロトロンビン時間(PT)が40%以下ないしはプロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)値が1.5以上を示すものを“急性肝不全”と診断する1).“急性肝不全”は,“非昏睡型”と“昏睡型”に分類される.“劇症肝炎”は,“昏睡型”に含まれる.“昏睡型”には“急性型”と“亜急性型”の2つの病型があり,類縁疾患に遅発性肝不全(LOHF)がある.成因は肝炎と,循環障害や代謝性などの非肝炎に大別される.厚生労働省研究班の全国集計に登録された2010〜2016年発症の急性肝不全およびLOHF症例のうち,肝移植は全症例の10.8%,肝炎の昏睡型とLOHFに限定すると23.9%で実施され,救命率は82.9%だった2,3).非移植例では病型によって予後が大きく異なり,肝炎の救命率は,非昏睡型88.3%,急性型41.6%,亜急性型24.8%,LOHF 7.0%であった.

肝硬変

瀬川 誠 , 坂井田 功

pp.408-409

 肝硬変は,種々の原因で生じる慢性肝炎の終末像である.組織学的には,肝全体の高度の線維化と結節形成を特徴とする.臨床的には,肝細胞機能不全と肝線維化進展に伴う門脈圧亢進により,黄疸,腹水,肝性脳症,食道胃静脈瘤,脾腫,脾機能亢進による汎血球減少,低栄養状態などの症状を引き起こす.

アルコール性肝障害

堀江 義則

pp.410-411

 アルコール性肝障害とは,長期にわたる過剰の飲酒(1日平均純エタノール男性60g,女性40g以上の飲酒)が肝障害の主な原因と考えられる病態で,禁酒により,血清アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST),アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)およびγ-グルタミルトランスフェラーゼ(γ-GT)〔γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(γ-GTP)〕値が明らかに改善するものを指す.単一所見でアルコール性肝障害の診断を確定するような有力な血液検査は存在せず,種々の指標を組み合わせて診断に至ることになる.病型としては,アルコール性脂肪肝,アルコール性肝炎,アルコール性肝線維症,アルコール性肝硬変,アルコール性肝細胞癌があり,脂肪肝や肝硬変の診断に加え,肝細胞癌の診断に画像検査が重要である.

急性胆囊炎・急性胆管炎

鈴木 淳一

pp.412-413

 急性胆囊炎は,発熱や右季肋部痛を主訴とする急性腹症である.原因としては,胆囊結石や胆泥により胆囊管が閉塞し,胆汁に細菌感染が合併することで発症する.また,無石胆囊炎といわれる胆囊捻転症や胆囊壁の虚血流障害を原因とするものをまれに認める.診断は,腹部超音波検査が極めて有用とされる1).治療は,抗菌薬投与や経皮経肝胆囊ドレナージなどの保存的加療,もしくは,発症早期であれば緊急手術(胆囊摘出術)の適応となる.

 急性胆管炎は発熱,黄疸を伴うことが多く,重症化すると致死的な疾患である.原因は総胆管結石による閉塞が多く,その他には胆管・十二指腸乳頭部腫瘍による閉塞や自己免疫性が挙げられる.治療は,抗菌薬投与に加え,迅速な胆管ドレナージ(経乳頭的,経皮的)を必要とすることが多い.

急性膵炎

川口 晃平 , 竹山 宜典

pp.414-415

 急性膵炎は,種々の原因によって膵酵素が膵内で病的活性化を受け,膵臓と周囲組織を自己消化する急性病変である.軽症の膵炎では,炎症は膵に限局し自然軽快が期待できるが,炎症が膵局所にとどまらず腹腔内に広く進展し重症化すると,発症早期に遠隔臓器障害や汎血管内凝固症候群などをきたす.それを回避し得ても,膵や膵周囲の壊死巣に感染すると敗血症を引き起こし,予後が悪い.自覚症状としては上腹部痛,背部痛がある.

腸閉塞

亀田 徹

pp.416-417

 “腸閉塞”では,開腹歴があり,腹痛,嘔吐,腹部膨満で発症することが多い.わが国では“イレウス”という用語も日常的に使用され,両者は同じ意味で用いられることが少なくない.しかし欧米では,前者は通過障害をきたす腸管閉塞,後者は腸管麻痺として明確に区別される.腸閉塞は小腸もしくは大腸の閉塞で起こるが,小腸のほうが頻度は高い.腸閉塞の診断のポイントは,存在診断に加え,閉塞部位と血行障害の評価を適切に行うことである.ここでは主に小腸閉塞について述べる.

虚血性大腸炎

小木曽 聖 , 富岡 秀夫 , 清水 誠治

pp.418-419

 虚血性大腸炎は急性発症の腹痛と血便をきたす疾患であり,腸管虚血に起因するが主幹動脈の閉塞は伴わない.典型例では急性発症の左側腹部痛から下腹部痛,下痢便に続いて血便をきたす.発生機序として,血管側因子(動脈硬化や血管攣縮)と腸管側因子(拡張や過剰収縮による腸内圧上昇)が考えられている.組織損傷の程度によって一過性型,狭窄型,壊死型に分類される.一過性型が大半を占め,速やかに改善し狭窄は残らない.狭窄型は1割程度である.壊死型はまれであるが,腸壁全層の壊死をきたし予後不良である.

急性腸間膜虚血症

高田 史門

pp.420-421

 急性腸間膜虚血症は,何らかの原因(血栓・塞栓症や循環血流量減少など)により腸間膜内主幹血管の血行不全状態を生じることで腸管血流が途絶し,腸管の虚血・壊死を生じるものである.自覚症状として,強度の腹痛を主徴とするが,腹部所見が明確でないことが多く,その病因や病態が複雑なため診断に難渋することが多い.多臓器不全など重篤な合併症を引き起こすため,診断の遅れにより致死的な経過をたどることも多く,致死率は60〜80%とされている.

4章 循環器疾患

急性心不全

吉川 尚男

pp.422-423

 心不全とは,心臓のポンプ機能の低下,それに起因する末梢循環障害によって起こる呼吸困難,浮腫,息切れ,倦怠感などさまざまな症状の症候群である.急性心不全は,代償機構によって心機能が維持されている状態において,その代償機構が何らかの要因によって破綻をきたして生じる.急性心不全を迅速,確実に診断して速やかに治療を開始することが重要であり,胸部X線検査,心電図検査,心エコー検査,血液検査,動脈血ガス分析などを用いて総合的に診断していく必要がある.

急性心筋梗塞

森 文章

pp.424-426

 心筋梗塞は,心臓の栄養血管である冠動脈の狭窄,閉塞により引き起こされる.通常,心筋の非可逆的壊死を伴うものを心筋梗塞と呼び,発症48時間以内のものが急性心筋梗塞とされている.心筋梗塞は,突然発症し,人の生命に危機的状況をもたらす疾患である.1分1秒を争う急性期の治療が重要になる.冠疾患治療室(CCU)などの集中治療室の普及,再灌流療法の進歩で,救命率は以前に比べはるかに向上しているが,院内死亡率は7〜10%程度とされ,現在でも怖い病気であることには変わりがない.心筋梗塞発症後,できるだけ早く再灌流療法を行うことが予後改善につながることが示されており,迅速で確実な診断が求められている.

