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雑誌詳細

文献概要

研究と報告

前頭葉損傷の臨床的考察—II.前頭葉ロボトミー後の精神症状

著者: 横井晋1 土屋佑一1 堀口佳男2

所属機関: 1群馬大学医学部神経精神科学教室 2佐久総合病院神経科

ページ範囲:P.1021 - P.1027

I.緒言
 Egas Monizによって創始された前頭葉白質切蔵術(Prefrontal lobotomy,以下ロボトミーと略す)は,アメリカのFreeman and Wattsの熱心な追試により精神外科的療法として登場した。この新治療法は,戦後わが国でもとり上げられ精神科医の間に燎原の火のごとく拡がった。インシュリン療法,電撃療法の効果の限度が経験され,まだ抗精神薬の登場は微々たる時であったから,精神科医が精神科の主たる疾患,精神分裂病その他の難治疾患の新しい治療としてとびついたのは無理からぬことであった。それは結核の治療に,現在は有害とすらいわれている人工気胸,油胸,プロンビールングが競って行なわれた同じ時期でもあった。しかしある精神科医たちはロボトミーに批判的であり,分裂病のような難しい病気が,脳を切る簡単な手術でよくなるとは考えられないと主張していた。時の経過とともにこの洞察の正しいことが実証され,手術を受けた後,一過性によくなった患者もしばしば再び悪化し,無差別無定見に行なわれた手術は,苦々しい文字通りの傷跡を患者の脳に残してしまった。この間もちろん適応の選定,術式改善の努力はなされたが,治療法としてのロボトミーは現在例外を除いてまったく顧みる余地はないほどである。治療を行なった医師は,単に流行を追った過去の失敗談としてすまされようが,手術を受けた患者はどうか!精神障害の上にさらに脳障害を負わされたのである。
 精神病院の慢性病棟の一隅にはそれと分かる頭の傷跡をうけた人がいるのを時に経験する。この人たちは手術を受けたことすら忘れられて,多くの患者の中に没入してしまっている。われわれの犯した罪は償いえないとしてもせめて後始末ぐらいはしたいと考えて,まず1例の,ついで2例について記載する。それはまた前頭葉の機能を云々する者にとっては,またとない重要な資料でもある。

掲載雑誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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