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雑誌目次

論文

精神医学1巻4号

1959年04月発行

雑誌目次

展望

うつ病の臨床精神医学的研究の現況(1945-1958)

著者: 平沢一

ページ範囲:P.211 - P.223

最近14年間(1945〜58)のドイツにおけるうつ病の研究を臨床精神医学の仕事を中心に述べる。この期間は,第二次世界大戦の後に当るが,うつ病の研究の領域でも戦前に比べると,幾つかの新しい問題が現われた。その主なものをあげると,
1.K. SchneiderとH. J. Weitbrechtの臨床精神病理学的研究
2.内因反応性気分失調
3.躁うつ病の誘発の統計および精神的誘発
4.症候性躁うつ病
5.うつ病の妄想内容の研究
6.うつ病の電撃療法の精神病理学的研究
7.うつ病の実存分析
8.クライスト学派の躁うつ病研究

研究と報告

Alzheimer病およびPick病の臨床鑑別

著者: 原俊夫 ,   岡田万之助 ,   林和幸 ,   徳井達司 ,   原常勝 ,   山田治

ページ範囲:P.225 - P.234

〔1〕緒言
 主として初老期にはじまり,痴呆に陥る脳疾患には,臨床的にも病理組織学的にも異るいくつかの疾患が含まれている。ことに最近では,非定型なものや,従来の疾患概念にあてはまらない不明のものも報告されてきて,臨床的に確実な診断を下すことは容易ではない。しかしながら,いわゆる初老期痴呆症の代表的疾患であるAlzheimer病とPick病の定型的なものには診断の根拠となるような特徴的な症状群が存在するという説も従来多くの学者によつて主張されてきたことは周知のごとくである。
 この論文では,われわが病理組織学的に確認し得た上記両疾患において,臨床症状の中,もつとも印象的,特徴的であつた症状をとりあげて,両者の鑑別が可能であるか否かを検討すると共に,この考え方にしたがつて診断を下し,現在なお観察中の症例も併記して,将来剖見し得た場合の結果を再び報告することを約束しようとするものである。したがつてここでは両疾患の病因論や,単位疾患であるか否かの議論には全く触れない。

インシュリンショック治療におけるグルタミン酸ソーダ覚醒法

著者: 和田豊治 ,   田中善立 ,   桜田高

ページ範囲:P.235 - P.239

いとぐち
 最近,大脳生化学的研究の一環としてグルタミン酸の脳内における作用,あるいはその代謝機能の問題が注目をあびている。すでにわが国でも,殊に神経精神科領域に多くの実験的研究がなされているが,しかしその知見に基づいて臨床応用の域にまで進展しているのは少ない。
 グルタミン酸1)はアミノ化あるいはアミノ基転移の窒素源でありアミノ酸形成の出発点となるし,また蛋白分子形成とその分解とに非常に重要であるとされている。一方グルタミン酸の脳内含有度は他の臓器内のそれよりは極めて高く2)(脳内に保有されているアミノ酸のなかでグルタミンおよびグルタミン酸は遊離d-アミノ窒素の80%に達するといわれている),したがってグルタミン酸が脳内でも合成されることは疑いをいれないことである。

PERPHENAZINEおよびPROCHLORPERAZINEによる精神疾患の治療

著者: 諏訪望 ,   森田昭之助 ,   黒田知篤 ,   石戸政昭 ,   本間均 ,   小林義康

ページ範囲:P.241 - P.247

Ⅰ.緒言
 1952年にJ. Delayらによって,Chlorpromazineが精神疾患の治療に有効であることが確かめられて以来,精神疾患の薬物療法は急速に発展し,数多くの薬物が登場した。ことにPhenothiazine誘導体に関しては次々と新しい薬剤がつくりだされ治療に提供されている。本稿ではそのうちのPerphenazineとProchlorperazineとについて,その使用経験を臨床精神病理学的立場から検討し,とくにChlorpromazineとReserpineとの比較を行いながら,これらの薬物の精神疾患治療上の位置を確かめてみたいと思う。
 化学構造式の上では,PerphenazineとProchlorperazineとはピペラジン核につくエタノール基とメチル基のちがいだけであり(第1図),動物実験では,Chlorpromazineに比して毒性はPerphenazineでは1/2,Prochlorperazineでは1/3でありながら,鎮静作用は前者では3-8倍,後者では1/2で,共に強力な鎮吐作用をもつといわれている。

