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雑誌目次

雑誌文献

精神医学13巻10号

1971年10月発行

雑誌目次

特集 内因性精神病の生物学的研究

現状と今後の展望

著者: 高橋良

ページ範囲:P.926 - P.938

I.はじめに
 生物学的研究の分野は遺伝学的研究を始めとし広範な領域に亘るとともに,その研究論文は世界各国から莫大な数で報告されている。ここ数年来特に欧米諸国で生物学的精神医学に関する学会やシンポジアムが数多く開かれ,また新しい成果が出版されているのをみると,筆者一人でその情報をすべて的確に把握してまとめることは至難のわざといわざるを得ない。
 したがってこの総論では,もっぱら内因性精神病の病因を目指して行なわれている病態生理学的研究の現況を展望し,今後の方向づけの参考にしたいと考える。神経生理学的研究や行動科学的研究などは各論にゆずることにし,また精神病の身体病理についても我国でここ数年来すでに詳細な論述1)2)3)が少なくないので,ここでは最近の研究に限り,しかも一応研究仮説を提出しうる程度の継続的な研究について要点をのべることにする。

精神分裂病の精神生理学

著者: 安藤克己

ページ範囲:P.939 - P.947

I.はじめに
 精神疾患,とくに精神分裂病とその脳の活動状態の関係をみるために心理的,情動的な刺激を与えながらいくつかの生理的指標にあらわれる反応や動きをとらえる研究は今までかなり多く試みられている。しかし非常にばらつきが多く,一致した結果が得られていない。近年になって分裂病をサブ・グループに分けることにより,また異なった分類方法をとることでかなり近い所見が得られるようになった。それらによれば分裂病(主としてnon-paranoid,process,chronicのタイプ)の特徴としてつぎのような表現がよく用いられている。安静時において,1)over-arousal(過覚醒),2)交感神経系の優位性,皮質下機構からの異常に強い皮質賦活状態,反応性としては,4)生理的反応の全般的な低下,さらに機構の障害としては,5)皮質-皮質下統合不全,6)感覚知覚過程における注意の範囲の狭窄,7)ホメオスターシス・フィードバック機構の障害などである。これらを理解するために,今回は関連するいくつかの研究成果を紹介し,また数年来わたくしが金沢大学や東京医科歯科大学において島薗らとともに続けている眼球運動についての若干の所見を加え,検討してみたい。

精神分裂病の生化学的研究

著者: 谷口和覧

ページ範囲:P.949 - P.955

 内因性精神病の生化学的研究には1920年代から多くの努力が払われている。特に精神分裂病はいうまでもなく注目され,この疾患での生化学的異常についてなされた研究の数は厖大なものである。近くは1950年以来,種々の薬剤の開発などに伴っていくつかのトピックがとり上げられている。しかし現在までの成果は結局まずしいものであり,最近のトピックについても当初の期待に反して病因との連関は不確かのまま時がすぎている。問題はまことにむずかしく,直接解決しにくい難関が至るところで防害する。これまでの報告にはそれぞれ難点があっていずれも同じような批判をこうむっているが,現段階では「精神分裂病」の病因を直接生化学的にとらえることを,むしろのぞまない方がよさそうにさえ思われる。
 問題が困難である要因としては次のようなことがあげられよう。

精神分裂病の内分泌学的研究

著者: 諸治隆嗣

ページ範囲:P.957 - P.965

I.はじめに
 人間の精神機能や行動に対する内分泌の影響については,早くから多くの報告がある。すでに1880年には粘液水腫に伴う精神変調についての記述がみられ,1891年にはクレチニズムが母親のヨード欠乏状態と関連して現われること,ヨード塩によって予防できることが知られている。一方,内因性精神病に関しては,周知のようにE. KraepelinやE. Bleulerがその病因として内因性中毒説を考え,内分泌系と内因性精神病の間の関係に注目しているが,それは以上のような精神機能におよぼすホルモンの影響を重視したためと思われる。
 1920年ごろまでには精神疾患患者の内分泌機能について豊富な知識が得られ,1923年にはLewis34)によって最初の綜説が書かれた。そこでは睾丸や副腎皮質の萎縮,甲状腺の間質変化,下垂体や脾臓の不規則な変化などが指摘されている。さらに1927年にはHoskins27)とWorcesterグループによる精神分裂病の広範囲な研究が開始されて,甲状腺,副腎髄質および皮質,下垂体および各種の代謝機能の検討や多くの内分泌腺抽出物を治療に用いる試みがなされた。

