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雑誌目次

論文

精神医学13巻6号

1971年06月発行

雑誌目次

巻頭言

たてとよこの論議

著者: 佐藤壱三

ページ範囲:P.550 - P.551

 最近,人間関係がこれまでの“たて”に代って“よこ”になりつつあるといわれている。毎年行なう看護学生への精神衛生の講義の間に,彼女らが答える結婚の意味にも,次の世代への関係をあげるものが年々減少する。これに“たて社会”の終りを感じるのは,いささかわが感覚の古さの故かとひそかになげきもするこの頃であるが,今精神科の学会が,新旧会員の間の断絶で混乱し,正常のかたちでの運営が困難を極めていることも,こうした社会の動きに最も敏感な医師の集まりの故と思えば,大いに先駆的なこととして,理解,評価出来ないこともない。
 しかし周囲の声をきくと,これはどうも精神科というせまい“たて社会”での出来ごとと理解されている面も多いらしい。周囲,つまり常識的に一つひろがった“よこ社会”としての一般医師社会から見ると,学会の混乱はこの社会の異端の徒の間の出来ごとであり,やっぱり精神科医は,などとおよそわれわれの期待しない偏見の助長に役立っている面も否定出来ない。

座談会

ソ連の精神医療

著者: 加藤正明 ,   安食正夫 ,   高臣武史 ,   目黒克己 ,   菅又淳

ページ範囲:P.552 - P.566

ソ連医療の特徴
 司会(加藤) それではきょうの座談会を始めさせていただきます。
 6年前に桜井教授が中国へ行かれ,私がソ連へまいりました時に井村教授の司会で“中国・ソ連における精神医学”という座談会をいたしました。あれから6年近くたち,最近高臣さん,菅又さん,目黒さんがソ連へ行かれ,新しいソ連の精神医療,精神医学の現状を見てこられましたので,今回“ソ連における精神医療”という題で座談会を開くことになりました。安食先生には,特に医療社会学の立場からいろいろご意見や質問をしていただくという形で進めてみたいと思います。

特別論文 精神医学の基本問題—精神病と神経症の構造論の展望

第11章 クルト・シュナイダーの精神病理学的概念規定

著者: 内村祐之

ページ範囲:P.568 - P.575

精神病理学の勃興
 本展望の初章以来述べてきたところからも明らかなように,近代的精神医学における構造論は,主として自然科学的,生物学的の基盤の上に組み立てられたものであった。脳病理学の進歩によって,脳障害に由来する精神疾患の構造についての理解は大いに深められ,また遺伝学や体質学,それにこの体質学と関連をもつ性格学などの方面の研究も進んで,内因性精神病や機能性精神障害の発生や構造に対する理解も深められた。フロイトの精神分析を,生物学的本能論と見ることさえもできるのである。しかもこの立場に立つ研究者は各自の立場から新しい作業仮説を立てて,その立証に努力したのであって,それは期待に満ちた楽しい時期であった。このような潮流は近時いささか停滞を余儀なくされているかに見えるが,しかし依然として1つの隠然たる底流を形作っている。
 ところが,このような,人間に現われる精神症状の多くの部分を,動物的機能の特に分化した変様として取り扱おうとする純粋医学的立場に対し,行き過ぎのないようにとの反省と警告との声が絶えず発せられたこともまた事実である。精神異常を人間学的に把握するという見地に立った試みが,追々と盛んになってきたのも,その1つの現われと見ることができるし,また見出された身体所見と精神症状との間の関係付けを,1つの有意義な可能性とは見ながらも,両者の間の真の関連を認めることに対して極度に慎重な人々がいるのも,それを証するものであろう。そしてこの後の立場は,厳正な認識論の上に立つ精神病理学者の拠って立つ立場であって,これらの人々は,ただに身体所見のみならず,遠い過去の体験を現存の精神症状と因果的に結び付けようとするあらゆる思弁に対しても,はなはだ懐疑的である。そして彼らは事あるごとに主張する,精神異常を正当に取り扱うことのできるのは,ただこの種の純正な精神病理学のみであると。

研究と報告

仮性対話性独語の研究—精神分裂病と振戦せん妄の場合

著者: 臼井宏

ページ範囲:P.577 - P.583

I.緒言
 われわれ精神科医が患者の独語に接する機会はきわめて多いにもかかわらず,独語に関する論文はきわめて少なく,本邦ではわずかに古川5)と小倉11)の2つを数えるに過ぎない。これらは分裂病者の独語が如何なる体験を伴っているかを,主として現象学的見地から論じたものである。
 最近,主としてアメリカにおいて,行動科学的見地から,communication behaviorやlanguage behaviorの研究がさかんであるが,独語に関してのこれらの面からの研究はなされていない。

