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臨床検査69巻12号

2025年12月発行

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今月の特集 心アミロイドーシス

フリーアクセス

涌井 昌俊

pp.1327

 心アミロイドーシスをはじめアミロイドーシスは,その知名度に比して診断は必ずしも容易ではなく,治療も困難で手ごわい疾患として認識されています.診断に直結する特異的な症状や検査スクリーニング異常に乏しく,非特異的症状や検査異常からあえてアミロイドーシスの可能性を思い浮かべることが診断契機となります.そこから始まる精査を経ても確定診断に至らないこともしばしばです.しかし,近年の基礎知見と臨床研究の成果により,診断と治療の地平に新たな光が照らされはじめています.分子診断と分子標的療法の進歩が診療のブレークスルーにつながるのはアミロイドーシスも例外ではありません.

 本特集では「心アミロイドーシス」というテーマのもとで,各分野領域の第一線で活躍されている方々に解説いただきました.“古くて手ごわい疾患”から“古くて新しい疾患”に変わりつつあるアミロイドーシスのアップデートにつながれば幸いです.

〔診療総論〕

アミロイドーシスの疾患概念と分類

関島 良樹

pp.1328-1334

Point

●アミロイドは,可溶性の前駆タンパク質がなんらかの原因により変性・重合し,クロスβシート構造をとった不溶性の線維である.

●アミロイドおよびアミロイドーシスは前駆タンパク質により分類され,これまでに42種類の前駆タンパク質が同定されている.

●代表的な全身性アミロイドーシスはトランスサイレチン(TTR)を前駆タンパク質とするATTRアミロイドーシス,免疫グロブリン軽鎖を前駆タンパク質とするALアミロイドーシスである.

●代表的な限局性アミロイドーシスは,Aβ前駆タンパク質(APP)を前駆タンパク質とするAβアミロイドーシス(Alzheimer病)である.

●アミロイドーシスは治療可能な疾患になっているが,病型により治療が全く異なるため,正確な病型診断が非常に重要である.

心アミロイドーシスの診断・治療のアップデート

松本 洋典 , 泉家 康宏 , 辻田 賢一

pp.1336-1343

Point

●心アミロイドーシスは心臓の細胞外間質に不溶性のアミロイド線維が沈着し,形態的かつ機能的な異常をきたす病態を指す.

●近年,診断精度の向上・治療の目覚ましい進歩があり,臨床現場で認識すべき疾患領域である.

●治療効果を最大限発揮するには早期診断が重要であり,心アミロイドーシスの診断と関連する臨床検査に習熟する必要がある.

ALアミロイドーシスへの包括的アプローチ—病態から治療介入まで

近藤 右京

pp.1344-1349

Point

●ALアミロイドーシスは異常な形質細胞が産生するFLC由来のアミロイドタンパクが全身の臓器に沈着し,不可逆的障害を引き起こす進行性疾患である.

●診断のポイントは非特異的な症状に違和感をもって早期に疑い,FLC,免疫固定法の検査を行うことである.その後,生検を施行し,確定診断する.

●予後は心障害の程度が強く関わってくる.早期治療によって速やかに血液学的奏効を得ることが予後改善に直結する.

●診断後速やかにDaraCyBorD療法を開始し,FLC比の正常化を目標とする.自家移植については慎重に適応を判断し,可能であれば移植を考慮する.

ATTRwtアミロイドーシス

長尾 学

pp.1350-1353

Point

●野生型トランスサイレチンアミロイドーシス(ATTRwt)は,遺伝子変異を伴わないトランスサイレチン(TTR)タンパクを前駆体とするアミロイドが心臓や神経に沈着し,機能障害を引き起こす加齢性の全身性疾患である.

●野生型トランスサイレチンアミロイド心筋症(ATTRwt-CM)は,駆出率が保たれた心不全(HFpEF)や大動脈弁狭窄症などの心疾患患者のなかに高頻度で潜在している.

●トランスサイレチンアミロイド心筋症(ATTR-CM)の診断には99mTc-ピロリン酸シンチグラフィが有用である.