精神分裂病の行動学的研究

著者: 町山幸輝

ページ範囲:P.967 - P.975

I.分裂病研究における行動学的接近
 こころは内的には体験として,外的には行動として現象する。体験は他の人には直接のぞくことのできない主観的な過程であり,行動は外部から直接観察可能な客観的な現象である。我々は他の人のこころを体験の言語による報告と行動として身体的に表現されたものとから推測する。こころは言葉によってもっとも効率的に表現されるが,その表現は常に適切で信頼しうるとはかぎらない。言語報告にもとづく推測は行動によって修正される必要がある。言語報告ほど精細ではないにしても,行動はより確実にこころを反映する。幼児や無言症の患者などのように体験の言語表現がえられない相手と接する場合,我々が相手のこころをおしはかるための唯一の手がかりは相手の行動である。
 行動はこころの身体的な表現であり,客観的な事実であるから,行動を指標とすると,体験や言葉の問題から完全にはなれて,こころを客観的,生物学的にとりあつかうことが可能になる。さらに人間の体とこころを進化論的に考察し,それらと生物学的に相同の構造と機能が,はるかに単純ではあるにしても,動物にも存在すると考えるならば,こころの生物学的解析を動物において行なうことが可能になる48)。元来,人間における行動学的研究はその起源を動物の行動研究の二つの流れにたどることができる。一つはDarwin, C. からLorenz, K. にいたる習性学(ethology)51)の流れであり,他はPavlov, I. P. からSkinner, B. F. にいたる行動主義と学習理論のそれである。

躁うつ病の生化学的研究

著者: 更井啓介

ページ範囲:P.977 - P.988

I.はじめに
 躁うつ病の生化学的研究は最近めざましいものがあり,未だに原因にせまるような成果はあがっていないが,非常に多くの研究業績が発表された。ここではすべての研究について展望することができないので,比較的注目を集めている分野を選択して述べることにする。
 所見を述べる前に,多くの文献を読んで気づくことは,研究対象としての躁うつ病の見方が,研究者によって異なることである。原因は不明であっても,単一の原因に基づいて起こると予想する立場と,治療に対する効果が患者により異なり,症状その他の分析によっても,とても単一疾患とは考えられないので,現在のところ症状群として取り扱おうとする立場があり,どちらかというと後者の立場が多いようである。もし症状群であるとすれば,ただばく然と患者を集めて,ある物質変化を検査したとしても,一定の結果が出るかどうか疑わしい。今まで報告された研究結果に関しても,同一方法を用いながら全く逆の結果が報告されていることがある。その理由の一部には対象の選択方法の違いが関係していると思われる。したがって対象に関しては,年齢,性別,社会的背景ばかりでなく,症状上の特徴も明瞭に示されなければならない。症状の記載に関して,最近の報告では薬物の効果判定用の評価尺度表が用いられる傾向が強い。これはある程度症状の種類程度を示しうる利点はあるが,とかくそれぞれの研究者が独自の評価表で表現するために,他の研究者が発表している対象とのあいだに,共通点を見出すのに時間を要し,しかも内容の重点の置き方によっては,同じ内因性うつ病と表現されても,疑問を感じさせるものもある。少しの欠点があるにしても,比較的多くの人が用いている評価表を用いて表現すれば,対象がほぼ類似かいなかの判断がつきやすく,理解しやすい。最近は軽症者が多く来院するのでことに注意を要する1)。ともかく,対象はできるだけ典型的症例を選ぶのがよいと思われる。また,単に横断的診断に止まらず,経過型を考慮して発病年齢により早発群,遅発群などに分け,間歇期の長さによって持続型,頻発型,周期型,間歇型のように分けて整理し2),誘因の有無,病前性格まで考慮し,できるだけそれらの条件を一定にして,近似のものについて検査し,しかも同一患者について縦断的に病期,回復期,間歇期の検査結果がそろえば,病態がより詳細に把握されると思われる。現在は巧をあせるのか,あるいは研究資金獲得の関係からか,こまぎれの研究結果が発表されることが多く,第2報で第1報の結果を否定するものがあったりして,何が真相かつかみにくい場合がある。注意して文献に接しなければならない。

内因性精神病の臨床遺伝学

著者: 堺俊明

ページ範囲:P.989 - P.999

I.はじめに
 精神病の遺伝研究は,歴史が古いだけに業績も豊富であるが,その成果は必ずしも大きくない。同じ精神疾患のうちでも,種々の代謝障害や染色体異常による精神薄弱に関しては,それぞれ遺伝生化学および染色体病理学の方面から追究がなされめざましい発展が遂げられている。しかしながら,精神病一般の遺伝研究においてはこのような画期的な発見,飛躍的進歩はみとめられない。これは畢竟内因性精神病の診断基準が確立されていないことに加うるに,その身体病理が未だ充分明らかにされていないことに基づくものである。このように研究方法に種々の制約がみられるが,むしろ逆に臨床遺伝学を積極的に活用することによって,内因性精神病の本態が解明されて行くであろう。
 ここでは紙面の都合上,主として内因性精神病の遺伝研究の現在の問題点に特に焦点をしぼって紹介する。

