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雑誌目次

論文

精神医学11巻8号

1969年08月発行

雑誌目次

展望

小発作重積症とその周辺—汎性両側同期性棘徐波結合の連続とその臨床像

著者: 細川清

ページ範囲:P.584 - P.593

Ⅰ.序論
 小発作重積症(petit mal status)という名称は,1945年Lennox23)が名づけたものである。
 従来てんかん発作重積状態としてよく知られていたのは,大発作を有する患者にみとめられるいわゆるstatus epilepticusであつた。

研究と報告

一群の精神身体症状をともなうDrowsy Patternの臨床的研究

著者: 原田正純 ,   笠置恭宏 ,   三浦嘉道 ,   石川博也

ページ範囲:P.595 - P.606

 1)脳波検査中に被検者の6〜16%がdrowsy patternを示す。そのうちの約1%(47例)は病的と考えられるdrowsy patternを示し,臨床的に重要な意義をもつている。
 2)病的なdrowsy patternとしたものは,恒常的にdrowsy patternが出現すること,α-blockingの異常(paradoxal α-blockingなど)がみられること,脳波と睡眠の不一致がみられることの3つの特徴をもつ。
 3)病的なdrowsy patternを示す47例の臨床像は精神症状,睡眠-覚醒機能障害,発作症状,性格障害,自律神経・内分泌障害から構成され,一定の症状群(かりに,drowsy pattern症状群)をなす。
 4)精神症状は,情意減弱状態,不安・焦躁状態,うつ状態,軽躁状態,幻覚・妄想などが注目される。身心故障の訴えは強く,心因反応もみられた。
 5)睡眠・覚醒機能障害は睡眠発作,昼間眠気,熟睡困難・不眠,入眠時幻覚,睡眠麻痺などがみられた。
 6)発作症状はぼんやり,めまいの発作,情動性脱力発作,失神発作,けいれん発作,もうろう発作,自律神経発作などがみられた。
 7)性格障害の特徴は未熟・幼稚さがめだち一部てんかん性性格も加わつたものである。
 8)自律神経・内分泌障害は発汗過多,肥満が多く,口渇,多尿,性器発育不全,月経不順,インポテンツなどがみられた。
 9)これらの病像をつぎの病型に分類した;i)ナルコレプシー型(14例),ⅱてんかん型(13例);そのなかにさらに,けいれん型,小発作型,精神運動発作型,自律神経発作型,周期性嗜眠型がある。ⅲ)精神病型(15例);そのなかにさらに,分裂病型,うつ病型,心因反応型,神経衰弱型に分けられる。iv)内分泌障害型(2例)。v)性格異常型(3例)。
 10)drowsy patternの背後にきわめて重要な臨床的意義が潜んでいることを強調し,ナルコレプシー,てんかん,内因性精神病,ヒステリー,間脳性疾患などとの関係を考察した。

学校恐怖症—ことにその原因と発症時期支配要因について

著者: 有岡巌 ,   勝山信房 ,   田中義 ,   笹岡裕子

ページ範囲:P.607 - P.613

 われわれは学校恐怖症の発症要因につき検討してきた1)2)。そしてまず,中学・高校生例の発症機制に下記のものがあることを述べ,模式図を作製して説明した1)
 1)依存的適応の失敗を主とするもの
 2)self-esteemの破綻を本質とするもの
 3)依存的傾向者のself-esteemのおびやかされによる適応の失敗
 ついで,高校生の症例につき分析し,かつ適当な対照例の所見と比較することにより,学校恐怖症(高校生)のより本質的・基本的要因を求め,下記のごとき結論を得た2)

精神病の夫婦精神療法の経験

著者: 阪本良男

ページ範囲:P.615 - P.620

I.はじめに
 精神科分野における治療は,多くの精神分裂病を中心とする精神病者に,残念ながら一時的な効果をしか示さないことが多い。現在では,特殊薬物療法,身体的療法,精神療法,生活療法などが主に行なわれているが,そのうちでも最近精神療法はその示す効果のうえでも注目を集めてきていると考える。しかしこの精神療法も,患者個人に対してのみの治療は,一面では社会生活に困難を示しまた失敗したとも理解される病者に対し,再度の治療を余儀なくさせるか,または,最終的には病院内で余生を送らせざるをえなくなつてしまうこともあるのである。このような現状のなかでいろいろな理論的裏付けをもつ治療法が試みられているのである。
 われわれは精神病者の社会復帰の時期に夫婦同席精神療法を行ない,完全な症状の消失のうえに,他の個人的治療よりも夫婦をとおして,より社会に適応した型での復帰を行ないえた症例を経験したので,その夫婦精神療法の経過を中心に報告したい。すなわち,一つにはこの病者の発病は結婚後のことであり,またこの夫婦共同生活のもとでの発病は,主人(病者)の実家,とくに母親との深い精神的関係にその病根を根ざしていると考えたからである。患者には入院中は特殊薬物療法とともに,作業療法,集団精神療法,および個人精神療法が行なわれたが,退院より再発時に患者の妻を同席させ4カ月にわたる夫婦精神療法を一貫した治療方針のもとに行ない,より効果的な社会復帰をみとめたのである。

