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雑誌目次

雑誌文献

精神医学13巻2号

1971年02月発行

雑誌目次

巻頭言

ある精神科医の嘆きと怒り

著者: 錦織透

ページ範囲:P.98 - P.99

 いつも私の念頭にあることであるが,精神医療は一体なぜ,こうも特殊で低格な医療として一般医療から差別されねばならないのであろうか。リハビリにせよ,一般医療では国公私立を問わずすでに各地に専門病院が活動しているのに,精神科に限ってせいぜい精神病院の優等生である“回復者のセンター”が医療の外で発想されているなど卑近な一例である。
 医療法はいう“病院は傷病者が科学的で,かつ適正な診療を受けることができる便宜を与えることを主たる目的として……”と。もし精神病院が,この規定どおりに運営されていたとしたら朝日ルポによる.いわゆる「告発」など,むろんあり得ないはずであったが……。50年代後半以降,薬物療法は相次ぐ向精神薬の開発につれて病院の体質改善の路線を開き精神医療はあたかも科学的で,かつ適正な診療の方向に向かうかにみえた。しかしこれが全くの幻想にすぎなかったことは“薬漬け”のごとき,およそ科学的で適正な診療にはふさわしからぬコトバが精神科医達の間で語られていることからも察知されよう。

展望

性犯罪と精神医学

著者: 樋口幸吉

ページ範囲:P.100 - P.112

I.緒言
 1960年9月,オランダのハーグで開かれた第4回国際犯罪学会議の主題は「精神病理学からみた犯罪行動」で,性犯罪の問題は第II部会で討議された。この部会の設問に対する一般報告は,ニューヨーク大学社会学・法学教授Paul W. Tappanによってなされたが,次の2点に討議の主眼がおかれている。
 第1は,性犯罪を有罪行為とし,そのような行為を抑制するにあたって,社会=文化的な諸条件がどのように関与しているかということであり,第2は,性犯罪者を社会に再適応させるためには,この問題に関する精神医学などの従来の考え方や意見に従っていてよいかということで,このような反省の上に立って,処遇対策はいかにあるべきかが論じられた。

特別論文 精神医学の基本問題—精神病と神経症の構造論の展望

第8章 クレッチュマーの「多次元診断」とクライストの構造論

著者: 内村祐之

ページ範囲:P.114 - P.122

ビルンバウムとクレッチュマー
 すべての精神疾患を,明快に割り切った分類体系をもって整理することの困難さが,時とともに経験されるようになった。それは,身体的基礎の明らかでない機能性精神病や,いわゆる内因性精神病のみに当てはまることではない。たとえばアルコールのような外因に基づく精神病の場合でも,その現象形態は複雑であって,決して単純なものではないのである。このような臨床体験に端を発して,精神病像の構造と成立とを,もっと詳しく分析しなければならないという機運が漸次生まれてきたのは当然のことであった。
 前章で紹介したビルンバウムの「構造分析」的研究はその現われの1つであって,彼は,クレペリンの体系を基とし,クレペリンが目標とした疾患単位の理念を追いつつも,なお疾病成立に対する諸条件を考慮して,病機序的(pathogenetisch)因子と病賦形的(pathoplastisch)因子とを区別し,これによって精神病像の理解を深めようと試みたのであった。しかし,ここにもう1人の若い研究者がいて,ビルンバウムと立場は異なるが,同じくこの難問題を追究し,将来の解決を夢見ていたのである。それはエルンスト・クレッチュマーであり,その提唱した学説は多次元診断(mehrdimensionale Diagnostik)として知られている。ビルンバウムとクレッチュマーとの間にあった意見の違いの一部については,すでに前章で触れたが,本章では,まずクレッチュマーの学説の内容と根拠とのあらましについて述べてみよう。

特別研究 分裂病家族の研究・3

両親抗争の滲透している一分裂病家族—事例C

著者: 三須秀亮

ページ範囲:P.123 - P.130

 1.個人面接,同席面接などで得られた資料をもとにして,一分裂病家族の相互関係のあり方を描こうと試みた。
 2.両親間の葛藤が家庭内に,またとくに男性である患者に対し,どのように反映しているかについて述べた。
 3.対立する両親間を浮動し,彷徨する間に発病するに至った患者の微妙な立場について触れた。
 4.音調テストおよびI. C. L.・変法でみられた結果と家族の臨床像とを照合してみた。