内因性精神病理解のための発達的観点

著者: 岡田幸夫

ページ範囲:P.1001 - P.1008

I.はしがき
 内因性という既念に基づいて,その精神分裂病学を系統的にうち立てたのはKraepelinの精神病理学である。したがって,Kraepelinの時代には,内因性という概念は,名実ともにその位置を確立し,さらには,将来,身体病理が発達して内因性なるものの法則が明らかになるであろうという精神病学の進んで行く方向をも予想していたといえるのであろう。
 けれども,その後の精神病学の歩みは,むしろ身体病理と精神病理とが,判然と離別してしまう方向をたどったものである。いいかえれば,身体病理と精神症状との結びつきは一元的に考えられないことが強調され,精神病理は,身体病理との関連をはなれて,精神病理独自の道をたどったといえよう。もちろん,JaspersからK.Schneiderにつながる現象学は,内因性という概念を保持しているが,単に正常心理から了解できないという点を想定したにとどまって,内因性を示す精神症状の構造は必ずしも明らかにしていない。たとえば,K.Schneiderは,精神分裂病の第1級症状を列挙しているが,単に現象的に症状を列挙したにとどまって,その正常心理との構造的な差違が考察されていないために,身体病理とのつながりは,それ以上の深まりをみせてはいないのである。

臨床脳病理学と内因性精神病—身体的基礎を有する精神病における内因性精神病像を中心に

著者: 浜中淑彦

ページ範囲:P.1009 - P.1020

I.はじめに
 臨床脳病理学の課題を器質性局在性脳病変によって生ずる精神神経症状の研究に限定するならば,内因性精神病を研究する直接的方法として臨床脳病理学を直ちに思い浮かべる精神医学者は今日ではほとんどいないであろうし,それのみか19世紀の自然科学的素朴身心論を背景として生まれた「精神病は脳病なり」―序ながらこれはGriesingerの言葉とされているが,彼自身の思想はこの一言のみで代表させてしまい得る程素朴でなかったことは,最近 R. Jungに引用された,ほとんどpoetischと言ってよい程の次の一文に見てとれるであろう:"WÜB-ten wir auch Alles, was im Gehirn bei seiner Thätigkeit vorgeht, könnten wir alle chemischen, electrischen etc Processe bis in ihr letztes Detail durchschauen…was nützt es? Alle Schwingungen und Vibrationen, alles Electrische und Mechanische ist dochimmer noch kein Seelenzustand, kein Vorstellen. Wiees zu diesem werden kann…dies Rätzel wird wohlungelöst bleiben bis ans Ende der Zeiten, und ichglaube, wenn heute ein Engel vom Himmel kämeund was AIles erklärte, unser Verstand wäre gar nicht fähig, es nur zu begreifen!"―という言葉を文字通りに確信している人もそう多くはなかろう。このことを念頭においた上で,ここでは身体的基盤を有する精神病に関する1960年代後半の文献の展望を試みたい。それ以前についてはConrad(1960),Scheid(1960),大橋(1965),保崎(1966)らの綜説がある。

精神医学領域における睡眠および夢の精神生理学的研究—夢の縦断的研究を中心に

著者: 大熊輝雄 ,   織田尚生

ページ範囲:P.1021 - P.1030

I.精神疾患と睡眠
 Aserinsky and Kleitman(1953,1955)によって急速眼球運動を伴う特殊の睡眠期が発見され,Dement,Jouvetその他の研究者によって,この睡眠期が賦活睡眠,逆説睡眠などとしてその生理学的重要性ならびに夢との関連が指摘されて以来,睡眠の研究はこの特殊な睡眠期(本稿ではREM睡眠期と呼ぶ)の問題を中心に展開されてきた。このような新しい睡眠の研究は,最初は主として神経生理学的研究を中心に進められたが,最近ではJouvetら(1969)によるアミン仮説の提唱などによって,神経化学的方面からの接近もさかんに行なわれてきている。
 このように,睡眠の問題がREM睡眠という観点から新たに再検討されるようになるにつれて,精神医学領域でも,内因精神病の睡眠を中心に,睡眠の研究がさかんに行なわれるようになった。このような精神疾患における睡眠の研究は,脳波,眼球運動,筋電図などの同時描記によるポリグラフィ所見にもとついて,睡眠をREM期を含むいくつかの段階に分け(たとえばDement and Kleitman 1957の基準を用いて),それらの各睡眠段階の出現率や全睡眠時間などから,睡眠を客観的に量的ならびに質的に観察する方法がその主流であった。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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