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雑誌目次

論文

精神医学11巻12号

1969年12月発行

雑誌目次

展望

精神分裂病の家族研究と家族精神療法の歴史

著者: 阪本良男

ページ範囲:P.940 - P.952

I.はじめに
 精神分裂病に関する家族研究と家族精神療法の最近の成果は,一面では精神分裂病の従来からの考え方に対する一つの挑戦の歴史であるといえるとともに,精神分裂病を内因性というよりも心因的な見方をし,また一方家族という,患者個人より,より大きな単位でこの疾患をとらえることにとり,精神障害に対する新たな面を浮彫りにしたと考えられる。
 精神分裂病の家族精神療法は,伝統的なこの疾患に関する個人的接近を,その個人のもつとも親しい人達,すなわち,家族への接近をも含めることで,疾患そのものを再考させざるをえなくするものであつた。同席(conjoint or unit)家族精神療法では家族全体を病気と考え,歴史的な従来の精神病理学的接近から,治療としての新たな面を導入したのみならず,精神分裂病に対する新たな病因論,および治療の見とおしを可能としたのである。

研究と報告

企業と精神科医の問題

著者: 小西輝夫

ページ範囲:P.953 - P.958

I.はじめに
 戦後,日本の精神医学界は,向精神薬の登場を初めとする多くの画期的な出来事を経験してきているが,精神科医の実践的活動領域が飛躍的に拡大したことも,そのひとつにかぞえてよいであろう。
 戦前,精神科医の活動範囲は,ほとんどが大学か精神病院にかぎられていた。いわば大衆とは縁の遠い,世俗を超越したような場所にしかいなかつたわけである。それが戦後になつて街の総合病院に進出し,児童相談所・少年鑑別所・家庭裁判所・精神衛生センターなどの公的機関にも,精神科医の存在は不可欠となつた。やがて精神科診療所も一般化し,大衆のあいだに根をおろした存在となる日も遠くはないであろう。

地区内精神障害者の把握に関する臨床統計的研究—1日調査の新しい工夫

著者: 佐藤壱三 ,   石川鉄夫 ,   関口哲 ,   清水哲 ,   立原タマ子

ページ範囲:P.959 - P.965

Ⅰ.いとぐち
 最近,地域精神医学の領域に関する研究は,しだいにその数を増加してきている。地域精神医学には,いくつかの重要課題があるが1)2),その一つである,地域に対する治療責任の問題を考究するにあたつては,病院の診療の実態の把握は,欠かせられない重大な課題である。
 従来の精神科病院(病院精神科)の診療実態の研究は,入院患者が中心となつてきているが3),これが,精神科疾患の特質上,常識的なことであつた4)5)。しかし,地域精神医学の進展とともに,病院の診療責任は,単に入院患者中心に終始するだけでは不十分ということになり,いわば地域と病院の接点ともいうべき,外来患者が,新たに比重を占めてきている,あるいは占めるべきである,という考えが当然強まつてくるわけである3)

交通事故運転者にみられた高度の逆行性健忘について

著者: 阪口起造

ページ範囲:P.967 - P.973

 2例の交通事故運転者にみられた高度のR. A. について述べた。いずれも同乗者があり,それぞれ3名と5名の小集団であるが,同一の事故集団のなかで運転者だけにR. A. の認められたことが興味深い。第1例は外傷3カ月後,第2例は1年後に受診したものであるが,神経学的,脳波的所見ならびに骨折状況からいわゆる記憶系ないし,記憶賦活系に損傷を考えうるが,一般にいわれているようにこれらの場合にも同乗者ことに助手席にいた者のほうが外傷の程度はおもく記憶系損傷の可能性を考えうるものもある。それにもかかわらず運転者だけに高度のR. A. を貽した点に問題があり,このことは運転者と同乗者との立場ないし責任などの相違にもとづくものと考えた。催眠により,第1例では完全に,第2例で事故当日をのぞいて記憶が復活再生され,ことに1例では衝突直前の情況まで復活したさいにカタルシスに相応した情動の不安状態が出現し,またこれを機縁に神経症様手指振戦も消失した。以上より,これら2例の運転者のR. A. について,衝突事故の責任に関連した精神的葛藤によつて記憶再生が抑圧されていたものと考察した。
 なお,一般頭部外傷患者のうち,R. A. のいちじるしい症例について検討した結果よりも,Russellの報告ほどP. T. A. との相関関係は認められず,コルサコフ様症状群を呈したものをのぞけば,交通事故でむしろ脳損傷が比較的かるいといわれている運転者,その他心因の明らかな症例に高度のR. A. が出現することを知り,このことも上記考察を裏づけるものと考えた。

