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雑誌目次

論文

精神医学11巻10号

1969年10月発行

雑誌目次

展望

日内リズムの測定—精神疾患研究の1方法として

著者: 山下格 ,   諸治隆嗣

ページ範囲:P.748 - P.763

はしがき
 生命の流れには,さまざまなリズムがある。たとえば心臓の搏動はひとつのリズムである。われわれが朝に起きて働き,夜にやすむのも,1日を周期としたリズム活動にほかならない。婦人の月経周期も,ほぼ1カ月を単位とした生体のリズムといえる。極端なことをいうと,生まれおちてやがて青年に達し,新しい生命をはぐくみ,いつか年老いてゆく人間の一生も,くり返しのない一回かぎりの生命の律動とみなすこともできる。
 これらのリズムのうちでも,ほぼ1日24時間を周期とするリズム,すなわち日内リズム(circadian or diurnal rhythm,circa=about,dies=day)をもつ生体機能は,非常に数が多く,生命の維持に重要な役割をになつている。たとえば睡眠・覚醒のパターンにはじまつて,体温,尿量,血中や尿中の電解質,種々のホルモン分泌,各種の血球数,血沈,各種酵素活性,さらには肝の細胞分裂頻度,燐酸取り込み率,グリコーゲン含量などにいたるまで,外界の条件とは別に,身体内にあると想定される時間的変動の仕組み——しばしば象徴的に体内時計(biological clock)とよばれる——によって規制されていることが知られている。

研究と報告

刑法改正に関する私の意見 第3篇 保安処分の諸問題(その2)—保安処分

著者: 田村幸雄

ページ範囲:P.765 - P.772

Ⅰ.措置入院と保安処分
 精神衛生法(以下法と略記)の措置入院制度が適正に行なわれるのであれば,準備草案における保安処分の規定は不要となるはずである。なんとなれば,前者によつて精神障害者に対する保安の目的が十分に達せられるからである。
 法家は措置入院の実状や精神科医に対して,危惧と不信をもつているようにみえる。法務省刑事局が行なつた「保安処分に関する特別調査」によれば,(1)準備草案の意味の保安処分を認めたケースについて24.3%はなんら処置されていない。(2)たとえ,入院させてもその患者が危険で保安上の必要があるにもかかわらず,精神病院の都合で退院させられている。検察庁によつて,病院と連絡をとり危険な患者が早期に退院することのないように努力しているところもあるが,この手続きは法的根拠を持つているわけでない。法務総合研究所の調査によると,東京地方検察庁で取扱い精神病院収容の処置をとったもののうち,軽快または不完全のまま通院しているものは20%をこえるという1)2)

月経周期と関連した宗教的憑依妄想の1例について

著者: 前田利男 ,   内藤明彦

ページ範囲:P.773 - P.779

序文
 病的な宗教現象のなかで,とくに私たちの興味をひくものは,恍惚状態をともなつた憑依現象であろう。定型的な憑依状態では,一過性の人格変換が起こり,その信仰する神,霊,または狐などに相応する言動を行ない,幻聴,憑依妄想(または観念)が生ずるとされている。
 私たちは今回,このような宗教的な恍惚状態をともなつた憑依状態と同時に,またはその直後に,激しい色情的な恍惚状態を起こし,色情的な興奮や奇行を示しながら,関係妄想,被害妄想,心気妄想(または観念)をもち,しかもこの宗教的恍惚状態と色情的恍惚状態とが,月経周期と関連して発現するという1症例に接する機会をえたので,ここにその症例を報告し,若干の考察を行なつてみたい。

