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雑誌目次

雑誌文献

精神医学11巻7号

1969年07月発行

雑誌目次

座談会 精神医学の社会的実践の問題

主に保健所活動の現況と将来への希望

著者: 西尾友三郎 ,   江副勉 ,   竹村堅次 ,   岡部宗雄 ,   増田陸郎 ,   清水寛 ,   伊藤茂 ,   目黒克己

ページ範囲:P.508 - P.525

 この座談会「精神医学の社会的実践の問題」は焦点を公衆衛生の中でとくに保健所に置き,精神衛生問題の複雑さと困難さ,あるいは将来の展望について厚生省より2人,保健所より3人,精神科より3人出席願い論じてもらつた。なお関連記事としては「医療における精神科の役副」(Vol. 10,No. 11,1968),「精神科診療所をめぐる諸問題」(Vol. 11,No. 1,1969)がある。

あとがき

著者: 西尾友三郎

ページ範囲:P.525 - P.525

 この座談会のテーマ自体についてすでにいろいろの批判もあろうかと思う。しかしなんとしても茫とした題で結局副題をつけざるをえなくなつた。もつとも事前に参加の先生方を決める段階ですでにこのような内容となることが運命づけられていたともいえよう。また「精神医学の……」ということであつたが,実際には精神病にピントが向いてしまつたことも,本座談会の特徴となつてしまつた。厚生省の2先生の発言のおかげで話題が東京都というかぎられた地域のみではなく,やや普遍的になつたのであるが,それにしても日本の一部分である東京都の,それもまたかぎられた保健所の先生方の話が主となつたことについて異論も出るかとも考えられる。ともあれ3人の保健行政家としてのベテラン先生は随所に経験から滲み出るような名言,苦言をはさまれ筆者などには示唆されることが少なくなかつた。従来精神科臨床医はともするとマクロ的視野をとる立場を忘れがちであるがたとえば保健行政的に考えるにしても,往時の結核対策をすぐ精神病対策に翻訳できるものではない。これは本文でも一部ふれられていることである。また従来の保健行政の方法論的基盤には必要当該者の登録制度があげられよう。本年2月ごろ警察庁は,精神病者は兇悪犯罪をやることが多い,兇悪犯は精神病者が多いと国民に思い込ませるような発表をした。警察でも本気でそう思つているとすればとんでもないデータの読み違いである。このようなことはいまさら始まつたことではないが,このような低い理解度こそ前保健行政的問題点であろう。したがつてもし精神病者の登録制度などを安易に認めればまのぬけた犯罪捜査の片棒をかつぐのみならず,保健所の意図は消しとんでしまうであろう。精神科医療には縦横に入りくんだ操作がまだまだあるのであるが,本誌でも今後逐次とりあげたいものである。

研究と報告

Neuro-Behçet症候群の精神症状—とくに幻覚妄想状態を呈した6例について

著者: 緑川隆 ,   十束支朗 ,   松本胖 ,   横田茂

ページ範囲:P.526 - P.534

I.はじめに
 Behçet病は口腔潰瘍,陰部潰瘍および虹彩ブドウ膜炎を三主徴とする慢性かつ再発性の疾患であるが,これら三主徴のほかに心血管,消化管,中枢神経系などに重大な病変がしばしば合併することが知られている。なかでも中枢神経組織における病変の合併(Cavara & D′Ermo5)のいわゆるNeuro-Behçet症候群)は古くから指摘され2)9),近年にいたりその高い出現率と多彩な精神神経症状の出現により,神経科医にも強い関心がはらわれるようになつた。
 しかし,従来Neuro-Behçet症候群の研究は臨床神経学的3)6)17)20)23)24)および神経病理学的側面10)〜13)25)26),からの報告が散見されるが,精神医学的な面からとりあげられた報告はわずか一,二28)32)にすぎない。本症候群は多彩かつ複雑な神経症状を有しながらも,その経過中にいちじるしい精神症状の出現をみることは,長期間にわたつて患者を観察した場合にはけつしてまれではない。

