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雑誌目次

論文

精神医学10巻12号

1968年12月発行

雑誌目次

座談会

誤診

著者: 懸田克躬 ,   猪瀬正 ,   横井晋 ,   室伏君士 ,   新福尚武 ,   江副勉

ページ範囲:P.957 - P.972

まえがき
 誤診をさけようという心構えをもたないものはありますまいが,現実にこれを皆無とすることはほとんど不可能というに近いことだといつてよいと思います。すこしく注意すれば避けられるはずのものが,慎重さを欠いた安易な態度から誤診をきたすという場合を論外とすれば,われわれは,いつも手痛い誤診の経験をしたときには,つねに,そこから何かを学びとつてくる,あるいは病気に対する認識をあらたにし,診療に対する態度を反省しなおすということが大切なことではないかと思います。
 また,誤診かどうかという点に関しても,お互いに議論してもなかなか決着がつかない場合も多いわけですが,今日は剖検をして誤診がはつきりしたというようなケースを中心にお話しあいを願つて勉強の資にしたいと思います。私が誤診をしたというのでは「ああ,またか」ということになるでしようが,今日の先生がたは誤診などしそうもないかたがたばかりですので,その経験は私どもにとつていい勉強になることと楽しみにしています。

研究と報告

向精神薬療法における肝障害について(その1)—山陰地区における実態調査の概要

著者: 大熊輝雄 ,   竹尾生気 ,   福間悦夫 ,   内田又功 ,   久場兼功 ,   吉岡千尋 ,   小椋力

ページ範囲:P.977 - P.984

I.はじめに
 近年精神神経疾患の治療に,向精神薬を長期間使用する機会が多くなつたので,その副作用についても慎重な考慮をはらうことが必要になつてきた。
 向精神薬による副作用として臨床的に重要なものは,錐体外路性障害,肝障害,造血系障害,皮膚発疹の発生などである。そのうち,肝障害については,向精神薬が使用されはじめた初期から注目されているが,これに関する報告の多くは,比較的少量の使用で急性に黄疸などを生ずる急性肝障害に関するものである。しかし,臨床的には顕著な症状が現われない程度の初期に肝障害をとらえて対策を講ずることが,肝障害の慢性化を防ぐ最良の方法であり,向精神薬連続投与の場合にも,肝機能検査の施行によつて障害を早期に発見することが重要である。しかし,この種の検討はいまだ十分に行なわれておらず,わが国では挾間ら(1965),松本ら(1966)の報告があるにすぎない。

上顎癌手術後の患者3例にみられた精神障害

著者: 福田一彦 ,   白橋宏一郎 ,   岩淵辰夫

ページ範囲:P.985 - P.988

Ⅰ.緒言
 われわれは上顎癌手術後短期間にあいついで精神障害を呈した患者3例を診察する機会を得た。それらの精神症状の内容はいずれもきわめて類似しており,これを術後精神病もしくは症状精神病と診断してもさしつかえないものと思われたが,その発症において3者の間に続発的傾向を認め,心理感染ともいうべき心因性関与を示唆するにたるものがあると思われた。
 術後精神病の研究はKleist(1916)6)にさかのぼるがEwald(1928)3)はすでに手術による侵襲が心因反応を惹起することを指摘しており,また近年になつてE. Lange(1961)7)はKleistの真性術後精神病の存在を疑い,術後精神病に特異的な症状はなく症状特異的な術後消耗の存在を疑つた。かれによれば症状精神病は全身性の生物学的防衛不全,自律神経代償不全,情緒的負荷能力の減少,換言すれば手術に基づく身体因と心因とが術後の不安定な消耗状態に協同的に作用した場合に発生するとした。

寛解状態にある分裂病者の職場内適応について—某企業体における実態調査を通じて

著者: 小見山実 ,   金田美弥子

ページ範囲:P.989 - P.994

Ⅰ.まえがき
 結核対策から始まつた企業体の健康管理は,年々その成果があがり,結核による休業日数は,10年前と比較すると大幅に減少している。現状では,結核にかわつて癌,高血圧,糖尿病などの成人病や不慮の事故および精神障害の対策がクローズ・アップされてきている。なかでも精神障害は発生件数も,1件あたりの休業日数も多く,そのうえ管理方法も他の身体疾患とはちがつた多くの面をもつている。それゆえ精神衛生管理は企業体の健康管理のなかで,今後ますます重要な問題となつてゆくことが予想される。
 さて,職場の精神衛生ではむろん,早期発見,早期治療,職場復帰が主要な課題であるが,また,職場に復帰している精神障害者がどんな適応をしているかを知ることも,興味あることであり,同時に精神衛生管理を行なっていくうえでも必要な知識となる。そこで今回は,一番数も多く,困難も多い分裂病をとりあげ,とくに再適応に焦点をあてて調査した。その結果を報告し,若干の考察を加えてみたい。

てんかんに対するNitrazepam(Epinelbon)の臨床使用経験

著者: 田所靖男

ページ範囲:P.996 - P.1000

Ⅰ.まえがき
 著者は新しいbenzodiazepine誘導体nitrazepam(Epinelbon)を種々の精神疾患に使用する機会を得たが,今回は少数例ながら抗てんかん剤としてもちいた臨床成績を報告する。
 benzodiazepine誘導体のtranquilizerとしてはすでに周知のごとくchlordiazepoxide,diazepamについでoxazepamが開発されているが,今回著者が三共株式会社より提供を受けたnitrazepam Epinelbon)はRoche社の開発になる1,3-dihydro-7-nitro-5-phenyl-2H-1,4-benzodiazepin-2-one(第1図)である。

