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研究と報告
うつ病の社会的一側面—とくに発病前状況を中心に
著者: 大原健士郎1 小島洋1 岩井寛1 二本木利江1 影山節子1
所属機関: 1慈恵医科大学精神神経科
ページ範囲:P.297 - P.302
文献購入ページに移動Kraepelin(1899)が躁うつ病という疾病単位を設け,この疾患の原因は病的素質krankhafte Veranlagungによって自動的に始まり,環境的因子や精神的打撃はたとえ患者に認められるとしても,周期の発病を促す契機にすぎないとしたことは周知のとおりである。彼の考え方の基礎には,次のような理由がある。(1)病気の経過中に,原因となったとみられる精神的・感情的打撃と関連性のない内容の妄想が出現する。(2)病像には発病直前のできごととまったくニュアンスの異なる躁的な特徴の加わることがある。(3)発病の動機となったとみられる問題を解決しても,病気は治らない。(4)同じ患者において別の動機によっても,あるいはまったく動機なしにでも躁周期やうつ周期が出現する。
Kraepelinのこの考え方に対しては,当時でもZiehenやLipschitzのように素因だけではなく,精神的衝撃や過重な負担が発病に重要な役割りを果たすと考える者もあったが,いわゆる正統派的精神医学ではこの考え方が継承されて,現在にいたっている。しかしわれわれの臨床経験からしても,病気の経過中に原因となったとみられる精神的・感情的打撃と関連性の深い内容の妄想が出現することは少なからずあるし,彼が理由としてあげた(2)〜(4)はある種の神経症患者でもいえることである。
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