書字の際に顕著な反復傾向を示した側頭葉腫瘍の1例

著者: 鳥居方策 ,   大岸敬明

ページ範囲:P.537 - P.542

 書字における顕著な反復症状を示した脳腫瘍の1剖検例を報告した。
 患者は右利きの男の会社員で,44歳の時,てんかん発作(精神発作および自動発作)をもつて発病し,49歳になつて比較的急激に頭痛,嘔吐,左片麻痺,左側同名半盲,意識障害などの症状を呈して入院した。検査の結果,右の側頭葉に腫瘍のあることが判り手術を受けたが,剔出は不能で全経過約5年で死亡した。入院後,意識障害の軽度な時期に認められたおもな精神症状ないしは脳病理学的所見は,周囲に対する無関心,多幸的・楽天的気分,先見当,記銘および記憶の障害,高度の失算,健忘失語,仮性同時失認,保続および滞続症状,ならびに書字などにおける著明な反復傾向であつた。反復傾向は話し言葉や普通の動作にはほとんど認められず,書字などにさいしてのみ顕著に現われたことが特徴的である。剖検の結果,右の側頭葉中部および後部に巨大な腫瘍が認められ,右の側頭葉の大部分,頭頂葉と後頭葉の一部,右の大脳基底核の大部分とその周囲の白質,視床の一部などが壊死または軟化に陥つていた。
 本症例を中心に種々の反復症状について臨床病理学的考察をおこない,本症例の書字障害と失書との関係について若干言及した。

自閉症児の学校教育についての研究

著者: 若林慎一郎 ,   石井高明

ページ範囲:P.543 - P.549

I.はじめに
 最近十数年来,児童精神医学の領域においては,自閉症児についての論議が活発になされてきたが,同時にまた自閉症児の処遇の問題も,親の会やマスコミなどにより社会的な問題として大きくとりあげられるようになつてきた。
 この間,われわれ児童精神科医が扱つてきた自閉症児達のなかには,小学校就学年齢に達したり,または,実際に就学しているものもかなりあり,これら自閉症児の学校教育の問題が検討されなければならない時期にきているものと考えられる。

薬物依存的な医師・患者関係—長期服薬本位神経症患者の調査から

著者: 小此木啓吾 ,   延島信也 ,   岩崎徹也 ,   鈴木敏生 ,   北田穣之介 ,   川上伸二

ページ範囲:P.550 - P.556

Ⅰ.まえがき
 現代の神経症治療では,薬物療法が重要な役割をはたしているが,それと同時に,適切な病気理解と治療理解を患者に与え,患者が自分の病気に対して適切な態度をとれるような精神療法的はたらきかけが与えられねばならない。そして,投薬および服薬という,現代医療にとつてもつとも日常的でしかも一般的な医師・患者の交流様式も,精神療法的見地から再構成されなければならない。ところが実際の診療状況では,さまざまの現実的制約が,このような意味での理想的な神経症治療の実践を妨げているのも否定しがたい事実である。たとえば現行医療制度は,服薬が患者の病気治療にとつて,どのような位置づけにあるかについて,われわれが患者に納得のゆく説明を与える十分な時間をとることを許さない。そしてわれわれは,精神的な交流やはたらきかけの必要を痛感しながらも,そのための現実的なゆとりを得られない無力感や焦躁感に苦しみ,この矛盾からの救いを投薬にみいだそうとする。ところが,神経症患者の半数以上のものは,身体的な訴えを主とし,その結果自らも「身体的な病気ではないか」との疑問や不安をいだいているために,身体的な治療を受けることで満足し,精神面へのはたらきかけには,抵抗を示すものが多い。まして投薬と服薬が患者の不安を軽減し対症療法的な効果をもたらす場合には,われわれはそれによつて医師としての役割意識を満たし,患者も医師への期待が満たされるために,医師・患者は,ともに精神療法的な交流から疎外したかたちでの相互的充足と安心をみいだすことができる。

Butyrophenon系薬物による向精神薬大量療法—Spiroperidolによる経験の検討

著者: 吉川武彦 ,   中村征一郎 ,   根岸敬矩 ,   関谷信平 ,   米沢洋介 ,   亀井清安 ,   浅川守胤

ページ範囲:P.557 - P.563

I.はじめに
 向精神薬の出現は,精神科の治療体系を大きく変えたが,これらの向精神薬による治療自体の体系化は,いまだに十分行なわれているとはいえない。向精神薬十数年の歴史のなかに登場したかずかずの薬剤は,その臨床的な使用方法があらゆる分野にわたつて十分検討される以前に消えていつた。
 われわれは,精神科治療体系のなかの薬物の位置,および,それらのもつ意味を問い,また,向精神薬の治療体系化6)を行なうなかで,大量療法の意義を認め,これらの完成化をこころみてきた5)。すでに報告したようにphenothiazlne系薬物では,chlorpromazine,trifluopromazine,perazine,trifluoperazine,thioridazineについてこれをこころみ,大量療法は
 1)(精神科薬物の大量投与による治療が)維持量,ないしは普通量投与による治療との連続性はあるにせよ,その意義が異なるものと考えられること,
 2)大量療法により,個体は生理的・心理的退行をみせ,個体が未統合の状態におちいること,
 3)精神療法的接近を初め,あらゆる治療的操作を加えつつ,この未統合状態を統合へと発展させる,ことにあるとした。

