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雑誌目次

雑誌文献

精神医学11巻6号

1969年06月発行

雑誌目次

展望

病院精神医学の課題

著者: 小林八郎

ページ範囲:P.420 - P.434

はじめに
 日本の精神病院の特徴は,施設数では私立精神病院が全精神病院の80.7%(昭和43年6月現在施設総数1277のうち私立施設1,030)を占め,入院患者数では全入院患者の86.2%(全入院患者数231,525,うち私立施設199,682——以上厚生省精神衛生課調べ)が私立精神病院に収容されており,公的病院の役割の非常に低いことである。
 大学病院や総合病院の神経科の多くは公的病院に属しているが,それらの受けもつ患者は,数的には微々たるものであり,疾患や状態像にも限定がある。これに対して精神病院は,重症のもの,慢性のもの,手のかかるものを差別なくひき受けている。これらの分野が病院精神医学の対象である。

研究と報告

出眠時の実体的意識性の妄想性発展

著者: 西山詮

ページ範囲:P.435 - P.440

 脳炎後遺症性のナルコレプシーにおいて,その出眠時の実体的意識性から被害妄想が発展する場合を例示して若干の考察を行なつた。
 ナルコレプシーの幻覚が観念的空間における夢幻的妄想に発展する場合についてはすでに知られているが,われわれの症例の場合,幻覚妄想性精神病は出眠時の実体的意識性にひきつづいて発生し,これと内容的に関連をもち,夢幻状態を基盤として広く生活に浸透した点で特徴的である。さらに,こうして現実世界に定着した被害妄想が,現在も痕跡的に証明される夢幻状態を基礎としてその命脈をたもつているのである。
 実体的意識性がこのように幻覚妄想性の精神病に発展することはけつしてまれでない。これについては,実体的意識性そのものにすでに幻覚および妄想の本質的契機が含まれていることを指摘した。

意識解体よりみた無動性緘黙について

著者: 浜中淑彦 ,   田原明夫 ,   池村義明 ,   大橋博司

ページ範囲:P.441 - P.448

 錯視・動物幻視より幻覚妄想状態へと興味ある回復過程をたどつた無動性絨黙の臨床例を報告し,その意識様態をH. Eyの意識野の解体論の立場より明確化せんとこころみ,同時にEyの見解に含まれる若干の問題点にふれた。

脳萎縮に伴つたヒステリーの4症例

著者: 大月三郎 ,   細川清 ,   中村善信 ,   平田潤一郎 ,   石垣一彦 ,   江原嵩

ページ範囲:P.449 - P.456

 運動障害,知覚障害,けいれんなどの顕著な神経症状を示したヒステリーにおいて,気脳写によつて側脳室,第Ⅲ脳室ともに拡大を認め,その他の脳器質徴候のほとんど認められなかつた4症例を報告した。
 これらの症例における共通した特徴は,病前はさほどヒステリー性格を示さず,なんらかの脳障害を起こす可能性のある既往歴を有し,共通した症状としては表情の鈍さと漠然とした心気的訴えを示し,脳波所見では特異的なものはないが,軽微な異常所見を示すことなどである。
 これら症例における脳室系拡大は,その周辺部の脳萎縮を示すものと考えられ,とくに第Ⅲ脳室周辺の間脳障害がヒステリー症状に関与しているものと推定した。

陳旧精神分裂病に対する薬剤療法の意義に関する検討(第2報)—Chlorpromazineとの比較における各種薬剤の効果およびその特性について

著者: 諏訪望 ,   伊藤耕三 ,   山下格 ,   岡田文彦 ,   小熊士郎

ページ範囲:P.457 - P.464

I.はじめに
 現在日常の診療において,陳旧精神分裂病に対する向精神薬の使用はかなり漫然と行なわれているのが一般の傾向である。しかし第1報2)で述べたごとく実際に投薬中止とか,偽剤をもちいた実験では,薬剤の効果が意外に大きいことが明らかになつている。それならばつぎにはたして現に使用している薬剤が患者に対してもつとも有効なものであるだろうかという点の検討が必要になつてくる。非常に数多くの向精神薬が使用されている現状においては,実際にどの薬剤を使用したらよいのか選択に苦しむことが多い。そこで陳旧精神分裂病に対する各種薬剤の効果や特性を調べる目的でつぎのごとき実験を行なつた。

二重盲験法によるdibenzothiazepine誘導体(clothiapine=W-130)とphenothiazine誘導体(perphenazine)の精神分裂病に対する薬効比較

