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雑誌目次

雑誌文献

精神医学12巻4号

1970年04月発行

雑誌目次

巻頭言

労働精神医学

著者: 小沼十寸穂

ページ範囲:P.270 - P.271

 今日わが国の産業界,つまり企業において,その精神衛生に関しての実際的な協力,指導を求められることが切である。

展望

犯罪素因としての性格異常

著者: 小田晋

ページ範囲:P.272 - P.285

I.はじめに
 1941年,Neureiter, F. の呼びかけで創立されてから40年間,欧州の犯罪生物学派の牙城として,Vervaeck,Lenz,Gross,v. Lisztらの拠るところであった犯罪生物学会(Die Kriminalbiologische Gesellschaft)は1968年,総合犯罪学会と改称して新発足することになり,その前史を終わった。Würtenberger, W. 89)も述べるように,これは決して名称の変更に止まることではなくて,一つの時代の終末である。犯罪生物学の目的が,したがって従来の精神医学者の犯罪研究に関与するさいの目的が「犯罪者の精神的・身体的特性の追究と,その特性の表現としての犯罪を調べること」(Liszt, F.)にあったとするなら,これからの総合犯罪学(gesammte Kriminologie)に従事する精神医学者の態度は,従来犯罪社会学の領域として社会科学者の手に委ねられていた犯因的環境の問題にも関心を向け,Göppinger, H. 21)のいうような「総合的科学interdisziplinäre Wissenschaftとしての犯罪学」の一環として立体的な犯罪の原因理解に努めねばならないのであり,それがまた新しい精神医学一般に通じる問題意識でなければならないのである。しかしながら,従来犯因性素質の解明にそそがれてきた研究の成果の蓄積は決して一部でいわれているほど粗雑なものであるとは思われないのであって,ここでは,従来の業績を批判的に紹介しながら,犯罪原因論に対しての精神医学的性格学の寄与を展望してみたい。

研究と報告

転帰からみた精神分裂病中核群と非定型群の診断

著者: 保崎秀夫 ,   岡本正夫 ,   武正建一 ,   浅井昌弘 ,   村上圀世 ,   仲村禎夫

ページ範囲:P.287 - P.295

I.はじめに
 精神分裂病の概念がそれぞれの国や学派によって異なっていることは常に問題にされるところであるが,また,時代による変遷も無視することができない。分裂病と他の内因性精神病との間で論議される非定型精神病や,神経症ないし異常体験反応との境界領域の問題も,この概念の相違,変遷に負う点が大きいと思われる。
 従来,分裂病の非定型または周辺群の問題を取り上げる場合,一方ではいわゆる非定型精神病,他方では境界線症例という面から別個に問題にする傾向を否定することができないようである。われわれは,いわゆる中核と考えられる分裂病群に,これら非定型ないし周辺群を含めた症例を分裂病圏患者とし,その予後を総合的に比較検討してみようと考えた。

うつ病の社会的一側面—とくに発病前状況を中心に

著者: 大原健士郎 ,   小島洋 ,   岩井寛 ,   二本木利江 ,   影山節子

ページ範囲:P.297 - P.302

Ⅰ.はしがき
 Kraepelin(1899)が躁うつ病という疾病単位を設け,この疾患の原因は病的素質krankhafte Veranlagungによって自動的に始まり,環境的因子や精神的打撃はたとえ患者に認められるとしても,周期の発病を促す契機にすぎないとしたことは周知のとおりである。彼の考え方の基礎には,次のような理由がある。(1)病気の経過中に,原因となったとみられる精神的・感情的打撃と関連性のない内容の妄想が出現する。(2)病像には発病直前のできごととまったくニュアンスの異なる躁的な特徴の加わることがある。(3)発病の動機となったとみられる問題を解決しても,病気は治らない。(4)同じ患者において別の動機によっても,あるいはまったく動機なしにでも躁周期やうつ周期が出現する。
 Kraepelinのこの考え方に対しては,当時でもZiehenやLipschitzのように素因だけではなく,精神的衝撃や過重な負担が発病に重要な役割りを果たすと考える者もあったが,いわゆる正統派的精神医学ではこの考え方が継承されて,現在にいたっている。しかしわれわれの臨床経験からしても,病気の経過中に原因となったとみられる精神的・感情的打撃と関連性の深い内容の妄想が出現することは少なからずあるし,彼が理由としてあげた(2)〜(4)はある種の神経症患者でもいえることである。

