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雑誌目次

論文

精神医学11巻9号

1969年09月発行

雑誌目次

座談会

企業体における精神障害管理

著者: 加藤正明 ,   春原千秋 ,   一井泰 ,   蜂矢英彦

ページ範囲:P.660 - P.675

職場の精神障害の実態
 加藤 前おきは抜きにして,皆さんご関連の企業体での精神障害者の実態を,入口にしていただいて,それからいろいろと具体的な問題にはいりたいと思います。
 最初に一井さんからお願いします。

研究と報告

職場における不適応階層—30〜40歳高卒女子独身行員について

著者: 小此木啓吾 ,   吉田直子

ページ範囲:P.677 - P.684

Ⅰ.まえがき
 われわれは,ここ6〜7年来某銀行の健康管理センターで約1万人の職員に対する精神衛生管理を組織的に行なつている。このような職場の精神衛生管理場面では,その管理および診療上つぎのような特殊性が考慮されねばならない。
 1)職員個々の精神障害に加えて,かれらが職場という特定の環境への適応過程にある存在であるという見地。しかも職場環境に関する情報が得やすくその調整の可能性がある程度与えられていること。

刑法改正に関する私の意見 第3篇 保安処分の諸問題(その1)—精神障害者の犯罪

著者: 田村幸雄

ページ範囲:P.685 - P.691

I.はじめに
 中世キリスト教時代,欧州では犯罪者と精神病者はともに悪魔の所為と考えられた。精神病者では招かないのに悪魔が患者の体内に侵入して発狂せしめ,犯罪者では自らの意志で自己の体を悪魔の住居に提供したためと考えた。したがつて両者の取扱いには共通したところが多く,あるいはこれらを鞭打ち,あるいは手かせ足かせをしたり,追放したり,また,悪魔はらいの儀式などをしたが,これらはすべて理由あるものとされた1)
 現代では,かかる極端な考えはほとんど姿を消したが,なお,その名残りはみられ,一般民衆の心のなかには,両者は近縁のものであり,ともに拘禁すべきものであるという考えが消えていない。

薬物依存発生に関する研究(第2篇)—発生に関する諸要因の分析

著者: 高橋伸忠

ページ範囲:P.693 - P.706

I.はじめに
 本稿第1篇において63名の薬物依存者を,その性格傾向とくに対人関係の特徴によつてasocial(As),anomic(An),neurotic(N)の3類型に分類し,その分類基準と典型例について述べ,これらの性格偏碕と薬物との結びつきを明らかにした。第2篇ではこの3類型について,agentとしての薬物のみならずhostと,それをとりまく環境要因,治療および予後に関連する要因について比較検討し,その結果について考察を加えたい。

内観療法の研究

著者: 洲脇寛 ,   横山茂生 ,   竹崎治彦

ページ範囲:P.707 - P.711

I.はじめに
 内観は,吉本伊信氏が,浄土真宗の身調べをもとに,断食,断眠などを除き,一般向きに改造したもので,これまで,主として矯正施設や学校教育で利用されてきたものである。われわれは,現在まで,精神科入院患者48人に内観を実施し,内観がいかなる構造を有し,いかなる展開をはたしうるものであるか,さらに,内観をいかなるかたちでとりいれるべきかを検討している。まえもつて適応を決めかねる現状なので,明らかな精神病状態や著明な痴呆をのぞき,かなり広範な症例に実施しており,性格異常や精神病質といわれる者に対しても,積極的に実施してきた。
 そこで,初めに,われわれが内観を実施するさい問題となる点や留意した点について述べ,つぎに,アルコール中毒を中心に症例を検討し,われわれが内観について考えている事柄をできるだけ明らかにしてみたい。

医療扶助患者の精神医学的調査(第2報)—神経症の特徴とその家庭環境

著者: 三好敬一郎

ページ範囲:P.712 - P.716

Ⅰ.緒言
 神経症が社会病現代病といわれる側面を有し,社会的または文化的情況を背景とし,それらの時代的変遷によつて外包的特色を付与されることは,すでに多くの学者によつて指摘されているところである1)2)(Petrilowitsch,加藤正明)。したがつて日本の社会に住むわれわれ日本人が示す神経症の特性3)にも,日本的といわれる特徴が,日本の社会構造,日本人の生活様式などとともに当然現われうると考えられる。家長を中心とした日本的な家族制度4)を土台とし,主人と妻,嫁と姑との関係,本家を中心とした分家との関係などから,家族成員に独特の葛藤を生じ,そこに神経症の要因がみいだされるであろうことは想像にかたくない。ところがこの日本的な家族制度は,近来,とくに大都会においては,その構造を変えつつある。古い習慣が滅びんとするところには,また当然それに応じた種々の葛藤が生じ,神経症の特徴も,それに応じたものとなつていくであろうと考えられる。
 現代の日本社会では,このように古い家族制度の崩壊と関連して,経済的な状況が変わりつつあり,国民所得増大のかげには,経済情勢の変化とともに,いわゆる低所得者が種々の問題に不平不満をもつていることは想像にかたくない。精神病学においても,社会的階層と精神病の関係について論ぜられ,低所得者層に精神病の有病率が高いという結果が帳告されている6)。神経症についても同様の傾向がうかがえ,とくに生活保護患者において有病率の高いことは,著者が前報において報告したとおりである7)

