森田療法による神経質症の状態像変化—Rorschach Testによる研究
著者:
中江正太郎
ページ範囲:P.489 - P.498
森田の神経質,高良による神経質症については,ここに述べるまでもなく,すでに,数多くの研究発表があり,その特質も明らかにされてきているのは周知のごとくである。しかし,森田療法による治療過程の研究は症例と理論による比較精神病理学の研究によつて,その臨床的に優れた価値を実証したものが主である。私はこの点を,さらになんらかの普遍的客観的尺度によつて,どのような変化として把握されるかを調べ,森田療法の治癒過程の解明の一助となしたいと考えた。
ロールシャッハ・テストは1921年スイスの精神病医Hermann Rorschachにより発表されたが,その著書は当時の心理学および精神病学の理論から,連想心理学,Bleulerの精神病学,Jungの内向,外向の類型学の相互説明により,実験精神病理学の意図を含んで生まれた。その後,このテストは数多くの各国の研究者の手により,臨床例の増加,方法の検討修正などが行なわれ,現在わが国においても,最も普遍性のあるプロジェクティブ・メソドの1つとして,精神医学,心理学,文化人類学の各分野で,ダイナミックなパーソナリティー・テストとして広く行なわれている。Rorschachは,その著書の中で,精神分析療法施行前後のプロトコルの比較対照からロールシャッハ記号の変化を述べているが,彼の死後,1939年Schreiber, Mが一般の治癒判定の主観性を批判した意図に沿つて,Piotrowski27)はロールシャッハを用いて治癒の客観的判定を試み,各サインを独立に扱つて,Mの数の増加と質の変化,FCおよびΣCの増加などが見られたと報告している。その後,Muensch,Carr,Lord,Hamlin,Haimowitzらにより,それぞれの方法と角度から,種種この点の研究がすすめられてきたことは片口14)も述べているところである。わが国では佐治,片口16)によつてPiotrowskiの変化サインとBRSでの判定が自由連想法,および簡便法施行の神経症例で行なわれているほか,森田療法には河合・山本・宇佐20)によるKlopferの予後評定尺度の検討,片口14)によるBRSの適用がなされているに過ぎない。しかし前述の研究者達によつても心理療法の治療効果の測定についてロールシャッハ・テストの適用の結果はかなり肯定的のものがあることが述べられている。神経質症のロールシャッハ・テストについては安田36)が極めて多数例について広範な検討をしているが,外来訪問時のみのものであり,統計的検定がなされていない。以上から私はロールシャッハ・テストの量的客観的測定をとおして,森田療法による神経質症者の治療効果が,どのようなパーソナリティー変化として把握されるか,またその状態像変化がロールシャッハ・テストの上で,いかなる精神病理学的な意味を示すかをみようとした。