研究と報告

慢性Meprobamate中毒—禁断症状を中心として

著者: 松下昌雄 ,   梶谷哲男

ページ範囲:P.131 - P.139

I.はじめに
 MeprobamateはPropandiol誘導体(化学名は2-Methyl-2-n-Propyl-1,3-Propandiol dicarbamate)で,1950年LudwigおよびPiechにより合成された。その後薬効および無害性,非習慣性を保証した数多くの報告1)〜4)とともに普及した。一方,これらの報告と相前後して,1956年Lemere5)によってMeprobamateに習慣性があると同時に,その禁断時にけいれん発作を生ずることが報告された。それ以来,引き続きBarsa & Kline6),Bokenjic & Trojaberg7),Dickel & Dixon8),Ewing & Haijlip9),Greaves, D. C. and West, L. J. 10),Stought, A. R. 11),Essig & Ainslie12)らが相ついで同様の報告をした。その間Essig13),Swinyard14)は犬およびマウスで多量のMeprobamateの投与を急に中止した場合けいれん発作が生ずることを確認した。
 わが国においては,1957年成瀬15)が長期投与には注意を要することを述べ,また,同年中ら16)は,はじめて,副作用としての全身攣縮を報告した。1959年奥村,池田が17)慢性Meprobamate中毒者で,禁断時にけいれん発作を生じた30歳の男子の症例について,はじめて詳しい報告をした。ついで,1961年池田ら18)は再び同様の1症例を追加報告した。その後引き続き,鳥居19),高橋ら20)向井ら21),田野ら22)が同様の症例報告を重ねた。

さまざまな文化における双生児に対する態度について

著者: 池田由子

ページ範囲:P.141 - P.148

I.まえがき
 双生児の出産頻度はそれぞれの地域によって異なり,出産144回ないし170回につき1組とか,生産211回につき1組とかいろいろにいわれているが,単胎にくらべてはるかに少ないことは事実である。平均より稀なもの,偏っている存在,特殊な現象に対して人間の示す反応,とりわけ,受胎や出産や疾病のからくりが未知の闇深く沈んでいる社会でひき起こされるであろう反応はわれわれにも推測できる。おそらくそれは超自然と関係づけ神聖視され,あるいは魔力をもつ不吉なものとして取り扱われるにちがいない。
 われわれは過去17年間双生児児童の追跡調査を続け,双生児相談室を開いて双生児の問題を取り扱ってきたが双生児や家族との継続的な深い接触によって,現在青年期に達している彼らの相当数が双生児についていわゆるコンプレックスを持っていること,また双生児に対する家族や社会の態度が双生児の人格発達にさまざまの影響を与えていることなどを見出した。われわれの取り扱った双生児は大多数が心身健康な児童であったが,双生児自身面接や質問紙によって,「世間の人は双生児をやはり,かたわと思っているのでないか」(二卵性,女,16歳),「動物的だと感じている」(一卵性,女,14歳),「珍しがって見世物みたいに見る」(一卵性,男,11歳),「変な眼で眺められるからいやでたまらない」(異性,10歳)というような答があり,彼らの母親も面接回数が重なるにつれ,「姑にうちの家系には双生児の筋(すじ)はないと責められて肩身が狭かった」(荒川区,青果商の妻),「世間態が悪いから1人を養子に出せと夫や舅たちにいわれ,泣く泣く養子にやった」(江戸川区,工員および札幌市,公務員の妻その他),「双生児を妊娠しているらしいとわかってからは舅たちにあまり外に出ぬようにといわれ,出産も自宅でといわれた。1人がどうにかなればよいと望んでいたらしい。二卵性双生児であったので,これはまったく母親の責任であり,しいては母の実家にも責任があるとして実家の母まで非難された。実家も申し訳ながって双生児の1人を学齢期まで実家で養育した」(静岡県,医師の妻),「双生児らしいとわかったとき,夫の妹たちは身ぶるいして犬や猫みたいとささやいていた」(埼玉県,医師の妻)というような陳述を行なっている。英国のBurlingham, D. はその著書のなかで子供たちはエディプス状況の失望からしばしば双生児を持つことを白昼夢の内容とし,母親たちは経済的困難のある場合や少数の例外を除いて,双生児の出産を喜び,興奮,誇りをもって迎えると記しているが,そのような反応がわれわれの症例に認められることは少なかった。

