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雑誌目次

論文

精神医学1巻10号

1959年10月発行

雑誌目次

展望

中枢神経刺激剤

著者: 森温理

ページ範囲:P.671 - P.688

Ⅰ.緒言
 一般に中枢神経系に作用する薬物には,抑制作用を有するもの(Depressants)と刺激作用を有するもの(Stimulants)とがあり,前者には従来からの鎮静・催眠剤や抗痙攣剤のほかに,最近数年間とくに脚光をあびてきた新しい種類の薬物である精神安定剤Tranquilizersがあることは周知のとおりである。精神安定剤の代表的なものであるChlorpromazine,Reserpineなどが精神疾患の治療に導入されて以来,精神疾患の薬物療法ははじめて真にその名に価いするものとなり,これによつて精神疾患治療の概念も大きく変換するにいたつたのである。
 これら精神安定剤の使用対象となる領域は,その最も重要な対象である精神分裂病をはじめとしてぎわめて広範囲にわたつており,各領域における応用についてはすでに枚挙にいとまがない。しかし精神疾患の薬物療法において,精神安定剤が必ずしも本来の適応とはならない一群の疾患のあることもまた注目すべきことである。たとえば,内因性うつ病をはじめ諸種のうつ状態もその一部をのぞいては元来精神安定剤の適応とはいえないが,これらの臨床上に占める位置はきわめて大きい。また疲労・倦怠感など精神的活力の減退を訴える神経衰弱状態やある種の神経症の場合も同じことがいえる。さらに精神分裂病においても無為無関心,自閉,感情鈍麻などをきたした陳旧性のものでは,理論的にいえばむしろ刺激ないし賦活効果のある薬物が適応と考えられるであろう。これら多くの状態に対して中枢神経刺激剤の臨床的応用が約束されるものということができる。

研究と報告

アルコールによる入院患者の統計

著者: 野口英彦

ページ範囲:P.689 - P.694

Ⅰ.諸言
 諸外国ことにアメリカおよびヨーロッパ各国では昔からアルコールによる患者が多いので世人のこれに対する関心も深く,予防対策ならびに教育,治療施設についても非常に進歩している。これに反してわが国ではアルコールによる患者に対する認識が十分でなく,その救済と予防の対策にはきわめて消極的であつた。従来わが国では酩酊者の行動に概して許容的であるうえに,近年アルコール飲料の消費量は上昇し,アルコール常用者が婦人や未成年者など,戦前には少かつた層にまで浸透し,それにともなつて問題の飲酒者もその数を増している。したがつて酩酊による各種の弊害もまた当然増加しており,各方面からの早急な対策の必要性が叫ばれている。当教室では先般アルコールと関係ある犯罪者について2〜3の刑務所で精神医学的調査を実施したが,今回はアルコールによる精神病院入院患者について精神医学的調査を行ない,統計的考察を試みたので報告する。

覚醒剤中毒と酒精との関係について

著者: 辰沼利彦 ,   藤井澹

ページ範囲:P.695 - P.698

 慢性覚醒剤中毒者がそれぞれ10ヵ月,11ヵ月の禁断後短期間の飲酒によつて精神病様になつた2例をあげた。同様に酒精が覚醒剤禁断後の精神状態に普通でない影響を与えたと思われる症例も多数あることをのべ,これは覚醒剤によつて一種の症候性不安定状態ができ,その臨床的表現は精神病質様状態であるが,これが禁断後も相当期間持続することがあり,これに酒精が加わつて精神病を発現させたものと考える。

性格テスト法としての描画行動

著者: 深田尚彦

ページ範囲:P.699 - P.703

Ⅰ.序
 性格テストとしての描画についての研究報告が最近欧米に多くみられる,この興味ある方法について若干の考察を,描画テストおよび研究の近況紹介に合わせておこないたい。

周期性神経症,殊にその経過中に精神病期を有する症例について

著者: 小林淳鏡

ページ範囲:P.705 - P.712

 著者は神経症者の長期観察例のカタムネーゼの綜合的調査により,いわゆる周期性神経症群の類型的特色を知り,かつその中に一時的に精神病状態を呈する例があることを確認した。そして結局本症においては,神経症と精神病とは本質的には同じ素因に基くもので,ただ病態の程度の差の表現であると考えられる。かつその成立機制は,かかる素因すなわち内因性周期性の緊張低下と,長期持続して身心を消耗する誘因による作用の二重構造を考えねばならない。このことはJanet,Ewald,Winklerらの異つた立場でありながら,極めて近似している,緊張低下の理論およびフランス学派にみられる人格構造の段階性に基く解釈により,もつともよく説明しうる。
 本症は病因的には非定型ないし肇質性精神病(満田)に近縁であり,身体論的には間脳機能に関係づけられる。
 かかる考察によると,治療に関しても,また精神衛生的方策に関しても,従来に増して大ぎい期待を持つことができると考えられる。