急性心筋炎

河上 雅子 , 栗田 絵梨奈 , 山田 聡

pp.427-429

 心筋炎は心筋の炎症性疾患の総称であり,感染性と非感染性に分けられる1).感染性の多くはコクサッキー・エコー・アデノウイルスなどのウイルス感染であり,非感染性の原因には薬剤,アレルギー,自己免疫疾患,サルコイドーシス,放射線などがある.非特異的な感冒症状や消化管症状が先行することが多く,その後,心不全症状や動悸,胸痛などが出現する.重症度は,全く無症状のものから,心不全,房室ブロックや心室頻拍,心室細動などの致死的不整脈を伴うもの,心原性ショックを呈するものまで多様である.発症初期に急激に血行動態の破綻をきたすものを劇症型心筋炎(fulminant myocarditis)と呼ぶ.組織学的にはリンパ球性,巨細胞性,肉芽腫性に分けられ,組織診断により治療方針が異なる.

たこつぼ(型)心筋症ないし心筋障害

土橋 和文 , 橋本 暁佳

pp.430-432

 たこつぼ(型)心筋症(TCM)ないし心筋障害は急性心筋梗塞に類似した胸痛と心電図変化を有し,左心室心尖部を中心とした壁運動異常が冠動脈の支配領域を超えて,典型例では特異な“ツボ型”を呈する急性発症の一過性心筋障害であり,高齢女性に好発する.医療行為の疼痛,震災など,“喜・怒・憂・思・悲・驚・恐”など精神的慟哭が背景誘因として知られるが,多くは原因不詳である.わが国では,急性冠症候群の例外的病態として概念が確立され,後天性一次性心筋症に区分される.欧米では,stress cardiomyopathy,broken heart syndrome,apical ballooningなどの複数名称が同一病態で使用される.右室型,左室基部・中部限局型(通称,逆たこつぼ心筋障害),左室全般型など亜系がある.心室内圧較差例では昇圧薬使用で増悪し,遷延性低血圧・ショックから突然死ないし急性期再発を示すことがある.壁運動異常は短期間でほぼ正常化し,慢性期予後は良好で再発はまれである.

感染性心内膜炎

前田 正

pp.434-435

 感染性心内膜炎(IE)は心臓の弁に細菌が“巣”を作ってしまう感染症である.持続する原因不明の発熱や関節炎,倦怠感などの非特異的で多様な主訴で受診するため,診断に難渋することが多い.診断が遅れ,重篤な合併症(心臓の弁が破壊されることによる心不全や,細菌の塊が流れている血管に詰まることによる脳梗塞などの塞栓症)を起こすこともある.

 一般的な採血検査において本疾患に特異的なものはなく,問診や診察所見,検査所見を総合的に判断することが必要である.心臓超音波検査で明らかな疣贅(細菌の巣)を指摘できないこともあるため,血液培養検査が最も重要な検査である.

徐脈性不整脈

奥村 謙

pp.436-438

 徐脈性不整脈には洞不全症候群と房室ブロックが含まれる.症状は徐脈の程度,心機能障害の程度によりさまざまであり,無症候例から,めまい,立ちくらみ,失神発作の脳虚血症状(Adams-Stokes発作)を示す例,倦怠感,呼吸困難の心不全症状を示す例まである.診断は心電図で行われ,一過性の徐脈には長時間心電図記録が,原因不明の失神に対しては植込み型心電計が有用である.心電図診断とともに原因検索が大切で,薬物の影響〔β遮断薬,ジゴキシン,カルシウム(Ca)拮抗薬,抗不整脈薬など〕,高カリウム血症(腎不全),急性冠症候群,急性心筋炎,サルコイドーシスの有無に注意する.原因不明または原因を除去しても徐脈が持続する場合は,ペースメーカー治療の適応となる.

頻脈性不整脈

浅井 邦也

pp.439-441

 頻脈性不整脈は,心房性(上室性)と心室性に分けられる.心房性には洞性頻脈,心房期外収縮,発作性上室性頻拍,心房細動,心房粗動などがあり,心室性には心室期外収縮,心室頻拍,心室細動がある.動悸や失神などの症状が主な訴えであり,その診断には長時間心電図記録が必要になることが多い.心室細動は直ちに救急蘇生を要する不整脈であり,安静時心電図や長時間心電図で診断がつくことは通常ない.頻脈性不整脈にはその他にも緊急の対応を要する不整脈があり,心室頻拍もその1つである.特にトルサードドポアンツ(TdP)は,心室細動に移行する危険性の高い不整脈である.一方,心房・心室期外収縮は,一般的には緊急性のない不整脈である.

WPW症候群(早期興奮症候群)

小林 洋一

pp.442-446

 WPW(Wolff-Parkinson-White)症候群は,心電図で,特徴的な波形である①PQ(PR)短縮(<0.12sec),②δ波,③QRS幅の延長(≧0.12sec)がみられる場合に診断される.心房心室間に通常は存在しない筋束(Kent束)が存在し,心房心室間の興奮がバイパスされ早期に心室が興奮するので,早期興奮症候群とも呼ばれる.このKent束伝導と房室結節伝導が融合することにより,冒頭に述べた独特の波形を呈する(図1).期外収縮などで,このKent束順伝導がブロックされると,房室結節を介した順伝導のみとなり,Kent束の室房(逆)伝導が起こりうる.房室結節を下降しKent束の逆伝導が繰り返され,リエントリーが形成されると,房室回帰頻拍が生じる.WPW症候群では,約40〜80%にこの頻拍を伴う.一方,心房細動も約10〜40%に伴う(図2).心房細動が生じ,Kent束の伝導が良好であると,心室細動を生じて致死的となる場合があるので,注意が必要である.

 WPW症候群の診断には,主に心電図検査が用いられる.判読は,以下のような分類に沿って行うことが肝要である.

QT延長症候群

清水 渉

pp.447-449

 先天性QT延長症候群(LQTS)は,QT時間の延長とTdP(torsade de pointes)と呼ばれる多形性心室頻拍(VT)を認め,失神などの重篤な症状や心室細動(VF)に移行した場合には,突然死の原因となる疾患である.QT延長は,修正QT(QTc=QT/RR)時間が440ms以上と定義され,遺伝子変異を認めるが安静時のQT時間が正常範囲で失神などの症状がなく,臨床的に先天性LQTSと診断されない非浸透患者が存在する.

