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雑誌目次

論文

精神医学12巻9号

1970年09月発行

雑誌目次

巻頭言

精神分裂病を解決するために

著者: 奥村二吉

ページ範囲:P.730 - P.731

 この巻頭言を書いている時に新聞は両毛精神病院の火事と17人の患者の焼死を報じた。焼跡に残った鉄格子の写真がさながらわれわれ精神科医の無力をあざ笑うかの如くであった。
 戦後精神病院のベッド数は物凄く増し,向精神薬といわれるものは数多く出現した。しかし精神分裂病については完全寛解に達した患者の数は戦前と少しも変わっていないことは林・秋元の調査と最近の保崎らの報告とを見ればあまりにも明瞭である。唯不完全寛解と軽快とが林・秋元(24%)に比し,保崎(47%)で多くなっているのみである。要するに,われわれ精神科医は分裂病患者を治しもせず悪化もさせず蛇の生ま殺し状態に置くことに努力しているにすぎない。いろいろの薬はできたがそれはただ患者を静穏化させるだけであって,言うまでもなく根治薬ではない。精神分裂病が全快しない,そこに現代のあらゆる問題がある。劣悪精神病院の増加,学会の造反紛争,これら全ては分裂病に根治法がないということに基因するように私は思う。

特別論文 精神医学の基本問題—精神病と神経症の構造論の展望

第4章 神経症学の展開—ババンスキーとジャネとフロイト

著者: 内村祐之

ページ範囲:P.732 - P.740

 前章では,グリージンガーによって開発の途についた精神病研究が,ウェルニッケとクレペリンとを俟って進展した様子を,この2人の理論と分類とを略述しながら述べ,その中でも代表者と言うべきクレペリンに対して,ようやく学界の批判が高まった時点までを紹介した。そして真に近代的と言うべき精神病の研究が,この2人によって初めて軌道に乗ったとの印象を強くしたのである。そこで本章では,第1章で述べた精神医学の2つの系譜のうち,シャルコーによって代表される神経症の問題,特にヒステリーの研究について,その後の進展の模様を紹介したいと思う。この方面の研究も,ジャネとフロイトの2人によって初めて近代的の装いを得たとの印象を私は受けるのである。

研究と報告

森田療法における「とらわれ」と治療の「場」について

著者: 内村英幸

ページ範囲:P.741 - P.748

I.はじめに
 一般病院形態の中で森田療法をおこなおうとしても,森田がおこなったごとき家庭的な治療の「場」を形成することは困難である。しかし,森田療法を単に形式的におこなって,治療効果があがるのかということは大きな問題である。
 わたくしは,原法のごとき治療の「場」をもてない環境で森田療法を試みてきて,治療の過程で挫折することをたびたび経験してきた。しかし,治療に失敗した症例が森田療法の特殊性について明らかな形で問題を投げかけている。これらの症例の分折を通して,「とらわれ」,治療の「場」について再検討し,一般病院形態の中でも可能な森田療法について考えてみたい。このことが森田療法を発展させてゆく一つの方向であるともいえる。

不就学・在宅自閉症児についての家庭訪問調査

著者: 若林慎一郎 ,   大井正己 ,   金子寿子 ,   河合知子 ,   石井高明 ,   伊藤忍

ページ範囲:P.749 - P.755

Ⅰ.緒言
 われわれが,十数年来,観察・治療を行なってきた自閉症児たちのなかには,小学校就学年齢に達したものも多く,自閉症児の学校教育の問題が親の会や教育関係機関などでも問題とされている1)〜4)
 われわれは,昭和43年4月に就学年齢に達した自閉症児について,その就学状況について質問紙による調査を行なった1)。そのさい,就学年齢を過ぎても就学できずに,幼稚園その他通園施設にも通っておらず,入院または施設にも入所せず,家庭にいるものが約39%みられた。児童福祉や教育,児童精神科医療などからはみ出しているこれらの児童については,早急にその対策が講ぜられなければならないにもかかわらず,現実には,これらの子供達がどのような状態におかれているのか,またその親や家族たちが当面している困難度や子供に対する処置の緊急性の実情については,十分な実態が明らかにされていないように思われる。

脳波上に持続性の睡眠波(Drowsy Pattern)を示す分裂病様状態の1例

著者: 服部英世 ,   原田正純

ページ範囲:P.757 - P.762

 21歳の女性。分裂病像で発病し,分裂病の診断で初め治療されたが脳波上は持続性に睡眠波(drowsy pattern)を示した1例を報告した。精神病像の特徴は周期性であって緊張病性の昏迷と興奮,幻覚・妄想状態,軽躁状態がみられたこと,対人反応がよく保たれていること,間歇期にはいわゆる分裂病性の欠陥症状がみられないことがあげられる。精神症状とdrowsy patternは相互に密接な関係があって,何らかの意識の障害(変容)が関与しているものと推定される。診断についてナルコレプシー,間脳症との関係を論じた。

