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雑誌目次

雑誌文献

精神医学12巻8号

1970年08月発行

雑誌目次

巻頭言

教室について

著者: 横井晋

ページ範囲:P.648 - P.649

 1年間,学会の精神医学教育の委員長の重責を負って,誠に申訳ないことながら,とくに成果もなく若干のアンケート調査でその任務を終わったことは,会員の諸兄姉に対し,甚だ申訳ないと思っている。今この巻頭言を書くにあたって,医学教育を少し考えてみる機会が与えられた。
 精神医学教室という言葉のうち精神医学についてはしばらくおくとして(もっとも三浦先生の御意見では精神病学しかない由であるが),○○教室という教室とは一体なんであろうかということが頭に浮かんだ。わたくしの知る限りでは,米英ではDepartment of……であるし,独ではNervenklinikまたはPsychiatrische Abteilungと書かれており,わが国の教室にあたるものは見当らない。

展望

幼児の行動特徴の遺伝的側面と成長に伴う変化について

著者: 阿部和彦 ,   天富美禰子

ページ範囲:P.650 - P.661

I.はじめに
 精神医学に関係した体質や行動特徴の形成における遺伝と環境の相対的役割の評価は時代とともに変わっている。
 古代ギリシャのヒポクラテスは「神聖なる病(てんかん)について」という章で「ひきつけを起こす原因は,他の(ある種の)病気と同じように,遺伝によるものである」と述べているのは彼の考えかたの一端を示すものとして興味深い。

特別論文 精神医学の基本問題—精神病と神経症の構造論の展望

第3章 ウェルニッケとクレペリンの精神医学とその反響(附 ホッヘの症候群学説)

著者: 内村祐之

ページ範囲:P.662 - P.670

ウェルニッケの理論と体系
 グリージンガーが近代の精神医学の創始者的役割りを演じたこと,また「精神病は脳病である」という根本理念の上に立って,精神医学を近代的な科学研究の対象にしようと努力し,その闘志と相まって革命的とも言える影響を精神医学界に及ぼしたことは,第1章に述べた通りである。しかし彼はウィルヒョーと同時代の人であったから,当時の脳解剖学や脳病理学の知識の程度をもってしては,その思想に確固たる基礎を与えることが,はなはだ,むずかしかった。
 ところで脳の微細構造とその機能との関係を追求する手段として,その後,盛んに進められたのは,脳の線維結合に関する研究であったが,当時のウィーンの精神科教授テオドール・マイネルトは,自ら脳線維解剖学の研究を推進し,その結果に基づいて脳の機能を説明し,さらに,これによって精神病の分類までをも試みた最初の人として知られている。しかし精神病の分類についての彼の研究は完結を見ないままで終わったが,マイネルトの門下生の中に,彼を尊敬する1人の天才が現われて,グリージンガーとその師との思想を発展させ,独特の体系を作り上げて,クレペリンに拮抗する一時期を作り上げた。それがカール・ウェルニッケである。

研究と報告

分裂病家族の父—母—患者の相互関係

著者: 牧原浩

ページ範囲:P.671 - P.677

 (1)分裂病家族の面接におけるcommunicationをビデオ再生装置に記録し,その資料をもとに両親間の関係および親と患者との相互関係を客観的に把握しようと試みた。
 (2)そのため,対話としての形式(すなわちmeta-communication)の有無様態を調べた。具体的には"かかわりの指標"なるものを設定し,この指標を通じて検索した。
 (3)その結果,家族間に4つの基本的なかかわりの様式がみられるという知見を得たが,それらは対話形式を欠く始原的未分化なものと,みせかけの対話形式をもつものとからなりたち,矛盾が多かった。
 (4)上述の観点からみると,分裂病家族には2つの型の家族がみられるように思えた。そこでこれを従来いわれている家族類型と比較検討した。
 (5)最後に,患者に対して上述の矛盾のもたらす影響,患者の立場,などについて考察し,従来の学説との比較検討を行なった。

分裂性幻聴—その消失過程を通しての一考察

著者: 大森健一

ページ範囲:P.679 - P.687

I.はじめに
 現在も分裂性幻聴は精神科医の深い関心と興味をひきつけている現象の一つである。それはEsquirolの対象なき知覚の確信という簡明な定義により学問的対象としての意味を有して以来,感覚生理学的方面,脳病理学的方面の研究においてさまざまな実を結び,K. Jaspersの精密な記述的現象学的理論へと発展した。しかしそこにおいては幻覚の形式と内容は峻別され,了解性という限界が引かれることになった。
 一方力動的研究は主として幻覚の内容と関連した発展を示して対人関係を基礎とした幻覚論が述べられるに至った。例えばH. S. Sullivanは,安全欲求による不安や葛藤の象徴化で,安全な人間関係を再獲得しようとする表現ととらえており,またF. Fromm-Reichmannによれば,幻覚が知覚に突入した強力な抑圧や解離された衝動によることが真実ならば,すべての幻覚は過去と最近の現実の体験に基礎をおいていることになると述べている。

