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われわれの経験によると,精神分裂病者の犯罪が裁判者によつて有責と認められることが少なくない。しかし,司法精神医学的見解としては,精神分裂病の行為は原則として責任無能力であるというのが,支配的なようである。ただし,ごく軽症の分裂病,潜在分裂病や,ことにいちじるしい寛解期の分裂病に対して責任を認むべきであるという見解もある。われわれは裁判の実情の一端をうかがうために,わが国の判例を調査したところ,精神分裂病の事例で心神喪失の判決を受けた例が15例,心神耗弱の判決を受けた例が5例見出された。これらの判例をみると,精神分裂病といえども症状のいちじるしく高度な場合,犯行が妄想・幻覚などの病的体験に直接支配されている場合などのほかは,責任を認むべきであるとする考えかたが,裁判官のなかに支配的であるように思われる。それゆえ,裁判官の一般的な考えかたは,精神分裂病の行為は原則として責任無能力であるとするわれわれの司法精神医学的見解からかなり遠いようである。
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