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雑誌詳細

文献概要

特集 実験精神病 研究と報告

LSDによる精神障害について

著者: 中久喜雅文1

所属機関: 1東京大学医学部精神医学教室

ページ範囲:P.149 - P.164

 周知のようにLSDはLysrgsäurediäthylamidの略称であり,麦角の中にふくまれているリゼルグ酸のジエチールアミドである。
 麦角は,ライ麦に寄生するカビの一種Claviceps purpureaである。この麦角の混入した穀粒を用いると,慢性の麦角中毒(Ergotismus)をおこす。この中毒は古くヨーロッパに流行的に発生したことがあるが,これに壊疽型(Ergotismus gangraenosus)と痙攣型(Ergotismus convulsivus)の2型が区別されている。壊疽型では末梢血管の攣縮のため手足の指,鼻尖部,耳など身体末端部に冷感および激痛があり,後には壊疽となる。痙攣型では筋攣縮,振せん,激痛を伴う痙攣がおこり,遂には中枢神経系の組織学的変化,不具を惹起する。これはあきらかに異つた毒素によるもので,それぞれの毒素の含有量が麦角により異るので,このような2型の中毒症状が現われるのである。壊疽型の方はErgotoxin,Ergotamin,Ergometrinのような麦角アルカロイドによるもので,痙攣型の方は未知の他の毒素によるものであるという。麦角中毒のときに妊婦がしばしば流産をおこすという事から,麦角は古くから堕胎薬,陣痛促進薬,出産後の止血剤として用いられている。今日,この麦角製剤による中毒のみられる事があり,循環器系の症状(末梢冷却,蟻走感,指趾の壊疽,狭心症様の痛み)が主であるが,その他一般症状(頭痛,めまい,倦怠),消化管症状(悪心,嘔吐,下痢)があり,嗜眠,抑欝状態,精神錯乱,片麻痺,脊髄癆様症状,痙攣などの中枢神経系症状もみとめられるという。

掲載雑誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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