Brugada症候群

小竹 康仁

pp.450-451

 Brugada症候群とは,スペインのブルガダ3兄弟によって初めて報告された,特徴的な心電図変化と心室細動による突然死を引き起こす症候群である.わが国を含む東アジアの男性に比較的有病率が高い(欧米の成人で0.02〜0.15%であるのに対して,わが国の成人では0.1〜0.3%)ことが知られている1)

肺血栓塞栓症

木村 徳宏 , 三軒 豪仁 , 山本 剛

pp.452-453

 肺血栓塞栓症は,下肢や骨盤内の深部静脈血栓が血流に乗って肺に移動し,肺動脈を閉塞させ,突然の呼吸困難,胸痛を引き起こす.急激な肺動脈閉塞により肺血管抵抗は上昇し,肺動脈圧の上昇,右室負荷(右室拡張)をもたらす.結果として,脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)が上昇する.また,血圧の低下や右室負荷の増大により右室の微小梗塞が生じ,心筋トロポニンI,Tが上昇する.肺動脈閉塞による肺血流量低下と非閉塞部の代償的な肺血流量増加から生じる換気血流不均衡により,低酸素血症をきたす.

肺高血圧症

田邉 信宏

pp.454-455

 肺高血圧症(PH)は,さまざまな原因により肺動脈圧の上昇を認める病態の総称であり,安静時平均肺動脈圧が25mmHg以上と定義される(最近21mmHg以上と定義されたが,本稿では従来の定義を用いる).労作時呼吸困難を主訴とするが,胸部X線・心電図・血液検査ともに正常な場合もあり,見落とされることが多い疾患である.確定診断は右心カテーテルによるが,本症を疑い心エコーを行うことが診断の手掛かりとなる.

急性大動脈解離

荻野 均

pp.456-457

 大動脈疾患は,大動脈瘤(非解離性瘤)と大動脈解離に二分される.なかでも,急性大動脈解離(AAD)は,突然に発症する致死的な疾患である.最近では,AADや大動脈瘤破裂を“acute aortic syndrome”と称し,迅速かつ適切な対応がなければ死に至る極めて重篤な疾患群として注目されている.

 分類については,簡便かつ治療方針の決定に直接結び付くスタンフォード分類が汎用されており,それぞれ治療方針と適応が異なる(図1,表1).わが国のガイドラインにおいては,ULP(ulcer-like projection)型として,偽腔開存型や閉塞型とは別に扱う.

 多くが突然の胸背部痛で発症し,A型では心タンポナーデや破裂によりショックに陥ることが多い.臓器灌流障害(malperfusion)を伴えば,心停止(冠動脈),意識障害(脳血管),腹痛(腹部分枝),下肢虚血(下肢動脈)などをみる.

下肢閉塞性動脈硬化症

東 信良

pp.458-460

 下肢動脈に生じる動脈硬化症であり,高血圧症,喫煙,糖尿病,脂質異常症,腎機能障害などの動脈硬化リスク因子保有者に発生する.超高齢化社会を迎え,その発生は非常に増えている.無症状のことが少なくないが,血流障害が進行すると歩行時の下肢筋痛(間欠性跛行)を呈し,重症化すると安静時足部痛や潰瘍・壊死に至る.虚血を伴う安静時疼痛や潰瘍・壊死の場合は,数日以内に専門医の診察を要する.通常,慢性に経過するが,急性増悪する場合があり,その場合は数時間以内に血行再建可能な病院への搬送を要する.

深部静脈血栓症

孟 真 , 小林 由幸 , 阿賀 健一郎 , 大中臣 康子

pp.462-463

 深部静脈に生じた血栓症を深部静脈血栓症(DVT)と呼び,頻度が下肢に高い.下肢に腫脹,疼痛,発赤などをきたす.DVTが塞栓化して突然死の原因となる肺血栓塞栓症(PTE)を合併することがあり,早期に確実な診断を行い抗凝固療法で治療介入すると,下肢痛などの下肢症状の改善,肺塞栓症の合併の減少と軽症化,下肢の血栓症後後遺症(下腿潰瘍,腫脹,疼痛など)を軽減することができるので,速やかな診断を必要とする.一方で,下肢腫脹にはDVT以外に多くの原因があるため,下肢DVTの除外診断にDダイマー検査が用いられ,確定診断に下肢静脈超音波検査が行われる1,2)

5章 呼吸器疾患

呼吸不全

永田 一真 , 富井 啓介

pp.464-465

 呼吸不全とは,“呼吸機能障害により低酸素血症(PaO2≦60mmHg)をきたし,また時に高二酸化炭素血症(PaCO2>45mmHg)を伴う状態で,生体が正常な機能を営み得ない状態”と定義される.呼吸不全は病態によりⅠ型呼吸不全(低酸素性呼吸不全:PaO2≦60mmHg,PaCO2≦45mmHg)・Ⅱ型呼吸不全(換気不全:PaO2≦60mmHg,PaCO2>45mmHg)に分類される.

クラミドフィラ肺炎

金城 武士

pp.466-467

 Chlamydophila pneumoniae(肺炎クラミドフィラ)は偏性細胞内寄生性細菌であり,Gram染色では観察できない.飛沫感染によってヒトからヒトに感染し気管支炎や肺炎の原因となるが,不顕性感染や上気道感染(感冒症状)にとどまることも多い.市中肺炎の病原微生物の2.8%は本菌であると報告されている1)が,PCR法などの遺伝子解析によって診断した場合,クラミドフィラ肺炎の頻度はさらに低くなる可能性がある.クラミドフィラ肺炎は,他の病原微生物との混合感染が多いことも特徴であり,喀痰のGram染色や培養検査を行うことも重要である.臨床症状では頑固で遷延する咳嗽が高頻度にみられ,また,肺外症状では頭痛が1/3の症例に認められる.有症状者のみならず無症状者も存在し,クラミドフィラ肺炎は無症状〜軽症肺炎を呈する.

ニューモシスティス肺炎

石田 直

pp.468-469

 ニューモシスティス肺炎(PCP)は,真菌の一種であるPneumocystis jiroveciiを病原体とする,免疫不全のある宿主に発症する日和見感染症である.ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染患者における代表的な肺炎であるが,ステロイドや免疫抑制剤,抗癌剤使用患者,生物学的製剤使用,血液腫瘍,移植患者など種々の免疫抑制状態が発症の危険因子となる.

 発熱や乾性咳嗽,呼吸困難が主な臨床症状であり,胸部X線では肺野にびまん性に広がるすりガラス陰影が特徴である.死亡率はHIV症例で約10%,非HIV症例で約30〜40%とされており,早期発見,治療が必要となる.

マイコプラズマ肺炎

寺本 信嗣

pp.470-471

 マイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae,肺炎マイコプラズマ)は,小児〜30歳代の成人における呼吸器感染症の代表的な病原体で,年間に人口の5〜10%が罹患する.症状はかぜに似た感冒症状,発熱で,乾いた咳が長く続くのが特徴である.肺炎を発症することはまれであるが,小児のかぜや気管支炎の代表的疾患の1つであり,診療機会が多い.病原体の分離培養に時間がかかるため,診断には,免疫グロブリン(Ig)Mを測定する血清抗体検査を用いてきた.近年,簡易酵素免疫測定法(EIA法)キットのIgM抗体検査やLAMP法によるマイコプラズマ核酸同定検査が導入されている.さらに,患者の咽頭から採取した検体でのイムノクロマト法による診断薬が普及してきた.ただし,菌が一定量に増えないと感度に乏しい問題が残っている.