動き

米国の麻薬中毒治療施設について

著者: 広瀬徹也

ページ範囲:P.565 - P.568

はじめに
 米国の麻薬中毒問題は一見LSDや大麻の流行の陰に隠れているようではあるが,依然として深刻な社会問題となつている。全米の中毒者の半数を占めるニューヨーク市の統計に表れた数字を眺めただけでも,1964年から1966年までの3年間に32,030人の麻薬中毒者が新たに登録されている状態である。これに対し政府や州でも真剣に対策を講じているが,一方では麻薬中毒の薬物治療等の進歩により,治療システムにも大きな変化がもたらされている。
 筆者は日米科学協力事業の「麻薬およびその他薬物乱用に関する臨床研究班」からの交換研究員として,昭和43年2月より7月までの約5カ月間ニューヨークに滞在し,主としてマンハッタン州立病院の麻薬中毒部に属し,麻薬中毒患者の治療に携る機会を得た。またその間ニューヨーク市内の麻薬中毒者の施設であるReality House,Greenwich House,さらにはカリフォルニア州立のCalifornia Rehabilitation Center,ケンタッキー州レキシントンにある連邦政府のClinical Research Centerも見学できたので,それらの様子を紹介し,併せて米国の麻薬中毒の現況についても可能なかぎり触れていきたいと思う。

資料

ブラジル移住者の精神医学的研究(Ⅱ)—心理テストを中心として

著者: 柴田出 ,   柴田道二 ,   峰松修 ,   元田克己 ,   野口宗雄 ,   安中康子 ,   中野隆子

ページ範囲:P.569 - P.572

I.はじめに
 第Ⅰ報で述べたように5),われわれは,ブラジル,サンパウロ市近郊のS市に住む日系人のうち,日本語の読み書きできる人,男女合わせて200人を対象として,アンケート,Cornell Medical Index(深町式―以下CMIと略称),矢田部-ギルフォード性格検査似下YGと略称)をこころみたが,本論文では,CMIとYGについて述べる。なお,調査期間は1967年4月である。

紹介

Wörterbuch der Psychiatrie und ihrer Grenzegebiet—von Claus Haring und Karl Heinz Leickert, 1968

著者: 三浦岱栄

ページ範囲:P.542 - P.542

フランス精神医学においてはDr. Antoine Porot著“Manual alphabétique de Psychiatrie”1952という便利なものがあることをおおかたはご存じであろう。英語圏ではpsychiatric glossary(精神医学用語解)という便利なものがあることもまた周知である。それなのに,日本の精神医学がもつとも強い影響を受けているドイツ精神医学において,この種のものが欠けている不便に気づかれた精神科医があつたかどうか?(K. BirnbaumのHandwörderbuch der Medizinischen Psychologieというのがあつたらしいが,私は不幸にしてこの書物を知らなかつたし,また現在もあるとしても,もう古くなつてあまり使いものにならないのではなかろうか)
 私はかつて本誌のEditorial欄に(第8巻・第1号,1966)に“精神医学と外国語”という文章を寄せたことがある。その一節につぎのごとく書いた。「私はドイツに長く住んだことがないのでドイツ語の力はもつとも弱く,したがつてこの力のない私が云々するのは少し筋違いかもしれないが,“いつたい,わが国の精神医学はドイツ語の正しい意味を伝えたのであろうか”と首をかしげざるをえないことがときどきあることを中しあげたいのである」(下略)。そして私は,辞書を丹念にひき正確な意味をつかんでおくことが,精神医学においてはいかにたいせつであるかを力説したのであつた。

—edited by Eidelberg, L.—Encyclopedia of Psychoanalysis

著者: 徳田良仁 ,   小林司

ページ範囲:P.573 - P.574

 精神分析の用語は,その発展につれてしだいに異なつた意味で使われるようになり,かならずしもフロイトによる定義がそのまま継承されているわけではない。
 したがつて各時代の精神分析の論文を正しく理解するためには,是非とも精神分析用語辞典が必要なのであるが,Storfer, A. G.(1924)やSterba, R. F.(1936)を初めとしていずれもその編集は失敗に終わつてきた。しかし最近になつてLaplancheらの辞典(後述)とともに本書が完成されて,いっきょにオーソドックスな用語辞典が2冊も出現したのは喜ばしいことである。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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