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文献詳細

雑誌文献

臨床検査68巻1号

2024年01月発行

文献概要

医療紛争の事例から学ぶ・6

病理検体の判定ミス

著者: 岡部真勝1 蒔田覚2

所属機関: 1岡部真勝法律事務所 2蒔田法律事務所

ページ範囲:P.114 - P.116

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はじめに

 臨床検査技師は,医師又は歯科医師の指示の下,病理学的検査を行うことを業とする医療従事者である(臨床検査技師等に関する法律第2条,同法施行規則第1条第4号).もっとも,臨床検査技師において実施可能な病理学的検査は,医行為(人体に危害を及ぼし,または危害を及ぼすおそれのある行為)と評価されない範囲(事実行為)にとどまるのであって,臨床検査技師において絶対的医行為である“診断”を行うことはできない.

 そして,臨床医が臨床症状と各種検査結果を総合して行う最終的“診断”に限らず,組織や細胞の形態や機能を観察して判定する“病理診断”についても,医師の専門的知識や技術を必要とし,患者の生命や健康に直接的な影響を及ぼすことが多いことから,“絶対的医行為”であるとの理解が一般である.そのため,病理診断を臨床検査技師が行うことは医師法に抵触しかねない.

 このように病理診断は病理医において行うべきものである.学会資格である“細胞検査士認定試験”に合格して“細胞病理検査”を専門とする“細胞検査士”を名乗る臨床検査技師も存在するが,細胞検査士においても顕微鏡での観察(スクリーニング)結果を報告しているにすぎず,病理診断を行っているわけではない.

 今回は,病理医と細胞検査士の評価の違いが争点の1つとなった裁判例を紹介する.この事案は,穿刺吸引細胞診による検体に関して細胞検査士は“良性”と判定したが,病理医が“悪性を疑う(乳頭癌を疑う)”と診断し,甲状腺左葉切除術などの手術を受けたところ,病理組織検査の結果,本件手術で摘出された腫瘤から癌細胞は検出されなかったというものである(平成30年4月12日東京地方裁判所1) 請求額約800万円/請求棄却).判決中では,細胞検査士の報告についても“診断”という表現が用いられているが,やや不正確な表現であることは否めない.

参考文献

1)東京地方裁判所平成30年4月12日判決
2)厚生省健康政策局医事課長回答 医事第90号 平成元年12月28日

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1367

印刷版ISSN:0485-1420

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