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雑誌目次

論文

精神医学11巻1号

1969年01月発行

雑誌目次

第7回精神医学懇話会 精神科診療所をめぐる諸問題 主題提起

精神科診療所をめぐる諸問題

著者: 立津政順

ページ範囲:P.5 - P.5

 日本では,一方では研究・教育の病院が少なく,他方では全国的に精神科病床数が充足され,従来の形の精神病院の開設がとくに地方においては困難となつてきた。このような状況の下で,大学の若い教員室にその将来について希望をもたせ,学生の中から精神科志望者を多くひきつけるためにはいかにすべきかということについて,1966年の九州精神神経学会(鹿児島)のさい,西日本の大学の精神医学講座担当の教授が集まつて討議した。それに対する一つの方法として,精神科の小規模開業ということが考慮にあがった。そして,小規模開業方式には地域社会の住民と密着した精神医療,従来の大規模精神科とは異なつた働きが期待されること,精神科患者も急性患者として診療所でも治療さるべきであるということなどが論ぜられた。結果として,小規模開業方式の精神医療における必要性を明らかにし,診療所のありかたについての関係当局への要望書の草案の作製が私に任せられた。それ以来,このことに関し,熊本市に精神科・神経科診療所を開設している寺岡肇君の意見を求めてきたのであるが,問題は診療費など法規の改正に関するところにある。どして,要望の焦点を精神科だけの問題にしぼりきれず,要望書作製の任も果たせぬままこんにちにいたつている。そうしたところへ今回,医学書院の精神医学懇話会が診療所をめぐる諸問題をテーマとして取上げ,討論者になつてくれと私に要望がなされたしだい。

主題報告

大都市における精神療法診療所

著者: 箱崎総一

ページ範囲:P.6 - P.8

まえがき
 「小規模精神科開業方式についての個人レベルでの問題提起による討議」という今回の懇話会の主旨に基づいて,精神科診療所をめぐる諸問題につきご報告する。
 まず,筆者の経営する診療所のあらましはつぎのとおりである。

精神医療における精神科診療所の位置づけ—立津先生の質問の一端にお答えして

著者: 山越剛

ページ範囲:P.9 - P.11

 「わたしの村の患者さんや家の人に,この病気は"大学病院ニ行ツテ診テモライナサイ"と,すすめますと,わたしに一緒について行つてくれともうします。"大学病院ノ××先生ニ紹介状ヲ書イテアゲマスカラ"と話しますと,はじめて大学に受診する気になるようなことが,よくあるんですよ。」(ある保健婦さんの話し)。
 精神科診療所をめぐるいくつかの問題について,立津先生から頂いたご質問にお答えするため,群大精神科から精神病院を経て,現在診療所に関係する仲間(精神科診療所5,精神病院付属診療所1,総合病院の精神科外来担当1)があつまつて,何回か話しあつた。その要約として,この原稿を書いた。立津先生の6つのご質問のなかから,質問②の日本の精神医療において,診療所はなんらかの形の特徴ある,独自の機能を発揮できるだろうか。質問④の企業として成り立つていけるかの二つを中心として話をすすめたい。

夜間診療所の経験から

著者: 長坂五朗

ページ範囲:P.12 - P.18

I.はじめに
 ここ数年来,精神医療ということばが好んで用いられ,その代表的なものは,岡田靖雄編になる「精神医療」であろう。これには精神医療という概念の内包するすべてのものが盛りこまれたと見てよいかと思うが,このなかでは精神科診療所は出てこない。これに近いものはafter careの項で「外来」ということばであろう。わが国では,その存在があまりにも少ないため,少数の人が,精神科診療所(精神科検査所ではない)の必要性を主張しているにすぎない。このことは不毛のための未経験からする一つのair pocket的現象なのか,精神科診療所は不用と考えておられるのか,私には判らないところである。
 経験科学である医学において,あまり経験を持たない(私自身も決して豊富な経験者ではない)精神科診療所の諸問題が,次元の高いこの懇話会に,どれほどの資料と理論を提供しうるか,私は立津教授の質問文の序文とは別に危懼するものであるが,精神科診療所の不毛,不問がむしろ重要な意義を持っていると考えられ,今回論ぜられることが,次元の低い,非科学的な,あまりにも現実的,通俗的内容のものであろうと,このテーマがとりあげられたこと自体に大きな意義をみとめるのであつて,抽象的な観念論にならないことを私は希望したい。