音調テストによる分裂病家族の研究

著者: 三須秀亮

ページ範囲:P.305 - P.312

 寛解状態に達した分裂病患者とその家族成員(父親・母親・同胞)に音調テストを施行しつぎの結果を得た。
 1)分裂病患者と同胞はともに感情が良く正常範囲内にあった。
 2)父親は平均的にみてテスト(Ⅰ,Ⅱとも)成績が家族中最も悪く,同じ年頃の対照正常者群との間に有意の差がみられた。
 3)母親は総体的に同胞患者に次いでテスト成績が良かったが,テストⅡで対照正常者群と有意の差が認められ,詳細にみると問題があった。
 さらに家族成員個々についてテストⅠならびにⅡの成績を合わせテスト結果が相似している家族だけを抽出し類型化を試みた結果,三つの類型が得られた。その特徴を述べると,
 1)類型Ⅰ:父よりも母,母よりも同胞,同胞よりも患者,と成績は上昇線を示し父親が最も悪く,患者が家族成員中最も良い成績を示す型である。この類型11例中8例が女性患者の家族である。
 2)類型Ⅱ:母親が良い成績を示す点が特徴である。しかしテストⅡで(知的要素の介入で)悪くなる。反面父親はテストⅠ(感情移入)で悪いがテストⅡで補っている。
 3)類型Ⅲ:父親が良く母親が悪く,患者は直接的感情移入が良いのに知的解釈にいたって大きく歪んでしまう。この類型は3例だけであった。
 最後にテスト施行と平行して面接したさいの印象と,テスト結果を照合した知見を述べた。

“精神分裂病”の診断名で入院している高齢の患者—遅発分裂病に関する一考察

著者: 杉本直人 ,   星融 ,   森崎郁夫 ,   高橋隆夫 ,   平林幹司 ,   天野宏一 ,   赤座叡 ,   水野隆正 ,   関谷重道 ,   三輪登久 ,   四十塚竜雄 ,   貝谷久宣 ,   村本幸栄

ページ範囲:P.313 - P.319

 精神分裂病という診断名で入院している60歳以上の患者を中心として考察した。その結果
 1)現在状態像に大きな差があり,一方では知的な障害が強く,その状態は分裂病性痴呆(Verblödung)とは考えられず,荒廃化していると形容した方が適切と思われる一群の患者があり,他方では分裂病痴呆としてわれわれのもつイメージに相応する患者群があった。
 2)この両者の相違は,原因として分裂病を根底に考えるよりも,調査時の病像,初発年齢,経過年数などの条件を考えるとき,分裂病以外の疾患によって惹起されると考える方が適切であるとわれわれは結論した。

精神病院医療についての提案

著者: 中村五郎

ページ範囲:P.321 - P.326

I.はじめに
 向精神薬が出現したことは,われわれ精神科医を大いに勇気づけたが,その影響は単なる薬物療法の域を超えて精神病院そのものの在り方をすら,大きく変革するに及んだ。その後,薬物の限界が次第に明らかとなりながらも,他に代る有効な治療法の見出せないまま現在に至っている。大概の患者は,在院も非常に長く,治療の可能性は限られ,それにつれ生活上のさまざまな問題が介入するため病院精神科医は,患者生活やその環境も考慮しなければならない。
 K. Jaspersは「精神病理学総論」の終りの方で「狭義の精神病者の大多数には,本当に合理的な治療は未だ到達できない目標にとどまり,できることは,可能な範囲の治療を伴う監置と看護とで,患者と社会を保護することである」と述べているが,熱狂的な薬物信仰への夢が消え去った現在,今一度,謙虚な気持で,この言葉に耳を傾ける必要があると思う。

対談

先覚者にきく—林道倫先生をたずねて(2)

著者: 臺弘 ,   奥村二吉 ,   富井通雄 ,   林道倫

ページ範囲:P.328 - P.335

ドイツ留学の頃
 臺 あのころ日本からドイツへいかれて,いちばん強く感じられたことというのはどんなことでしたか。いろいろおありでしょうけれども,学問に関してはいかがでしたか。
 林 私は,解剖とHistologieばかりやっていたのですから,向こうにいっては,向こうの人はたいして,できるようには思わなかったですね。Jakobはさすがに,Nisslbildはよくみえましたね。よくみえるなと思ったけれども,Jakobに頭を下げて習うというほどでもなかったです。それでも,これだけはみえるなと思っていました。他の人はそんなにみえなかったように思います。Spatzなども知っていますけれども,あまり,どうもみえなかったですね。

