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増刊号 がんゲノム医療用語事典
1.がんゲノム医療の全体像
著者: 柳田絵美衣12
所属機関: 1慶應義塾大学病院臨床検査科ゲノム検査室 2慶應義塾大学医学部腫瘍センターゲノム医療ユニット
ページ範囲:P.1055 - P.1084
文献購入ページに移動わが国でこれまでに行われてきた遺伝子異常に基づく個別化医療は,決められた臓器に発症したがんにおいて,1つの遺伝子の異常に対して治療薬(分子標的薬)を選択するものである.乳がんにc-erbB-2の変異が見つかれば,ハーセプチン®(トラスツズマブ)を選択し,保険診療内で治療に用いることができる.このような分子標的薬の投与の可否を判定する検査がコンパニオン診断薬と呼ばれるもので,多くの症例で使用されてきた.しかし,乳がんではない他の臓器のがん,例えば肺がんで同じc-erbB-2の遺伝子変異が見つかっても,ハーセプチン®を選択することはできない.つまり,わが国では,がんの発症臓器ごとに選択できる薬剤が決められており,他の臓器では使用することができないのである(図1).また,それ以前に肺がんにおいてc-erbB-2変異の検査を受けること自体,わが国の保険診療では認められていなかった.しかし,がんゲノム医療の拡充を目指し厚生労働省は2019年5月に“がん遺伝子パネル検査”を保険診療の対象とすることを発表し,決められた条件をクリアすれば臓器を問わず遺伝子検査を受けることができるようになった.
2020年5月現在,保険診療の対象となっているがん遺伝子パネル検査は“OncoGuideTMNCCオンコパネルシステム”(シスメックス社),“FoundationOne®CDxがんゲノムプロファイル”(中外製薬社)と“オンコマインTM Dx Target TestマルチCDxシステム”(ライフテクノロジーズジャパン社)である.機能的な面から“OncoGuideTM NCCオンコパネルシステム”と“FoundationOne®CDxがんゲノムプロファイル”は“ゲノムプロファイリング検査”と呼ばれ,がん発生に強く関連していることがわかっている数十〜数百種類の遺伝子の変異を一度に調べ,分子標的薬以外にも免疫チェックポイント阻害剤の効果予測や,登録可能な治験の情報などを見つけることを目的としている.
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