慢性閉塞性肺疾患

田中 里江 , 一ノ瀬 正和

pp.472-473

 慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することにより生ずる肺疾患であり,呼吸機能検査で気流閉塞を示す.臨床的には徐々に進行する労作時の呼吸困難や慢性の咳・痰を示すが,これらの症状に乏しいこともある.わが国におけるCOPD有病率は8.6%で,40歳以上の約530万人がCOPDに罹患していると考えられている.わが国における全死亡におけるCOPDの順位は男性で第8位と高い.人口の高齢化が進むわが国において重要な疾患である.

急性呼吸窮(促)迫症候群

津島 健司

pp.474-475

 急性呼吸窮(促)迫症候群(ARDS)は,肺炎,外傷,手術,熱傷および敗血症などの全身性侵襲により肺実質の細胞傷害をきたし,肺毛細血管内皮細胞の広範な傷害による透過性亢進型肺水腫を呈する.臨床所見としては,高度の低酸素血症をきたしている状態であり,早急な集学的な全身管理を要する治療が必要である.

 ARDSの診断基準を表11)に示す.診断のプロセスにおいて必要とされる重要検査項目を挙げる.おおむね1週間以内の急性発症ということが大前提である.

間質性肺炎

林 宏紀 , 吾妻 安良太

pp.476-478

 間質性肺炎は,肺胞の壁に炎症や損傷が起こり,壁が厚く硬くなる(線維化)ため,酸素を取り込みにくくなる病気である.間質性肺炎のうち,膠原病や薬剤,吸入性(慢性過敏性肺臓炎),サルコイドーシスなどを除外した原因不明なものを特発性間質性肺炎(IIPs)と総称する.進行性に高度の線維化,蜂巣肺の形成をきたす特発性肺線維症(IPF)がその半数以上を占める.その生存期間中央値は診断時から約3年と,極めて予後不良の疾患であるが,近年,抗線維化薬のピルフェニドン(pirfenidone),ニンテダニブ(nintedanib)が広く使われるようになり,その有効性を示す報告がみられる.呼吸機能,動脈血液ガス,血液検査は診断時,そして病勢の把握に重要である.

6章 腎疾患

急性腎障害

佐藤 陽隆 , 岡本 岳史

pp.479-481

 急性腎障害(AKI)とは,何らかの原因に伴い急激な腎機能障害が生じて,腎臓が担う体液・ミネラル・酸塩基平衡などの維持・調節機構が損なわれる状態を指す.近年,患者の高齢化や糖尿病や高血圧症などのさまざまな基礎疾患の併存,慢性腎不全の増加,多様化・進歩する薬剤や各種治療などにより,日常診療で遭遇する頻度は高まっている.

 AKIはかつて“一時的”で,“可逆的”な腎機能障害と考えられていたが,AKIの長期的な予後は想定されていたものよりも悪く,AKIから慢性腎臓病(CKD)に進行して末期腎不全に至る確率が高いことが示されるようになったため,AKIの早期発見・早期治療介入の重要性が増した.診断には2012年のKDIGO(Kidney Disease Improving Global Outcome)によるClinical practice for Acute Kidney Injuryで発表された診断基準を用いて,血清クレアチニン(Cr)もしくは尿量により,診断および重症度の判定を行う(表1)1).その後,障害部位を想定した分類で腎前性・腎性・腎後性に分類し,詳細な病歴聴取と身体診察,各検査から総合的にその原因を判断し治療する.

急性腎盂腎炎・膀胱炎

津田 歩美 , 柳 秀高

pp.482-483

 尿路感染症は感染部位により区別される.膀胱炎は下部尿路感染症,腎盂腎炎は上部尿路感染症である.発症は細菌が上行性に侵入することが原因である.ごくまれであるが感染性心内膜炎などでは血行性に細菌が感染する.起炎菌の多くは大腸菌(Escherichia coli)である.尿路感染症は他の部位の感染症を除外しながら診療することが求められる総合内科的疾患である.特に急性腎盂腎炎は敗血性ショック(septic shock)や死亡にもつながり,早急な治療介入が必要なことも多い疾患である.

急性糸球体腎炎(症候群)

竹田 徹朗

pp.484-485

 急性に血尿・蛋白尿が出現し,しばしば高血圧,浮腫,腎機能低下を伴う症候群である.代表的なものは,溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN)であるが,種々の感染後(パルボウイルスB19など)の急性糸球体腎炎のこともある.PSAGNは一般にA群β溶血性連鎖球菌に感染(咽頭炎や皮膚炎)後に発症する一過性の免疫複合体による腎炎である.3歳から若年に多い疾患であるが,最近は成人例,高齢者例も経験する.時に高血圧性脳症,急性心不全,急性腎不全〔血清クレアチニン(Cr)>2mg/dLまたは0.5mg/dL/日以上の速度で上昇〕を呈することがあり,血液透析も考慮して腎臓専門施設での診療が必要である.

急速進行性糸球体腎炎

木村 秀樹

pp.486-487

 急速進行性糸球体腎炎(RPGN)は,腎炎を示す尿所見を伴い数週から数カ月の経過で急速に腎不全が進行する症候群で,急性あるいは潜在性に血尿,蛋白尿,貧血が合併する.血清C反応性蛋白質(CRP)の上昇があり,尿沈渣では,変形赤血球,白血球,赤血球・白血球・顆粒円柱などを認める.腎病理では,糸球体の基底膜の破壊と炎症が強い半月体形成性糸球体腎炎を呈する.障害機序は抗好中球細胞質抗体(ANCA)による好中球活性化が関与する微量免疫型,抗基底膜抗体と免疫複合体が関与する免疫型に分類される.クレアチニン(Cr),年齢,肺病変,CRPで臨床重症度が分類され,重症度が高いほど生命予後が不良(高度では3年生存率が約50%)であり,ステロイド・シクロホスファミドを軸とした早期治療が重要である.

ネフローゼ症候群

忰田 亮平 , 成田 一衛

pp.488-489

 ネフローゼ症候群は,腎糸球体係蹄の障害によって,蛋白透過性が増大して,大量の尿蛋白と低蛋白血症をきたす症候群である.尿蛋白量と低アルブミン(Alb)血症の両所見が基準を満たした場合に診断し,明らかな原因疾患がないものを一次性,原因疾患をもつものを二次性に分類する.一次性として,微小変化型ネフローゼ症候群,膜性腎症,膜性増殖性糸球体腎炎,巣状分節性糸球体硬化症などがあり,二次性としては,糖尿病性腎症,ループス腎炎,アミロイド腎症などがある(表1)1).本症候群では,大量の尿蛋白,低Alb血症・低蛋白血症に起因する浮腫,腎機能低下,脂質異常症,凝固線溶系異常,免疫異常症などさまざまな症状を伴う.

