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研究と報告
慢性体感幻覚症について
著者: 保崎秀夫1 高橋芳和1 中村希明1 開沢茂雄1
所属機関: 1慶大神経科
ページ範囲:P.391 - P.396
文献購入ページに移動われわれが精神障害の患者を診ていて,疾患分類上当惑を来たす症例に時折遭遇するが,それらのうちで,体感幻覚(あるいは,幻触,臓器幻覚ともいえる)の確信のみを単一症候とする一群を,その中心となる5症例を示して,類似の疾患群との対比考察を行ない,最近報告のあつた,V. Bers u. K. Conradらのchronische taktile Halluzinoseについて言及しようと思う。一般に幻覚の領域における研究は,幻聴,幻視などでは豊富であるが,幻味,幻嗅,幻触,体感幻覚などの領域となると少くなつてくる。これは,後者らは,よりzuständlichな感覚であつて,その表現も多彩で,それが解釈の面(妄想などの)でとり上げられることが多いことにもよる。
しかし昨今の脳外科,脳波,てんかん(とくに側頭葉)における進歩は,幻味,幻嗅方面の研究を一歩すすめたが,幻触,体感幻覚の方は余りすすんでいない。今われわれが述べんとする異常体感幻覚の領域では,1907年Dupré et Camusが,いわばモノマニーとしてのcénéstopathieなる概念を導入して以来,フランスにおいては,かかる症例の研究が多いのに反し,ドイツおよびわが国では,最近まで余り関心の払われなかつたところである。しかるに1956年にいたり,K. Conradが特殊な体感幻覚(あるいは幻触)を示すDermatozoenwahnの自験例4例,文献中45例にchro. n. taktile Halluzinoseの名を冠して報告してより,U. Fleckとの間においてたちまちに活発な論争が行なわれ,1957年には気脳写を用いて,かかる症例の考察を行つたB. Bergmannの論文が現われるにおよび,また一方1957年には,G. Huberの分裂病者の気脳写の研究,またSchimmelpennigのhirnatrophischer Prozessと,分裂病とによる心気症状の症候学的差異に重点をおいた論文もあらわれて,この方面の研究は活発になつてきた。わが教室においても,三浦教授はすでに1952年にセネストパチーの1症例を報告し,保崎も1957年"ある種の慢性幻触症例"を報告した。われわれはここに,中核となる5症例を報告し,さらに近接領域例をあげつつ考察を加えてみたいと思う。
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