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文献詳細

雑誌文献

精神医学12巻8号

1970年08月発行

文献概要

研究と報告

分裂病者への接近と治療者の不安

著者: 坂口信貴1

所属機関: 1飯塚保養院

ページ範囲:P.697 - P.702

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I.はじめに
 治療初期の分裂病者の精神療法の場合,神経症では本質的に重要とされる治療契約ができがたい。こうした分裂病者に対する精神療法ではverbalあるいは,non-verbalなレベルでにじみ出る治療者の人柄が治療を進めて行くうえで,大きな役割を果たしていることは否めないように思われる。そのため,諸家の成功例もその治療者の人格に帰されるところが多く,その技法は一般に体系化されたとは言いがたい。これらの事情が患者の変化を治療的な意図でなされた解釈や操作と直接対比させて理解することを困難にしている。このことはまた,分裂病者の治療経過をまとめようとするさい,一層明らかになってくるように思われた。
 さて,私は,精神療法に未熟なまま,ある分裂病者を治療しようとした体験を報告したい。分裂病者の精神療法では,患者との治療同盟を確立する困難をのりきることが,まず何よりも本質的問題であることを知った。すなわち患者のself-esteemを傷つけず,しかも,自己の精神内界を眺め,治療のなかで洞察を深めてゆく態度を患者のなかに育てることの困難である。そのさい,最初の治療者と患者の出会いのありかたがその後の治療を大きく左右することを知らされたのである。この困難を乗りきるためには,治療者自身の問題も赤裸々にされるのを避けることができないという事実に直面した。それは,治療者が意識的に患者に伝えたものだけでは,患者の変化は理解できなかったからである。ことに初心者である私の場合は,知らぬまに患者に伝えたものが大きな意味をもっていたのである。こうしたことから,治療者自身が治療のなかで感ずる不安をどう処理したかが,患者の変化を解く鍵になっていることを知った。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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