コレステロール塞栓症

狩野 俊和

pp.490-491

 コレステロール塞栓症は大動脈などの大血管壁にあるアテローム(粥腫)が破綻して,コレステロール結晶が血中に流れ出し,末梢で塞栓を生じる疾患である.アテローム破綻はカテーテル検査,心血管手術(冠動脈バイパス術,動脈瘤手術),抗凝固療法,血栓溶解療法などが契機となることが多いが自然発生もある.障害臓器として多いのは腎・四肢皮膚・消化管・中枢神経・網膜などであるが,全身のあらゆる臓器に起こりうる(表1).確定診断は皮膚や腎生検などによりコレステロール結晶を証明する必要がある.急性期のステロイド治療や再発予防にスタチン投与が行われるが,腎機能の予後は悪く30〜60%で血液透析となる1).末期腎不全に至らなくても腎障害が完全には回復しないことが多いため,早期発見が重要である.

尿路結石

松﨑 章二

pp.492-493

 尿路結石は結石の位置によって上部尿路結石(腎結石,尿管結石)と下部尿路結石(膀胱結石,尿道結石)に分類され,上部尿路結石は尿路結石の約96%を占める.上部尿路結石の約90%はカルシウム(Ca)含有結石であるが,女性の下部尿路結石では約50%が非Ca含有結石である.2005年に実施された日本尿路結石症学会全国疫学調査では,上部尿路結石の有病率を人口10万人対429人と報告している1).男女比は2.4:1で男性に多い疾患である.上部尿路結石の症状は急性発症する疼痛で,深夜から朝方に発症することが多く,救急外来でよく経験する急性腹症である.下部尿路結石の症状は膀胱刺激症状(尿意切迫感,頻尿,残尿感)や排尿困難などである.

7章 血液・造血器疾患

急性白血病

小笠原 洋治

pp.494-497

 急性白血病は,造血幹細胞が骨髄内で分化・成熟していく過程のある段階(前駆細胞レベル)で腫瘍化し,腫瘍化した芽球(白血病細胞)によって臓器浸潤や正常造血の抑制が引き起こされる疾患である.1976年以降,白血病診断は形態学に基づいたFAB分類で行われていたが,現在は特異的染色体異常や融合遺伝子,遺伝子変異の有無,細胞起源を重視した世界保健機関(WHO)分類により行われている.最終的には遺伝子変異や細胞表面マーカーなどの詳細な検査結果も踏まえたうえで確定診断に至るが,急性白血病診断の第一歩は,基本的な臨床検査や血球形態観察から急性白血病を疑うことであり,臨床検査技師と医師が連携して速やかに次のステップに移ることが重要である.

慢性骨髄性白血病

中前 美佳

pp.498-499

 慢性骨髄性白血病(CML)は,染色体9番と22番の相互転座によりフィラデルフィア(Ph)染色体,BCR-ABL1融合遺伝子が形成され,BCR-ABL1蛋白(チロシンキナーゼ)の恒常的活性化が起こり発症する.慢性期は無症状であることが多く,進行とともに肝脾腫などの臨床症状が出現し,無治療では移行期,急性転化期へ進行する.チロシンキナーゼ阻害剤治療により,治療成績は慢性期CMLでは著明に向上したが,急性転化期では不良である.CML診断に最も重要なのは,Ph染色体またはBCR-ABL1融合遺伝子の同定である1)

成人T細胞白血病・リンパ腫

藤岡 真知子 , 今泉 芳孝

pp.500-501

 成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)は,ヒトT細胞白血病ウイルスⅠ型(HTLV-1)が感染した成熟T細胞の腫瘍である.臨床診断は①末梢性(成熟)T細胞腫瘍の診断と,②患者がHTLV-1キャリアであることの証明による.多くの患者では,末梢血の異常リンパ球(ATL細胞)の出現・増加が診断の契機や根拠となる.末梢血の異常リンパ球が成熟T細胞であることはフローサイトメトリーで確認できる.患者がHTLV-1キャリアであることの確認は抗HTLV-1抗体検査で行う.末梢血に異常リンパ球の出現・増加を認めないATL患者もいるが,本稿では主に末梢血に異常リンパ球を認める場合について述べる.

血球貪食症候群

高見 昭良

pp.502-503

 血球貪食症候群(HPS)は,血球貪食性リンパ組織球症(HLH)とも呼ばれる全身炎症性疾患である.国内全体の発症率は年間80万人に1人,主に常染色体劣性遺伝病でパーフォリン関連遺伝子異常を有する家族性血球貪食症候群(FHL)の頻度は出生5〜30万人に1人である.HPS/HLHの半数は1歳未満に発症し,1〜29歳が25%,残りは30歳以上である.ただし全年齢で生じ得る.遺伝性または遺伝子異常が証明できれば一次性(遺伝性)HPS/HLH,それ以外は二次性(後天性)HPS/HLHと診断される.感染症,特に典型例では,EB(Epstein-Barr)ウイルス感染を契機に発症する.HPS/HLHでは,最終的に,マクロファージが活性化・増殖し,血球など自己(宿主)細胞が貪食・融解され,高サイトカイン血症となる(図1).

多発性骨髄腫

小磯 博美 , 半田 寛

pp.504-505

 多発性骨髄腫は,造血器悪性腫瘍の1つである.腫瘍化した形質細胞(骨髄腫細胞)により異常な免疫グロブリン(M蛋白)が産生される.骨病変,高カルシウム血症,腎障害,貧血,易感染性などさまざまな症状を引き起こす.診断には,骨髄にクローナルな形質細胞の増加または髄外に形質細胞腫を認めることが必要である.高カルシウム血症,腎不全,脊椎骨の圧迫骨折,髄外腫瘤による脊髄圧迫を認めるときは早急な治療が必要である.

特発性血小板減少性紫斑病

金子 誠

pp.506-507

 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は,血小板への自己抗体による血小板減少症である.免疫機序により,網内系(脾臓など)での血小板破壊が亢進し,骨髄で巨核球に作用して血小板造血が障害される.血小板が減少すると出血が危惧されるが,「成人特発性血小板減少性紫斑病治療の参照ガイド2012年版」1)では,出血症状,血小板数3万/μL以下を治療開始の目安としている.緊急性が高いのは,血小板数1万/μL以下で粘膜出血を伴う場合,脳出血,下血や吐血などの主要な臓器(脳,肺,消化管,泌尿器系,腹腔内など)での重篤な出血症状である.ITP経過観察中の急激な血小板減少や,高齢者の血小板減少症は出血リスクが高く,注意が必要である.

血栓性血小板減少性紫斑病

久保 政之 , 松本 雅則

pp.508-509

 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)は,全身の微小血管に血小板血栓が形成されて発症する致死的な疾患であり,血栓性微小血管症(TMA)に分類される.TTPではvon Willebrand因子(VWF)分解酵素(ADAMTS13)活性低下により,超高分子量VWF重合体(UL-VWFM)が切断されずに血液中に残存し,高ずり応力の発生する微小血管で活性化され,血小板血栓を形成する.症状としては血小板減少,溶血性貧血,腎機能障害,発熱,精神神経症状が古典的5徴候として知られている.無治療の場合は90%以上が死亡する極めて予後不良な疾患であったが,血漿交換が導入され80%前後の生存率が得られるようになった.

