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雑誌目次

雑誌文献

精神医学10巻2号

1968年02月発行

雑誌目次

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慢性覚醒剤中毒のうえに生じた病的酩酊についての考察

著者: 林暲 ,   市場和男

ページ範囲:P.97 - P.105

 まえがき:以下にかかげる文は,一精神鑑定書の考察の章である。
 事件は,昭和30年8月の夜,被告人(昭和4年生まれ,当時25歳の男子)が酒に酔つて友人2人と東京都品川区の道路を歩いていたところ,これも飲酒して帰宅途中の被害者(28歳の男)と出会いがしらに喧嘩となり,ジャックナイフで刺殺したというものである。

追悼

林暲先生を想う

著者: 江副勉

ページ範囲:P.106 - P.107

 林暲先生は,1967年10月21日,65歳をもつて逝去されました。先生の最後の憩いの場であつた国立癌センターの病理解剖学的診断での主な所見は「肺癌およびその転移巣」ということでありました。
 先生は練達の精神医であり,優れた活動的な指導者であり,また精神身体の両面においてたいへん若々しくあられました。この国の精神衛生行政の推進のために,臨床精神医学の発展のために,まだまだ先生のご活動を望み,指導を期待していたわたくしどもにとつて,先生のこの卒然ともいうべき逝去は,まことに残念の一言につきます。

研究と報告

脳脚幻覚症について

著者: 大橋博司 ,   浜中淑彦 ,   池村義明 ,   河合逸雄

ページ範囲:P.108 - P.112

I.はじめに
 脳脚幻覚症hallucinose PedonculaireはJ. Lhermitteによつて報告されてから,その局在価値と幻覚の特殊性から,精神病理学的にも脳病理学的にも諸家の注目をあび,幻覚問題の総説にはよく引用されるものであるが,実際われわれが典型的な臨床例に出会う機会は比較的まれであり,Lhermitteやvan Bogaertが記載している数例のほか,ときどき記載がある程度にすぎない。われわれは最近たまたまその典型例とみなされる1例を観察する機会があつたので,従来の文献例をまず簡単に述べ,つぎに自家例を記載し,若干の考察を加えたい。

精神分裂病患者の再入院防止に果たす長期薬物療法の役割—とくに症例研究的側面から

著者: 大熊文男

ページ範囲:P.113 - P.118

Ⅰ.序言
 ここ10年間に薬物療法がいちじるしく進歩して,精神分裂病の入院患者は以前と比べ容易に社会へ戻ることができるようになつた。その結果,精神科の病床回転率は好転したが,再入院率がいぜんとして高いため病床はあいかわらず不足したままである。蜂谷7)によると退院した患者の半数以上が2年以内に再入院してくるというが,これはいつたいどこに問題があり,どのようにすればこの再入院を防止できるのか,そしてまた,こういう事態に対して薬物療法はまつたく無力なのだろうか。精神科医の多くがこのような疑問を持つているにちがいないが,新しい薬物の治験報告は枚挙にいとまがないにもかかわらずこのような疑問に答えてくれる報告は散見するにすぎない。
 たまたま,私は同愛記念病院在職中受持つた入院患者で,同院を退院してからもなお引きつづきほぼ定期的に私のもとへ通つて服薬をつづけ,その結果5年から7年余にわたり継続的に経過を観察することができた10症例を得ているが,この長期薬物療法の経験から再入院防止に関していささか知見を得たのでここに報告する。なお,私がここに「薬物療法」というのは外来診療の時間的制約のため薬物がその治療のもつとも大きな要素をなしているという意味であり,特殊な技法によるもの以外の精神療法的接近が同時に行なわれていることは論をまたない。

挿間性精神病状態を経過した日本脳炎後遺症の1例

著者: 鈴木二郎

ページ範囲:P.119 - P.125

 日本脳炎罹患後14年を経て,特異な挿間性精神病状態を経過し,罹患17年後に軽快した1例について報告した。本例は幼児期罹患急性期後に中等度の知能障害と幼稚さを中心とする人格異常を示しつつ経過し,17歳にいたつて,情動,意欲の変動を根底にした抑うつ気分,不機嫌状態を主体に,緊張症候群,幻覚,被害念慮などの異常体験,ヒステリー的色彩などの病像を呈した。これらの挿間性異常状態と間欺期とについて,臨床的,脳波学的,体液学的に検索して,興味ある所見を得,さらに向精神薬などをもちいて治療を行なつた。これらの所見について,臨床精神病理学的,脳波学的に検討し,さらに本後遺症の病因論についても若干の考察をこころみた。

Hunter-Hurler症状群(Gargoylism)の1例

著者: 小河原竜太郎 ,   杉田力 ,   室伏君士

ページ範囲:P.127 - P.137

Ⅰ.まえがき
 骨格系発育障害により,特異な体型や顔貌を示す疾患は,古くから知られていた。19世紀の後半にいたり,骨系統疾患の立場から活発な研究が行なわれchondro dystrophia foetalisが一疾患単位として確立され(Parrot 1878;Kauchmann1),1892),さらに近縁疾患の一群が検索された(chondroosteodystrophy-Breisford)。
 Hunter-Hurler症状群も,このような動向のなかで分離されてきたものである。その骨格系の特徴は,Hunter2)(1917)により,肝脾腫,臍ヘルニアなどとともに記載され,Hurler3)(1919)が角膜混濁,知能障害を追加し,他の類似疾患と異なる奇形であるとした。さらにPfaundler4)(1920)が臨床的立場から,本症の"特異性"を強調するにいたり,本症を遺伝生物学的観点から一疾患としてとらえようとする研究が行なわれた。近年にいたり,遺伝,生化学,組織化学などのいちじるしい進歩により,本症は,小児期に発生する遺伝性代謝異常疾患の範疇に含まれるものとされている。しかしなお,その本態は十分に解明されず,不明な点を残し,病名も統一されていない。

