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特別論文 精神医学の基本問題—精神病と神経症の構造論の展望
第8章 クレッチュマーの「多次元診断」とクライストの構造論
著者: 内村祐之12
所属機関: 1東京大学 2財団法人神経研究所
ページ範囲:P.114 - P.122
文献購入ページに移動すべての精神疾患を,明快に割り切った分類体系をもって整理することの困難さが,時とともに経験されるようになった。それは,身体的基礎の明らかでない機能性精神病や,いわゆる内因性精神病のみに当てはまることではない。たとえばアルコールのような外因に基づく精神病の場合でも,その現象形態は複雑であって,決して単純なものではないのである。このような臨床体験に端を発して,精神病像の構造と成立とを,もっと詳しく分析しなければならないという機運が漸次生まれてきたのは当然のことであった。
前章で紹介したビルンバウムの「構造分析」的研究はその現われの1つであって,彼は,クレペリンの体系を基とし,クレペリンが目標とした疾患単位の理念を追いつつも,なお疾病成立に対する諸条件を考慮して,病機序的(pathogenetisch)因子と病賦形的(pathoplastisch)因子とを区別し,これによって精神病像の理解を深めようと試みたのであった。しかし,ここにもう1人の若い研究者がいて,ビルンバウムと立場は異なるが,同じくこの難問題を追究し,将来の解決を夢見ていたのである。それはエルンスト・クレッチュマーであり,その提唱した学説は多次元診断(mehrdimensionale Diagnostik)として知られている。ビルンバウムとクレッチュマーとの間にあった意見の違いの一部については,すでに前章で触れたが,本章では,まずクレッチュマーの学説の内容と根拠とのあらましについて述べてみよう。
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