ディスカッションの部

ページ範囲:P.19 - P.33

 新福 きよういらつしやつてるかたには,ご自分で診療所をもつて,たとえば精神療法を主としてやつておられるかた,あるいは脳波を主としてやられているかた,あるいはそのほかのことをやっていらつしやるかた,いろいろおありです。あるいはまた,診療所をおもちでないかたもおられると思います。
 そのほかに厚生省から海老原さん,国立公衆衛生院から西さんがみえていらつしやいますので,ご質問がありましたら,あとでご質問をいただきたいと思います。

研究と報告

酩酊の指標としての光眼輪筋反射

著者: 稲永和豊 ,   有川勝嘉 ,   向笠寛 ,   山本洋一

ページ範囲:P.34 - P.39

Ⅰ.緒言
 眼輪筋は視覚刺激に応じてきわめて迅速に収縮する。この反射は閾値がきわめて低く,高次の皮質反射に属するといわれている。この反射がすなわち視覚眼輪筋反射(visual orbicularis reflex)または瞬目反射(wink reflexであり,眼球を有害な外力から守る生理的反射である。このような視覚刺激に対する眼輪筋反射(orbicularis)oculi reflex)は診断学上よく知られていることであるが,この反射の神経生理学的基礎についてはほとんど研究されていないようである。われわれ1)は,さきに単一閃光刺激を与えることによって得られた光眼輪筋反射を観察し,意識水準との密接な関連性を述べた。本研究では,アルコール酩酊時にみられる意識水準の変化が,光眼輪筋反射(photopalpebral reflex)にどのように現われるかを知ろうとした。

13誤謬テスト

著者: 小西輝夫

ページ範囲:P.41 - P.44

I.はじめに
 精神器質性症状群(Psycho-organiches Syndrom)の補助診断のための神経心理学的なテストとして,L. Benderの視覚運動ゲシュタルトテスト(Visual Motor Gestalt Test)や,A. L. Bentonの視覚記銘検査(Visual Retention Test)が有名であり,またKraepelin連続加算テストやBourdon抹消testなどの精神作業テストも同じ目的にもちいられていることは周知のとおりである。さらにRorschach Testでも,Z. A. Piotrowskiのいわゆるorganic signが器質性精神病(organische Psychose)の補助診断指標として注目されているが,最近の知能テストや性格テストの進歩に比べると,頭記目的のためのテストはもつと研究されてよいと思う。
 とくに,最近の交通事故や労働災害や各種公害の増加は,精神器質性障害をも増加させる可能性があり,それに対する精神神経学的研究の必要性は今後ますます高まつてゆくものと思われるが,同時に,それに伴う補助診断方法の向上も期待される。

Tellenbach教授の宗教精神病理学への人間学的寄与—《妄想とメランコリーにおける宗教的基底作用の崩壊》の講演と討論

著者: 竹内直治 ,   竹内光子

ページ範囲:P.45 - P.50

 内因性精神病について,われわれが目をみはることの一つは,罪業妄想・宇宙妄想・使命妄想・恩寵妄想・救世主との同一化妄想などにおいて,日常的な世界の変化のみならず,すでに聖なる領域にまで及ぶ病者の世界全体が変化しているという事実である。K. Schneiderは《宗教精神病理学入門》(Zur Einführung in die Religionspsychopathologie,1928)のなかでこうした症例をたくさんあげている。Weitbrechtは伝統的な精神医学の立場を守りながら,症例を生活史的に深く掘りさげ,世界と人格と精神病との関連を考察した(Beitrage zur Religionspsychologie,1948)。またA. Storchは宇宙や聖なる世界に及ぶ分裂病者の精神生活について,発達心理学や民族心理学の立場から解釈した(Das archaisch-perimitive Erleben und Denken der Schizophrenen,1922)。さらにv. Baeyerは罪という限定されたテーマであるが,内因性精神病における罪の問題(Ein Fall von schizophrenem Schuldwahn. In:Psychopathologie heute,1962)を論じた。しかしこれらの論文をのぞけば,内因性精神病の宗教問題ととりくんだ論文はきわめて少ない。これは,神経症に関する精神療法学的研究が,神学との境界領域を顧慮してきたのとまつたく対照的である。S. FreudやC. G. Jungの宗教心理学的著作は,心理学が神学領域にはいりこむ契機となったが,Gebsattelの人間学的基礎に立つ精神療法学も,神経症について,超越世界との関連が決定的な重要性を占めることを論じたものであり,これに匹敵するような,つまり内因性精神病の発展の一根源として宗教問題を論じた確固たる視点はまだ発見されていないようである。

