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雑誌目次

論文

精神医学10巻8号

1968年08月発行

雑誌目次

特別講演

英国における社会精神医学

著者: ,   本多裕

ページ範囲:P.601 - P.603

I.はじめに
 初めに社会精神医学(social psychiatry)という言葉はどのような意味で使われているかということを検討してみます。
 第1は,比較疫学(comparative epidemiology)および,比較文化学的精神医学(cross cultural psychiatry)という考えかたがあります。

質疑応答

ページ範囲:P.603 - P.607

 Reynolds(California大学・人類学) 対等主義を達成し,職務意識の解消をすすめるうえで,職員が白衣を着用するこることについてどう考えられますか。
 Clark これについてはいろいろと議論がありました。ことに看護婦などのなかでも着たいという人と着たくないという人がありましたが,結局いろいろ討論したうえで決めたことなのです。最初からどちらがいいときめてしまうことはよくないと思います。十分お互いに意見を出し尽して議論をしたうえで,そういうことをきめることが大切だと考えられます。たとえば,私は15年来病院で白衣は全然着たことはないのですが,若いお医者さんが来ると,はじめは白衣を一生懸命に着込んで,自分でなにか安心感をもつというような傾向が見られます。若いお医者さんがきて,結局白衣をぬぐようになるということは,社会精神医学が身についたひとつのしるしになるのではないかなと考えています。

研究と報告

精神分裂病者の社会適応経過—外来初診後3年間の経過調査

著者: 国友貞夫 ,   石川辰夫 ,   丸山甫

ページ範囲:P.609 - P.612

I.はじめに
 精神分裂病の予後についての研究は多いが,その対象はほとんどが入院した分裂病者にかぎられている。今回,1962年に群馬大学精神神経科を初診した分裂病者の予後調査をしたのは,以下のような理由による。
 1)通院治療のみで社会復帰している例が増加していて,精神分裂病の予後を知るには入院患者と外来通院患者(初診のみの患者を含めて)についての調査を必要とする。

家族を被害者とする被害妄想について—分裂病者における共同体感情の障害についての考察(Ⅱ)

著者: 小久保享郎

ページ範囲:P.613 - P.617

Ⅰ.序言
 精神分裂病を,病者の世界内存在における存在様式の変容という観点から考察するこころみは,今世紀の初頭からしだいに活発になつてきて最近にいたつては一種の流行ともいえる隆盛を示しているが,これが単なる一時的の流行にとどまるものでなく,従来の要素的心理学にもとづいた個々の症状の集積をになうものとしての病者の把握の不完全さから抜け出して,病者を統一的全体としてその本質的な存在構造に光をあてるこころみとして分裂病研究に新たな局面をきり開きつつあることはW. v. Baeyerの言をまつまでもなく正当な評価といえるのでなかろうか。このいわゆる人間学的な接近において問題の中心を占めるのは病者の共人間的なかかわりかたという側面であろう。
 われわれはさきに,嫉妬というきわめて人間くさい主題を中心として,その病的現われである嫉妬妄想をとおして共同体内での病者の存在様式の変容を論じた1)。すなわち,嫉妬妄想への過程は病者の「われ・なんじ」という両者的存在へのこころみの挫折であり,これを包括的に共同体感情としてみたときそれは負の方向への,いわば解体ともいうべき過程をたどることを示した。ところで,分裂病者において共人間的存在の核としての両者的存在はつねになんらかの変容を示すとしてもそれはかならずしも負の方向へと共同体感情の解休の過程をたどるとはかぎらない。

I. C. L. による分裂病家族の研究

著者: 望月晃

ページ範囲:P.618 - P.627

 I. C. Lの項目を利用して,寛解状態に達した分裂病患者とその家族成員(父親・母親・同胞)の相互理解のくいちがい,ずれ(両者を合わせて歪みと称する),不一致の内容について検討し,つぎの結果を得た。
 (1)分裂病患者は家族成員中では相互理解の歪みはだれに対してももつとも少なかった。
 (2)母親は家族成員中,もつとも相互理解の歪みが大きく,とくに同胞に比べて患者に対して歪みが大であつた。
 (3)父親は母親ほど顕著ではなかつたが,不一致の内容の検討から母親と同様に患者に対して歪みの大きいことが認められた。
 性別の検討では,父親は女子患者との関係が重要であることが推測された。
 (4)同胞は両親,とくに父親に対して相互理解の歪みが大きく,このことは家庭からの分離・独立の傾向を示しているのではないかと考えられた。
 さらに,項目の得点から家族単位の相互理解プロフィルをつくり,家族の類型化をこころみた結果,両極端の型を得たこれらをそれぞれ離散型,同化型と名づけたが,家族面接でつぎのような特徴があつた。
 (1)離散型は家族全体にまとまりがなく,成員相互が勝手に行動している状態で,相互理解にはなはだしく欠けていた。
 (2)同化型は一見すると成員相互の理解が一致しているようにみえるが,実際は成員おのおのの個性が問題にされていないと考えられた。
 (3)父親の相互理解プロフィルの特色から,対人態度に「常同的な硬さ」があることが推定された。

