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臨床検査69巻7号

2025年07月発行

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今月の特集 自己抗体検査のアップデート

フリーアクセス

涌井 昌俊

pp.733

 免疫応答が正常の細胞・組織に対して向けられる自己免疫疾患は,古くから自己抗体が臨床検査に利用されています.一方,自己免疫の関与が考えられているにもかかわらず自己抗体が知られていなかった疾患や自己免疫の関与が想定されていなかった疾患についても,病態理解や病勢把握に有用とされる自己抗体が近年同定されています.古典的な自己免疫疾患に関しても新たな自己抗体が発見されており,臨床的意義に関する従前の自己抗体との異同は重要な課題となっています.実臨床で用いられる自己抗体検査の現状と課題を把握するとともに,最近の研究から有用性が期待される新しい自己抗体について概観することは,検査の向上・発展につながると思われます.

 本特集では「自己抗体検査のアップデート」というテーマのもとで,第一線で活躍されている方々に解説いただきました.自己抗体に関する再考と自己免疫疾患の病態に対する理解の一助となれば幸いです.

—序論—自己抗体の病態誘導メカニズムと産生機序

桑名 正隆

pp.734-738

Point

●自己抗体検査は診断,病型分類,予後や治療反応性の予測,疾患活動性評価などに有用な臨床検査として広く普及している.

●自己抗体による病態を誘導するメカニズムとして,細胞障害や免疫複合体の形成による免疫応答を介した機序だけでなく,生理的リガンドと同様に受容体にシグナルを伝達する,あるいは阻害する機序がある.

●自己反応性CD4T細胞の活性化を誘導する自己抗原由来の潜在性ペプチドの提示に,遺伝素因,免疫調節機構の破綻が加わることで,自己抗体産生が誘導される機序が想定されている.

〔実臨床検査のトピックス〕

自己免疫疾患

松川 和樹 , 加藤 保宏

pp.740-749

Point

●全身性自己免疫疾患では,疾患に関連する多くの自己抗体が知られており,診断マーカーとして用いられるだけでなく,一部は疾患活動性の指標としても活用されている.

●自己抗体のなかには測定系や基準値の統一がなされていないものも多く,実臨床や臨床研究におけるばらつきが問題となっている.この問題を解決するために,検査の標準化を目指したがさまざまな課題があり,近年はハーモナイゼーションを目指した取り組みも進められている.

●人工知能を活用した検査の自動化や,網羅型タンパク質アレイを用いた新規スクリーニング検査などの新技術が開発されており,自己免疫疾患の早期診断や,より適切な治療方針の決定に貢献することが期待されている.

内分泌疾患

藤沢 治樹 , 椙村 益久

pp.750-756

Point

●日常臨床では,内分泌学的異常を呈する患者において,自己抗体を測定することにより,内分泌学的異常の病因が自己免疫であることを診断できる.

●内分泌疾患における自己抗体は,主に甲状腺疾患と1型糖尿病の診断に広く使用されている.

●自己抗体は,炎症の二次的反応として産生され,疾患マーカーとして使われているものもあれば,自己抗体自体が病因となるものもある.

腎疾患

西脇 宏樹 , 髙橋 佑典

pp.757-763

Point

●膜性腎症(MN)は近年関連する抗体が発見され,今後サブポピュレーションの特徴が明らかにされる可能性がある.

●微小変化病(MCD)と巣状糸球体硬化症では,足突起に存在するネフリンに対する抗体が検出されることがあり,その病態に関与していることが示唆される.

●抗糸球体基底膜(GBM)抗体関連疾患はⅣ型コラーゲンに対する抗体が関与しており,一過性の出現,“ワンショット”であることがその特徴である.

●免疫グロブリンA(IgA)腎症ではガラクトース欠損IgA1(Gd-IgA1)が病因の1つと考えられている.

神経・筋疾患

鈴木 重明

pp.764-769

Point

●大脳や脊髄など中枢神経から末梢神経,神経・筋接合部,筋肉に存在する多様な分子に対する自己抗体が存在する.

●自己免疫性脳炎や視神経脊髄炎スペクトラム障害,免疫介在性壊死性ミオパチーなどの疾患は自己抗体の発見に伴い,新たな疾患概念が提唱された.

●Lambert-Eaton筋無力症候群など,腫瘍に伴って産生される自己抗体が原因となる傍腫瘍神経症候群の側面を有している疾患がある.

●自己抗体の存在は,ステロイド治療に加えて,自己抗体に対する直接的な治療となる免疫グロブリン療法や血液浄化療法,分子標的薬が有効である.

自己免疫性機序が関与する消化器疾患と自己抗体

尾城 啓輔 , 中本 伸宏

pp.770-776

Point

●消化器疾患には自己免疫性機序が関与するものが多数存在するが,自己抗体は各疾患において疾患特異性が異なるため,検査結果のもつ意味合いに注意が必要である.

●自己免疫性肝炎(AIH)において抗核抗体(ANA)は診断基準に含まれており,大多数の症例で陽性となるが,近年注目されている急性発症型では陰性または低力価となることがある.

●原発性胆汁性胆管炎(PBC)における抗ミトコンドリア抗体(AMA)は病因特異性が高く,診断のうえでも重要な位置を占める.しかし約5〜10%では抗体陰性症例も存在する.

皮膚疾患—自己免疫性水疱症の自己抗体検査アップデート

朝比奈 泰彦 , 高橋 勇人

pp.778-785

Point

●天疱瘡や類天疱瘡を含む自己免疫性水疱症は,病原性を有する自己抗体が原因となり,臨床的に皮膚・粘膜に水疱やびらんを生じる疾患である.