甘えと攻撃—第1報「転移性攻撃」について

著者: 福島章

ページ範囲:P.585 - P.592

 1)原始反応および敏感反応と診断された2例の犯罪者の攻撃的行動の記述と考察を試みた。
 2)彼らの攻撃的行動は「甘え欲求」(土居)の不満と密接に結びついていた。すなわち,行為者がかつて生活史的に重要な人物に抱いていた「甘え欲求」が被害者となるべき人物に幻想的に「転移」され,その幻想の破局において,甘え欲求と不可分に結びついて攻撃性が解発されたものと理解しうることを示した。そこで著者はこの種の攻撃を「転移性攻撃」と呼ぶことを提唱した。
 3)以上の知見は,精神鑑定の経過の中で,被告人に対する精神療法的接近によって得られた。

気管支喘息に併発した精神障害—気管支喘息性精神病(症候性精神病)について

著者: 明石淳 ,   青野圭助 ,   石村栄作 ,   織田行高 ,   今泉恭二郎

ページ範囲:P.593 - P.598

I.はじめに
 気管支喘息患者に併発した精神障害はしばしばみられ,その報告は数少なくない。しかし,その病因ないしは病原に関しては,さまざまな観点から観察・解釈されているようである。これらを整理してみると,
 1)喘息発作にともなう呼吸・循環障害に起因した,主としてhypoxemiaあるいはhypoxiaによる症候性精神病ではないか。

心因健忘と思われる2症例

著者: 桜井俊介 ,   小口徹 ,   丸木清浩 ,   保崎秀夫

ページ範囲:P.599 - P.602

 健忘の症例では,はっきりとした外因,身体因のある場合をのぞいて,心因性か,外因性か,詐病かの鑑別に悩まされることが少なくない。とにかく健忘はのこしているが原因ははっきりしないという場合である。ここに報告する2症例も鑑別に悩んだ例である。

肝脳疾患特殊型を疑われた2症例について—脳波と臨床症状の相関ならびにネオマイシンの効果

著者: 小倉正己 ,   田中恒孝 ,   斎藤正武 ,   宮下俊一

ページ範囲:P.603 - P.610

 臨床的に肝脳疾患特殊型を疑われる2症例について脳波所見と臨床像の相関を検討し,さらにNeomycinを経口的に投与してその治療効果を調べ次の結果を得た。
 1)脳波は基礎律動にもとづいて,α1:9c/s以上のα波が律動的に現われθ波の混入の目立たぬ,α2:8C/Sの緩徐α波にθ波が混入し律動性の乱れる,θ1:6〜7c/sθ波が比較的律動的に現われる,θ2:4〜5c/sの不規則θ波に小量のδ波が混在する,δ1:2〜3c/sの不規則δ波にθ波が混在する,δ2:1〜3c/s高振幅δ波が持続するパターン,の6つに分類できた。
 一方,意識水準の程度をI期:意識清明,II期:無欲状で自発性を欠き,抑うつ的か多幸・多弁など感情,意欲面の障害の目立つ時期,III期:傾眠的で注意集中困難を示し,頭痛,顔面のほてり,手指の振戦のみられる時期,IV期:失見当,精神運動興奮,思考散乱が著明で,のちに健忘を残す時期に分類された。
 2)意識障害の程度の進行にほぼ平行して,脳波の基礎律動もα波→θ波→δ波へと漸次周期が延長していく傾向がみられた。
 3)基礎律動がθ1からθ2を示す時期から前頭優位両側同期性の150〜200μV,2.5c/s程度の高振幅大徐波が律動的に群波をなして出現しはじめ,基礎律動がおそくなるにつれてその発現頻度を増して汎性化し,ついには脳波全体が高振幅δ波でおおわれるようになった。

躁うつ病に対する炭酸リチウムの使用経験—(第2報)中毒について

著者: 高橋三郎 ,   諸治隆嗣 ,   伊藤耕三 ,   諏訪望

ページ範囲:P.611 - P.617

I.はじめに
 リチウムは,すでに前世紀から痛風やてんかんに対する治療薬として登場し,さらに高血圧や腎疾患に対する低ナトリウム塩療法の患者に,食塩の代用として,欧米で長いあいだ使用されていた。さらに精神科領域において種々の興奮状態,とりわけ躁病性興奮に対し,特異な鎮静作用がCade(1949)により報告されて以来4),北欧,オーストラリア,米国などでその効果が確認され,これらの国々においてはすでにルーチンな治療薬として認められている。
 一方わが国においては,2年前にはじめてその精神科領域における治験が報告され13)23),われわれもその効果について,とくに躁病における予防的効果を確認し報告した14)。しかしながら本剤投与による重篤な中毒例に関する報告は現在までのところみられない。最近われわれは本剤によると思われる中毒の2例を経験し,その特異な経過を追究する機会があったので,ここにその概要を述べることとする。

