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雑誌目次

論文

精神医学14巻10号

1972年10月発行

雑誌目次

巻頭言

Sergei Sergeevich Korsakov

著者: 今泉恭二郎

ページ範囲:P.882 - P.883

 私がソ連の唯一の神経精神医学専門雑誌の名称に,S. S. Korsakovの名を冠してあるのを知ったのは,20年前であった。唯一の専門雑誌の名称にその名を冠するほどだから,コールサコフ病やコールサコフ症候群でしか知らない彼が偉大な学者で,ロシア-ソ連の精神医学史上でも第一にあげらるべき臨床家であっただろうことは,その時から考え続けていたことであるが,今までそのことを調べずじまいに過ごしてきた。今度少し調べてみると,Korsakovの名は,症候群の名称のうえだけでなく,理論のうえからも実践のうえからも,世界の精神医学史上忘れてはならないことがわかった。常識的には随分見当違いの巻頭言に,あえてこの人のことを書こうとするゆえんである。
 Korsakovは1854年に生まれ,1875年モスクワ大学を卒業後,A. Ya. Kozhevnikovの下で,モスクワ大学神経病クリニクで主任医師として3年間働いた。その後の10年間は,モスクワPreobrazhensky精神病院で働き,1888年からモスクワ大学医学部で講義を始め,1892年から教授としてそのクリニクの指導者となった。この間1887年に,「アルコール性麻痺」というテーマで学位を受けている。1900年,46年の短い生涯を終えた。

座談会

内村祐之先生をかこむ—「精神医学の基本問題」をめぐって

著者: 臺弘 ,   土居健郎 ,   宮本忠雄 ,   内村祐之

ページ範囲:P.884 - P.901

執筆への動機
 臺 本日は春というのにずいぶん冷たい雨が降っている日でございますが,内村先生にわざわざおいでいただきまして,少しずつ年代の違う,受持ちの領域も多少違う3人の者が,先生にいろいろ伺う機会を得まして非常にうれしく思うわけでございます。
 「精神医学」には前々から"先覚者に聞く"というシリーズがありまして,いろいろの先生方にお話を伺ってまいりましたが,私共は内村先生には,どうも失礼ながら,昔話を伺うという気分になれそうもありません。それに先生は以前,41年から20回にわたって「わが歩みし精神医学の道」という題で,ご自分のお仕事の間に交渉をもたれたいろいろな方々のお話を「精神医学」に載せられました。これは単行本*としても出されております。

研究と報告

精神鑑定例の経過—第1報 精神分裂病例

著者: 稲村博

ページ範囲:P.903 - P.910

I.緒言
 刑事被告人の精神鑑定については,精神医学的にも法学的にもすでに久しく活発に論ぜられ,実践も多々積重ねられて,発表論文も尨大な数にのぼる。しかし,鑑定例の予後に関する報告はきわめて数少なく,ことにわが国においては皆無というに等しい。このことは単に精神科医にとってのみならず,判事をはじめ司法分野の人々にとっても残念なことというべきであろう。
 一方,分裂病の潜伏期や初期に唐突で残虐な謎のごとき殺人を行なう者がみられ,海外では,Glaser(1934)やWilmanns(1940)などの研究があるが,わが国ではこの方面の研究もまた等閑視されているかに思われる。

分裂病者の的はずれ応答の数量的評価と治療経過—とくに分裂病症状に対する向精神薬と働きかけの単独効果と併用効果について

著者: 八木剛平

ページ範囲:P.911 - P.917

 質問に対してでたらめに応答するひとりの分裂病者が30回往復の廊下掃除を行なうさいに,1往復ごとに往復回数についての「的はずれ応答」を記録しながら,2年間約150回にわたって応答の矯正を続けた。症状の変動は数量的に表現され,向精神薬と働きかけに関するそれぞれの効果の特徴および併用効果について客観的な資料が得られた。
 1)はじめの1年間は2名の看護者が指導を行なった。働きかけの方法は統一せず,向精神薬を投与し,その種類も量も適宜に変更した。的はずれ応答は次第に減少し,第41回で消失した。治療者によって患者のでたらめの程度には有意の差があった。
 2)次の1年間は推定された治療的要因を確認したのち,それらを計画的に組み合わせた。治療者は3名であった。
 a)働きかけを言葉による矯正に統一し,向精神薬を投与しないで働きかけを行なうと,症状は有意の減少を示した。
 b)治療者間の差は働きかけの方法を統一することで緩和されたが,勧誘に対する拒否反応の頻度について差が認められた。
 c)働きかけを行なわないで向精神薬を投与した場合には,症状は有意の減少を示さなかった。
 d)向精神薬を投与しつつ働きかけを行なった場合に,症状は急速かつ大幅に減少した。この減少の速度と幅は向精神薬なしで働きかけた場合にくらべてはるかに顕著であった。