心理劇における“時”の意味

著者: 増野肇 ,   関田ひろみ ,   中野隆夫 ,   増野信子 ,   藤川美智子

ページ範囲:P.689 - P.695

I.はじめに
 Moreno, J. の創始した,心理劇と呼ばれる精神療法は,最近になってわが国でもいくらか試みられるようになった。彼の独特の理論には,いくらか理解しがたい点もあるが,彼自身がのべている広い意味での心理劇を考えるなら1),各治療者による視点を持った方法があってかまわない。Anzieu, D. 2)にしろCorsini, R. J. 3)にしろ,それぞれ独自の理論のもとに心理劇を行なっている。著者が初声荘病院で,心理劇を治療の手段としてとりあげてから6年になる。精神病院の患者を対象とする実践のなかで方法論的にも試行錯誤を重ね,慢性の分裂病を対象にする場合と,神経症や境界線症例を対象とする場合とでは方法も異なるようになってきているが,理論については,小此木のいう“構造と操作”という概念4)をかりて,その位置づけを行なった5)。そして,昨年の第66回精神神経学会総会では,精神療法と生活療法の接点に心理劇をおいて説明しようとした6)7)
 広義の精神療法における治癒という変化を考えると,その変化をうながす働きかけを大きく2つにわけて考えることができる。1つは人間関係(主として治療者との)であり,もう1つは状況である。この両者はともに治療の手段として用いられるが,どちらを重視するかで2つの方向が考えられる。すなわち,精神分析では前者に,生活臨床や森田療法では後者に重点がおかれる。ところが,心理劇はこの両者をともに重視することによって両者の接点に立つことになる。監督による治療的操作は,補助自我を通しての人間的働きかけと,舞台の上での状況をどう設定していくかということの2つにかかっている。

分裂病者への接近と治療者の不安

著者: 坂口信貴

ページ範囲:P.697 - P.702

I.はじめに
 治療初期の分裂病者の精神療法の場合,神経症では本質的に重要とされる治療契約ができがたい。こうした分裂病者に対する精神療法ではverbalあるいは,non-verbalなレベルでにじみ出る治療者の人柄が治療を進めて行くうえで,大きな役割を果たしていることは否めないように思われる。そのため,諸家の成功例もその治療者の人格に帰されるところが多く,その技法は一般に体系化されたとは言いがたい。これらの事情が患者の変化を治療的な意図でなされた解釈や操作と直接対比させて理解することを困難にしている。このことはまた,分裂病者の治療経過をまとめようとするさい,一層明らかになってくるように思われた。
 さて,私は,精神療法に未熟なまま,ある分裂病者を治療しようとした体験を報告したい。分裂病者の精神療法では,患者との治療同盟を確立する困難をのりきることが,まず何よりも本質的問題であることを知った。すなわち患者のself-esteemを傷つけず,しかも,自己の精神内界を眺め,治療のなかで洞察を深めてゆく態度を患者のなかに育てることの困難である。そのさい,最初の治療者と患者の出会いのありかたがその後の治療を大きく左右することを知らされたのである。この困難を乗りきるためには,治療者自身の問題も赤裸々にされるのを避けることができないという事実に直面した。それは,治療者が意識的に患者に伝えたものだけでは,患者の変化は理解できなかったからである。ことに初心者である私の場合は,知らぬまに患者に伝えたものが大きな意味をもっていたのである。こうしたことから,治療者自身が治療のなかで感ずる不安をどう処理したかが,患者の変化を解く鍵になっていることを知った。

資料

最近13年間(昭和28〜40年)のうつ病の臨床統計—抗うつ剤導入前後の臨床的比較

著者: 安斎三郎 ,   内藤宏樹 ,   石田美穂子 ,   村井みほ ,   瀬尾勲 ,   金子靖 ,   松本道枝

ページ範囲:P.703 - P.711

I.はじめに
 最近多くのうつ病者を治療しているうちに抗うつ剤の投与により症状が全体的に軽快しているにもかかわらずなお退院することができない患者や,一旦退院はしても長期にわたり外来に通院してうつ状態を脱することができないでいる症例を数多く経験するようになった。また治癒したごとくみえても実際には病前の職業に耐えられず,仕事に復帰したのち再びうつ病期が始まって,その後長期にわたり抗うつ剤の投与を必要とする例もある。
 近年抗つ剤が開発されて以来,われわれはほとんど抗うつ剤のみによる治療を行なっているが,電撃療法や持続睡眠療法を主として用いた時代のうつ病の経過と比べてその治療効果はどうであろうか。上に述べた慢性例や治療後の社会復帰の状況などの観察からうつ病の経過に対して,抗うつ剤が重大な影響を及ぼしているのではないかという疑いが生ずるのである。

紹介

乳児の行動とその母親の行動に関する日米両国間の比較研究

著者: ,   ,   黒丸正四郎

ページ範囲:P.713 - P.720

 本論文は1969年の“Psychiatry”(32巻1号,2月号)に掲載されたものであるが,わが国の精神医学や文化人類学にとって示唆深いと考えられるので,著者並びに出版社の許可を得て,その大要を紹介することにした。

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第19回総合医学賞入賞論文発表

ページ範囲:P.712 - P.712

 第19回総合医学賞入賞論文は,例年通り昨年1月から12月までの医学書院発行各原著収載雑誌から最優秀論文として選ばれた下記11篇に決定した。
 贈呈式は7月10日午後5時から東京・麻布のホテルオークラで開かれ,入賞の11論文に対してそれぞれ賞状・賞金・賞牌および副賞が贈呈された。式終了後引続いて行なわれた祝賀パーティーでは選考委員(各誌編集委員),来賓多数が受賞者をかこみ,新らしい研究をめぐっての歓談が続いた。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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