Double-blind,Controlled Trialによる“APY-606”の慢性分裂病患者における精神薬理学的検討

著者: 窪倉明雄 ,   荒正 ,   懸田克躬

ページ範囲:P.765 - P.774

I.はじめに
 わが国独自の開発に成る向精神薬はきわめて少ないが,1968年に合成,研究されたAPY-606(吉富)(以下APY)はその数少ない薬物の一つである。第1図の構造式に示されるように本薬剤はPhenothiazine系化合物に属する。
 薬理実験において,APYはChlorpromazine(以下CP)と同程度であるがThioridazine(以下TR)よりも強い自発運動抑制作用その他neurolepticな作用を有し,抗adrenaline作用,抗noradrenaline作用が強くしかも毒性はCP,TRよりもはるかに低い点が指摘されている。これまでの臨床報告においては鎮静,賦活の両効果がもたらされるといわれている1)

短報

運動増多—筋緊張異常症候群に対するHaloperidolの効果

著者: 西浦信博 ,   広田豊 ,   北原美智夫 ,   藤平正 ,   光井英昭

ページ範囲:P.775 - P.777

 HaloperidolがHuntington舞踏病1)2),小舞踏病3),Tourette病4)19),チック20)21)などのいわゆる運動増多—筋緊張異常症候群に対してきわめて有効であるとの報告がなされている。今回われわれは,これらの疾患にHaloperidolを試用し,良好な結果を得たのでここに簡単に報告する。

座談会

Suicidologyについて

著者: 新福尚武 ,   加藤正明 ,   森山公夫 ,   大橋薫 ,   大原健士郎 ,   笠原嘉

ページ範囲:P.780 - P.797

まえおき
 司会(新福) 自殺につきまして,われわれ臨床家はそれぞれ僅かずつでも経験をもっておりまして,それなりにいろいろの考え,意見をもっているわけであります。しかしそれは自殺全体から見ますと,山の一角を精神科,特に臨床精神科の立場から触れたにすぎないようなものであります。ここにより広い立場から,自殺を取扱う必要を感じないわけにはいきません。
 それで自殺を対象として総括的,多面的に研究する学門が考えられるわけでありますけれども,その場合自殺学(Suicidology)といわれるためには,自殺を取扱う方法論とか,ロゴスとか,いうものがそれぞれの立場からしっかりされなければならないだろうと思います。本日はそういう意味で多少理論的なことに走るかもしれませんが,ご意見をいただければ,と思います。

動き

新ハイデルベルク学派をめぐって

著者: 宮本忠雄

ページ範囲:P.799 - P.806

Ⅰ.まえおき
 今世紀の10年代から20年代にかけてハイデルベルク(ドイツ)の精神医学教室(Psychiatrische und Neurologische Klinik注1) der Universitat Heidelberg)にKarl Wilrnanns(1873-1945),Hans Walter Gruhle(1880-1958),Karl Jaspers(1883-1969),Kurt Schneider(1887-1967),Willy Mayer-Groβ(1889-1961)らの俊秀が集まり,新しく開拓された現象学的方法を武器として精神病理学の分野で輝かしい業績をあげ,のちに「ハイデルベルク学派」(Heidelberger Schule)とよばれたことは,よく知られている。彼らの学術的活動は30年代にはじまるナチ支配下の全体主義的体制のもとでさまざまな圧迫や禁圧をうけて鈍り,第2次世界大戦が終わって大学の自由がふたたびとりもどされた時には,上記の人だちもすでに年老いて,若々しい再出発はもはやみられなかった。
 しかし,1950年代のなかばごろからWalter Ritter von Baeyer(1904-)教授のもとにBernhard Pauleikhoff(1920-),Karl Peter Kisker,Walter Brautigam,Hubertus Tellenbach(1914-),Heinz Hafner(1926-)らの「怒れる若者たち」が集まって,主として精神病理学の分野で活発な活動を展開するにおよんで,ハイデルベルクはふたたびドイツの,ひいてはヨーロッパの精神医学界に指導的な位置を占めるようになり,いくたの曲折をへながらも今日におよんでいる。

紹介

F. M. ForsterのClinical Therapeutic Conditioning in Sensory Precipitated Seizureについて

著者: 細川清

ページ範囲:P.807 - P.813

I.はじめに
 Sensory precipitated seizures注1)(以下SPSと略)の問題は古くかつ新しい。同時にその治療の歴史も古くから興味ある問題をわれわれに投げかけてきた。一般のてんかん発作とやや異なり,SPSはまず頭蓋外にその要因を求められ,発作の引金が一応明瞭であり,その機構は生理学的に思考されうるなどの特徴を有している。
 これがいわゆるreflex epilepsyとして古くから親しまれてきた名称の由来をなすものである。このような外界からの刺激によって引き起こされる特殊なてんかんの研究は,一般のてんかん発作の機構を解明するひとつの拠り所として期待される。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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