無爲自閉的な慢性分裂病者への作業療法—グループ作業療法の治療的意義について

著者: 内村英幸 ,   斎藤雅 ,   江口ミチ子 ,   内田美智子 ,   納富峰男 ,   松隈仁 ,   江原富美枝

ページ範囲:P.919 - P.927

I.緒言
 言語的レベルでの精神療法的接近も向精神薬物療法の効果も期待できない,慢性分裂病者に対しては,生活作業療法的な働きかけがなされてきた。しかし,現在の生活作業療法に対しては,治療理念の喪失によるマンネリ化が批判されている。この批判は,今までの作業療法に関する研究が,多くの示唆を与えながらも12),経験的レベルに終わりがちで,作業療法によって変化してゆく慢性分裂病者の心理状態を分析検討しながら,作業療法の技術化,理論化の試みが,あまりなされなかったためだといえるのではなかろうか。われわれは,作業療法の原点からこの問題を再検討してゆくことを目的に,終日無為好褥的で自閉的な慢性分裂病者を対象にグループ作業療法を試みてきた。この論文では,症例をあげ慢性分裂病者の変化を分析しながら,グループ作業療法の治療的意義について検討を加えたいと思う。

嗜癖者多発家族の研究

著者: 大原健士郎 ,   宮里勝政 ,   本間修

ページ範囲:P.929 - P.933

I.はしがき
 アルコール中毒や薬物依存が発現する背景は非常に複雑で,生来性の素質のみを重視することはできないし,そうかといって,環境的因子や心理学的因子のみをとりあげて論ずることもできない。したがって,その病因論も多く,そのいずれもが問題とかかわり合いをもっている。これらについては,後に詳しく考察するつもりであるが,現在,この問題を解明してゆこうとするには,ケースを重ねて,それを多角的に検討してゆくことこそ大切なことと考えられる。ここで報告するケースは,一家族構成員のすべてにアルコール中毒または薬物依存が発現したものであり,われわれは各症例の発病要因を分析検討することにより,家族精神医学的アプローチを試みたいと考えた。

発作性左右障害を呈したてんかんの1例

著者: 丸子一夫 ,   石下恭子 ,   高谷雄三 ,   八島祐子

ページ範囲:P.935 - P.939

 発作性に左右障害を訴える20歳,男子のてんかん患者の1例を報告した。患者は発作性に主として,自己の身体についての左右識別が不能となり,要素性幻視発作,向反側性発作および全身性強直-間代性けいれん発作を合併した。Bemegride賦活の脳波上,左半球頭頂・後頭優位の棘徐波結合の発作波を認め,これと一致して左右障害の出現を観察しえた。
 発作性逆転視の現象と比較し,Bentonら13)の左右勾配仮説によって発作性左右障害の発生機制を考察した。

精神分裂病へのL-DOPAの影響

著者: 山内育郎

ページ範囲:P.941 - P.949

 精神分裂病患者30例にL-DOPA 300〜1,200mgをmajor tranquilizerに併用して投与し,著効6例,有効8例,やや有効5例,無効11例の結果を得た。自閉性,感情鈍麻の改善が最も共通し,次いで,幻覚,妄想,行動障害などの改善がみられた。緊張および破瓜型が,妄想型より有効率が高いことを観察した。無効例のうちそのほとんどが投与前とまったく変化しないことが注目された。なお,肝機能にも影響がないと考えられ,副作用も認められなかった。

C.P.C. 松沢病院臨床病理検討会記録・12

進行麻痺(Lissauer型)の1例

著者: 松下正明 ,   石井毅 ,   吉田哲雄

ページ範囲:P.951 - P.956

I.はじめに
 精神医療において今昔の差の最もはなはだしいのは進行麻痺のあり様ではあるまいか。現在は急性例の入院は当院で年に数例をかぞえるのみであり,若い医者には熱療法の経験をもたぬ人が多くなった。また入院患者をみても進行麻痺者の数は当院で3.3%(1130名内38名,昭和47年7月)にすぎない。しかし梅毒は潜行性に蔓延しているといわれ,近い将来進行麻痺が再び増加する可能性は否定できない。進行麻痺は精神障害の中で早期発見,早期治療が決定的に重要性をもつ数少ない疾患の一つであることを思えば,頻度の減少にもかかわらず,いやそれゆえにこそ救いうる患者を誤診により廃人とすることは許されない。その意味でも本例を取り上げる意味がある。

資料

東北地方における精神科医療の現状と問題点—医療と研究

著者: 兼谷俊 ,   本間俊行

ページ範囲:P.957 - P.963

I.緒言
 著者の一人である本間は,第9回精神衛生東北ブロック研究協議大会の席上,民間精神病院の立場から,自治体精神病院への期待と役割りについてアンケート調査の結果を発表した1)。次いで著者らは,第67回日本精神神経学会総会におけるシンポジウムの中で,新潟を含む東北7県における精神科医療の現況について発言する予定であったが2),この徳島総会は周知のような結果で,発表の機会を得られないまま終了してしまった。しかるに今回,兼谷が第25回東北精神神経学会(昭和46年3月25日)において表題のテーマにつき,病院の立場から発言を要請されたことから,これまでの資料を整理,分析し問題点を探ろうと考えた。
 以下はその結果である。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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