動き

現在の精神病院における問題点

著者: 元吉功

ページ範囲:P.337 - P.340

Ⅰ.国公立精神病院と私立精神病院の機能分化は可能か
 (1)公的医療機関の病床規制(医療法第7条の2第1項)に関する医療審議会は厚生大臣の諮問に対して,昭和43年12月25日答申を出したが,この答申において,精神病床に関しては,必要病床数を従来の数値;人口万対20床を25床に変更した(ただし老人性精神疾患,小児精神疾患その他厚生大臣の定める疾患については加算できる。この数値は昭和44年および45年において使用される)。審議の経緯,算定方法などについてはくわしく報じてある(日本精神病院協会報1969年2号)ので省略するが,答申書の5項目の附帯事項のうち,とくに第1項で,「医学の進歩と疾病構造の変化に応じて地域の医療体系を整備するため,医療機関の機能の明確化,医療機関相互間の有機的な連携等の観点から,公的医療機関のあり方に関する諸問題について検討に着手すべきである。また,公的医療機関に関する統合整備および財源の負担区分の確立についても検討が加えられるべきである。これらの問題に関しては,本審議会の立場からも引き続き検討する必要があると認める。」と記している。この趣旨に沿って,審議会の中に小委員会が設置され,本年に入り既に3回の会合を重ねている。要するに,審議会が厚生大臣から出される必要病床数の数値についてのみ,その都度審議するだけでなく,医療体系の根本問題についても十分討議すべきだということである。

資料

ブラジル移住者の精神医学的研究(Ⅲ)—都市周辺と奥地開拓部落との比較

著者: 柴田出 ,   柴田道二 ,   峰松修 ,   元田克己 ,   野口宗雄 ,   安中康子 ,   中野隆子

ページ範囲:P.341 - P.346

I.はじめに
 われわれは,先に,サンパウロ市近郊S市の日系人を対象に,精紳医学的研究を行ない,日系人移住者における,適応障筈の因子としては,移住前の教育,現在の環境,仕事,および収入などに対しての,不平・不満が相当のウェートを占めていることを知った8)9)
 今国は,S市の日系人と異なった条件のもとに生活している,Aコロニー(サンパウロ市の西北800kmの奥地にある日系人だけの開拓部落)の住民を対象にして調査し,その結果を,前回報告のS市の資料と比較検討した。

紹介

Paranoia概念の変遷(後篇)

著者: 伊東昇太

ページ範囲:P.347 - P.355

Ⅵ.KraepelinのVerrücktheit
 Kraepelinが27歳のとき,すなわち1883年教科書の初版である「精神医学便覧」(Compendium der Psychiatrie)が公けにされた38)。この版での妄想論は,いかなるものであったであろうか。
 彼は,Verrücktheitの言葉を用い,その原発性のものと続発性のものとに分けた。「Verrücktheitと呼ばれるものは,精神人格の持続する徹底的な変化であって,主として外的な,また内的な諸々の印象の病的な解釈と加工がみられる。この変化は,かつての感動や一時的なProzessにもとづくものではなく,精神生理学的な生体全体の異常にもとづいているので,持続するのが普通である。意識は,清明で濁っておらず,自覚も完全に保持されている。しかし,経験の素材となるものは,複雑な主観的な要因で変質し,病的にひねくれて,狂ったものの見方によって,周囲も自分自身も加工される」。そして偏執的な体系が形成され,「固定せる妄想観念は,妄覚やたんなる不機嫌のような孤立した病的な症状でなく,むしろ全知的作業の持続する根源的な欠乏の徴候であることに誤りはない」と断じた。このVerrücktheitの窮極の「不具廃疾」(Invalidität)の根底にあるものは,原発性の,しかも生来性のものであるか,あるいは個体の発達にそくして徐々に獲得されたものであって,この状態は,別の精神病がすでに先行し,その結果生じた終末状態から区別される。続発性のVerrücktheitは精神の脆弱状態のなかで論ぜられている。また妄想体系の形成様式は,「妄覚を媒介とする場合」と「Prirnordialdelirien」をもって現われる。さらに原発性のVerrücktheitが,遺伝的な素質に依存していること,幼少時の障害も無視できないこと,さらに酒精の飲用も影響するといい,一方思春期や更年期のごとく,発育段階とこの精神障害発現と密接であるとのべた。そして予後は,きわめて不良であり,無条件に収容されねばならないとのべた。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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