PZC(Perphenazine)の使用経験—特に陳旧性精神分裂病に対して

著者: 今尾喜代子 ,   兼谷俊 ,   尾野成治 ,   渡部竜一 ,   板倉三郎 ,   太宰昭馬 ,   寺山晃一 ,   渡部光

ページ範囲:P.249 - P.253

 1952年Hamon,DeleyらによりChlorpromazineによる人工冬眠が精神病の治療に応用されて以来,多数のPhenothiazine系化合物が創製され,精神疾患に対する薬物療法はかなりの進歩を遂げた。本邦においてもこれら薬物療法について多数の報告がなされ,1957年には佐野1),諏訪2),両氏により宿題報告がなされた。しかしながら陳旧性精神分裂病に対する時,その効果は決して華々しいものではなく,その投与によりたとえ一時的の改善は得られても,彼等の多くは間もなく再び悪化し,社会に復帰できず,無為茫然とした毎日を過すといつた現状である。
 私共は此度吉富製薬のPZCを特に陳旧性の精神分裂病に対して使用し,以下に述べる様な結果を得たので報告する。

精神神経科領域におけるLevomepromazine(7044 R. P.)の治療効果について

著者: 野村章恒 ,   阿部亨 ,   近藤喬一 ,   松永昇 ,   加藤正勝 ,   河合博 ,   高橋侃一郎 ,   蒲池直裕 ,   進藤利雄 ,   太田浩

ページ範囲:P.255 - P.262

 1.われわれはLP. を17例の分裂病患者に使用して,臨床的効果を観察した。その結果,精神運動興奮,不眠,拒絶症に効果があり,幻覚,妄想にも有効であり,不安,内的緊張感が去り,全般的な鎮静が見られた。接触性は大多数の例で改善が認められ,自発性も増加が見られるものもあつた。シヨツク療法無効の慢性患者においても,症状の部分的な改善が認められ看護が容易となつた。注目すべきことはCP. が無効の4例(症例1,症例7,症例11,12)に効果があつたことである。著明な改善を見た3例の中2例が廃薬して1週間から10日で,多少症状が再燃した処から見て,分裂病患者には1カ月を越えてもなお適宜減量して維持量を使用することが望ましい。
 2.抑うつ病群5例に対する治療効果は,全例とも著明な改善を見,抑うつ状態全般の軽快が認められた。これはC. P. には見られなかつた長所であり,われわれの経験では抑うつ状態にはReserpineを凌ぐという印象を得た。症例2および症例5は本療法開始前に電痙2回乃至3回を受けているが,しかし本療法開始時に抑うつ状態はなお存在していた。初老期うつ病に対する電痙は,特に高血圧を合併する場合望ましくなく,時に不快な愁訴が永続して医師を悩ます場合が時々あるが,L. P. はこれに代るかまたは少くとも電撃回数を減らすことができる。しかしわが例ではLambertの云うような高年令者のショック様症状は経験しなかつた。
 3.神経症の中,神経質の基盤の上に心因的発展を示す純型以外に種々な型の境界領域に属する神経症がある。これに対し従来C・P.,RP. が使用されたが,われわれの経験では効果に比し副作用強く,良効果が得られなかつた。L. P. は不安の強いものに有効であつたが,これについては更に症例を追加して検討したい。
 4.L・P. の副作用は大体C. P・に類似し,鼻閉口渇,倦怠感,傾眠作用があるが,起立性低血圧(立くらみ)の発作を起すものは割に少く,パーキンソン氏病様状態もC. P. よりやや軽度でPerphenazine(Trilafon)のごとく頸筋,背筋腰筋の強直,疼痛を来たしたものは1例に過ぎない。

精神分裂病様症状に進行性半側顔面萎縮および片側女性乳房を合併した1症例について

著者: 大熊輝雄 ,   徳田良仁 ,   藤谷豊

ページ範囲:P.263 - P.267

 進行性半側顔面萎縮(Hemiatrophia Progressiva faciei)は文献上でも比較的稀な疾患であるが,本症状のほかに女性乳房化(Gynekomasty)を伴い,精神的には精神分裂病様の症状,人格変化などをしめした1症例を観察したので報告する。
 進行性半側顔面萎縮症の出現頻度はZentralblatt f. ges. Neurol. u. Psychiat. に毎年1例位典型例の報告がみられる程度である。また女性乳房化は,米国の報告では,10万人に13名であるという。われわれはこの2種類の稀な疾患に,さらに精神分裂病様症状が加わつている点に関心をもち,その発現の相互関連性について考察を加えた。

