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雑誌目次

雑誌文献

精神医学14巻11号

1972年11月発行

雑誌目次

巻頭言

“学術雑誌”について

著者: 切替辰哉

ページ範囲:P.978 - P.979

 現在,日本精神神経学会に新生のための長い混乱が続いており,学会の定款に定められている機関雑誌「精神神経学雑誌」のあり方についても批判が起こり,その後,あり方についての検討のために長い時間を要した。そのために編集委員の交代が遅れていたが,先頃漸く,私は四年の長きに渉った編集委員長を辞めることができた。その間に感じた,実際は「精神神経学雑誌」についてのであるが,一般に“学術雑誌”についての感想を思いつくままに述べてみたい。
 “学術雑誌”にもいろいろ種類があって,その性格がそれぞれ異なることは言うまでもないが,まず考えなければならないことはその性格である。そこに“学術雑誌”のあり方が位置づけられ,そこで編集方針が基礎づけられるからである。すなわち“学術雑誌”の性格づけがなされなければならない。

座談会

アジア・太平洋地域における精神医学と精神医療の過去,現在,未来

著者: ,   逸見武光 ,   ,   ,   ,   ,   目黒克己 ,   ,   ,   ,   ,   加藤正明 ,   ,   ,  

ページ範囲:P.980 - P.1001

昭和46年12月3日から1週間,WHOの第7回精神医学診断・分類会議が東京で開かれた。その最終日の12月14日にローカル・グループとして参加したアジア諸国の精神科医に集まっていただき,WHOの代表も参加のうえで「アジア・太平洋における精神医学の過去,現在,未来」について話してもらった。討議の時間が充分になく,紙上参加のかたちになったものもあったが,経済的,政治的に多くの困難に当面しながら,精神医学と精神医療(とくに後者)のために全力投球しているこれらのアジアの精神科医の努力は,まさに呉秀三先生のそれに匹敵するものであると感じた。経済大国といわれる日本の貧しい精神医療をこの人たちのまえに提出して批判してもらう時間がなかったことは残念であり,また文化論的な討議に終わったことも物足りない点があったが,初めての試みでもあり,次の機会に待ちたいと思う。(加藤 正明)

研究と報告

精神鑑定例の経過—第2報 分裂病以外の症例

著者: 稲村博

ページ範囲:P.1003 - P.1012

 八王子医療刑務所精神科に昭和45年4月から18カ月間に収容された合計115名のうち,分裂病以外の診断を受けた者で裁判時精神鑑定を受けた合計10名について,症例報告と検討を行ない,さらに,精神鑑定全般に関して考察した結果をまとめると,つぎのごとくである。
 (1)鑑定を受けた非分裂病例の罪名は殺人はじめ重大なものであるが,第1報の分裂病例に比べると,非行歴や犯罪歴のある者が多い。
 (2)鑑定人の判定のうち,予後経過からみて4例に多少の疑問が持たれるが,第1報例に比べるとその程度は軽度である。
 裁判での判決は,鑑定結果をよく尊重している点,第1報例と同様である。
 (3)入所後症状発現までの期間は,第1報例よりも短期であり入所前後から発現している者が多いが,これは疾病の本質に関係しているものと思われる。
 つぎに第1報との関連でいえることは,
 (4)拘禁下での病像はどの疾患も古典的なものが多く,治療には長期を要す難例が多いほか再発の頻度も高いが,拘禁下のゆえに治療不能ということはないように思えた。
 (5)精神鑑定の困難や限界について,本対象者に則していくつかの点を指摘した。
 鑑定人がとくに注意すべき症例は,分裂病潜伏期に殺人など重大犯を行なうものでいわゆる精神病質などと見誤りやすいことが注目された。

精神症状を前景とした予後良好な脳炎

著者: 岡田文彦 ,   遠藤雅之 ,   斎藤嘉郎 ,   高橋三郎

ページ範囲:P.1013 - P.1020

 病初期に発熱,意識障害,神経学的陽性所見などの脳炎症状を欠き,精神症状のみを前景とした予後良好な脳炎の3例を報告した。病初期より認められた主な精神症状は,ヒステリー症状および緊張病症状であり,これらの症状の背後には,把握困難ではあったが,軽い意識障害が存在したと考えられた。したがって脳炎としての診断は,脳波検査,髄液検査とともに,相当期間の経過観察ののちに,初めて可能となった。さらに,病状消失後も3例中2例に脳波異常が明瞭となったので経時的脳波検査の重要であることを付け加えた。