盲目患者における幻視の1例—平衡機能障害との関連において

著者: 杉本直人 ,   鈴木鉦一郎 ,   宮川健二

ページ範囲:P.53 - P.57

Ⅰ.緒論
 盲目状態において,幻視ないしは幻視様の体験のあることはAnton氏徴候を有する患者にしばしば出現する現象としてすでにかなりの報告がある。これらの症例では自己の盲目状態の否認ということと関連して,体験されている幻視像は視想起像であると結論されていることが多いようである。一般に幻視の出現機制については,脳視覚領の刺激症状であるとする説や,全体的な脳の機能状態を考えねばならぬとする説,願望などの心理的契機が考えられねばならぬとする説,さらには平衡機能との関連においても考えられるとする説など各学者の専門領域あるいは立場によつて種々の説明がなされている。
 視力を失い客観的な事物はなにもみえないなどの盲目状態において体験される視覚像(幻視)は,盲目であるという条件を考えるとき,視現象,視機能に関する生理学的,解剖学的,心理学的,精神病理学的な問題に関する好個の材料であるということができる。われわれは今回下垂体腫瘍のためほとんど全盲(右眼:視力なし。左眼:明暗の弁別程度)となつた患者に,幻視が突然出現し,そのため妄想状態となつた例を経験したので,その症状を報告し,同時に身体的所見ことに平衡機能との関連においてその症状を考察してみたい。

高校生の学校恐怖症—原因に関する考察

著者: 有岡巌 ,   勝山信房 ,   大海作夫 ,   中川治

ページ範囲:P.58 - P.63

I.はじめに
 われわれは,前回1) 中学・高校生の学校恐怖症例9例の所見にもとづき,本症の発症機転につき論じ,また,それを模式図をもちいて説明した。しかし,この検討は,学校恐怖症の根本的な要因に関するものではなかつた。
 本症の原因は,多くの著者はより,さまざまな立場から論ぜられてきたが,それらは大要つぎの3つに大別できよう。つまり,1)分離不安2)3)4)5)9)11)ないしそのvariant.2)対人関係の失敗10),および 3)非現実的・自己愛的なself-imageのおびやかされ8)である。

精神分裂病への集団精神療法のこころみ(そのⅢ)

著者: 阪本良男

ページ範囲:P.65 - P.69

I.はじめに
 精神力動的な精神分裂病の症状,理論,およびその治療に関しては,こんにちまで多くの研究がなされ,その研究者のとる立場により,いろいろの説がたてられている。しかし,これらの研究の多くは,その対象として,医者と患者との間の1対1の関係における会話,および患者の関係者からの会話を,治療者であり研究者である医師などが,さまざまな角度から解釈し,検討し,その理解を得ようとしたものである。そこには,いわば一種の特殊な環境においてつくり出された人工の場からの産物であるといえるものも含まれていると考えられる。すなわち,社会的人間としての患者の一面の姿しかとらえていない場合があるのである。しかし,妄想を有する患者は,その妄想を現実の世界のなかでひとりでつくりあげたというよりは,家族を含む社会のなかで,すなわち多くのさまざまな人間関係のなかでつくりあげたと考えられる。筆者は,上記の人工の場で語られたものよりも,現に症状を有し,またかつて有した患者の発言を,集団精神療法中からとらえることが,より患者の住む世界に近い時点で,現在,患者が感じ,また表現する,個々の体験をとらえることになると考えた。そこで,われわれは過去2年間行なつた精神分裂病に対する集団精神療法の経験から,二,三の話題をとりあげ,精神力動的にその意義について論じたい。

新眠剤Nitrazepamの臨床—臨床脳波所見について

著者: 矢幅義男 ,   土屋洋三 ,   田中正英

ページ範囲:P.71 - P.74

I.はじめに
 chlordiazepoxide,diazepamなど,benzodiazepine誘導体の脳波に及ぼす影響に関しては,Gibbsら3)などの論文を初めとして教多くの研究がなされ,入眠期に増強傾向を有する律動的低振幅速波の出現という一致した結論が示されている。ところで,1965 F. Hoffmann-La Roche社が開発したbenzodiazepine誘導体,nitrazepam(以下NTと略す)については,睡眠効果に関する臨床治験は枚挙にいとまがないものの,脳波に及ぼす影響に関しては睡眠効果を論ずる報告に少教例の脳波パターンの変化を付記するにとどまり4)12),これを主題として検討を加えた論文7)は少ない。
 そこで,著者らは神経精神科脳波室という臨床検査の場において,自然睡眠にはいりえなかつた症例から45例を無作為に抽出し,NT 10mgを投与してみた。そして,自然睡眠例とpentobalbital(以下PBと略)(Ravona)投与例のほぼ同数を対照群として選び,本剤の睡眠誘発の様相ならびに脳波に与える影響について検討を加えた。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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