刑法改正に関する私の意見 第4篇 みずからまねいた精神障害(その1)—アルコールと犯罪

著者: 田村幸雄

ページ範囲:P.975 - P.980

I.はじめに
 本編ではみずからまねいた精神障害のうち,アルコールによるものを主として述べる。アルコールと犯罪に関する統計は欧米にもわが国にも少なからずある。
 しかし,これらの統計より,アルコールが犯罪の原因にどのくらいの意義をもつかの判断は,よほど慎重に考えないと,統計の落とし穴におちいる危険がある。米,英,独,日におけるこれに関する統計を述べ,後,これらに関する考察を述べる。

精神科領域におけるAS-O2(Phenothiazine化合物)の使用経験

著者: 向笠寛 ,   小鳥居衷

ページ範囲:P.981 - P.990

I.はじめに
 精神科領域の特殊薬物療法においては,Phenothiazine系の薬物が主役をなし,現在もなお,あいついで新しい薬が登場している。われわれは最近新しいPhenothiazine化合物であるAS-O2(Kowa)をもちいて治療をこころみ,若干の知見を得たので,その使用経験をまとめて述べることとする。AS-O2は第1図に示すような構造式と化学名をもつ物質である。

分裂病様症状を呈する内因性精神病に対するDimetacrine(Istonil)の効果—新しい薬効検定方法のこころみ

著者: 木村敏

ページ範囲:P.991 - P.996

I.はじめに
 スイスのSiegfried社で開発され,日立化学株式会社からわれわれに提供されたDimetacrine(商品名Istonil以下Ist. と略す)は,主としてうつ病の治療にもちいられるThymoleptikaの一種であり,その臨床効果に関しては,著者自身のものをも含めて,すでに数篇の報告が公けにされている1)4)7)8)。それらの報告によれば,本剤のうつ病に対する臨床効果は,Imipraminのそれとほぼ同一の方向とスペクトルを有するものとされている。
 ところで,著者は以前からImipraminを初めとするいわゆるThymoleptikaが,狭義のうつ病以外の種々の内因性精神病,ことに妄想幻覚症状や意識障害が前景に出ているために,ふつう「精神分裂病」に含めて診断されている各種の病像に対しても,時としてきわめてすぐれた臨床効果を示しうることに注目してきた。そこで,さきに発表した本剤の臨床検定にさいしても,投与対象のなかに積極的にこの種の患者を含めてみたところ,やはり結果はきわめて良好であつた。すなわち,対象となつた全24例のうち,著効例8例中の2例,有効例9例中の6例までが,そのような「分裂病様」の症状を呈する患者だつたのである。

紹介

Harvard大学における精神医学教育

著者: 石塚幸雄 ,   米沢照夫 ,   山口隆 ,   阪本良男 ,   目黒克己

ページ範囲:P.997 - P.1005

I.はじめに
 本稿は米国精神医学の主流に位置し,全米主要大学医部学での精神医学教育の基本的な傾向を代表するとみなされるHarvard大学医学部の精神医学教育プログラムの内容を紹介しようとするものである。Harvard大学の精神医学教育は精神分析学的力動精神医学の基盤の上に立つことで知られている。しかし,その教育プログラムは神経生理学的研究,地域精神医学,身体療法,行動療法(behavioral therapy)その他の領域を広く包括することも特色となつている。
 筆者らはHarvard大学医学部精神科の教育病院の一つであるMassachusetts Mental Health Center(以下,MMHCと略称する)に学ぶ機会に恵まれ,力動精神医学にもとづく精神療法を中心とした精神医学教育を受けることができたので,その体験を通じてHarvard大学での精神医学教育について報告したい。

“精神医学の隆盛と危険”講演と論文選集

著者: 藤森英之

ページ範囲:P.1007 - P.1013

 著者Rumkeについてはここであらためて紹介するまでもないが,かれはオランダの碩学であるばかりでなく,実践的な臨床家でもあり,本書の表題は著者自身がUtrecht大学創立318年祭(1954年)に総長講演として公けにしたものである。
 この著作の内容は「精神医学の根本問題」,「臨床的研究への寄与」,「心理学および精神病理学への寄与」および「精神分裂病について」の4章からなつているが,ここでは従来この欄で行なわれた紹介の形式を踏襲しないことにした。それはRumke自身の精神医学の視界の広いことのほか,本書におさめられている各論述や講演は表題こそ違うが,それぞれのテーマの間に関連があるから,各項目をとりあげて詳しく跡づけることがかならずしもRumkeの精神医学の紹介に適しているとも思われないためである。したがつてこの紹介は本書のなかで主題的に論じられている問題の一端にかぎられる。

座談会

児童精神医学をめぐつて—精神科と小児科の間

著者: 上出弘之 ,   鈴木昌樹 ,   福山幸夫 ,   牧田清志 ,   長畑正道

ページ範囲:P.1014 - P.1028

 上出 きようはお忙しいところを,皆さんお集まりくださいまして,ありがとうございました。
 小児科の先生方と,精神科の医者が集まりまして,小児科と精神科の間に横たわる,いろいろな問題というものを,少し時間をかけて,話し合いたいと思います。

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精神医学 第11巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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