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雑誌詳細

文献概要

特集 心気症をめぐつて 第5回日本精神病理・精神療法学会大会シンポジウムより 主題演者

セネストパチーについて—長期観察例から

著者: 小池淳1 工藤義雄2

所属機関: 1小曽根病院 2大阪警察病院

ページ範囲:P.358 - P.361

I.まえがき
 ヒポコンドリーを,身体に関する過度の病的関心であるとするならば,大半は神経症的構造を有する病者にみられるものである。すなわち,精神衰弱的素質の上に作りあげられた不安,病や死への恐れ,また強迫観念が,ヒポコンドリーの病理構造として考えられる。分裂病者,ときにはうつ病者においては,その自己身体に関する偏見は確信にまで強められ,妄想構造を形成するにいたる。すなわち心気妄想であり,否定妄想であり,つきもの妄想である。うつ病者の心気的訴えは,抑うつ感情が,その基本構造と考えられるのは周知のことである。
 これから論ずるセネストパチーも,身体に関するある種の病的関心のありかたという意味で,ヒポコンドリーと称することができるが,前三者と異なり,病理構造として,不安あるいは恐れでもなく,明確な妄想でもなく,抑うつ感情でもない。またセネストパチーの臨床上の特徴としては,自己身体の異常をperceptionの異常として体験する点であろう。その訴えは奇妙で,われわれの追体験を許さない内容であるため,分裂病者の幻覚,あるいは妄想観念を思わせるのであるが,くわしく彼らの体験を語らせてみると,奇妙な表現は単なる比喩であることが多く,体験そのものは,初めて経験する,ありありとした実体的な感覚であり,表現するのがきわめて困難な感覚であることがわかる。

掲載雑誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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