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文献詳細

雑誌文献

精神医学13巻5号

1971年05月発行

文献概要

特集 向精神薬をめぐる問題点

向精神薬の作用機序—うつ病の薬物治療をめぐって

著者: 佐野勇1

所属機関: 1大阪大学医学部高次神経研究所

ページ範囲:P.411 - P.420

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I.はじめに
 1957年,私は日本精神神経学会の宿題報告「精神疾患の薬物療法」のむすびの中で,つぎのように書いている。「フェノチアジン誘導体やレゼルピンは,いずれの疾患群においても昂進した病的な精神力動,情動迎動を正常化し,社会復帰への橋渡しの役目をはたすに一応有力であると結論できる。……しかし反対に硬化し,貧困化し,ついには消失してゆく分裂病者の低下した精神力動,そして荒廃と“Abkapselung”に対する手段には薬物療法をふくむ従来のあらゆる身体療法が到達しなかった」と。ところが同年,Syracuseで開かれた地方学会でKlineらが,iproniazid(イソプロピルイソニコチニルハイドラジン,IIH)がうつ病の治療に有効であると報告した。この物質は,はじめ抗結核剤のスクリーニングに用いられたイソニコチン酸ハイドラジンに近似の構造物であるが,結核に有効でないのに,患者に発揚作用を発揮することから,抗うつ剤としての応用のヒントが得られた。ところが,この物質は,生化学領域では,すでに以前から(Zeller,1952),モノアミン酸化酵素(MAO)の阻害剤として研究に用いられていたので,この物質の抗うつ作用は,脳のモノアミン酸化酵素の阻害を介するものではないかと推定されるにいたった。事実,動物実験により,iproniazidの投与後に,脳のこの酵素の活性が強くおさえられることが知られた。同時に,この酵素の基質となるモノアミンは脳内で著しく増加することも判った。当時,Brodie一派をはじめとして,世界中が,セロトニンの脳機能における役割に注目していたから,reserpineによる鎮静はセロトニンの脳からの遊出(release)を介するものであり,iproniazidによる昂揚はセロトニンの脳での増加によるものとの想定が生まれた。
 そのころ,Brodie一派がセロトニンの役割を重視するあまり,なにもかも,セロトニンと結びつけて解釈することに対して批判者が増え,かつ,同じ脳の芳香族モノアミンであるノルアドレナリンについての研究がすすむにつれて,reserpineはノルアドレナリンをも脳から遊出させるし,一方,モノアミン酵素(MAO)の阻害剤は,ノルアドレナリンの分解をも阻害して,脳内レベルを高めることがわかった。1958年にはCarlssonによるドーパミンの発見があり,遊出や分解の機序は,いずれもセロトニンの場合と同一であり,Brodieらの牽強附会的解釈はいよいよ批判されるようになった。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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