播種性血管内凝固症候群

朝倉 英策

pp.510-511

 播種性血管内凝固症候群(DIC)は,基礎疾患の存在下に全身性持続性の著しい凝固活性化をきたし,細小血管内に微小血栓が多発する重篤な病態である.凝固活性化とともに線溶活性化がみられるが,線溶活性の程度は基礎疾患により相当な差異がみられる.進行すると血小板や凝固因子といった止血因子が低下し,消費性凝固障害の病態となる.DICの基礎疾患が存在したら,血液凝固検査を行うことがDIC診断への第一歩である.臨床症状の出現したDICは相当に進行しており,症状のないタイミングで血液凝固検査を行い診断するのが理想である.

8章 内分泌・代謝疾患

甲状腺機能亢進症

赤水 尚史

pp.512-513

 血中甲状腺ホルモン〔遊離サイロキシン(FT4),遊離トリヨードサイロニン(FT3)〕が増加している状態は“甲状腺中毒症”と呼ばれ,このうち甲状腺機能亢進,すなわち甲状腺での甲状腺ホルモン合成・分泌が増加したために血中甲状腺ホルモンが増加している状態を“甲状腺機能亢進症”と呼んでいる.それ以外の甲状腺中毒症としては,甲状腺組織破壊や甲状腺ホルモン過剰摂取などによって血中甲状腺ホルモンが上昇する場合があり,甲状腺機能亢進症と区別される.さらに,甲状腺機能亢進症は,甲状腺に原因がある原発性と,甲状腺外に原因がある続発性に大別される(表1).これらの病態を引き起こす疾患を以下に述べるような検査によって鑑別する必要がある.

甲状腺機能低下症

佐野 あずさ , 大野 洋介 , 田中 祐司

pp.514-515

 甲状腺ホルモンの欠乏に起因する甲状腺機能低下症は,日常診療において最も頻度の高い内分泌疾患の1つである.しかし,①症候(全身倦怠感・元気がない・浮腫・便秘など)が非特異的である,②自発性の低下から愁訴が少ない,③甲状腺腫を伴わない場合も多い,などの特徴から見過ごされていることがしばしばある1).検査結果から重度の甲状腺ホルモン欠乏が確認された際には,粘液水腫性昏睡などの緊急性の高い病態である可能性もあるので,躊躇せず速やかに医師へ報告することが重要である.

ADH分泌不適合症候群

宮田 崇 , 有馬 寛

pp.516-517

 抗利尿ホルモン(ADH)分泌不適合症候群(SIADH)は,低浸透圧,低ナトリウム血症にもかかわらず,ADHであるアルギニンバソプレシン(AVP)の分泌が抑制されないため,腎尿細管での水の再吸収が亢進して水利尿不全による希釈性低ナトリウム血症を呈する疾患である.原因としては,中枢神経系疾患,肺疾患,異所性AVP産生腫瘍,薬剤がある.症状としては頭痛,悪心,嘔吐,意識障害,痙攣などの低ナトリウム血症に伴う症状が出現する.低ナトリウム血症が急速に発症した場合には早期に重篤な症状が出現するが,慢性の低ナトリウム血症では血清ナトリウム濃度が低値の割に症状は軽度にとどまる.

急性副腎不全

宗 友厚

pp.518-519

 副腎クリーゼともいわれ,副腎皮質ホルモン,なかでもコルチゾールを代表とするグルココルチコイドの絶対的・相対的不足が急激に生じ,グルココルチコイド補充を含む迅速かつ的確な処置をしなければ生命に危険が及ぶ病態であり,内分泌救急の代表である.ステロイド内服の急な中止,下垂体卒中,両側副腎出血など,短い間に重度のステロイド欠乏をきたすさまざまな原因で起こりうる.脱水,ショック,低血糖,発熱などの多彩な症状が同時多発的に出現・進行し,重篤な病態となる.副腎不全が原発性か二次性かにより病態が異なる.

亜急性甲状腺炎

西川 光重

pp.520-522

 亜急性甲状腺炎は,有痛性甲状腺腫と炎症所見,および破壊性甲状腺中毒症を特徴とする炎症性疾患である.上気道感染症の先行をしばしば認め,その後,頸部から耳部にかけての痛みや,発熱,全身倦怠感などの全身症状を伴う.血中遊離サイロキシン(FT4)高値・甲状腺刺激ホルモン(TSH)低値となり,C反応性蛋白質(CRP)高値,赤血球沈降速度(赤沈)亢進などの炎症反応を伴う.甲状腺超音波検査では疼痛部に一致した低エコー領域を認める.急性期には放射性ヨウ素(または99mTc)甲状腺摂取率が低下する.

痛風

喜瀬 高庸 , 横川 直人

pp.523-525

 痛風とは,尿酸が溶解可能な濃度以上になると尿酸塩(尿酸一ナトリウム)が形成され組織に沈着し,炎症性サイトカインが誘導されることにより,急性に高度の炎症をきたす臨床像を表す.最近ではゲノムワイド関連解析によって,痛風の原因となる尿酸の代謝機能(トランスポーターなど)と関連する遺伝子座が明らかになってきた.罹患部位は母趾MTP関節の頻度が最も多く代表的であるが,あらゆる部位に関節炎,滑液包炎,腱炎,腱鞘滑膜炎を呈する.慢性化すると痛風結節や関節破壊を生じ,また高血圧症・慢性腎臓病・虚血性心疾患・脳卒中のリスク因子になる.関節液の鏡検が痛風の確定診断には必須である.

9章 アレルギー疾患

気管支喘息

西川 裕作 , 東田 有智

pp.526-528

 気管支喘息(以下,喘息)は気道の慢性炎症を本態とする疾患であり,炎症に伴う気道狭窄による可逆性の気流障害がその特徴である.さまざまな原因で気道過敏性が亢進し,発作性の咳嗽,喀痰,喘鳴,呼吸困難などの症状を認める.喘息の症状はウイルス感染やアレルゲン曝露,喫煙,天候の変化などで誘発されることが多い1).病型としてアレルギー素因を有するアトピー型と有さない非アトピー型に分類されることが知られており,喘息の診断は気道可逆性や気道過敏性検査と症状の有無によって行う.治療は日々のコントロール治療と発作時の治療に分けて考える必要がある.治療の進歩により死亡率は年々低下しているが,厚生労働省の調べによると現在でも年間1,500人程度が死亡している重要な疾患である.この疾患を管理するうえで最も重要な検査が呼吸機能検査である.それについて概要を述べる.

10章 膠原病・免疫疾患

全身性エリテマトーデス

右田 清志 , 天目 純平 , 藤田 雄也 , 松岡 直樹

pp.529-531

 全身性エリテマトーデス(SLE)は,原因不明の全身性自己免疫疾患である.SLEでは,抗核抗体(ANA)をはじめとする自己抗体が出現し,抗DNA抗体からなる免疫複合体の沈着(Ⅲ型アレルギー)による臓器障害を呈する自己免疫疾患で,男女比は1:9と圧倒的に女性が多く,発症のピークは20〜30歳代である.皮膚,腎臓,関節をはじめ,神経系,心臓,肺など全身の臓器に病変を認め,多彩な臨床症状を呈する.ステロイドや免疫抑制剤で治療されるが,寛解と再燃を繰り返し,難治性臓器合併症を認めることもある.

