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文献詳細

雑誌文献

精神医学13巻5号

1971年05月発行

文献概要

特集 向精神薬をめぐる問題点

向精神薬の臨床効果判定の諸問題

著者: 谷向弘1

所属機関: 1大阪大学医学部精神神経学教室

ページ範囲:P.429 - P.439

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I.はじめに——臨床薬効検定の必要性
 Chlor Promazine,reserpineの出現以来間もなく20年になろうという今日,薬物療法は精神疾患治療の主座を占め,われわれの駆使しうる向精神薬は100種をはるかに越えた。これら向精神薬は治療手段としてきわめて有力なものであり,現在ではほとんどあらゆる精神疾患を薬物療法によって治療することができる。しかし一方,治療努力の限りをつくしても効果が得られず,精神病院に沈澱してゆく不幸な患者もなお少なからず存在し,一層強力な治療法の開拓が切望されているのである。この要求に応えるべくつとめることは,われわれ精神科医に課せられた責務であり,よりすぐれた向精神薬の発見にも絶え間ない努力をつづけなければならない。
 人体に用いられる薬物は有効であると同時に安全なものでなくてはならない。サリドマイド事件やいわゆる大衆保健薬問題で象徴的に示されるように,最近では広く世間もこの問題に注目している。マスコミに指摘されるまでもなく,新薬開発の過程においては従来から有効性と安全性について,慎重な検討をへた上で製品化が行なわれてきたはずであるが,なにぶんにも人体に直接影響することであるから検討は慎重の上にも慎重を期さねばならない。薬物の有効性と安全性は,開発段階においてはまず動物について試験される。そこで多くのものがふるい落とされ,パスした一部のもののみが人体適用の候補物質として残される。しかし動物と人間とは,薬物の吸収,体内分布,代謝,排泄から,薬理作用,安全性に至るまで多くの点で異なっているから,これら動物実験を通過した物質が広く一般に市販される以前に,是非人間における有効性と安全性が確かめられなければならない。とくに精神現象は,他の動物にはみられない人間固有の現象であるから,向精神薬の有効性はヒトで調べられるまで確証できない。このような目的をもって行なわれるのが新薬の臨床試験である。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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