前頭葉損傷の臨床的考察—II.前頭葉ロボトミー後の精神症状

著者: 横井晋 ,   土屋佑一 ,   堀口佳男

ページ範囲:P.1021 - P.1027

I.緒言
 Egas Monizによって創始された前頭葉白質切蔵術(Prefrontal lobotomy,以下ロボトミーと略す)は,アメリカのFreeman and Wattsの熱心な追試により精神外科的療法として登場した。この新治療法は,戦後わが国でもとり上げられ精神科医の間に燎原の火のごとく拡がった。インシュリン療法,電撃療法の効果の限度が経験され,まだ抗精神薬の登場は微々たる時であったから,精神科医が精神科の主たる疾患,精神分裂病その他の難治疾患の新しい治療としてとびついたのは無理からぬことであった。それは結核の治療に,現在は有害とすらいわれている人工気胸,油胸,プロンビールングが競って行なわれた同じ時期でもあった。しかしある精神科医たちはロボトミーに批判的であり,分裂病のような難しい病気が,脳を切る簡単な手術でよくなるとは考えられないと主張していた。時の経過とともにこの洞察の正しいことが実証され,手術を受けた後,一過性によくなった患者もしばしば再び悪化し,無差別無定見に行なわれた手術は,苦々しい文字通りの傷跡を患者の脳に残してしまった。この間もちろん適応の選定,術式改善の努力はなされたが,治療法としてのロボトミーは現在例外を除いてまったく顧みる余地はないほどである。治療を行なった医師は,単に流行を追った過去の失敗談としてすまされようが,手術を受けた患者はどうか!精神障害の上にさらに脳障害を負わされたのである。
 精神病院の慢性病棟の一隅にはそれと分かる頭の傷跡をうけた人がいるのを時に経験する。この人たちは手術を受けたことすら忘れられて,多くの患者の中に没入してしまっている。われわれの犯した罪は償いえないとしてもせめて後始末ぐらいはしたいと考えて,まず1例の,ついで2例について記載する。それはまた前頭葉の機能を云々する者にとっては,またとない重要な資料でもある。

症状精神病の個別的特徴性について

著者: 原田憲一

ページ範囲:P.1028 - P.1032

I.緒言
 症状精神病を取り扱った人の多くがその「病像の非特異性」,「多様の基礎疾患に対する一様の精神反応性」を認め,すなわちBonhoeffer1)の外因反応型概念の正当性を認めて,その中にすっぽり身を入れながらも,しかもその当面している一定の症状精神病の病像に他の症状精神病とは異なったある特殊な色彩をしばしば感じとっていることも事実である。それなのにBonhoefferの概念の偉大さに眩惑されてか,それ以後症状精神病それぞれの病像の特徴性についての探求が軽視されてしまい,各症状精神病の特徴をみようとする視点からの症状精神病病像のくわしい記載は集積されないで過ぎてきた。
 しかしそれはおかしなことであって,Bonhoefferが病因の多様性に対する精神反応の一様性というときの「一様」とは,すなわち「外因反応諸型」という一つの大きな範疇そのものである。その中に多くの症状群が含まれているのであって,当然そこにいろいろの病像構成上の特徴があってさしつかえないはずである。

振戦・筋強剛・痙攣発作・両手の筋萎縮および人格変化と痴呆を呈した初老期疾患の1例—分類困難な初老期痴呆

著者: 柏瀬宏隆 ,   上島国利

ページ範囲:P.1035 - P.1041

I.はじめに
 近年motor neuron diseaseを伴う痴呆で,臨床的に従来のALS,Alzheimer病,Pick病,Creutzfeld-Jakob病,Parkinsonism-Dementia Complexなどの診断基準に一致せず分類困難な症例が幾つか報告されている1〜7)
 われわれは,遺伝歴を認めずに,初老期に性格変化,痴呆などの精神症状と,振戦,筋強剛,筋萎縮,痙攣などの多彩な神経症状で発症し,約6年間の経過を有する初老期疾患を経験したので,その臨床経過をここに報告し,その疾病学上の位置づけについて,従来の報告例との比較から2〜3の考察を加えた。