幻覚-妄想状態を示した真菌性髄膜炎の1剖検例

著者: 立石潤 ,   河野基樹 ,   末光茂 ,   馬場修 ,   長田高寿 ,   村上元正

ページ範囲:P.717 - P.720

I.はじめに
 髄膜炎症状を呈する真菌症にはCryptococcus neoformansがわが国には多いといわれるが,精神分裂病様の幻覚-妄想症状を呈した症例はまれなので報告する。

二重盲検によるclothiapineの精神分裂病に対する薬効検定

著者: 金子仁郎 ,   谷向弘 ,   工藤義雄

ページ範囲:P.721 - P.728

 強力精神安定剤の第4の系列といわれるdibenzothiazepine誘導体clothiapineの精神分裂病に対する臨床効果を,chlorpromazineを標準薬とした二重盲検・比較実験法によつて調べた。2週間のプラセボー投与によつて前治療の影響を除去した後,実薬をfixed-flexible scheduleで8週間投与し経過を観察したが,「似たもの同志の組」として実験を完了したものが34組68症例,相手が決まらないまま実験期間が終つたものが9症例,実験中途での脱落が7症例であつた。
 得られた結果を逐次検定法,Whiteの順位法,x2検定法あるいは直接確率計算法(Fischer)で解析したところ,全体的な分裂病像の改善,状態像別の有効率,標的症状のパターンなどどれをとつても両薬剤間に有意差はなかつた。妄想が前景に出ている症例に対する効果発現速度が,治療開始後最初の2週間で,clothiapineのほうに速いような印象を受けたが推計学的には有意ではなかつた。
 副作用の種類も発現頻度も両薬剤間でほとんど有意差はなかつたが,重症パーキンソニスムはclothiapineのほうに有意に高率に出現した。一般臨床検査では異常はみられなかつた。
 以上clothiapineの分裂病に対する効果はchlorpromazineと臨床上きわめて類似しており,clothiapine 20mgがほぼchlorpromazine 50mgに相当すると考えられる。

心気傾向をもつ神経症者らに対するMagnesium α-amino-glutarate hydrobromide(PS-O42)の臨床検討

著者: 吉川武彦

ページ範囲:P.729 - P.734

I.はじめに
 精神科治療における総合的接近の立場からはとくに神経症,心因反応,うつ病軽うつ状態,頭部外傷後の神経衰弱様状態などに対する薬物療法の位置づけはきわめて重要である。われわれは,日常的な臨床,とくに大学病院の外来診療を通じて総合的接近としての簡易精神療法(brief psychotherapy,imergency psychotherapy)のありかたを模索してきた。こうした治療のsettingのなかで,薬物はつねに精神療法の進展と有機的・力動的に結びついた使用がなされなければならないと考えている。
 既報のように,magnesium α-amino-glutarate hydrobromide(PS-O42)は潜在する不安や浮動する不安に対して有効であり,とくにこれらの不安の代理症状ともいえる心気症状への効果が期待されている。これらの経験を基とし,精神療法的接近をつづけている各種症例のうち,その治療過程に出没する心気症状の改善を目的として本剤を使用し,その改善をみたので報告する。なお,本報告は,既報を本剤の使用に関する総論的なものとしたとき,その各論的位置にあるものである。また,前回行なえなかったplaceboの使用により,本剤の側面的評価を行なつた。

紹介

「精神衛生管理研究会」について

著者: 春原千秋

ページ範囲:P.736 - P.736

 最近学校,職場ならびに地域社会における精神衛生管理の必要性が認識され,その社会的要請がたかまりつつあるが,これらの当面する諸問題を解決するため,昭和42年春,阪大金子仁郎教授を会長,東大笠松章教授を副会長として,「精神衛生管理研究会」という研究会が創立された。同会は発足以来春秋2回研究会を開催し,主として学校および職場における精神衛生管理の問題点についての研究発表と活発な討論を実施している。シンポジウムとしては,第1回は「精神障害者のスクリーニングについて」,第2回「精神障害者の復職判定基準」第3回「学校精神衛生の問題点」,第4回「精神障害者のアフター・ケア」がとりあげられ,これらの内容は機関雑誌「精神衛生管理研究」に掲載されている。
 ところで第5回研究会は,去る6月14日,東大石川清博士を運営委員として,東京私学会館ホールにおいて開催された。今回は一般演題のほかにシンポジウムとして企業における精神衛生管理の問題がとりあげられ,松下電器健康管理センターの小西輝夫博士と,電々公社東京健康管理所の関口憲一博士が演者として講演された。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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