文献詳細
研究と報告
アルコール中毒と自己破壊行動
著者: 大原健士郎1 本間修1 宮里勝政1 有泉豊明2 有安孝義3
所属機関: 1東京慈恵会医科大学精神神経科教室 2多摩川保養院 3総武病院
ページ範囲:P.893 - P.900
文献概要
外国,とくにアメリカの報告2)4)では,アルコール中毒者に自殺が頻繁に発現するといわれている。たとえば,Robins, E. ら2)は自殺企図者に臨床診断名を下し,5群に分類し,その1群にアルコール中毒をあげているほどである。またMenninger, K. 1)らの精神分析医は,アルコール中毒者と自殺者の心理に,共通した自己破壊的傾向を認め,アルコール中毒者をおしなべて,慢性ないしは部分的自殺とする見解も多い。もちろん,Kessel, N. 4)のように「中毒そのものを自殺行動とするなら,中毒者はどうして別の手段を用いて新たな自殺を意図するのだろうか」という反論もある。しかし,実際に,われわれが臨床の場でアルコール中毒者に接してみると,飲酒の基盤にかくれた神経症がかなりの割合に存在することが明らかになっている。いわばこの仮面神経症(masked neurosis)がアルコール中毒者にどれだけ存在し,それが自殺行動とどのような関係にあるかを知ることは,はなはだ興味深いことである。わが国では,これまでにアルコール中毒者の自殺について,まとまった報告はほとんどないが,この論文では,アルコール中毒者との面接によって、彼らの生活歴から,詳細な自殺企図,希死体験を検討し,神経症者を対照として,その特徴を浮きぼりにしたいと考えた。
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