神経質者の家族関係

著者: 岩井寛 ,   大原健士郎 ,   小島洋

ページ範囲:P.781 - P.785

I.はじめに
 従来,森田療法では患者が訴える症状および過去における精神外傷を不問に付し,現実場面で患者が直面する状況での生きかたを重視する態度をとつてきた。また,森田1)は「神経質は,広義にいわば一種の神経ないし精神性変質症なり」というように,素質傾向に重点をおいている傾きがある。森田の神経質理論についてはヒポコンドリー性基調を素質的にもつた神経質者が精神交互作用の機制において「とらわれ」の状態にいたることによつて症状が発現するという考えかたが根底になつているが,これに対して土居2)は「とらわれた注意は神経質症状の成立を説明する鍵となるよりも,むしろそれ自体神経質症状の中核を形づくるものであり,その成立機転はべつに説明を求めねばならない」といい,新福3)は「とらわれや注意はなにも主体の自由なはたらきの結果ではなく,無意識的に規定された態度や環境条件などによるものであるから,それは客観的事実として客観的条件の布置からとらえられなければならない」としている。この点,たしかに従来の森田療法理論では成立機転の研究が不足していた傾きがあり,その機制の一端を知るために患者の成長史での状況とのかかわりあいを知ることはおおいに意のあるところであると信ずる。さらに患者と状況とのかかわりあいのうち,もつとも患者に影響を与えずにはおかないのが家族とのかかわりであり,以上の立場から私はこの研究にとりくむことにする。

二重盲検・Cross-over法による慢性精神分裂病に対するOxypertineとTrifluoperazineの薬効比較

著者: 融道男 ,   小林健一 ,   島薗安雄 ,   牧野一雄

ページ範囲:P.787 - P.796

Ⅰ.序論:oxypertineの生化学的特徴について
 近年生物学的活性アミンすなわちカテコールアミン(norepinephrine;NE,dopamine;DA,など)およびインドールアミン(serotonin;5-HT)に関しての研究が進み,脳内においてこれらのモノアミンが神経興奮の化学伝達物質あるいはそのmodulatorとして,acetylcholineなどとともに脳機能に重要な役割をはたしている可能性が検討されている。またこれらの脳内アミンの各種情動状態にともなう変動に関する知見も多くなると同時に今まで作用機序の不明であつた向精神薬のこれら脳内アミン代謝におよぼす影響も明らかになりつつある。たとえばいわゆる抗うつ剤は脳内のadrenergic receptorに働くNEの量を増加させることによりその作用をあらわし,リチウム塩はreceptorに働くNEの量を減少させることによつて躁状態を調整する作用をあらわす可能性が考えられている19)
 他方,1952年にOsmond and Smythies18)がmescalineによつてひきおこされる精神異常と精神分裂病との類似性ならびにmescalineとepinephrine(E)の構造上の類似性を指摘して以来(第1図),これらいわゆる精神異常惹起物質と生体内アミン代謝との関連性が追究されるようになつた。とくに代表的な精神異常惹起物質であるLSD-25ほかpsilocybin,bufotenin,N,N-dimethyltryptamineなどはいずれもその構造に5-HTと同じくインドール核をもつこと(第1図)から生体内でインドール核をもつ物質の代謝異常が多大の興味をよび,tryptophan,5-HTならびにその代謝産物が正常人および精神疾患をもつものについて追究されてきた。しかし14C-5-HTを用いた実験では精神分裂病と正常人との間に5-HT代謝に異常はみられなかつた反面,1-tryptophanを負荷した分裂病患者でtryptophan代謝の異常がみられたという報告もあり3)13),まだ一定した結論は得られていない。

Perazine dimalonate注射の臨床経験

著者: 諏訪克行 ,   石黒健夫 ,   宮本忠雄 ,   島薗安雄

ページ範囲:P.799 - P.808

Ⅰ.緒言
 Taxilan(BYK・グルデン・ロンバーク社)はpiperazine群に属するphenothiazine誘導体であるマロン酸ペラジンで,母核中に置換基はなく,側鎖にpropyl-piperazinyl-methyl基を有している。本剤の化学構造式は第1図に示すとおりである。
 本製剤は最初,制吐剤として用いられていたが,のちに精神疾患の治療にも使用されるようになつたもので,chlorpromazineやlevomepromazineに比べて副作用が少なく,外来患者にも用いられている。本剤についての詳細な研究報告は,1958年,Hippus3)ら,Nieschulz7)らによつて行なわれたが,その後も薬理作用,精神作用について多くの報告がある。動物実験による薬理作用としては,1)自律神経系には抑制的に働き,交感神経系に対する作用が強い。2)鎮静効果はあるが,反応能力には影響がない。3)通常量では血圧,体温への影響はほとんどないこと,などがあげられている。