●TTR四量体の安定化を介して病態進行を抑制する疾患修飾薬の登場により,ATTR-CM患者の予後改善が期待されている.

ATTRvアミロイドーシス

植田 光晴

pp.1354-1359

Point

●ATTRvアミロイドーシスは,トランスサイレチン(TTR)遺伝子の変異が四量体を不安定化し単量体への解離,アミロイド線維形成,臓器沈着へ至る病態である.

●未治療の生存中央値は集積地若年発症例で約10年,非集積地高齢発症例で約7年と短く,末梢神経障害と心不全が主要な病態である.

●診断は臨床像,TTRアミロイド沈着,TTR遺伝子の病原性変異の3要件で確立し,ピロリン酸(PYP)心筋シンチグラフィーなど非侵襲画像が早期診断を補強する.

●主たる治療法は,TTR gene-silencing薬とTTR四量体安定化薬であり,早期診断による疾患修飾療法(DMT)の早期導入で生命予後改善とQOL向上が期待される.

〔検査各論〕

検体検査

山田 俊幸

pp.1360-1364

Point

●アミロイドーシスにおいてはアミロイドタンパクの前駆物質の質的・量的異常が検査の対象となる.

●ALアミロイドーシスにおいては電気泳動によるBence Jonesタンパク(BJP)の検出,免疫グロブリン遊離軽鎖定量によるその間接的検出が診断補助となる.

●遺伝性トランスサイレチンアミロイドーシス(ATTRv)においては遺伝子または血清でのTTR変異検出が鍵となり,野生型トランスサイレチンアミロイドーシス(ATTRwt)においてはTTRに変異がないことが前提となる.

●ATTRwtに特化した血清マーカーはない.

心機能検査(心電図・心エコー)

鶴田 ひかる

pp.1366-1371

Point

●原因不明の左室肥大や収縮能の保たれた心不全(HFpEF)を認めたら心アミロイドーシスを念頭に置いた心電図と心エコーの評価を行う.

●心電図では低電位,偽梗塞パターン,房室・脚ブロックなどの伝導障害,心房細動が重要な手掛かりとなる.

●心エコーでは左室心筋に加えて,右室心筋・弁・心房中隔の肥厚,拡張障害,apical sparingを伴う長軸ストレイン低下に着目する.

●“左室肥大があるのに低電位”や“肥大+心房細動・伝導障害”は心アミロイドーシスを強く疑う所見であり,心電図と心エコーを組み合わせた診断の意義は高い.

心臓画像診断学的検査—MRI・CT

荒木 俊 , 市川 泰崇 , 石田 正樹

pp.1372-1379

Point

●心アミロイドーシスは高齢者心不全の重要な鑑別疾患であり,心臓MRIや心臓CTによる正確な診断が求められる.

●心臓MRIでは,cine MRI,遅延造影MRIおよびT1 mappingを用いて,心筋の形態・機能・組織性状を包括的に評価できる.

●心臓CTでも,心筋組織性状評価が近年可能となりつつあり,特に経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)前やアブレーション前に施行される造影CTを契機とした診断例が増加している.

心臓画像診断学的検査—核医学検査

栗原 まき子

pp.1380-1386

Point

●早期診断が必要な心アミロイドーシスは,指定難病の診断基準で核医学検査によるProbable診断が認められている.

●核医学検査で使用が許可されている放射性医薬品は2種類あり,投与から3時間後にSPECT撮像によって評価され,プラナー画像による評価は診断の補助ツールである.

●撮像したSPECT画像の評価は,CTとの融合画像を作成することによって確実な診断が可能になる.

心臓画像診断学的検査—カテーテル検査

宮本 真和 , 中村 一文

pp.1388-1393

Point

●心内膜心筋生検は確定診断や病型の鑑別に重要であり,心アミロイドーシスにおけるカテーテル検査の主目的となる.

●アミロイド沈着による拡張障害に伴う心不全に加え,病期が進行すると収縮障害も出現するため,心不全の評価のために右心カテーテル検査が行われることもある.