自殺未遂者の予後調査

著者: 大原健士郎

ページ範囲:P.713 - P.721

Ⅰ.緒言
 近年,青年層の自殺の激増のため,わが国の自殺率は第1表に示すごとく世界第1位となり,しかも昭和30年には男女ともに,15才から24才までの自殺は同年令層の死因のトップになつた(第2表)。
 著者はこの激増の原因,自殺企図前の精神状態および自殺未遂者の予後について興味をもち鎌倉市の一救急指定病院において,昭和31年5月より調査を続けているが,今回は自殺未遂者の予後調査をとりまとめて報告したいと思う。

精神科領域における7044RPの使用経験

著者: 江副勉 ,   蜂矢英彦

ページ範囲:P.723 - P.727

Ⅰ.まえがき
 精神科領域における薬物療法は,Phenothiazine系薬物,Rauwolfia Serpentina,Meprobamateなど,いわゆる精神安定剤の導入以来,諸種衝撃療法にとつてかわつた感がある。しかし,これらの薬物療法によつて,あらゆる精神症状が軽快するというわけにはいかない。ここに,さらに新たな薬剤の期待される余地がある。
 最近Phenothiazine系薬物の1つとして登場したLevomepromazine(以下LM)は,2,3の点で注目すべき薬物と思われる。その理由の第1は従来の薬物では無効か,あるいは著効を挙げえなかつた例に対しても,かなり顕者な効果を示す場合があつたこと,第2は,その副作用の1つである傾眠作用を,有効に利用できることである。

2-Dimethylaminoethanolの正常人の心的機能に対する効果

著者: 高橋良 ,   仮屋哲彦 ,   矢崎妙子

ページ範囲:P.729 - P.736

Ⅰ.緒論
 中枢神経興奮剤として以前から知られているamphetamineのほかに,最近はpipradrol,ritalin,cafilonなどの新薬があいついで登場し,これらはcentral stimulantとして,精神科領域における薬物療法に一つの寄与をなしてきた。すなわちこれらは主として抑うつ気分や活動性低下を示す患者群やナルコレプシーなどに,対症療法として有効な場合があることが報告されている。しかし患者でないわれわれ正常人でも,とくに原因もなく軽く気分の沈む日や活動意欲のわかないこともある。これはむろん正常範囲の感情・意欲の波であるが,この状態はとくに多忙な仕事におわれている人々には困ることである。このような場合,正常人にこれらのstimulantが用いられれば大いに効用があることは当然であろう。ところが,これらはいずれも服用後まもなく,中枢の刺激効果をもたらす反面,その後に脱力感や不眠を残すことがまれでなく,また内的焦躁感や服用中止後のafter depressionもよくみられる。とくにamphetamine類には習慣性がつよく,長期間服用を続ければついには覚醒剤中毒として戦後一大社会問題となつた精神病状態をきたす危険性を含んでいる。pipradrol,ritalinなどの新薬もamphetamineとは薬理作用がやや異なるとはいえ,その作用の性質から,習慣作用,嗜癖傾向の問題は今後に残されているので,その取扱いに関しては慎重でなければならないというのがおおかたの意見である。
 ここで報告する2-dimethylaminoethanol(DM-AE)とは,もともと天然の食料,とくに魚に多く含まれ,抗ヒスタミン剤など医薬品の合成などに多く利用されてきた三級アミンであり,最近米国Emory大学のCarl C. Pfeiffer教授1)により,中枢神経作用物質として報告され,すでに精神分裂病に対して治療経験も行なわれたものである。そしてこのものはノイロン間の伝達に使われるace-tylcholineの前駆物質と考えられている。この中枢作用は後述するように,動物実験において興奮作用を示しているけれども他の興奮剤とは大いに異なり,薬用量で不眠をきたすことはほとんどなく,かえつて睡眠の状態を改良する効果がある。われわれは最近エーザイ株式会社の提供により,このDMAE(製品名Naleptin)を使用する機会をえたので,これを正常人に用いて実験したところ,興味ある結果を認めたので報告する。