高度の癈用性筋萎縮を呈する心因反応と思われる1例

著者: 加藤雄司 ,   三井良二 ,   小此木啓吾

ページ範囲:P.269 - P.272

 12年間に亘つて四肢麻痺と拘攣を主徴として入院生活を続け,この間の完全な臥褥生活により高度の癈用性筋萎縮を示した心因反応と思われる1症例を経験した。なお本例においてはクロールプロマジンの使用によつて興味ある神経学的所見の変化を見たのである。

動き

北欧視察略記

著者: 小沼十寸穂

ページ範囲:P.273 - P.274

(1)
 私は文部省在外研究員を志願してはいたが,順序から云つて2年程先の事として,予め連絡や,さしたる準備をしていない中に,急に許されることになり,実は慌てたのである。予ねて社会精神医学,ことに裁判精神医学の在外研究を申請していたが,意中には,ストックホルムのKalorinska InstituteのRylander教授を頼つて行き,そこに暫く腰を据えて,斯界の大勢を窺い,その間に独墺の学界事情などを研究し,同教授の紹介によつてそちらを視て回ろうと思つていたので,早速同教授旧知の吉益教授,広瀬貞雄博士等の添書を得て,同教授に希望を申し送つたところ,快諾を得たので,昨年10月1日北極回り空路でストックホルムに直行し,予定のごとく同教授の紹介によつて,2ヵ月滞在の後,ヨーロッパの処々を訪い,今年初め約3ヵ月の旅を終えて帰朝したのである。

精神病院における労資関係

著者: 元吉功

ページ範囲:P.275 - P.276

 労働問題などについては,あたかも無風帯にあるがごとく思われていた精神病院にも,近年ぽつぽつ労働争議がもち上るようになつた。そしてこの傾向は年を逐うて烈しくなるような様相をおびてきており,関係者の間にも漸く真剣に労働問題をとり上げようという気配が見える。日本精神病院協会でも,昨年12月3日の総会で,精神病院における労働争議の問題を検討したが,席上多くの人の意見は,直接患者の生命にも関係することであり,公安上危険の多い精神障害者を拘束し診療している精神病院において,従業員が病院の診療,看護,給食,管理を妨害し,あるいは停癈することは,病者の生命を危険に陥れ,また公安維持の立場からも憂慮すべき点が多いので,精神病院における争議行為には,大幅な制限をすべきであるという点で一致し,これを総会の決議として関係当局へ陳情することになつた。そして本年早々理事者の間で次のような決議文,『私立精神病院における同盟罷業,怠業など,人命尊重の精神に反する争議行為を禁止し,争議に代え,労働委員会の強制仲裁制度を設け,その決裁を遵守せねばならないこととし,人命の尊重と公安の維持とが保障されるよう,法律の改正または制定をするよう,この決議文と理由を付し,国会に請願し,政府に陳情し,また医療関係団体と連絡し,その実現を期することを緊要と認む。』が作られ,関係方面に陳情している。精神病院における争議行為と労働関係調整法36条(工場事業場における安全保持の施設の正常な維持または運行を停癈し,またはこれを妨げる行為は争議行為としてでもこれをなすことはできない。)との関係,つまり私立精神病院の従業員が,他種の企業と同様争議行為が出来るか,出来ないかの問題については1つの事例がある。
 昭和30年8月,愛媛県の新居浜精神病院の争議の際,同病院理事長藤田靖氏が,労調法36条の解釈について,精神病院の特殊な使命業務にかんがみ,病院の従業員が,医療,看護,給食などの業務を停癈し,またはこれを妨げる行為をなすことは,患者の生命を危殆ならしめるものであつて,労調法36条に抵触し,禁止せらるべきではないか,との質問を,県知事を介して労働省に提出しているが,これに対して,労働省労政局長から県知事宛以下のような回答がなされている。

紹介

—L. Binswanger 著—精神分裂病(Schizophrenie)〔第3回〕

著者: 東京医科歯科大学神経科教室精神病理学グループ

ページ範囲:P.280 - P.284

第3例
症例 ユルク・ツュント
 この症例は臨床的にも人間学的にもエレン・ウェストとナジアの症例(Janet)に近い。しかし,エレンの問題性が自分の世界に限られているのに対して,ナジアと,とくにユルクでは,周囲の世界に関する問題性,《他人と違つていること》の苦悩が圧倒的である。エレンが自分自身にだけ恥じるのに,ナジアとユルクはもつぱら他人に対して恥じ,自分の姿や着物が他人の物笑いになることを怖れる。とはいえ,これらは自分の世界に関する怖れと結びついている。なぜなら,対象・自己・身体の各面での《障害》は現存性の基盤においては,密接につながり合うばかりか,同一の根をもつているからである。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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