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雑誌目次

論文

精神医学11巻4号

1969年04月発行

雑誌目次

展望

分裂病者に対する私の接しかた—診察室場面を中心にして

著者: 江熊要一

ページ範囲:P.235 - P.248

はじめに
 この小論は「展望」欄に掲載されるようなしろものではない。一つの課題について内外の諸文献を紹介し,それについての著者の批判,考察を加えるという形の論文ではないからである。
 私はこの10年間,入院している患者よりもむしろ病院外で生活している分裂病者といろいろな形で接してきた。退院した分裂病者の社会的適応の破綻を防ぐために通院などによる連絡持続,入院経験をさせないための種々な試み,家庭訪問,職場訪問,地域出張精神衛生相談で,役場や学校での面接あるいは放置されていた患者を保健婦さんとともに家庭訪問などという形で接してきた。

特別論文

日本精神病治療志(二)

著者: 金子準二

ページ範囲:P.249 - P.252

アニミスムスと夢
 アニミスムスを培い育てあげたのは,夢である。夢は日本の上古の人々のく(奇)しとすることであつた。それは「古事記」中つ巻の神武天皇(在位西紀前659-584)の東征にあたつて,天皇の軍が惑い伏した時,熊野の高倉下(たかくらじ)が横刀(たち)を献つた時,天皇がその横刀を獲しゆえを問いたまわつた時,高倉下は「夢の教えの如くに,あした(明・朝)に己が倉を見れば,まことに横刀ありき。故,この横刀をもちて献りにしこそ。」といつておるのでも,古代人の夢の評価が高かつたことがわかる。
 さらに崇神天皇(在位西紀前97-29)の御世に疫病の大流行があつた時,天皇が愁い歎いた,神床の夢に得た神告で,大物主命の崇りであると知つて,夢告のままに祭をすると,役(えやみ)の気ことごとくやみ,国安らかに平らいだと「古事記」にあるのでも上古に夢が占めた重要さは推しはかられる。

研究と報告

向精神薬大量療法によるヒステリーの治療—いわゆる薬物精神療法についての検討

著者: 中尾武久 ,   松下棟治 ,   藤井省三 ,   大熊輝雄

ページ範囲:P.253 - P.260

I.はじめに
 近年,向精神薬療法の発展はめざましく,各種の精神疾患の治療をいちじるしく前進させている。とくに,向精神薬を併用することにより,神経症の精神療法に要する時間と労力をかなり軽減できる場合も多くなつてきている。たとえば,Azima, H. 1)〜4)(1956〜1961),Margolin, M. はchlorpromazineと睡眠薬とを併用して一種の持続睡眠療法を行ない,これに精神分析的手法を加えて,かなり良好な結果を得ており,これを依存的療法anaclitic therapyと称した。わが国でも西園ら18)〜23)は大量のlevomepromazine(以下LPと略称)と睡眠薬を使用しながら,精神分析的手法をもちいて精神療法を行ない,これをanaclitic drug psychotherapyとよんでいる。
 また,懸田ら12)(1960)はLPを睡眠薬と併用し,躁うつ病,精神分裂病,精神病質人にもちい,その薬理学的効果を臨床的に報告し,矢部26)(1960)もglutethimide(Doriden)を主剤として,これにphenothiazine誘導体を併用した持続睡眠療法について報告している。

向精神薬の副作用に対する抗パーキンソン剤の効果—続効性trihexyphenidyl-HCl(アーテン-SR)について

著者: 大熊輝雄 ,   石野博志 ,   竹尾生気 ,   本池光雄

ページ範囲:P.265 - P.274

I.はじめに
 trihexyphenidyl-HCl(アーテン)は1949年にLederleの研究所で合成され,海外ではこのころから,わが国では1953年(昭和28年)ごろから臨床面にもちいられてきた。最初はもつぱら脳の器質性病変にもとづくパーキンソン症状群に対して使用され,その臨床効果が報告されている(Doshayら1949,Corbin 1949,Effronら1950,Doshayら1954,梅原ら1954,松永ら1957,田中1958,秋元ら1901,Burnsら1964)。
 しかし,その後,精神科領域にchlorpromazineその他の向精神薬が導入されて以来,とくにその大量療法の場合にパーキンソン症状群や自律神経症状などが随伴症状として出現することが多くなり(久保 1957,Ayd 1961),この不快な副作用の軽減および予防のためにも,この種の抗パーキンソン剤が使用されるようになつた。わが国でも,すでにbiperiden-HCl(森ら1964)やthioxanthene-HCl(後藤ら1966)などが,phenothiazine誘導体の投与によつて起こる錐体外路症状の治療に有効であることが報告されている。しかし著者らが調べたかぎりでは,本邦では向精神薬療法のさいに出現する副作用に対してtrihexyphenidyl-HCl(アーテン,以下THPと略称)がかなり広くもちいられているにもかかわらず,その効果の詳細な検討の結果はいまだ報告されていないようである。

躁うつ病に対する炭酸リチウムの使用経験(第1報)—予防効果について

著者: 伊藤耕三 ,   山崎晃資 ,   伊藤直樹 ,   加藤博明 ,   諸治隆嗣 ,   山下格

ページ範囲:P.275 - P.281

I.はじめに
 最近,種々の向精神薬の開発により躁うつ病に対する薬剤療法の効果がたかめられているが,なお周期的な増悪や再発を十分に制止しうるまでにはいたつていない。リチウムによる躁状態の治療効果はかなり以前より報告されているが,わが国における治験は少ない13)20)
 またこれまでに治験1)2)11)14)17)22)23)28)35)されたものの大部分は,リチウムのもつ治療効果に主眼がおかれていたが,最近Baastrup1)らは,多数の躁うつ病患者を対象として炭酸リチウムの長年月にわたる投与を行ない,経過を観察した結果,リチウムには単に躁状態に対する治療効果だけではなく,躁うつ両周期の発現を制止し再発を予防する作用を有していることを発表して注目をあびている。われわれもこれまでの報告にもとづき,炭酸リチウムの躁うつ病に対する治療効果だけではなく,その予防効果について追求する目的で検討をこころみた。治験は昭和42年6月より開始され,約1年間の治験成績および症状推移に興味ある結果が得られたのでここに報告する。