DMAE(2-Dimethylaminoethanol)の使用経験

著者: 広沢道孝 ,   井上令一 ,   森ひとえ ,   山口昭平

ページ範囲:P.737 - P.742

Ⅰ.まえがき
 2-dimethylaminoethanol(DMAE)がcholineの前駆物質であり中枢神経系に対し賦活的な薬理作用を示すことは既にPfeiffer, Jennyなど1)の各種実験報告にみられるところである。彼らははじめ副交感神経作動物質であるacethylcholineが中枢神経系に対し賦活的に働くことを考えていたが実験結果は期待した効果をえることができなかった。これはおそらくmethacholineやacethylcholineなどの等Ⅶアミンが脳血管関門(bloodbrain barrier)を通過し難いことによるためと推測し,第Ⅲアミンであるこのcholineの前駆物質(DMAE)を試用し,ようやく所期の効果をえることができた。そしてこの前駆物質は脳血管関門を越えてから細胞内にてacethylcholineに変えられ中枢神経系の刺激作用を表わすものと予想している。
 またcholineが本来生体内に存する物質であることから予測されるごとくDMAEの毒性は極めて低いことが検証されている。すなわちJennyなど2)によるとそのLD50はマウスに対する経口投与では3.1±0.16g/kg,ラッテでは2.6±0.1g/kgであり,Gourzisなど3),4),5)は犬を用いて1日量70mg/kgを6ヵ月間連日経口投与を続けたが血液像,尿所見は正常であり,心臓血管系機能とECGおよび組織学的検査のいずれにも異常所見を認めなかつたと報じている。

精神科領域におけるDimethylaminoethanolの応用

著者: 浅尾博一 ,   東雄司 ,   津本一郎 ,   宇野修司

ページ範囲:P.743 - P.746

 生体神経ホルモンであるアセチールコリン(Ach)が中枢神経系における化学伝達物質の1つであることはFeldberg以来種々の実験によりほぼ確実とされている。Achの精神疾患に対する使用については,Lloyd1),McLaughlin2)は"てんかん"の治療に,Cohen, Thale3)は精神分裂病の治療に用いたが,余り効果は認められなかつた。最近Pfeifferなど4)によりAchのpossible precurserと考えられるDimethylaminoethanol(DMAE)が報告され,Pfeiffer4),Lemere5)らは種々の精神疾患に使用し精神分裂病にもある程度の効果を示すほか,生理的な精神賦活剤としてうつ病,神経衰弱に著効を示し,健康人に用いても精神活動を高めるなどの作用を示すと報告し,またその毒性についてはPfeifferらもふれている。
 今度われわれは杏林製薬よりデアポン(DMAEとして25mg含有)の提供を受け,うつ病,精神神経症ことにうつ状態および神経衰弱状態,精神分裂病ことに自発性欠如の患者に試用したのでその結果を報告する。

紹介

—K. Conrad 著—Die beginnende Schizophrenie

著者: 島崎敏樹 ,   宮本忠雄

ページ範囲:P.749 - P.752

 今日,科学としての精神医学は一つの転回点にさしかかつているといわれる。この傾向はすでに精神分析が現われた今世紀初頭からのもので,それ以来,ごく大ざつぱにいつて,異常な精神現象を大脳機能や身体的過程から説明しようとする精神医学,つまりObjekt-Seinとしての人間を研究する方向と,病者の生活史に深く踏みこみながらその精神生活の法則性を了解しようとする精神分析ないし現存在分析,つまりSubjekt-Seinとしての人間を研究する方向がそれぞれ発展している。前者にしたがえば,われわれはたとえば分裂病の個別症状をかぞえあげて,それを「了解不能なもの」としてとどめておかねばならぬし,また後者にしたがえば,了解への道は拓かれるかわり,科学としての精神医学の厳密性は疑わしくなる。一方は「精神下の」つまり身体的な領域に入りこみ,他方は「超精神的な」つまり形而上的な領域に入りこみ,どちらも「心理学的な」研究とはいいにくくなる。そこには「第三の道」がない。
 こうした状況を見定めるところから,Conradの研究は始まる。すなわち,彼は精神病理をふたたび心理学的に取上げ,現象的事実そのものを心理学的に分析しようとする。彼はこのような分析的な努力の形式を形態分析(Gestaltanalyse)と名づける。なぜなら,体験されたものはすべて形態をもち,現象的事実の分析はつねに形態の分析だからである。著者によれば,形態分析の最終的な目標は,分裂病の症状や経過をバラバラに取出すことでなく,その構造関連を設定し,これによつて全事象を統一的な視野のもとに把握することである。こうした形態分析の手法で新鮮な分裂病シュープとくに妄想の体験構造を取扱つたのが本書である。

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精神医学統一用語集(D〜H)

ページ範囲:P.688 - P.688

―D―
dementia praecox(L) 早発痴呆
dementia senilis(L) 老年痴呆

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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