刑法改正に関する私の意見 第2篇 不定期刑を中心として(その2)—責任論と刊罰論

著者: 田村幸雄

ページ範囲:P.1001 - P.1005

Ⅰ.意志の自由と刑法の学派
 「責任なければ刑罰なし」(Keine Strafe Ohne Schuld.)違法行為者に対し道義的責任を問うには意志の自由が前提となる。適法行為をなしえたのにもかかわらず,あえて違法行為を行なつたところに責任の根拠がある。これが古典派(Klassische Schule)の責任論である。これに対し,Ferriは意志の自由を「純然たる幻想」とよび,犯罪行為は行為者の素質と環境により決定されるものであり,そのさい,他行為可能性,すなわち,適法行為の可能性なるものを否定した。ここに,近代派(Moderne Schule)誕生の基地をみることができる。List一派はいう。社会に侵害を加える危険性をもつ者に対しては,社会は自らを防衛しなければならない。逆にいえば,かような危険な性格をもつ者は,社会から防衛処分を受けなくてはならない。このような社会から防衛処分を受けるべき地位にあるのが責任であると,後者では,危険な性格を責任とみなすので性格責任ともよばれる。両派はともに責任という語をもちいるが,その内容にいちじるしい違いのあることは以上のごとくである。犯罪人に対し,古典派の理論では道義的非難をなしうるが,近代派の考えからはこのような非難ができない。なるほど,違法行為やこれを起こしやすい人は社会にとつて好ましくない。しかし,このような人が,自分の性格を自己の意志で変ええないならば,また,違法行為をどうしても避けえられなかつたとするならば,これに道義的非難をあびせるわけにいかないであろう。精神薄弱児を学業成績不良だからといつて責めることができないのと同様である。

セネストパチーについて—自己の病に対する態度

著者: 小池淳 ,   工藤義雄

ページ範囲:P.1009 - P.1012

Ⅰ.緒言
 客観的な異常所見がないのにかかわらず,身体に関する奇妙な感覚に苦しむ病者にセネストパチーなる名称が与えられていることは周知のことである。わが国では,三浦3),保崎4)5)の論文以来,かずかずの論文2)6)8)がみられ,最近では吉松7)のすぐれた論文が発表されている。
 セネストパチーを広い意味にとれば,かかる病者の多くは神経症群に,また分裂病群に属すること,および,脳器質障害もセネストパチーの発生因となりうる可能性についても前回報告した。最近,Dupre1)の言う狭い意味のセネストパチーと考えられる2症例に接したので,これを報告し,広い意味のセネストパチーの他の群(神経症群,分裂病群)と,主として自己の病に対する態度の面で,比較検討したい。患者が似たような奇妙な身体感覚を訴える場合,その訴える内容と同時に,広く患者の言動,とくに自己の病に対する態度を検討することが臨床的に重要であると考えるからである。訴える内容自身も,ときには患者の体験する感覚そのものとはいいがたく,しばしば変形され,誇張され,また加工されて,極端な場合には感覚とは言いがたいこともあり,訴える内容も病的人間像全体より吟味されねばならない。また広く患者の態度を検討することにより,前回暫定的に分類したカテゴリーもいつそう特徴化されると考える。

資料

アジアの麻薬中毒者対策の現況—国連研修旅行に参加して

著者: 瀧沢和盛

ページ範囲:P.1019 - P.1025

I.はじめに
 本年2月12日から同月25日まで,2週間,国連麻薬部の主催で行なわれた,アジア極東地域における,麻薬中毒者の治療と,rehabilitationに関する研究旅行に参加して,この地域における麻薬中毒者問題をつぶさに見聞する機会があつた。この研究旅行が行なわれるについては,1960年,バンコックで開かれたアジア極東麻薬協議会で,バンコック,香港および,シンガポールにおける,中毒者の治療施設を視察することの必要性を述べた日本からの提案が重要な一役をかつている。
 1964年に東京で行なわれた,アジア極東麻薬協議会でも,同様な提案が日本から出され,とくに少なからぬ国では,麻薬中毒の診断治療,rehabilitationの専門的な教育を受けたスタッフがいないため,既存の施設や過去にこの問題に関して得られている知見が,十分に活用されていないうらみがあることも,指摘されていた。

紹介

アメリカにおけるてんかん者運転免許の現況—Epilepsy and the Lawの紹介

著者: 原俊夫 ,   倉重貴美子

ページ範囲:P.1014 - P.1018

I.はじめに
 単行本Epilepsy and the Lawは法津学の教授であるRoscoe L. Barowと,神経病学者でアメリカてんかん協会の法律制定委員であるHoward D. Fabingの共著である。この書物は立法にあたる人のハンドブックとして企画されたものであり、初版は1956年に出版された。そして,これが刺激になつて短期間のなかにてんかんに関する法律が改善されたといわれる名著である。ここで紹介する第2版は1966年に出されているが,初版からの10年という歳月には,この法律が大きく変えられたためにほとんど完全に書き改められている。
 第2版の内容は9つの章と6つの付録からなつている。第1章ではアメリカ合衆国における,てんかんに関する法律の変遷の概況を述べ,第2章ではてんかんの医学的な解説を医師以外の人に理解しやすいかたちで述べ,第3章ではてんかんの家族的関連を,第4章では婚姻,第5章では優生保護に関する法律を取扱つている。つぎの第6章がこれからやや詳しく内容を紹介する運転免許の問題である。第7章以下には,雇用を初めとして,移民,生命保険,閉鎖施設への入院,教育,刑事責任能力など,てんかん者に関するありとあらゆる法律的な問題についての現況と解説が加えられている。

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精神医学 第10巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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