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展望
ヨーロッパにおける最近の分裂病研究の動向
著者: 宮本忠雄1 高橋徹2
所属機関: 1東京医科歯科大学医学部神経精神医学教室 2国立精神衛生研究所
ページ範囲:P.546 - P.563
文献購入ページに移動われわれはこれから独仏語圏を中心とするヨーロッパにおける最近約10年間の精神分裂病研究の動向を展望してみたいと思う。展望を60年代の約10年間に限る理由は,ひとつには,11年まえの本誌創刊号(1959年)に村上が「最近のヨーロッパにおける分裂病の精神病理学の動向について」を発表して,人間学的研究を中心とする50年代の動向を展望しているためであるが,内容的にみても,60年代のはじめごろからそれまで主導的役割を果たしていた人間学的方向がようやく分極化のきざしをみせ,社会精神医学的方向や力動心理学的方向が前景に出てくるなど分裂病の問題をふくめて精神医学全体のシステムが流動して今日におよんでいることによる。H. Häfnerがこれを精神医学のlatente Grundlagenkriseとよぶゆえんであるが,研究方向のこうした推移ないし消長は,たとえば村上の展望で大きく紹介されていた現存在分析のL. Binswangerがすでに故人となり,了解的人間学のJ. Zuttが第一線から引退し,人間学的研究の推進者もしくは同調者だったC. KulenkampffやHafnerそれにK. P. nKiskerらがそろって転向して社会派となり,また一時は人間学的路線をあゆんでいたC. F. WendtやW. Brautigamも本来の力動心理学的ないし精神療法的旗印しを鮮明にかかげて活躍していること,などに端的にあられている。
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