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雑誌目次

論文

精神医学10巻11号

1968年11月発行

雑誌目次

座談会

医療における精神科の役割—要望と批判を他科の立場から述べる

著者: 江副勉 ,   名尾良憲 ,   新福尚武 ,   福山幸夫 ,   北錬平 ,   橋本正巳

ページ範囲:P.861 - P.875

はじめに
 江副 本日は諸先生がたに,まことに身勝手なお願いをいたしましたにもかかわらず,またお忙しいところをご出席いただきまして,まことにありがとうございました。司会者からお礼を申し上げます。
 ご案内いたしましたように,本夕は「医療における精神科の役割」というわたくしども精神科医がいかにも大上段に構えたような話題をとり上げた形でおこがましいのですが,要は先生がたの病院で,あるいは診療科で,そこに働いている精神医に対するご注文やご批判をお願いしたいということでございます。

研究と報告

精神病者の自殺への力動的接近—治療者-患者関係を中心とした症例検討を通じて

著者: 吉川武彦 ,   矢野徹 ,   米沢照夫 ,   亀井清安

ページ範囲:P.876 - P.882

I.はじめに
 自殺の研究はわが国においても年々さかんになり,その研究方向もさまざまに分化しつつある。加藤5)は文献的考察と自験例に基づき自殺の研究の総体的な方向づけを示唆した。大原ら6)はこの研究方法をさらに発展させ,膨大な資料をよく整理し可視的にわれわれに示した。
 しかし,これらの貴重な研究のなかにあつても精神病者の自殺の問題はややもすると偏在的な扱いを受けてきたといわざるをえない。われわれは,自殺のなかでも精神病者の自殺に焦点を合わせ,すでに報告8)したように精神病院入院中の自殺につき,とくに治療者—患者関係とそれをとりまく家族の問題をめぐり研究を進めてきた。

精神分裂病患者への集団精神療法のこころみ(その2)

著者: 阪本良男

ページ範囲:P.883 - P.888

I.はじめに
 われわれはさきに精神分裂病患者に対する集団精神療法の経験から,患者が,この治療により,また病像により示す像を4つに分類し,その意義について論じたが1),今回は精神分裂病に集団精神療法を実際に行なうにさいし問題となると考えられる点について,われわれの経験から論じたいと思う。すなわち,日本精神病理,精神療法学会第4回大会で,「集団精神療法」がシンポジウムの一つとしてとりあげられた理出の一つとして,わが国でこの療法が必要,また有用であると考えられながらもなにゆえにあまり行なわれていないかの問題が関係すると考えられるからである2)
 精神分裂病患者に対する集団精神療法の試行的こころみは,すでに1940年代からなされており,その成果はいくつか発表されている3)〜9)

精神分裂病患者の院外作業療法と社会復帰について

著者: 葉田裕 ,   秋元勇治 ,   中野雄二

ページ範囲:P.889 - P.895

Ⅰ.緒言
 精神分裂病患者に対する治療も,phenothazine系薬物を初めとして諸種の薬物の導入によつて,薬物療法が確立し,それに伴つて,患者の社会復帰を目的として,環境的・人間的な能動的はたらきかけが注目されるようになつた。その一つに作業療法があるが,なかでも院外作業療法は社会的適応力をつける手段として重要視されており,その成果について多くの報告がある。われわれも過去6年間にわたり,山梨県三生会病院において,院外作業を行なつてきたが,その結果からみた若干の問題点につき報告する。ただし,当院はスタッフの関係で,整然とした治療体系をとりえない状況であつたが,このような状況下では,むしろ直接的にnight hospitalの問題点が浮彫りにされると考えられるので,当院におけるいわば初期的段階での院外作業の状況,およびその退院,再発,再入院などへの影響について検討し,さらに社会復帰と院外作業療法との関連にまで言及したい。

Diphenylhydantoin Lymphadenopathyについて

著者: 細川清 ,   品川昌二 ,   藤原二郎 ,   野間拓二 ,   小笠原精三

ページ範囲:P.897 - P.903

I.はじめに
 てんかんに対する抗けいれん剤の中で,diphenylhydantoinは,わが国でもつともよく使用される薬剤のひとつと考えられ1),すぐれた鎮痙作用を有するが,ときに各種の副作用をひき起こすこともよく知られている2)3)。一般には,薬剤投与後数日にして現われる皮膚の発疹,長期間投与を受けた陳旧性てんかん者の特有の小脳症状,あるいは歯肉増殖などが,やむをえない副作用のひとつとして容認され,臨床上その治療効果をマイナスにするほど,危険視されているものではない。diphenylhydantoin中毒症状は中毒反応と過敏反応とに大別される3)
 最近になつてわが国では,diphenylhydantoinが高熱を伴うリンパ腺腫張をひき起こし,臨床的にも,組織病理学的にも,Hodgkin氏病やリンパ肉腫などときわめて類似した,まとまつた臨床像を呈することがあることが報告されている4)5)。Merritt & Putnamが1938年にこの薬剤を紹介したが,以後そのすぐれた効果のために,一般に使用されている頻度から考えると,このようないわゆるiatrogenic anticonvulsant drug lymphadenopathyはきわめて稀なものか,あるいは一般の副作用のひとつとして臨床上容認され,報告されていないものとも考えられる。先にあげたわが国の報告者のなかで,谷向ら4)は,かれらが最初の報告者であると言い,欧米においても100例たらずの報告をみるのみであるという。われわれも最近期せずしてあいつぎ,diphenylhydantoin中毒症と思われるlymphadenopathyをきたした2例を経験したので,第1例を詳細に,第2例を簡単に報告する。