薬物依存発生に関する研究(第1篇)—依存心性と類型

著者: 高橋伸忠

ページ範囲:P.621 - P.629

Ⅰ.緒言および研究の目的
 1964年ごろからW. H. O.(世界保健機構)によつて,慢性中毒(chronic intoxication),習慣(Gewohnung,habituation),嗜癖(addiction),渇望(Sucht)などの用語を薬物依存(drug dependence)という言葉に改めようとする提案がなされて以来1),日本でも依存という言葉がかなり多く使用されるようになつた。この改正の目的や用語相互の関係などについては,W. H. O. の専門委員会に出席した細谷の論文2)に詳しい。このなかで細谷は薬物依存とは「薬物を周期的あるいは継続的に反復使用した後,その使用をやめると精神的身体的異常を生ずるような状態である」と定義づけたあと,精神依存,身体依存についても的確な説明をしている。C. F. Essig3)は身体依存(physical dependence)を「薬の乱用の結果もたらされた,変化した生物学的状態であつて,この状態のもとでは,特殊な症状や徴候(禁断症状鮮)の発現(development)を防ぐために,その薬の服用をつづけざるをえない状態である」と説明している。また柳田-Seeversら4)は依存薬物を 1)pschoactive drug,2)コカイン,大麻類,3)アンフェタミン,ヒロポン,スパなど,4)バルビタール類,5)モルヒネ,ヘロイン,6)アルコール類などに分類し,そのおのおのがそれぞれの依存の型の特性のもとに依存を形成しやすい個体と結びつき,精神依存を経て薬物によつては耐性上昇,身体依存(禁断症状)を伴いながら,ついに精神症状の発現から反社会的行動へいたるまでの過程を巧みに図表化して説明している(第1表)。

Gilles de la Tourette's Syndromeの1症例

著者: 白川典参

ページ範囲:P.631 - P.636

I.はじめに
 全身性チック様運動については,1825年Itardが最初に報告しているが,1885年Gilles de la Tourette8)が“反響言語,糞語症を伴つた非合目的運動を呈する神経疾患”と題し,9名の患者をまとめて報告している。以来その症候群に対して彼の名をとりGilles de la Tourette氏病あるいは症候群としてよばれるようになり,単なるチックとは違つた症候群であろうと考えられている。
 Ascher1)によると発病はほとんど10歳以前の子どもである。顔面がもつとも多いが手足など四肢末端部のチック様不随意運動に始まり,一時的な寛解はあるがチック様不随意運動は徐々にひどくなり,ついには全身の奇妙なチック様不随意運動へと拡がつてゆく。この疾患でもつとも特徴的なものは糞語症(coprolalia)であり,発病してから数年後に出現する。最初は言葉にならない叫び声(vocal tic)として現われるが,やがてその叫び声は言葉となり,coprolaliaとして現われてくる。社会適応の場でなにか困難な場面に直面したときにその反応としてcoprolaliaを生じることが多く,“shut up”,“don't say it”,“keep quiet”など多くは攻撃的色彩が強い。

うつ状態に対するSp 732の臨床使用成績

著者: 北嶋省吾 ,   上島哲男 ,   奥田純一郎 ,   大原ちづ

ページ範囲:P.637 - P.641

I.はじめに
 精神科領域において中枢神経刺激作用を有する薬剤として使用されているものには1954年Meier, R. およびGross, F. 1)らによるmethyphenidylate(Ritalin),同じくBrown, B. B. およびWerner, H. W. らが1954年開発したpipradrolhydrochloride(Meratran)がある。これらbenzhydrol系薬剤については,すでに佐野3)によつて詳細に論じられている。われわれはこの種の薬理作用を有する物質として,新しい中枢興奮剤1-phenyl-2-pyrrolidino-pentane hydrochloride(Sp 732)を入手し,うつ状態を呈する患者に使用,若干の治験成績を得たので報告する。

資料

日本におけるてんかん概念の胚胎—緒方「扶氏経験遺訓」と本間「内科秘録」

著者: 小泉衡平 ,   和田豊治

ページ範囲:P.645 - P.648

 癲も癇も古い言葉であるが,ひとつにはてんかんそのものの概念が,とくに他種精神病との区別において,さして確立していなかつたことも原因して,それが今日のてんかんの意味を確実にするのは比較的新しいことに属する。その時点9)は,漢医学の基盤に洋医学の基盤が入りこんだ接点であつて,実は今をさる100年ほど前,本間棗軒(1814-1871)の「内科秘録」からとみられている。

紹介

哲学者K. Jaspersの生活史とその問題点

著者: 前田利男

ページ範囲:P.649 - P.655


 ドイツの生んだ偉大な精神病理学者であり実存哲学者であるKarl Jaspersが死んだ。85歳という高齢で,心臓疾患が悪化して他界されたという。
 彼の精神医学に与えた影響は,端的にいつて精神医学における方法論的な覚醒をひき起こした点であり,DiltheyやMax Weberの方法を導入して了解心理学を確立した点にあるといえよう。しかしこの2つの功績は,厳密に考えると両立しうるものではない。この点は後述するとして,彼が精神医学より哲学へ移つていた理由は,この点にもその原因があると思われる。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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