著者: 伊藤斉 ,   岡本正夫 ,   三浦貞則 ,   鈴木恵晴 ,   武正建一 ,   茂田優 ,   望月延泰 ,   八木剛平 ,   浅香富允

ページ範囲:P.465 - P.475

Ⅰ.まえがき
 Phenothiazine誘導体,reserpine,thioxanthene誘導体,butyrophenone誘導体など各種の強力精神安定剤が精神分裂病に対する薬物療法に応用されているが,最近上記の誘導体に属さない化学構造を有する薬剤で強力精神安定剤としての作用を有するものが開発されている。
 Clothiapineはその1つで製剤名をW-130と仮称し,化学的には新しい型のtricyclic dibenzothiazepine誘導体に属す。類似の化合物にdibenzodiazepine誘導体であるdibenzepin(Noveril)があり抗うつ剤として知られている。Clothiapineは動物で,いちじるしい自発運動の抑制,カタレプシー作用および抗アポモルフィン作用を示し,行動薬理のうえからはchlorpromazineとhaloperidolないしはperphenazineとの間に位置するようなneurolepticaではないかといわれている1)。また各種動物をもちいた急性毒性試験ではLD50は従来の向精神薬と比較して高い毒性は示しておらず,亜急性および慢性毒性試験,催奇形成試験でも安全性が確認さている。

動き

精神障害者家族会の動向

著者: 竹村堅次

ページ範囲:P.481 - P.487

はじめに
 編集部から家族会の動きについて書くようにと依頼されたのが今年の初めである。世話役としての立場から,家族会の動きに対し,その推移,批判,展望などを2月いつぱいの締切りで,というのである。たしかに家族会のことは専門誌に中間報告しておいてよい時期であると思う。そこで私は一応これをおひき受けしたが,実はそのときまでに私は全家連(全国精神障害者家族連合会)の相談役のひとりとして,家族会が今後どうあるべきかについて他の3人の相談役(加藤伸勝,岡庭武,矢野和之の各氏)や数人の熱心な家族会運動支持者とともに,真剣に討議しつつあつたのである。家族会の活動は5年目にはいろうとしているが,過去の全国にわたる燎原の火のような伸びひろがりを点検し,正しい運動の発展方向を見定めるべきときではないだろうか。またそうしなければならないほどのある種の混乱もみられるのではないだろうか。家族会運動が注目され,期待もされるだけに是非われわれの意見を討議のなかからまとめてみる必要がありそうだ。そんな考えで昨年後半から実際に全家連の常務理事の方々と数回にわたつて話合つたりもした。
 ちようど3月は年度がわりで,全家連の新年度の動きもはつきりするだろうと考え,また各地域別の家族会のようすを知るために,もう少し時間が欲しかつたので,締切りを3月まで延ばしてもらつた。

資料

東京都における精神医療と診療圏について—地域精神医学的考察

著者: 菅又淳 ,   榎本稔 ,   小林春江 ,   丸山はつみ ,   三輸和恵

ページ範囲:P.489 - P.495

I.はじめに
 精神医療が入院治療中心から外来通院治療へ,さらに地域の精神衛生へと,その思潮が拡大されるに従い,堆域社会と病院との関連が大きな問題になつてくる。人口移動が少なく比較的閉鎖された農山村地帯と,交通機慶が発達し,人口移動のいちじるしい広範囲の大都市圏とでは,入院および外来の患者の動態はいちじるしく異なり,その診療圏はまつたく別の様相を呈している。岩佐1)は「診療圏とは受診活動が他の範囲と場所的に区画されて,同質的な共通性を持つて行なわれている範囲である」と定義し,「診療圏は医療施設とそれを利用する患者との空間的な場所関係を規定する概念であるから,それは対象となつている医療施設の特性のみによつて規制されるものではなく,その地域の地理的条件や人口分布,文化,経済,交通事情等々,自然的,人文的諸要因によつて強く影響されるだけでなく,周囲にある他の医療施設との関連によつて形成されるものである」と述べている。さらに岩佐は昭和30年の厚生省の診療圏調査をもとに,診療圏の特徴は病院の種別によつて異なり,診療圏の大きさはその拡がりと深度との関連において把握する必要があり,その指標として,患者の半数が含まれる範囲である中央値と,90%値が考えられると述べている。第1表は精神病院と一般病院との比較であるが,中央値,90%値とも精神病院の方が大きく,2倍以上にもなっている。すなわち診療圏は大きく拡がつている。第1図は山口県の病院別の入院患者時間距離別分布であるが,精神病院の場合,深度も浅く,拡がりは富士の裾野のようになだらかに延びている。

精神科医療体系のなかでの総合病院精神神経科の役割(第2報)

著者: 工藤義雄

ページ範囲:P.497 - P.501

Ⅰ.まえがき
 総合病院の精神神経科は,近年,精神科医療の第一線機関として,精神病院,大学付属病院精神神経科とともにその機能が重要視されてきた。1)〜6)
 そのため,最近は,都市,地方を問わず,精神神経科を新設する総合病院が漸増する傾向にある。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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