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文献詳細

雑誌文献

精神医学13巻9号

1971年09月発行

文献概要

研究と報告

病的罪責感と宗教の治療的効果

著者: 稲垣卓1

所属機関: 1島根県立湖陵病院

ページ範囲:P.873 - P.878

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 強迫症状の背後に,宗教が関与する抑圧された罪責感が見出されることは少なくない。また,その場合には治療の困難な場合が多い。
 本論文では,仏教僧侶の家庭に育った2例およびキリスト教伝道者の家庭に育った1例の計3例の強迫症状をもつ患者に行なった精神療法の経過の概略を述べるとともに,患者の信仰に根差す抑圧された敵意と罪責感について考察し,ついでそのような宗教的罪責感に対する治療の方法について論じた。
 3症例はいずれも,敵意と罪責感がからみ合って相互拮抗的な関係にあり,両者ともに本当の意味では認識されていなかった。このような場合に宗教的罪責感を無視して治療を行なうことは適切ではない。しかし,患者自ら赦されないと信じている罪を洞察させることは容易でなく,また罪を直視した場合には深い絶望に陥る危険も大きい。
 このときもし,患者の信仰する宗教に「赦し」の思想が存するならば,信仰を罪責感を強めるものとして排斥するのではなく,患者の宗教が元来もっているにもかかわらず患者が見失っていた「赦し」に注目するように配慮しながら精神療法を進めるのがよい。それによって,患者を絶望に陥らせることなく自己の罪責感を洞察させることができる。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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