Doll Playの1症例
著者:
棚橋千賀子
ページ範囲:P.647 - P.652
I.はじめに
doll playとは"人形遊び"のことで,子供に対する一種のprojective techniqueであるとともに,また一方,psychotherapyの一方法でもある。
A. Frend,M. Kleinなどが子供の精神分析に"遊び"を重要視するようになつたのと機を一にして,1933年頃からD. Levyにより創始されたものが,prolective doll playである。以来30余年間に種々の立場から研究が進められ,今日の流行をみるにいたつたのは周知のとおりである。要は,子供達に人形を与えて自由に遊ばせ,その遊びの中で彼らの思うままに感情,意志,欲求などを表現させ,主として対人関係の場における彼らの態度を窺い知る手段として利用され,その間に子供達は,不知不識の中に,彼らなりに,その問題点についてカタルシスを行ない,よつて精神療松の一種としても役立てられうるものである。
以前から村松教授が唱される"全体的力動学的精神医学"の立場から,問題行動をもつ子供達を診断,治療するにあたり,また更にその子供達を小児の神経症またはその周辺部に連なる類似疾患として,仮りに位置ずけを試みるとき,筆者は,村松教授がたびたび指摘されるとおり彼らの人間関係を通しての環境の枠と,彼らの人聞形成のあり方とを,ありのままに横断面的および縦断面的にとらえることが,最も重要なことであると考えるにいたつた。よつて筆者は,問題行動をもつ子供達の性格行動傾向,彼らを取巻く家族関係,および母親の彼らに対する態度などを窺い知る目的で,Projective doll Playを施行することを思い立ち,しかもこれは同時にplaytherapyとしてもかかる疾患の子供に対して成立つ便利なことを多く体験した。
筆者は,1957年8月以来実験設備の創案をはじめ,写真(1,2,3)に示すような設備を創出し,そこで実験し,1959年2月,東海精神神経学会に第1報を発表した。
さて,以下の症例においては,具体的に遊びの内容や状態を紹介するにとどめ,観察および発析法などの詳細は近日名古屋医学会雑誌に発表予定の原著を参考して頂きたい。