抗リン脂質抗体症候群

家子 正裕

pp.532-533

 抗リン脂質抗体症候群(APS)は,抗リン脂質抗体(aPL)が血中に証明され,動静脈血栓症や妊娠合併症を臨床症状とする症候群である.APSに関連するaPLは,抗カルジオリピン抗体(aCL),抗β2-グリコプロテインⅠ抗体(aβ2GPⅠ)およびループスアンチコアグラント(LA)である.APSの臨床症状は深部静脈血栓症が多く,次いで脳梗塞(一過性脳虚血発作),血小板減少症,妊娠合併症である.APS診断は,APS分類基準(Sapporo Criteriaの2006年シドニー改変,表1)1)が用いられる.すなわち,臨床所見に加え,検査所見が12週間以上離れて2回以上検出された場合にAPSと判断する.

関節リウマチ・リウマチ性多発筋痛症・高齢発症関節リウマチ

黒田 毅

pp.534-535

 高齢人口の増加により関節リウマチ(RA)患者は高齢化し,高齢発症関節リウマチ(EORA)も増加している.EORAは症状がリウマチ性多発筋痛症(PMR)と類似するため鑑別を要する.通常RAは手指,手関節から発症することが多いが,EORAは大関節からの発症も多い.PMRの初発症状は肩,股関節周囲の筋痛が多く,症状のみではEORAと鑑別が困難な場合もある.RAとEORAではリウマトイド因子(RF),抗環状シトルリン化ペプチド(CCP)抗体は70%程度で陽性であるが,PMRでは両者とも陰性である.

免疫不全症

浅野 孝基 , 岡田 賢

pp.536-537

 免疫不全症には遺伝的背景を背景に発症する“原発性免疫不全症(PID)”と,薬剤使用やヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染,糖尿病に伴い発症する続発性免疫不全症が存在する.そのうち,本稿ではPIDを想定して概説を行う.PIDは非常にまれな疾患であり,その多様性と複雑な病態から,日常診療ではしばしば見逃されがちになる.重症感染症の発症が診断の契機となることが多いが,感染症とは関連のない症状が診断の契機となることもある.

ANCA関連血管炎

山田 一宏 , 浅井 一久 , 平田 一人

pp.538-539

 抗好中球細胞質抗体(ANCA)は,ANCA関連血管炎の診断補助目的に測定される.ANCA関連血管炎とは顕微鏡的多発血管炎(MPA),多発血管炎性肉芽腫症(GPA),好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)のことを指す.ANCAはANCA関連血管炎以外のさまざまな疾患や薬剤で陽性となるため,その解釈には注意を要する.

11章 感染性疾患・寄生動物疾患

劇症型溶血性レンサ球菌感染症

藤谷 好弘

pp.540-541

 劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)とは,β溶血を示すレンサ球菌(β溶連菌)を原因とし,突発的に発症して急激に進行する敗血症性ショック病態と定義される.β溶連菌はLancefield分類でA群,B群,C群,G群などに分類され,いずれもSTSSの原因となるが,臨床的に最も頻度が高いのはA群溶連菌(GAS)である.発熱,消化器症状(食欲不振,嘔吐,下痢),全身倦怠感,低血圧などの敗血症症状,筋痛などに続き,軟部組織病変(壊死性筋膜炎含む),循環不全,呼吸不全,播種性血管内凝固症候群(DIC),肝腎障害などの多臓器不全が24時間以内に劇的に進行する.“人食いバクテリア”とも俗称されており,わが国における致命率は約30%と報告されている1).現時点では有効な予防法はなく,早期診断,早期治療が重要である.

腸管出血性大腸菌感染症

中嶋 一彦 , 竹末 芳生

pp.542-543

 腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症はベロ毒素(VT1,VT2)(または志賀毒素)を産生するEscherichia coliにより生じる感染性腸炎であり,わが国では毎年4,000名前後の発生報告がある.菌に汚染された食肉の摂食以外に,さまざまな食品や水系,ヒト-ヒトを介した感染もみられる.平均3〜5日程度の潜伏期間の後,下痢,血便,腹痛などの消化器症状がみられる.また,下痢出現後数日〜2週間後に5〜10%に溶血性尿毒症症候群(HUS)を合併する.HUSは貧血,血小板減少,急性腎機能障害を3主徴とし,1〜5%体の致死率である.軽症のEHEC感染症でもHUSを伴うことがあり,尿検査,血液検査による厳重な観察が要である.

結核

佐々木 結花

pp.544-545

 結核はヒトからヒトへ感染し,空気感染で拡大する.結核菌は気道から肺に定着し,肺に初感染病巣を形成してリンパ行性に所属リンパ節に病巣が形成され,一次病巣(primary complex)となる.5%程度はそのまま一次結核として発症するが,95%は宿主に免疫が成立し潜在性結核感染症として結核症を発症せず,沈黙を守って休眠しているかの様相となる.何らかの理由で宿主の免疫が低下し,菌の増殖が生じて病巣が形成された場合(内因性再燃),結核症として治療の対象となる.結核症は全身の臓器に生じるが,主たる病巣は呼吸器系,特に肺に形成される.結核菌自体が好気性菌であり,呼吸器系はより増殖しやすい環境であるといえよう.

 呼吸器系の結核,特に肺結核患者が,次の誰かに感染を生じさせる可能性が高い“感染源”であることを診断する検査項目が喀痰検査であるが,気管支鏡検体,各種検体(胸水,腹水,胃液,尿,便,血液,髄液,関節液,器具洗浄液など),手術検体からも抗酸菌関連検査が行われる.

基本的な検査1)

 喀痰を検査する場合,塗抹,培養,同定,薬剤感受性検査が行われる.塗抹・培養検査は検出率を上げるために3日間行うとされるが,保険収載上核酸増幅法による同定は3日間のうち1回行う.喀痰検査では検査に値する検体であるか,性状を確認する.単なる唾液や膿性部分が少ない検体は,診断に値せず誤診を招く可能性がある.そのため適切な検体ではない場合,院内では再検を依頼し,検査会社に勤務する方であれば指示医療機関に“検体不良”の連絡を行っていただきたい.

レジオネラ症

藤田 次郎

pp.546-547

 レジオネラ症のなかで重要なのはレジオネラ肺炎で,市中肺炎としても院内肺炎としても発症する.グラム陰性桿菌による細菌性肺炎である.マクロファージのなかで増殖するため,細胞移行性の悪いβ-ラクタム系抗菌薬は無効である.市中肺炎においては,入院した後に急速に陰影が悪化することがある.レジオネラ症のなかでもレジオネラ肺炎の診断に際しては,①嘔吐・下痢などの消化器症状,②低ナトリウム血症,③肝酵素の上昇,④C反応性蛋白質(CRP)値が10mg/dL以上,⑤β-ラクタム系抗菌薬が無効,などを参考にする.