精神分裂病者の縦断的脳波検索

著者: 田中実 ,   鈴木鉦一郎 ,   高橋隆夫

ページ範囲:P.139 - P.144

 精神分裂病の3病型について,病期,CP投与時,回復期を通じて継時的に安静時(非賦活時)脳波およびMegimide-Metrazol賦活脳波検査を行ない,つぎのような結果を得た。
 (1)病期では,安静時および賦活時ともに,昏迷例がもつとも多く異常脳波を示した。昏迷の寛解によつて脳波所見の正常化の傾向が認められた。
 (2)CP投与時には,軽度の徐波化の傾向が認められ,低閾値で賦活異常波が多数例に出現し,さらに少数例ではあるがけいれん発作さえ誘発された。
 (3)電撃療法の治療歴をもつ例では,病型,検査時期を問わず,安静時および賦活時ともに,異常脳波が多くの例に認められた。
 (4)安静時に認められた異常は,振幅のあまり大きくないびまん性,左右対称性,同期性の不規則徐波による軽度の律動異常であり,賦活異常波もいずれも左右対称性,同期性であるので,これらの性状からして異常波の起始を中心脳系に,かつその部位の機能異常を推測した。
 (5)繁張型とくに昏迷例および電撃療法の治療歴をもつ例の多くに中心脳部の機能異常が推定された。

肺結核を合併した精神障害者におよぼすcycloserineの影響

著者: 山村道雄 ,   米倉育男 ,   平野千里 ,   大槻信子 ,   早川三野雄 ,   宮川健児

ページ範囲:P.149 - P.155

I.はじめに
 Cycloserine(以下Csと略す)は,1954年Harned, Kroppによつて放線菌の一種であるStreptmyces orchidaceusから発見された抗生物質で,試験管内で広く結核菌,グラム陽性菌および陰性菌に対する抗菌力を有し,臨床的には肺結核,とくにPAS,SM,INAHなどに耐性となつた症例や,副作用のため他剤投与ができない症例に対してすぐれた治療効果があるといわれている。
 しかし,反面,精神神経系を中心とする副作用の発現が注目されている。Epsteinら1)は,37例中2例にてんかん発作,2例に憂うつ症の発現をみたと報告し,U. S. Public Health Service2)の115例の成績では18例にけいれん,精神的不調,運動的不調,嗜眠,発熱悪感などの副作用を認めている。堂野前ら3)は,1.0g単独投与では62.5%の副作用が出現したが,頭痛,めまい,睡気などの軽微なものが多く,精神錯乱,けいれん発作などの重篤なものは少なかつたと述べている。

資料

薬物療法の登場によつて精神分裂病の予後はどの程度改善されたか

著者: 島薗安雄 ,   鳥居方策

ページ範囲:P.157 - P.162

I.はじめに
 近年の向精神薬の出現によつて精神分裂病の治療はいちじるしく変化した。しかしこれによつて患者の予後がどの程度に改善されたかということについての正確な統計的資料はきわめて少ない。そこで,われわれは教室員全員の協力によつて調べえた結果をここに報告し,参考に供したいと思う。

動き

(アンケート)学会認定医制度について

著者: 西丸四方 ,   稲永和豊 ,   原田憲一 ,   高木隆郎 ,   河村高信 ,   久山照息 ,   西尾友三郎

ページ範囲:P.174 - P.179

Ⅰ.1)認定医と大学院卒業生と区別しないほうがよい。とにかくある期間正直に「専門の勉強」をして「独立の」論文が書ければ,それでよい。試験などする必要はない。指導者にその責任をもたせよ。
 3)従来のundergraduateの教育は改善すべきで,6年間にもつと多くの医学の知識と実地を身につけさせることができるようにくふうできそうなものである。いまの状態はむだが多く,時間がもつたいない。

回顧と経験 わが歩みし精神医学の道・20(最終回)

定年退職とその後の生活史

著者: 内村祐之

ページ範囲:P.164 - P.172

 昭和33年の3月末日をもつて,私は東京大学を定年退職した。思えば昭和3年初夏に北海道大学教授に任ぜられて以来約30年,東京大学に移つてからでも約22年の永い教授生活であつた。定年退職は,この年月の間,全責任を負つていた職場から離れることであるから,深い感慨のあることは言うまでもない。しかし定年制度の存在は確たるものであつて,私も心の準備は十分にできていたから,比較的に淡々たる心境で,この時期を通過することができた。
 初老期における定年退職は,多くの場合,それまでの安定した生活の足場を失うことであるから,第2の人生をいかに営むかの転回点として,誰しもが,多かれ少なかれ精神的の衝撃を受ける。このことを最も切実に知るのは,われわれ臨床精神科医であつて,この時期にある精神障害者の少なからざるものに,この「足場の喪失」という誘因的要素を認めることができるのである。

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「精神医学」展望欄総目次(第1巻〜第9巻)

ページ範囲:P.137 - P.137

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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