空笑について

著者: 小倉日出麿

ページ範囲:P.149 - P.155

I.はじめに
 笑いは喜悦,ユーモア,快感情の表情であって,生活や体験の内容を肯定し,温かさと積極性とをもっている。しかし笑いには歪んだ笑いもある。嘲笑,冷笑,含み笑いなどには相手や対象の価値を否定する態度が示される。温かい笑いは人を包み,人から人へと伝播するが,冷たい笑いは人を否定する。笑うこと程残酷なことはないような笑いもある。冷笑に対して,われわれはその冷情さに対し反感をも覚える。
 ところで精神病者の空笑はどうであろうか。われわれはこの空ろな笑いに対して反感をすら感ずることはできない。いかにも狂気というにふさわしく,空笑に接するとき,病者はわれわれとはまったく異質の境地にあることを思い知らされる。

SLEに随伴する精神症状について

著者: 望月延泰

ページ範囲:P.157 - P.165

I.はじめに
 全身性エリテマトーデス(以下SLEと略す)は膠原病の主要疾患として,また,結合組織疾患,自己免疫疾患などと次々に登場する新しい概念とそれにもとづく研究によって注目を集めている。その精神神経症状についてはHebra & Kaposiが1875年に記載して以来多くの報告があり5)7)10)23)27)42)45)50),本邦においても原田をはじめとして多くの報告や研究がなされてきた11)12)13)18)31)33)43)52)53)。私も慶大内科五味研究室の好意と協力で,精神症状を伴う症例の観察をすることができたので,それらの概要とともに,従来本症についてはあまりかえりみられてこなかった,精神症状を伴う症例と伴わない症例との比較——ことに免疫学的検査を中心とする諸検査結果について検討したので,若干の考察を加えて,その結果を報告する。

保安処分に関する論争

著者: 田村幸雄

ページ範囲:P.167 - P.171

I.はじめに
 金沢学会以来,わが国精神医学界では保安処分反対の声が喧しく,賛成論者は鳴りをひそめている。今や,保安処分反対は精神神経学会(以下学会と略記)の意見となりつつある。反対論者は賛成論者の意見を十分に吟味し,かつ,主体的熟考の末その結論に到達したのであろうか。大勢に押されたり,特殊のイデオロギーに捉われて反対論を唱える人はいないか。さきに,私は本誌に保安処分について自己の見解を述べた1)2)3)。その基本的考えは次のごとくである。
 (1)保安処分については条件付賛成である。

躁うつ病および症候性躁-,うつ状態に対するCarbamazepine(Tegretol)の効果

著者: 竹崎治彦 ,   花岡正憲

ページ範囲:P.173 - P.183

I.緒言
 いわゆる内因性精神病のなかで,躁うつ病は分裂病とともに,その生理的障害のメカニズムは明快には判っていない1)。また,躁うつ病(以下MDIと略称する)の治療も,ことに躁病(相)や循環性MDIの場合,うつ病(相)よりも一般に困難である。近年phenothiazine誘導系にくわえて,lithium塩2)3)が試用されるようになり,われわれも使用してみたが必ずしも効果に安定性があるとはいいがたいようである。
 Carbamazepine=Tegretol〔5-carbamoyl 5 H-dibenzo(b,f)-azepin〕は,従来より向精神作用をもつ抗てんかん剤として,あるいは抗三叉神経痛剤として一般に知られている。Tegretolは化学構造上,精神身体調整剤のopipramol(Insidon)と同じdibenzoazepine核をもち,また抗うつ剤のimipramine(Tofranil)のiminodibenzyl核に近似した構造をもっている。このような特性をもっTegretolを躁病やMDIの治療に試用するに至ったのは,開放病棟しかもたないわれわれの窮した上での迷案であったが,予期以上の臨床効果が得られた。

資料

都道府県立精神病院の現況

著者: 井上正吾

ページ範囲:P.185 - P.189

I.はじめに
 河村は「企業会計方式をとる都道府県立精神病院の現況」において,経理的現況をのべ,さらに公営企業方式を採用するに至った経過と公企法の改正により独立採算への道を歩まされる傾向を指摘し,都道府県立精神病院の医療内容の低下を心配していた。その後2年を経過した今日の現況をみ,最近やかましくいわれる精神科医療の危機と精神病院に多発する不詳事件との関連において考察することも意味のあることだと考える。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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