資料

WHO第8回修正国際疾病分類について

著者: 加藤正明

ページ範囲:P.809 - P.827

まえがき
 WHOによる国際疾病分類International Classification of Disease(I. C. D.)は,戦後厚生省でも早くから死因統計に採用してきたが,どこの国でも評判がわるく一般に使用されていなかつた。今回の第8回修正I. C. D. は,作製まえから各国の意見を積極的にとり入れ,わが国にも再三コメントを要求してきた。精神疾患分類については,日本精神神経学会の用語統一委員会がこれに参与し,厚生統計協議会の専門委員として意見を述べてきた。
 第8回I. C. D. は1965年に採択され,次の1975年の修正までこれを積極的に検討することになつたが,アメリカ精神医学会は,そのDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disordersの第2版(1968)で,ごく一部を除いてI. C. D. の精神疾患に関する部分を承認した。またイギリスでも統計庁長官の医学用語および統計に関する審議会の精神疾患分類部会でほぼ承認され,A Glossary of Mental Disorders(1968)として出版された。その詳細についてはのちに各項目で述べるが,アングロサクソン系の概念がつよく反映しており,フランスはやつと1968年の暮にできるだけI. C. D.に近づけた仮案を国立衛生研究所が中心になつてまとめたが,その他の各国ではおのおの独自の分類を用いており,国際的水準ではもちろん,国内的水準でも統一されていない国が多い。

動き

D. H. クラーク報告書の抜萃と要約

著者: 加藤正明

ページ範囲:P.829 - P.832

 本誌に掲載されることになつていたクラーク博士(ケンブリッジのフルボーン病院長)のWHOへの報告「日本における地域精神衛生」があまりに長文のため,掲載が中止されたので,その抜萃を載せることにした。
 この報告は同博士が1967年11月より1968年2月までの3カ月間に,15の精神病院(公立7,私立8),7の精薄施設,5の精神衛生センターおよび児童相談所,5の大学クリニックなどを訪れたあとでの意見である。

紹介

外国における精神科専門医制度とその実態—イギリス篇

著者: 阿部和彦

ページ範囲:P.833 - P.838

 英国の専門医制度を紹介しそれを理解していただくためには,まず日本と英国の医療制度の主な相違点を述べておかねばなるまい。

ソヴィエトの臨床精神病理学(その1)—「経過」精神医学の立場

著者: 湯沢千尋

ページ範囲:P.839 - P.842

I.はじめに
 従来のソヴィエトの精神病理学はGiljarowski(1954),Slutschewski(1957)あるいはWinogradow(1963)などの教科書からもうかがえるように,Kraepelinの古典的ドイツ精神医学に基礎をおいたきわめて地味なものであつた。わずかに特徴といえば,催眠相(均等相,逆説相あるいは超逆説相),不活発な興奮相といつたPawlowの高次神経活動学説の概念を用いて,幻覚,妄想などの精神病理学的症状を病態生理学的に説明していることくらいなものである。
 ところが,近年のコルサコフ神経病理・精神医学雑誌をみると,多方面にわたる内因精神病の身体面の研究の前提として,きめの細かい臨床観察の必要性があらためて強調され,精神病理学的症状群の発展,合併,変化の法則性を疾病の「経過」において明らかにしようとする努力がなされ,それにもとづいて疾病の「経過型」の分類が行なわれている。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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