飲酒嗜癖化に伴う家族の態度および家族内役割の変化

著者: 米倉育男

ページ範囲:P.905 - P.910

I.はじめに
 飲酒嗜癖の形成にさいしては,家族内環境の影響するところが大きいことが指摘されている。すなわち,家系内における大酒家の存在,飲酒ないし飲酒家に対する家族の態度のいかん,家庭内緊張の有無などである。そして,その治療にさいしても家族員の協力支持の重要性が強調されている。
 ところで,飲酒嗜癖化の進捗に伴つて,家族は種々の困難な事態に直面し,嗜癖者に対する家族の態度はしだいに変化していくことが予想され,したがつて,かれらの家族内地位や役割もまた推移するであろうことが推測される。そして,このような家族の態度や,嗜癖者の役割の変化が,患者の治療や予後を左右する大きな要因となるのではなかろうかと考えられた。

著明な幻覚・妄想体験を示したナルコレプシーの1例

著者: 大月三郎 ,   細川清 ,   洲脇寛

ページ範囲:P.913 - P.920

I.はじめに
 ナルコレプシーの症状と徴候については,種々の総説に詳しく記載されているところであるが(Wilder1),Heyck u. Hess2),Rennert3)),症状のうちで幻覚体験の特異性が注目され(Munzer4),Rosenthal5),臺6))脳脚幻覚症(L' hermitte7))との類似性や,睡眠と覚醒との解離,精神機能と運動機能との解離などが,臨床像から推定されてきた。この推定は最近の睡眠ポリグラフによる生理学的研究の進歩8)〜10)に伴つて明らかにされつつある。われわれは,著明な幻覚,妄想体験を示し,その内容を言語化して伝えうるナルコレプシーの1例を,14歳時と28歳時に詳細に観察する機会を得た。したがつて,この症例における症状と徴候を記載し,幻覚と妄想体験との関係について考察するとともに,睡眠脳波を含めた臨床脳波的検索による所見について報告する。

精神分裂病様症状を呈するKlinefelter症候群の1例

著者: 石川文之進 ,   浅香昭雄

ページ範囲:P.921 - P.926

Ⅰ.まえがき
 1956年にTjioとLevanによつてヒトの染色体数が決定されて以来,種々の染色体異常がみいだされた結果,常染色体異常あるいは性染色体異常と精神薄弱の関係については,数多くの報告が現われた。しかし,染色体異常と精神簿弱以外の精神障害との関連を考察した研究は乏しい。
 われわれは一精神病院入院患者の性染色質スクリーニング検査を行なつたところ,性染色質陽性の男子1例をみいだしたので,その精神症状を中心に若干の考察を加えてみたい。

接枝分裂病と診断され,女性的言動を特徴としたKlinefelter症候群の1例

著者: 高坂睦年 ,   徳永五輪雄 ,   菊井茂 ,   吉田俊彦 ,   本森良治 ,   内田茂

ページ範囲:P.927 - P.931

 41歳,身長185.7cm,10年間接枝性分裂病として入院していたKlinefelter Syndromeの1例を記載した。おもな精神症状は興奮期と,女性的態度を示す女性期とが不規則に出没するもので,尿中estrogen,androgenの著明な減少,副腎皮質系ホルモンおよびFSHの増加がありホルモン像と精神症状との関係について考察した。

倒錯視または逆転視(Verkehrtsehen)について—周期性傾眠,間脳症,感覚・運動誘導症状群を伴つた1例

著者: 大橋博司 ,   浜中淑彦 ,   河合逸雄 ,   池村義明 ,   西谷裕 ,   平盛勝彦

ページ範囲:P.937 - P.945

Ⅰ.序言
 自己の身体や外界の対象を入れる空間の体験は,時間体験とともに人間の世界体験を支える重要な2つの枠組みであり,空間体験のうちでは上下,左右,前後などの主観的空間軸の認知は空間体験の不可欠の礎石であつてきわめて安定した現象でなければならないが,この安定性が特定の脳損傷によつて失われるために生ずる種々の異常体験は今世紀の初頭より幾多の精神・神経病学者によつて記載されてきた。われわれがここに報告する倒錯視または逆転視(Verkehrtsehen)もその一つでありきわめてまれな現象とされるが,われわれの症例ではそれが周期性傾眠,間脳症,感覚・運動誘導群などと合併してさらに興味ある病像を形成した。以下この症例の報告を行なつたのち,逆転視,倒錯視について若干論じたい。

刑法改正に関する私の意見 第2篇 不定期刑を中心として(その1)—意志の自由と非自由および決定論と非決定論について

著者: 田村幸雄

ページ範囲:P.946 - P.950

I.はじめに
 「意志は自由か非自由か,決定論か非決定論か」は哲学や倫理学で重要事項として論じられている。刑法学においても,責任や刑罰などの基礎として,ひいては刑法学説を大系づける根拠として重要視され,欧米でも日本でも活発に議論された。前篇で,著者はアメリカにおける精神科医対法家の冷戦はこの問題についての両者の見解の相違が一大原因であることを述べ,意志の自由について簡述したが,本篇ではこれらと関係するところが大であるので,少しく立入つて検討したいと思う。
 本論で,著者は日独刑法学大家の意見の批判をこころみるが,刑法学にずぶのしろうとがあえてこれをなすのは,盲,蛇におじずの感があるかもしれない。しかし,考えてみると,この問題は刑法学の基礎をなすが,かならずしも刑法学の知識を要しない。むしろ,哲学や心理学と関係が深く,精神医学にも関係がないわけでない。したがつて,畑違いの著者がこれを論ずるのもかならずしも見当違いでなく,刑法学界になんらかの参考資料を与えるものと確信している。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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