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雑誌目次

論文

精神医学10巻4号

1968年04月発行

雑誌目次

特別講演

うつ病への内因性変転に対する前うつ状況の意義

著者: ,   近藤喬一

ページ範囲:P.265 - P.274

 われわれは内因的なるものが,人間的なるものについての,二,三のまつたく根源的な現象のなかで明らかになつてくることを知つた。リズムをおびたもの,周期的なものが,とくにこれらの現象を特色づける形式的規定であると思われていた。しかし,とりわけ成熟の諸現象のなかで内因的なるものの本質は,意味深大ではあるが,それと同時にかつ謎につつまれた表現を与えるかのごとき様相を呈する。内因性現象は,因果的会得の可能性をも了解的会得の可能性をもこえたものである。事実,それはさまざまな側面を生ずるので,諸個別科学でも到達可能ではあるが,全体としてはわれわれがEndonと名づけた,根源的有機的形象のなかに表現される力の形成化として,直観的な判断力(Urteilskraft)の作用によつて初めてとらえられる。Endonの存在様式は,個別科学的到達のあらゆる可能性にさきだつて,まず自然哲学が適合するところの現実界の一領域に属している。Endonと内因的なるものは,Husserlのいう意味での自然の領域的存在論(regionale Ontologie)の中心的テーマなのである。ところで,この始源領域から,遺伝的に順次受け継がれて,ひとを一定の類型に到達させる人間性の側面も現出してくることをも知るのである。ことに遺伝継承者の生活界をその端緒から規定し,遺伝的に継承された可能性の実現にはたらきかけ,規定していくものが種々の遺伝的なものであるときは,なおのことである。

研究と報告

回復期うつ病者の精神療法

著者: 矢崎妙子

ページ範囲:P.277 - P.284

I.はじめに
 内因性精神病の「病因」については,その言葉の示すように,「内因」すなわち「遺伝的素質」に,より多くの原因があると推定され,また,心身二元論的な立場からは,「身体因」が重要視されている。なかでも躁うつ病は,分裂病と比較してより生物化学的な次元での障害として解明することができると主張されている。
 さて躁うつ病の治療も,他の疾病と同じように原因療法が行なわれるべきで,身体療法の可能性を追及することこそが急務であり,その精神療法など論外の事柄であると極論する学者もいる。しかしかれらはいまだ未解決である躁うつ病の原因を,「身体因」にのみかぎつてしまうという偏見をおかしている。だが,このような躁うつ病の精神療法の役割をまつたく否定する学者はごく少数である(Speer, Glover)。

物語をもちいたテスト—分裂病者の反応

著者: 野上芳美 ,   浅川和夫 ,   布施雄一郎 ,   山口隆 ,   矢野鎮夫 ,   石川隆子

ページ範囲:P.285 - P.289

 われわれは被験者に物語を聞かせて復唱せしめ,その反応を文脈と語句との各水準で評価採点するというテスト法を用いて,分裂病30例,境界例14例,神経症27例および正常対照17名につき調査し以下の結果を得た。
 (1)文脈および語句のいずれの評価においても正常群と神経症群の間には差は認められない。
 (2)分裂病群は文脈および語句のいずれの評価においても正常群および神経症群に比して有意な差で低得点を示す。
 (3)語句を単に事象を示すものと,情動を表現するものとに分けて検討すると,分裂病群は後者において特異的に不良の成績を示し,その傾向はとくに微妙・複雑な情動を表現した語句において明白である。
 (4)以上の結果でとくに,分裂病群の低得点について強調し,その機制について若干の考察を行なつた。

学校恐怖症に関する考察

著者: 有岡巌 ,   大海作夫 ,   勝山信房 ,   南耀子

ページ範囲:P.290 - P.294

Ⅰ.緒言
 Johnsonら7)がschool phobiaなるものの概念を設定して以来,この状態についての多くの報告が行なわれてきた。そして,school phobia(学校恐怖症)の同義語として,neurotic school phobia,anxiety-neurosis school phobia,school refusal(登校拒否)およびrefusal to go to schoolなどがみられている。
 Johnsonらによれば,school phabiaなるものはつぎのごとく規定される。すなわち,この状態は登校することに関する強い恐れで特色づけられており,そのため数週・数カ月ときには数年もの間学校に行かなくなるものである。そして,さらに,この状態は精神神経症的なものであり,恐怖症的傾向のうえに,さらにヒステリー的または強迫神経症的傾向がoverlapしたものであるとしている。この概念からみると,phobiaなる表現をもちいてはいるものの,その構造は複雑なものと解しうる。さらにHersov5)6)は,school refusalにつき,不安反応・抑うつ反応・ヒステリー反応そしてまた強迫神経症的な障害などの診断的分類を記している。

記憶拒絶症mnestischer Negativismusを示した分裂病の1例

著者: 尾野成治 ,   森慶秋 ,   上野文弥

ページ範囲:P.295 - P.299

 35歳女子の慢性分裂病にみられた記憶拒絶症の1例を報告した。記憶拒絶症は分裂そのものに由来する症状ではなく,むしろ分裂病患者にも生じうる心因反応の一型,とくに情因性健忘と考えられることを論じた。

