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雑誌詳細

文献概要

研究と報告

精神科医にとって犯罪学とは何か—犯罪学における一つの反省

著者: 西山詮1

所属機関: 1東京都立松沢病院

ページ範囲:P.513 - P.520

Ⅰ.序言
 精神医学が精神病や神経症などの治療学であるとともに,病理学的領域を主たる活動の場とし,そこから出発する一つの人間理解学でもあるということをまず確認しよう。治療なき精神医学は今日もっぱら非難の対象であるが,そのためでもあろうか,あらゆるものを治療の対象にするか,ないしは治療になぞらえて考えるという別の危険な面については気付かれていない。医学には限度があり,治療者には節度があるべきであって,言葉の意味をアナロジーによって拡大解釈し,「治療」をあらゆる範囲に広げることによって,かえってその本質を見失うことがあってはならない。企業におけるいわゆる「特訓」に組みこまれた心理療法を,「治療」であると呼ぶことにはわれわれは抵抗を感ずるし,精神障害者に対して保安処分として構想された「治療」処分に至っては,反治療と考えざるをえないものが含まれている。
 ある一つの現象をめぐって諸学がそのギルド的制約を開いて協力することは一般的には望ましいこととして推奨される。ところで,犯罪学と刑事政策学とは犯罪という統一的現象を総合的に研究するために互いに手をつないで益するところがあるであろうか。われわれには,一諸にしてはならない学問同士というものがあり,それぞれの学の性質を心得て,一方が他方に変質したり,一方の名において他方の見解が発表されることのないようにしなければならない,と思われる。犯罪学と刑事政策学との接合を肯定する者は,犯罪学と犯罪を成功させる学との提携をも認める者でなければならない。

掲載雑誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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