新しいBenzodiazepine系薬物D-58 S1の睡眠への影響について

著者: 功刀弘 ,   矢吹篤 ,   星昭輝 ,   木村聰 ,   石田哲浩 ,   原俊夫

ページ範囲:P.619 - P.624

I.はじめに
 Chlordiazepoxide,diazepamおよびnitrazepamなどのbenzodiazepine誘導体は精神安定剤として,また睡眠導入剤として,最近ますます多用される傾向にある。そのすぐれた精神安定作用はこれらの薬剤の評価を一応不動のものとしたように思われるが,これらの薬剤の使用方法は必ずしも単純ではない。われわれは武田薬品工業で開発した新しいbenzodiazepine誘導体であるD-58S1の臨床上の薬効について,検定を行なう機会をえたので,その睡眠におよぼす影響を中心に終夜睡眠脳波を応用してその薬効を検討した。われわれ6)は,脳波上の睡眠パタンでいわれている深睡眠相(第4相)と精神機能との関係について検討してきているが,本報告でもこの点にとくに注目した。今回の報告は例数も少なく,統計処理による検定は行なわなかったが,終夜脳波の応用による薬効検定の一つの新しい試みを紹介するとともにbenzodiazepine誘導体の薬効の一つの傾向を指摘し,これらの薬物の興味ある作用について論ずるつもりである。

二重盲検法によるClomipramineとAmitriptylineの抗うつ効果の比較

著者: 谷向弘 ,   乾正 ,   金子仁郎

ページ範囲:P.625 - P.633

 Imipramineのiminodibenzyl核の3位を塩素原子で置換したclomipramineの抗うつ作用を,amitriptylineを対照薬とした二重盲検・比較試験法によって調べた。「似たもの同志の組」として試験を完了したものが18組,相手がきまらないまま,あるいは一方が途中で脱落したものが4組で,結局3週間以上観察をつづけることが出来たのは,clomipramine投与例19例,amitriptyline投与例21例であった。
 症状評価のためには,臨床精神薬理研究会が作成した「うつ病症状評価尺度」の医師用と患者用を用い,得られた結果を,逐次検定法,x2検定法,および因子分析法によって抽出された全般因子および内因因子の評点の推移等によって解析したところ,概括的な抗うつ作用,有効率,効果発現速度,標的症状のいずれについても,両薬剤の間に推計学的に有意差を見出すことはできなかった。いずれの薬物によっても,ほぼ90%の症例に好影響がみられ,抑うつ症状,意志・思考抑制,自律神経系の身体症状などどの要素症状にも満足すべき効果が得られた。1日最高投与量を指標として,両薬剤の使用薬量を調べたところ,clomipramineの100±9mg/日に対しamitriptylineでは130±37mg/日で,この差は危険率5%で推計学的に有意であった。

二重盲検法による抗うつ剤Protriptylineの薬効の評価

著者: 高橋良 ,   佐藤倚男 ,   伊藤斉 ,   川北幸男 ,   工藤義雄 ,   栗原雅直 ,   谷向弘

ページ範囲:P.635 - P.645

I.まえがき
 うつ病に対する優れた治療薬としてimipramineが登場してから既に13年になるが,この間imipramineの他三環系抗うつ剤として,amitriptyline,desmethylimipramine,trimipramineなどが新たに加わり,うつ病の薬物療法は一段と進歩をとげてきた。しかしここ数年の間に欧米においては更に新しい数種の抗うつ剤が開発され,検定をうけ,一部はすでに臨床上に利用されている。
 ここに発表する塩酸protriptylineはその一つであり化学名はN-methyl-5H-dibenzo〔a,d〕cycloheptene-5-propylamine hydrochlorideで,構造式は次のとおりである。

短報

Papaverin誘導体Sp 732によるナルコレプシーの治療経験

著者: 石黒健夫 ,   島薗安雄

ページ範囲:P.647 - P.648

1.はじめに
 Sp 732は中枢神経刺激作用をもつpapaverin誘導体で,amphetamineとも類似の構造式をもつが,代謝の過程でamphetamineになることはないとされる3)

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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