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文献詳細

雑誌文献

精神医学1巻5号

1959年05月発行

文献概要

研究と報告

いわゆる長寿村の老人のボケ

著者: 新福尚武1

所属機関: 1鳥取大学医学部神経精神医学教室

ページ範囲:P.303 - P.309

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 1954年に老人の精神障害についての統計的調査をおこなつたとき,わが国の精神科診療機関で取扱う老人患者の数が欧米に比べて非常に少ないことが注目をひいた。その際それに対していろいろの理由を考えたのであるが,その中で最も大きなものとして取り上げたのは,わが国では老人患者の多くが放置,または家庭で保護されているのであろうということであつた。したがつてわたくしに残された課題は,果してわが国では精神障害の老人が実社会に多く存在するかということを実際の調査によつて確めることであつた。ところが,この種の調査を実施した人ならよく分ることであるが,老人の調査はことのほかむずかしい。非常な時間と労力とを費して全体の20パーセントかせいぜい30パーセントぐらいしか調査できないのが普通である。しかも問題のある老人は調査できない残りの方に多い。であるから,このような一小部分の調査からえられた結果は老人の実態をとらえる目的には大して役に立たないことになる。それで老人ホームなどで調査しておよその見当を得るということになるが,老人ホームは,とくにわが国の老人ホームは,多分に精神病院的な性格をもつているので実社会にいる老人の実態を忠実には反映していない。このような事情で老人の精神的実態をとらえることは非常にむずかしいものになる。そして恐らくこのためであろう,社会にいる老人の精神医学的実態調査の報告は外国にもわが国にも非常に少ない。しかしこの種の調査はどうしても必要なことであるので,われわれはまず隠岐の島で実態調査を試みた。ところがこの調査は非常に好都合であつた。第1にはこの島の人々は平素医学的診療に恵まれないため,心よく調査に応じ,受診率が非常に高かつた。第2には小さな島に部落が纒まつて存在しているため調査もれが少なかつた。第3には老人が非常に多いため,多数の老人を比較的短い時間で調査することができた。
 われわれが今日までにおこなつた調査は都合3回,調査人員は60歳以上の老人977名で,それは,老人の総数1324名の73.8%にあたる。得られた結果には不備な点も少なくなく,またそのままを違つた社会環境にいる老人に適用することはできそうにないが,わが国の老人の実態を知るうえに多少の参考になるところはあるであろう。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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