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文献詳細

雑誌文献

臨床検査64巻10号

2020年10月発行

文献概要

増刊号 がんゲノム医療用語事典

1.がんゲノム医療の全体像

著者: 柳田絵美衣12

所属機関: 1慶應義塾大学病院臨床検査科ゲノム検査室 2慶應義塾大学医学部腫瘍センターゲノム医療ユニット

ページ範囲:P.1055 - P.1084

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現在の個別化医療

 わが国でこれまでに行われてきた遺伝子異常に基づく個別化医療は,決められた臓器に発症したがんにおいて,1つの遺伝子の異常に対して治療薬(分子標的薬)を選択するものである.乳がんにc-erbB-2の変異が見つかれば,ハーセプチン®(トラスツズマブ)を選択し,保険診療内で治療に用いることができる.このような分子標的薬の投与の可否を判定する検査がコンパニオン診断薬と呼ばれるもので,多くの症例で使用されてきた.しかし,乳がんではない他の臓器のがん,例えば肺がんで同じc-erbB-2の遺伝子変異が見つかっても,ハーセプチン®を選択することはできない.つまり,わが国では,がんの発症臓器ごとに選択できる薬剤が決められており,他の臓器では使用することができないのである(図1).また,それ以前に肺がんにおいてc-erbB-2変異の検査を受けること自体,わが国の保険診療では認められていなかった.しかし,がんゲノム医療の拡充を目指し厚生労働省は2019年5月に“がん遺伝子パネル検査”を保険診療の対象とすることを発表し,決められた条件をクリアすれば臓器を問わず遺伝子検査を受けることができるようになった.

 2020年5月現在,保険診療の対象となっているがん遺伝子パネル検査は“OncoGuideTMNCCオンコパネルシステム”(シスメックス社),“FoundationOne®CDxがんゲノムプロファイル”(中外製薬社)と“オンコマインTM Dx Target TestマルチCDxシステム”(ライフテクノロジーズジャパン社)である.機能的な面から“OncoGuideTM NCCオンコパネルシステム”と“FoundationOne®CDxがんゲノムプロファイル”は“ゲノムプロファイリング検査”と呼ばれ,がん発生に強く関連していることがわかっている数十〜数百種類の遺伝子の変異を一度に調べ,分子標的薬以外にも免疫チェックポイント阻害剤の効果予測や,登録可能な治験の情報などを見つけることを目的としている.

参考文献

1)角南久仁子,畑中豊,小山隆文:がんゲノム医療遺伝子パネル検査実践ガイド,医学書院,2020
2)厚生労働省:がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会 報告書案—国民参加型がんゲノム医療の構築に向けて,2017(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000166310.pdf)(最終アクセス:2019年5月15日)
3)厚生労働省健康局長:がんゲノム医療中核拠点病院等の整備について,2017(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000190014.pdf)(最終アクセス:2019年5月15日)
4)柳田絵美衣,西原広史:がんゲノム医療における臨床検査技師の役割,臨病理 66:479-489,2018
5)厚生労働省:がんゲノム医療中核拠点病院等の指定に関する検討会(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-kenkou_514424.html)(最終アクセス:2020年5月18日)
6)厚生労働省:遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)(https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000576445.pdf)(最終アクセス:2020年6月8日)
7)中村康平,西原広史:ゲノム医療の展望.臨と研 97:391-397,2020
8)Takai E, Totoki Y, Nakamura H, et al:Clinical utility of circulating tumor DNA for molecular assessment in pancreatic cancer. Sci Rep 5:article number 18425, 2015
9)natureresearch, Keio University:A new whole-exome sequencing platform makes the case for broader precision cancer care—Keio University is leading one of Japan's largest precision oncology projects using a new whole-exome sequencing platform.(https://www.nature.com/articles/d42473-020-00058-3)(最終アクセス:2020年7月8日)
10)文部科学省,厚生労働省,経済産業省:ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針(https://www.mhlw.go.jp/general/seido/kousei/i-kenkyu/genome/0504sisin.html)(最終アクセス:2019年5月15日)
11)永井亜貴子,武藤香織:人を対象とする医学研究のインフォームド・コンセント.実験医学 35:141-146,2018
12)文部科学省,厚生労働省:人を対象とする医学系研究に関する倫理指針(平成29年2月28日一部改正)(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/0000168764.pdf)(最終アクセス:2020年6月30日)
13)柳田絵美衣,山田寛,松岡亮介,他:がんゲノム医療の結果報告における現状と課題.日染色体遺伝子検会誌 37:28-50,2019
14)日本病理学会:ゲノム研究用病理組織検体取扱い規程,2016(http://pathology.or.jp/genome/)(最終アクセス:2020年7月9日)
15)日本病理学会:ゲノム診療用病理組織検体取扱い規程,2018(http://pathology.or.jp/news/pdf/genome_kitei_170915.pdf)(最終アクセス:2020年7月9日)

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1367

印刷版ISSN:0485-1420

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