精神分裂病の精神症状評定尺度表の一試案

著者: 荒川直人 ,   後藤彰夫

ページ範囲:P.628 - P.632

I.はじめに
 精神分裂病に対する治療効果の検定,地域や時代の差による症状の変化,その他さまざまな問題に対処するにあたつて,精神症状をより客観的に,より標準化して判定したいという要請はますます緊要化している。国立病院精神神経科薬物療法共同研究班で,主として薬物療法の効果判定を目的として「精神分裂病の状態像変化判定尺度表」を製作したのでここに報告し,批判をあおぎたい。これはもちろん治療効果判定以外の多くの目的に対しても使用可能である。

痛覚失認の1例

著者: 三好暁光 ,   神谷重徳

ページ範囲:P.634 - P.640

I.はじめに
 痛覚失認Schmerzasymbolieの例はP. Schilder u. E. Stengelによつて1928年に初めて報告されている。その後,P. Schilder u. E. Stengel(1930,1931),O. Potzl u. E. Stengel(1936),R. Golant-Ratner(1937),J. L. Rubin & E. D. Friedmann(1948),H. Hécaenet L. de Ajuriaguerra(1952),E. Gilardone u. F. G. von Stockert(1955),E. A. Weinstein & R. L. Kahn(1950,1955),H. Hécaen(1952),G. Chavany,R. Messimy et A. Mazalton(1959)などの発表がみられるが例数は多くはない。わが国では浜中,東村の発表例(1966)がみられるのみである。われわれは最近,伝導失語の色彩をおびたWernicke失語の経過中にこの症状をきたした1例を経験したので報告する。

いわゆるナイトホスピタルの発展により発生する諸問題について

著者: 竹村堅次 ,   遠山哲夫

ページ範囲:P.645 - P.652

I.はじめに
 Night hospital(以下N. H.)は本来,夜間病院であつて,精神病院から退院可能な患者がつぎの段階に移るにあたり,就労しつつnight careを中心に治療を受ける形式である。わが国ではこの治療方式が制度化しないうちに,すでに7,8年来精神病院で院外作業がさかんになり,これを安易にN. H. とよぶ傾向がある。たしかに精神病院の一部で,昼間患者を院外で働かせ,これにnight careを行なうのも一種のN. H. といえないこともないが,正しくは井上1)のいうように外勤作業療法とよぶべきであろう。
 N. H. の定義とはべつに,この治療形式は定型化されない未完成の治療体制と多くの制約のもとでも,その効果が認められ,初期の報告2)以来現在まで多数の報告がある。しかし反面,これに伴うさまざまな問題も発生しつつあり,江副3),小林4)らは病院精神医学10年の歴史をふりかえつて,N. H. の正しい運営が行なわれなければ,将来その効果よりも弊害が多くなるだろうと警告している。

児童チックの治療についての研究—入院治療について

著者: 若林慎一郎 ,   梅垣弘

ページ範囲:P.653 - P.658

Ⅰ.序
 Kanner4)は,チックはけつして動機なしには起こらない。幸福で安定した子どもにはチックは生じないものである。チックは子どもがこうむる感情緊張と密接な関連を有し,また,チックの発生は親の厳格さや,子どもに対する不承認からかもし出される一般的緊張状態と密接な関連があると述べている。そして,児童における非器質性チックは,一般に心因性のものと考えられている。
 ところで,児童チックのなかには,症状が比較的単純かつかるく,なおりやすいものもあるが,精神科外来を訪れるもののなかには,症状が多彩かつ重篤で,きわめてなおりにくいものがある。名古屋大学児童精神科外来に受診した重症児童チックのうち,3例について入院治療を行なったので,その経験にもとづいて,児童チックの治療について考察をこころみた。

列車妨害についての犯罪心理学的研究の試み—精神薄弱の一側面としての非行を中心に

著者: 広瀬伸男 ,   高田紗智子

ページ範囲:P.661 - P.666

I.はじめに
 犯罪非行の問題は,精神医学,心理学,社会学などの接点に立つ重要な課題であり,これの業績はまさに汗牛充棟の感がある。しかしながら,列車妨害に関する系統的な研究もまた,焦眉の課題であり,この種の犯罪非行は原始的な意志の発動によるものであろうし,犯罪非行のUrmotivを考えるうえに恰好の資科と思われ,その特殊性は不特定多数を対象とし,直接に危害をこうむるのは人間ではなくて,動く軌道車という点である。しかもこの問題は,流動する社会背景,法理念のもとに罪状の重さにさして変容をきたさない点は放火と同様であり,Garofaloのいう自然犯罪に属するものである。したがつてわれわれは放弄火の研究に引続き,列車妨害について整理し,いささかの私見を述べたいと思う。

資料

立命館大学精神衛生相談室資料

著者: 石井翼 ,   佐々木隆三 ,   田中愛昭 ,   宮崎恭一 ,   秀平麗二郎 ,   石船昇

ページ範囲:P.667 - P.671

Ⅰ.序論
 近年,学生生活における「適応異常」の増加に伴い,大学生の精神衛生管理の問題が,活発に論じられるようになつた。
 昭和41年の第4回全国大学保健管理研究集会1)において,このテーマがとりあげられた。ここでは,身体疾患をも含めた健康管理の面から,この問題が研究され,とくに精神的不健康学生の早期発見のための,スクリーニングテストの開発が重要であるとされた。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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