敗血症

石原 香織 , 宇野 直輝 , 栁原 克紀

pp.548-549

 敗血症とは“感染症に対する制御不能な宿主反応に起因した生命を脅かす臓器障害”と定義されている.また,敗血症性ショックは,死亡率を増加させる可能性のある重篤な循環,細胞,代謝の異常を有する敗血症のサブセットとして定義されている.

マラリア

狩野 繁之

pp.550-552

 マラリアは世界の80カ国に流行し,罹患者は年間2億1,900万人,死亡者は43万5,000人と報告されている〔世界保健機関(WHO):2018年〕.わが国の輸入マラリア患者数は,年間61例(2017年)である.感染症法上の確定診断は,血液塗抹Giemsa染色標本(薄層が望ましい)を顕微鏡下に観察し,赤血球に感染したマラリア原虫を検出するか,末梢血液からDNAを抽出し,原虫の種特異的プライマーを用いたPCR法によると定められている.濾紙クロマトグラフィーによる迅速診断キットが世界では標準化されているが,わが国では臨床診断法として認可されていない.

壊死性軟部組織感染症

伊藤 亮太

pp.554-555

 壊死性軟部組織感染症は急速進行性の疾患であり,緊急対応が必要になる感染症の1つである.皮下組織が感染部位の中心となり,急速に周囲組織の壊死が進行し,敗血症性ショックなど重篤な病態となることが多い.本疾患は蜂窩織炎などの皮膚軟部組織感染症との鑑別が困難なことも多く,確定診断には皮膚切開による診断が必要である.

12章 中毒性疾患

有機リン・サリン中毒

清田 和也

pp.556-557

 神経伝達物質であるアセチルコリン(ACh)を分解するコリンエステラーゼ(ChE)が阻害され,AChが過剰となることにより中毒症状が起こる.副交感神経刺激作用,神経筋接合部の阻害による筋麻痺や線維束攣縮,交感神経節刺激による交感神経症状,中枢神経症状がある.徐脈,縮瞳,唾液・涙・気道分泌亢進などのムスカリン様作用による副交感神経刺激症状はコリン作動性トキシドローム(toxidrome)として有名である.特にサリンなどの神経毒ガス類は毒性が高いが,いずれの中毒も呼吸循環の管理を直ちに行わなければ死に至る緊急度・重症度の高い中毒である.治療薬としてプラリドキシムヨウ化メチル(PAM)が使用されるが,血糖測定値への影響があり注意が必要である.

13章 妊産婦・女性性器疾患

異所性妊娠(子宮外妊娠)

原田 佳世子 , 上東 真理子 , 柴原 浩章

pp.558-559

 異所性妊娠(子宮外妊娠)とは,子宮内腔以外の場所に着床した状態をいう.異所性妊娠は全妊娠の1〜2%の頻度で発生する.正常妊娠では血中ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)が2,000mIU/mL以上であれば,超音波検査で子宮内に胎囊を確認できるが,子宮内に胎囊がみえない場合は異所性妊娠が強く疑われる.着床部位によって卵管妊娠,卵巣妊娠,腹腔妊娠,頸管妊娠,帝王切開瘢痕部妊娠に分類される.自覚症状は,性器出血と下腹部痛である.診断が遅れると腹腔内に大量出血し,急性腹症,ショック状態となる可能性がある.

卵巣腫瘍茎捻転

羽間 夕紀子 , 下屋 浩一郎

pp.560-561

 卵巣とは,骨盤漏斗靱帯と卵巣固有靱帯で支持された,可動性が高く,物理的に茎捻転しやすい臓器である.卵巣腫瘍茎捻転は,婦人科救急の現場では比較的よく遭遇する疾患として知られており,緊急手術の適応となるため迅速な対応が望まれる.症状としては,突発的な下腹部痛を主体とし,患側優位にこの症状が出現するとされているが,必ずしもそうとは限らず,痛みの程度も茎捻転の度合いに比例してさまざまである.また,嘔気・嘔吐などの消化器症状が出現することもしばしばで,鑑別疾患を除外しながらの診断になる.あくまで確定診断は手術所見による.治療は,緊急性を要すれば緊急手術となるが,緊急性がなければ鎮痛薬で疼痛コントロールを行いながら,悪性腫瘍の除外をしたうえでの手術が理想である.開腹手術や腹腔鏡手術は双方可能である.手術所見によっては卵巣摘出の可能性もあるため,生殖可能年齢であればインフォームドコンセントが重要となってくる.治療が完了すれば予後は良好であるが,卵巣温存した場合は再発のリスクもあることを考慮にいれなければならない1)

14章 小児疾患

肥厚性幽門狭窄症

増本 幸二

pp.562-563

 肥厚性幽門狭窄症(以下,本症)は,胃幽門部の筋層(主に輪状筋)が進行性に肥厚し,幽門管が狭くなることで,胃内容の通過障害をきたす疾患である.乳児期に多く,生後2〜3週ごろより症状が出現する.病状の進行により噴水状の嘔吐(非胆汁性)となり,頻回に胃内容や胃液を嘔吐するため脱水となっていることが多い.血液検査では血清クロールイオンの低下と,それに伴う代謝性アルカローシスを呈する.

 本症が疑われた場合,その診断は,触診で肥厚した幽門部を(オリーブ様)腫瘤として捉えることとされてきたが,実際の臨床の場では,幽門部の肥厚が非侵襲的に確認できる腹部超音波検査による診断が主流になっている.

腸重積症

上野 滋

pp.564-565

 腸重積症では,腸管がすぐ肛門側の腸管に引き込まれて重なり,その結果,腸管の血流障害により絞扼性イレウスの病態をきたす.代表的な小児救急疾患で,乳児期に好発する.腹痛(不機嫌),嘔吐,血便を呈し,死亡することもあるため,適切な診療が求められる.早期診断には超音波検査が極めて有用で,腸重積症を疑った小児では,特徴的なtarget signを見逃さないようにする.超音波検査による腸管血流の消失,腸管重積部の液体貯留,病的先進部の存在,白血球数増多,C反応性蛋白質(CRP)高値,腹部X線写真での遊離ガス像や腸閉塞所見はより重症であることを示す.

川崎病

小林 徹

pp.566-567

 川崎病は小児期に後発する原因不明の血管炎症候群であり,特に冠動脈に強い血管炎が生じることが特徴的である.現在,年間に15,000人以上が新たに発症し,そのうち約300人に冠動脈病変を含む心後遺症が残存する.川崎病の主要症状6項目中5項目以上を満たした患者を川崎病と診断するが,他疾患を十分に鑑別する必要がある.そのため,血液検査や画像検査,特に心臓超音波検査を診断時に実施して,適切な診断と治療を行うことが重要である.

検査⇔疾患 簡易対応表

pp.326-335

 本号で取り上げられた疾患・検査を対象として,検査項目から疑うべき疾患を探し出せる「簡易対応表」をまとめました.疾患から関連検査項目を知りたい場合には「目次」から,検査項目から関連疾患を知りたい場合には「簡易対応表」からお探しいただくと,さらに本書を有効に活用することができます!

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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