二重盲検法によるthiothixeneとperphenazineの精神分裂病に対する薬効比較

著者: 伊藤斉 ,   三浦貞則 ,   浅井昌弘 ,   平野正治 ,   村瀬寛 ,   田代巌 ,   一ノ渡尚道 ,   上島国利 ,   荻田和宏 ,   片山義郎 ,   増田邦夫 ,   桜井俊介

ページ範囲:P.284 - P.296

Ⅰ.まえがき
 Thiothixeneは米国のPfizer社で合成された薬剤でその化学構造式は第1図に示されるように,thioxanthene核の(2)の位置にdimethyl-sulfonamid基による置換が,そして(9)の位置に2重結合によって(4-methyl-1-piperazinyl)propylideneの長い側鎖をもつている(第1図参照)。また構造の上からは私どもが臨床で用いているchlorprothixene,thioproperazine,perazineに類似しており,内外の多くの臨床治験によりこれらの薬剤と同様強力な抗精神病作用を有し,とくに著しい賦活効果をもたらし,主として精神分裂病患者の感情鈍麻や内閉性を改善し,意欲的な活動性をたかめるとされている。
 勿論これに先立つて薬理作用,急性毒性,亜急性および慢性毒性,催奇形性などについて詳細な基礎実験が積まれており,薬理作用の強力な点,および毒性の低い点が他剤との比較で指摘されており,多数の臨床報告を加えてFDAへ提出された資料を精読した限りではすぐれたpotencyの高いmajor tranquilizerであるとの印象を得た。

Thiothixeneによる精神分裂病(急性および慢性)ならびに躁うつ病の治療経験

著者: 島薗安雄 ,   高見沢ミサ ,   土屋健二 ,   小林暉佳 ,   長尾佳子 ,   融道男

ページ範囲:P.297 - P.308

 (1)Thiothixene錠を躁うつ病8例(躁状態3例,うつ状態5例),急性精神分裂病6例,慢性精神分裂病49例(体験保持型15例,欠陥荒廃型34例)にもちい,躁状態3例中3例,うつ状態5例中4例,急性精神分裂病6例中6例,慢性精神分裂病体験保持型15例中11例,欠陥荒廃型34例中25例に「やや改善」以上の症状の改善をみた。
 (2)初回投与量は5〜30mg(平均10mg),最大用量の平均は48mg,症状改善の発現時の使用量の平均値は22mgであつた。ほとんどすべての症例で,塩酸promethazine,trihexyphenidyl,biperidenなどの抗パーキンソン製剤を併用した。
 (3)投与期間は3〜20週(平均12週)であり,症状改善の発現時期は,1週間以内18例,1〜2週間23例で,改善の認められた例の84%で2週間以内に主症状の改善がみられた。
 (4)改善された症状としては,不安と焦躁,抑うつ症状,疎通・接触障害,好褥,精神運動興奮,衝奇,自我障害,関係念慮,幻聴,食欲不振,不眠,頭痛などがあげられ,自閉,感情鈍麻,児戯的爽快,無為などの症状は改善されにくかつた。
 (5)主として錐体外路系の副作用が42.8%にあたる27例にみられ,手指振戦(16例),akathisia(9例),筋硬直(4例)が多かつた。これらの副作用は他の類似構造をもつ向精神薬に比べ,程度も持続も強いものではなく,治療を中断するほどのものではなかつた。血圧,尿所見,血液所見,血清肝機能検査について投薬前後の値を比較検討した。

資料

大学における精神医学卒業後教育の現状

著者: 融道男 ,   中根晃

ページ範囲:P.309 - P.315

Ⅰ アンケート
 昭和43年3月長崎において開かれた全国大学精神科医局長会議の席上,全国の大学精神神経科教室における卒業後(入局後)教育が話題となり,実情を調査することが決められた。われわれの教室でその仕事をまとめるように依頼されたので,下記のようなアンケートを作成して調査を行なうことにし,全国46大学精神科医局長あてに送付した。

大学生医学教育における精神医学の動向について

著者: 室伏君士

ページ範囲:P.317 - P.323

はじめに
 この数年来,わが国の医学教育制度は,改革の大きな試練の前に立たされている。しかもその特色は,医学の発展に伴うその教育の進歩の本質からよりも,むしろその積弊の制度の体系を改革しようとする意図からのものであり,また医学教育の基盤となるundergraduateの教育からではなく,実地修練や実践にかかわるgraduateあるいはpostgraduateの側面からのものである点にあろう。このような風潮の中にあつて,われわれ医学生の教育にたずさわるものは,その中に潜在するundergraduateの教育についても,マンネリ化しやすい制度の実状をふりかえりみすえつつ,日進月歩の近代医学の進歩に照らして,これからの医学教育に通ずるあり方を認識していなければならないと思う。精神医学におけるundergraduate educationもまさにその例に洩れないものである。いうまでもなくundergraduateの教育は,graduateおよびpostgraduateの教育の3者の中での一環として考えらるべきものであるが,現在,ともすればかげにまわりがちのこのundergraduateの精神医学の教育について,諸外国の動向と,わが国の実情を考えあわせて述べてみるが,そこに生れるものが,読むひとの考えの一助ともなれば,意味あることと考える。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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