●自己免疫性水疱症の診断には自己抗体の存在を証明することが必須であり,化学発光酵素免疫測定法(CLEIA法)・酵素免疫測定法(ELISA法)や,免疫ブロット法,蛍光抗体法が使用される.

●実臨床で利用可能な検査には限りがあるため,臨床所見や複数の検査所見を総合的に考慮し,診断基準を満たすか判断することが重要である.

●天疱瘡では自己抗体の病原性を定量化する試みがなされており,従来の手法と比較してより正確な病勢評価を行える可能性がある.

〔注目の新しい自己抗体〕

炎症性腸疾患—潰瘍性大腸炎の抗インテグリンαvβ6抗体とCrohn病のASCA

桒田 威

pp.786-796

Point

●潰瘍性大腸炎(UC)患者における抗インテグリンαvβ6抗体は高い診断精度(感度約90%,特異度約85%)を示し,疾患活動性とも相関するため,診断および経過観察のバイオマーカーとして臨床的に有用である.

●Crohn病患者の約半数で陽性となる抗Saccharomyces cerevisiae抗体(ASCA)は,小腸病変や狭窄などの合併症リスクと関連しており,Crohn病の診断補助と予後予測に役立つ重要な検査指標である.

●抗インテグリンαvβ6抗体はバリア機能障害を引き起こし,ASCAは腸内真菌叢異常を反映するなど,両抗体は炎症性腸疾患(IBD)発症の異なる病態機序を表しており,検査結果の解釈に役立つ.

●いずれの自己抗体もIBD発症前から検出可能で,早期診断や個別化医療への応用が期待されるため,臨床検査技師も結果の意義を理解しておくことが重要である.

不育症

谷村 憲司

pp.797-803

Point

●ヒト白血球抗原(HLA)クラスⅡとミスフォールドタンパク質の複合体を標的抗原とする自己抗体(ネオセルフ抗体)は,抗リン脂質抗体症候群(APS)をはじめ自己免疫疾患の発症に関わっている可能性がある.

●β2グリコプロテインⅠ(β2GPⅠ)とHLAクラスⅡの複合体に対するネオセルフ抗体(β2GPⅠネオセルフ抗体)はAPS,不育症,産科異常症の病態と関連し,特にこれまで原因不明とされてきた不育症の一部に本ネオセルフ抗体が関与している可能性がある.

●β2GPⅠネオセルフ抗体が陽性の不育症女性に対し,低用量アスピリン(LDA),未分画ヘパリン(UFH)による治療が有効である可能性がある.

統合失調症と自己抗体

塩飽 裕紀

pp.804-808

Point

●神経系に対する自己抗体は自己免疫性脳炎の原因になるが,精神病症状を主体に呈するケースが報告されるようになり,統合失調症において脳炎でも報告のない自己抗体が発見されるようになった.

●本稿では統合失調症における自己抗体病態を概説し,特にN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体,NCAM1,NRXN1α,GABAA受容体に対する自己抗体についてまとめる.また,網羅的な解析から見つかってきた統合失調症における自己抗体についても触れる.

●本稿で述べる自己抗体が真に統合失調症の病態に関わるかを明らかにするためには,これらの自己抗体を除去する臨床研究が必要である.

今月の!検査室への質問に答えます・26

Klebsiella variicolaはどのような臨床的,微生物学的特徴を有する細菌なのか教えてください

原田 壮平

pp.810-813

はじめに

 感染症の起因微生物として以前からよく知られているKlebsiella pneumoniaeの近縁種であるKlebsiella variicolaは,近年,微生物同定検査技術の進歩に伴い,臨床検体から同定される頻度が増している.このため,それぞれの微生物検査室でK. variicolaへの対応を検討しておく必要がある.

あとがき フリーアクセス

涌井 昌俊

pp.820

 免疫は,個体が敵から自分を守るための細胞社会における営みであり,敵であるウイルス・微生物や腫瘍を駆逐して正常な細胞・組織を救うのが本来の目的です.対象が自己ではないことを認識して攻撃するという免疫応答だけではなく,自己であることを認識してあえて攻撃しないという免疫寛容も併せもつことで,適正に免疫は機能します.NK細胞やT細胞の仕事は,ウイルスに感染した細胞や腫瘍細胞を破壊することです.これらの細胞はもともと自己の細胞であることを踏まえると,敵と自己の違いは紙一重だとしても不思議はありません.また,B細胞は免疫グロブリン遺伝子,T細胞はT細胞受容体遺伝子の後天的かつ偶発的な組換えによってそれぞれ発生するため,常に自己反応性のB細胞やT細胞が出現するリスクがあります.自己攻撃を回避するべく,骨髄,胸腺,末梢リンパ組織にはそれらを除去するシステムが存在します.加えて,自己由来の物質や日常的に曝露される外来物質に対する不都合な反応を抑制するべく,免疫寛容に関わる細胞も存在し,制御性T細胞はその代表例です.

 そのような絶妙な免疫の仕組みのおかげで,発熱や倦怠感といった症状による一時的な負担や制約が個体に生じても,敵を駆逐できれば最終的には身体の平和が戻ります.なんらかの原因で免疫寛容が破綻した結果として発症する自己免疫疾患は,敵から自己を救うという本来の目的から逸脱した免疫事象です.自己と敵の間の“紙一重”をシステムが誤ることで細胞社会に不利益をもたらした疾患であるとも換言できます.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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