C.P.C. 松沢病院臨床病理検討会記録・13(最終回)

いわゆる急性致死性緊張病を思わせる臨床症状を示し,脳病理で脳腫脹,急性リンパ球髄膜脳炎の見られた例

著者: 石井毅 ,   坂本皓哉 ,   森松義雄 ,   飯塚礼二

ページ範囲:P.1043 - P.1047

I.まえがき
 激しい緊張病興奮がつづいて,死亡する症例はきわめてまれではあるが,報告があり,急性致死性緊張病とよばれてきた。一方,一見そのように見えて,実は症状精神病あるいは脳器質疾患であることも多いであろう。報告する症例は臨床的には致死性緊張病の病像を呈したが,末期意識混濁を起こして死亡し,剖検で脳腫脹,急性びまん性リンパ球脳炎の所見を見出した。致死性緊張病,脳腫脹,リンパ球脳炎の臨床について考えてみたい。

動き

アメリカの精神衛生分野における新職種の訓練とその活動について

著者: 増田陸郎

ページ範囲:P.1049 - P.1055

I.はじめに
 現在アメリカの精神衛生第一線においては,好むと好まざるにかかわらず,自然発生的に生まれた非専門的新職種によって静かな,しかし確かな歩調で一つの革命的な進展がなされつつある。これは「心の病い」の終局的な修復は健全にして平均的な社会の中で行なわれなければならないとした場合,高度な学問的教育をうけた専門職(professional)が必ずしも最適な修復者とは限らないという素朴な疑問に答えてくれている。実にアメリカの地域精神衛生センターの第一線で開拓不能とされた黒人ゲットー地区活動に挺身しているのも,この地区出身のワーカーたちである。
 フィラデルフィアのテンプル医大・精神衛生センター所長のDr. Gardnerは「医師のいない精神医学」(psychiatry without doctors)を提唱して、学歴よりは治療士(therapist)として適任かどうかを感情移入,忍耐,支援能力をテストして採用,3カ月の一般教育,6カ月の臨床教育を行ない黒人対策に好成績を挙げていた。彼の次の言葉は傾聴に値いしよう。「精神科医は良い治療士としてよりは知能を根拠として選ばれている。知能は必ずしも良い治療士を作らない。精神医学を含めて一般に支援サービスは目標を誤っていた。われわれは何が基礎的なものであるかを見失っていたのである」。

アメリカの公立精神病院における向精神薬療法の現況

著者: 風祭元

ページ範囲:P.1057 - P.1063

I.はじめに
 著者は1970年4月から1972年3月までの2年間アメリカ合衆国マサチュセッツ州のボストン州立精神病院(Boston State Hospital,以下BSH)に臨床精神薬理学の臨床研究員として滞在し,種々の向精神薬の効果の判定や,向精神薬の副作用の診断・治療に関する研究を行なう傍ら,発病後長い経過を持つ慢性精神分裂病患者を主とした入院患者の病棟の受持医として,診療に従事する機会を与えられた。
 アメリカにおける精神科の医療体系は,日本のそれとはやや異なっているのは周知の通りである。多くの精神神経症,心身症,軽症の精神分裂病やうつ病の患者で,中流以上の,経済的にある程度余裕のある患者は,オフィス一つで開業している精神科専門医,あるいは一般家庭医によって治療されることが多く,公立の精神病院や,それに付設されている地域精神衛生センターの患者は,大部分が医療費公費負担の慢性精神病患者なので,州立病院における医療の状況が,そのままアメリカの精神科医療の実態を正しく反映しているとはいいがたいことはもちろんであるが,ここでは,著者の個人的な体験を通して,アメリカの精神医療,とくに向精神薬療法の現状について述べ,いくつかの新しい動きについても触れてみたい。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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