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文献詳細

雑誌文献

精神医学11巻12号

1969年12月発行

文献概要

研究と報告

交通事故運転者にみられた高度の逆行性健忘について

著者: 阪口起造1

所属機関: 1関西医科大学精神医学教室

ページ範囲:P.967 - P.973

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 2例の交通事故運転者にみられた高度のR. A. について述べた。いずれも同乗者があり,それぞれ3名と5名の小集団であるが,同一の事故集団のなかで運転者だけにR. A. の認められたことが興味深い。第1例は外傷3カ月後,第2例は1年後に受診したものであるが,神経学的,脳波的所見ならびに骨折状況からいわゆる記憶系ないし,記憶賦活系に損傷を考えうるが,一般にいわれているようにこれらの場合にも同乗者ことに助手席にいた者のほうが外傷の程度はおもく記憶系損傷の可能性を考えうるものもある。それにもかかわらず運転者だけに高度のR. A. を貽した点に問題があり,このことは運転者と同乗者との立場ないし責任などの相違にもとづくものと考えた。催眠により,第1例では完全に,第2例で事故当日をのぞいて記憶が復活再生され,ことに1例では衝突直前の情況まで復活したさいにカタルシスに相応した情動の不安状態が出現し,またこれを機縁に神経症様手指振戦も消失した。以上より,これら2例の運転者のR. A. について,衝突事故の責任に関連した精神的葛藤によつて記憶再生が抑圧されていたものと考察した。
 なお,一般頭部外傷患者のうち,R. A. のいちじるしい症例について検討した結果よりも,Russellの報告ほどP. T. A. との相関関係は認められず,コルサコフ様症状群を呈したものをのぞけば,交通事故でむしろ脳損傷が比較的かるいといわれている運転者,その他心因の明らかな症例に高度のR. A. が出現することを知り,このことも上記考察を裏づけるものと考えた。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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