icon fsr

文献詳細

雑誌文献

精神医学10巻5号

1968年05月発行

文献概要

特集 うつ病—日本精神病理・精神療法学会(第4回大会シンポジウム) Ⅰ部 Pathogenieとの関連における性格と状況

躁うつ患者の家族的特徴からみた性格と発病状況

著者: 武田専1

所属機関: 1武田病院

ページ範囲:P.346 - P.352

文献購入ページに移動
I.はじめに
 ただいま,前発言者はうつ病の臨床類型とそのそれぞれについて,精神力学的見地から述べられたが,そのご努力に対し同じ立場に立つ者として敬意を表したい。私の場合は,躁うつ病圏の患者に精神分析的精神療法を実施し,技法的にも修正を考慮することにより,いくらかでもその本質に迫りうればという態度で行なつてきている。したがつて,躁うつ状態を呈したものであれば,それが典型的な躁うつ病といえるものなのか,あるいはむしろ厳密には非定型精神病と診断される可能性があるかのいかんにかかわらず,精神療法的接近をこころみたいという意欲をもつた対象を取り扱つてきた。そのため,このかぎられた症例から躁うつ病者に普遍的な性格や発病状況を述べるつもりは毛頭なく,演題も躁うつ患者としたことをあらかじめおことわりしておきたい。
 私の経験からも,躁うつ傾向の患者は日常的世界の枠から閉め出され孤独になることに基本的な不安があり,執着する対象に依存してその喪失を恐れるため,表面的な浅い接触は容易に成立しても,真の意味での人間交流を確立することは困難である。このことは換言すれば,想像上の周囲との一体感ないしは連帯感の喪失という主観的な感覚がうつ病をもたらすという,土居の表現と一致するものといえよう。事実,躁うつ状態を呈した患者に精神分析的精神療法を実施してみると,分裂症傾向の患者に比べて内省的な点に欠けているため,表面的には性格傾向が改善されたようでもいぜんとして対象関係の稀薄さが認められ,臨床的には症状が消失して社会復帰が可能なようにみえても,精神療法を通じての観察からは人格の改善が不十分で,とくに何回か反復するパターンを有する患者にあつては,社会復帰後も暫くすると再発するのではないかとの懸念をいだかせる場合が多い。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?