●心アミロイドーシスは刺激伝導系の障害や種々の不整脈を多く合併し,病状に応じて心臓電気生理学的検査やカテーテルアブレーション治療などが行われることもある.

病理検査—生検

田口 登和子 , 大橋 建一

pp.1394-1402

Point

●現在は,アミロイドーシスにおける病理診断での病型分類は必要条件になりつつある.

●ATTR心アミロイドーシスの疾患修飾薬投与において,2025年5月に患者要件の改訂が記載され,必須であった病理検査でのアミロイド沈着の確認が緩和された.

●生検部位としては,心筋障害があれば心筋生検がベストではあるが,低侵襲性である皮膚・皮下脂肪生検,消化管生検,近年では手根管生検などが選択されることもある.

病理検査—病型診断(心アミロイドーシスにおける病型分類:組織学と質量分析学による統合的アプローチ)

大林 光念

pp.1404-1410

Point

●組織学的染色法と免疫染色法を用いて,心筋アミロイド沈着の性状を視覚的に分類することが可能である.

●質量分析によって原因タンパク質を高精度に同定し,病型を明確に識別する診断精度が飛躍的に向上する.

●これらの両技術を統合することで,治療方針の最適化と個別化医療の実現に大きく貢献しうる.

バイオバンク活動の実際とJIS Q 20387の適用・2

バイオバンクは社会の重要なインフラストラクチャ

石田 典子 , 山本 雅之

pp.1412-1418

はじめに

 バイオバンクとは,研究目的で収集された生物学的試料(バイオリソース)と関連する情報を保管し,提供することで有効な利活用を促進するために発達した組織であり,植物の種子やマウスを対象とするものなど,世界中にさまざまな目的のバイオバンクが存在する.バイオリソースセンターと称されることもある.ヒトを対象としたバイオバンクが生命科学・医学研究に活用される事例が増加するに伴い,単にバイオバンクというと,ヒトを対象とした生命医学研究を目的とするバイオバンクのことを指すことも多くなっている.

 ヒトを対象としたバイオバンクでは,提供者からの信頼の下,幅広い同意(包括的同意)を取得して,試料や情報を収集する.また,将来の研究利用に備えて,それらをしっかりとした品質管理を実施しながら,保管・管理する.そして,それらを公平な運営の基に,アカデミアや企業の研究・開発のために提供する.収集する試料・情報の規模や種類はバイオバンクによって大きく異なるが,研究者・研究機関に貴重なリソースを提供することにより,特に,疾患,個別化医療・個別化予防,再生医療などの先端的な医学研究や,ゲノム創薬などの最先端創薬を支える,現代社会に不可欠な研究基盤となっている.

あとがき フリーアクセス

関谷 紀貴

pp.1426

 2025年もいよいよ師走を迎えました.愛知万博から20年ぶりに大阪万博が開かれ,毎年の「記録的」猛暑を経ての年末ですが,皆さまはいかがお過ごしでしょうか? 振り返りの季節は,ついできなかったことに目を向けがちですが,やり遂げたことに注目して自分をねぎらうことが,新しい年を前向きに迎える力になるかもしれません.

 1996年にノーベル文学賞を受賞したポーランドの詩人で,ヴィスワヴァ・シンボルスカ(1923-2012)という女性がいらっしゃいます.ささやかな日常に普遍性を見いだす稀有な方ですが,「終わりと始まり」という題名の詩で戦争後の光景を描きました.「戦争が終わるたびに 誰かが後片付けをしなければならない」という言葉に始まり,がれきを片付け,橋を架け直し,生活を再建する無名の人々の営みが淡々と示されます.そうした努力は華やかに記録されることもなく,時がたてば忘れられていくものです.これは仏教の「無常」の思想とも重なり,全ては移ろい,終わりと始まりが連続するという真理を思い起こさせます.戦争の悲惨さも,平和の営みも,やがて忘却とともに変化していきますが,だからこそ今ここにある営みや出会いが貴重であることに気付かされます.シンボルスカの詩は,無常の流れのなかで人間が再び生を取り戻していく姿を映し出すような内容です.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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