退行機制により治癒した小児神経症の1例

著者: 奥村晶子

ページ範囲:P.300 - P.304

I.はじめに
 ここに報告する症例はつぎのような特徴をもつ。つまり症状出現の機序および症状の形式が非常に単純で,母-子関係の葛藤,すなわち母性の欠如,母の排斥的態度,ないし無関心な冷たさが身体的欠陥のある幼い魂を傷つけ,身体症状を出現させたことが明白に認められ,しかも防衛機制として惹起された退行機構を利用して治癒しえた。この症例が,未熟な人格の反応様式および母性がもつ意味を理解するための一助にもなれば幸いと考える。

老人の死に対する態度—社会精神医学的研究

著者: 吉沢勲

ページ範囲:P.309 - P.315

 老人ホーム入所者98名より20名の標本を抽出し,老人の死に対する態度についてさまざまな角度から追求してみた。
 まず老人のもっている「死のイメージ」を一般意味論の技術を使って分析した結果,老人は死という言葉に対し主観的,情緒的に反応する傾向をもち,それをたえず自己の問題として考え不安をいだいていることが明らかにされたと思う。
 また死という言葉の意味内容として「近い」,「かたい」,「静かな」,「弱い」,「苦しい」の5項目が危険率5%以上で多く示された。したがつて老人は日常においても強い生命維持の願望や死への不安傾向を示しているといえる。さらに「恐い」,「不快な」といつた項目に有意差がみられなかったことは死の不安に対する防衛機制の存在もうかがえるところである。
 老人の死に対する態度はそのときの老人の心理状態により変容しやすく,診断の一つのめやすとなることも証された。
 死に対する態度スケールと諸要因との関連では危険率5%以上で有意差がみられたのは,年齢,配偶者との離死別期間,健康状態,希死体験,適応状態の5項目であつた。したがつてつぎのものは死に対する態度が不良であると結論された。
 1)年齢別では若い群(60歳代)。
 2)配偶者との離死別期間の短かいもの。
 3)健康状態のすぐれないもの。
 4)希死体験のあるもの。
 5)社会的適応の不良のもの。

躁状態に行なつた炭酸リチウムの治療経験

著者: 佐久間もと

ページ範囲:P.317 - P.321

Ⅰ.はしがき
 躁うつ病の両状態像のうち,患者数の多いうつ状態への探求が必然的に発展し,抗うつ剤には進歩があつたが,躁状態に対する薬物効果の検索は,いまだ十分とはいえない現状である。こうした精神薬理学の10年の趨勢のなかで,町山16)が,抗うつ剤の躁転作用,躁周期での奏効を示して新たな見解を与え,注目されている。
 Cade(1949)3)により躁状態に対する使用経験が,初めて発表されたリチウム塩は,その効果についてなお論議が多いが,再確認することにより躁状態治療,さらにこの病的状態解明についての示唆を与えうるものとして,追試を行なつた。ここではその比較的単純な無機イオンが奏効すること,その特色を十分臨床場面で認識することに重点をおいた。

資料

異常脳波発現頻度に関する考察

著者: 平沼博 ,   渡辺博 ,   渡辺敏也 ,   小林亮 ,   井上令一 ,   桑村智久 ,   直居卓

ページ範囲:P.323 - P.330

I.はじめに
 われわれは,さきに昭和30年2月より昭和33年6月までに脳波検査を行なつた2,374例について,その疾患の種類および脳波所見をまとめて報告した(1958)1)
 今回は,その後昭和33年7月より昭和38年12月末までの5年6カ月間にわたつて脳波検査を行なった7,226例の脳波所見について,統計的な観察を行なつた。

動き

第7回国際精神療法学会印象記

著者: 荻野恒一

ページ範囲:P.332 - P.335

Ⅰ.Wiesbadenにはいつて
 Wiesbadenは,森と丘に囲まれ,色とりどりの花にあふれた美しい,そしてきわめてドイツ的な町である。ソ連,フィンランド,スカンジナビア3国を,2週間あまり言葉に悩まされながら旅行して,ようやくドイツにたどりついた私は,つたないドイツ語ではあつても言葉の点で,また高校以来なじんでいるゲルマン文化のなかにはいつたという点でも,第2のハイマートといつても過言でないドイツ的雰囲気のなつかしさとふかい共感を感じた。加えて8月20日の日曜日,多くの国際学会がひらかれてすでに日本でも知られているRhein-Main-Halleに用意されているKongressburoに,今度の学会の会員の登録をしているとき,私はたまたま,ながくMainzに留学中の宇野昌人氏(同氏が石川清氏と共著のかたちで書かれた「ヤスパースと現象学派」の論文を,私はすでに読んでいたが)に出会つて,同氏の車で丘に登り,Wiesbadenの街全体を眺めることもできた。21日から26日までの1週間,私としては初めてといつていい程度に学会に皆出席したが,いまかえりみて,このときのWiesbadenの印象は,1週間をとおして私の心に残つていたように思う。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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