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雑誌目次

雑誌文献

精神医学14巻3号

1972年03月発行

雑誌目次

巻頭言

医原疾患とその周辺

著者: 大塚良作

ページ範囲:P.194 - P.195

 最近の新聞紙上で医学に関係のある記事をよくみかける。しかもその記事の多くは,医学研究の輝く成果ではなくて,医学関係者が被告席に立たされた告発記事である。近年の話題であったサリドマイドによる畸型形成説やSMONのキノホルム病因説などは,ある意味では問題の本質を象徴しているようにみえる。サリドマイドの場合は製薬会社やこの実験に関与した医学研究者の過失であったことは否定できないであろう。この不幸な事件のために,その後の薬物の副作用の検定には必ず胎児に対する影響が調べられるようになったことは,何をもっても代えられない高価な代償によって得た大きな進歩といえる。しかしそれだからといって,過失のすべてが清算され,過失が消滅するものではない。
 キノホルムがSMONの病因であることは,現在では多くの人が信じており,そのために被害者は国,製薬会社および医師を相手とする損害賠償の訴えを起こしている。しかしこの事件について感じることは,本件がわが国においてはじめて起こることができたのではないかという疑問である。SMONの起こっているのはキノホルムを2g以上も服用した人であるということであり,普通使用量として記載されている0.6g程度の量ならば起こらなかったと逆の結論もできそうである。外国でキノホルムの発売停止の処置がとられたという報に接しないところをみると,外国の医師は本邦の一部の医師のように,大量のキノホルムを長期にわたって投与することはないという皮肉な結論もでてくる。どのような薬物も使用量を誤れば毒物となることは,医学に無知な素人でも理解するであろう。このばあいキノホルムがSMONの唯一の病因であるとしたならば,医師が責任の大部分を負わねばならないことは必然的な結論となってくる。

展望

精神病院“管理”の様態変化

著者: 鈴木淳

ページ範囲:P.196 - P.205

I.はじめに
 病院管理の規約は古くはローマの時代から制定されてきているが1),近代的な体系化は1930年代の英米で試みられ2),わが国では1950年前後に始まっている3)
 精神病院の管理がうたわれだしたのもそのころであり4),以来,精神病院団体の結成と拡張,病院精神医学会での多くの業績発表があり,いくつかのすぐれた成書もすでに刊行されている。

研究と報告

陳旧性分裂病でみる分化像—慢性病棟での覚え書き(第1部)

著者: 広田伊蘇夫

ページ範囲:P.207 - P.217

I.はじめに
 精神分裂病者の転帰のうち,入院患者の残留率をみると次の特徴を知る。1969年の時点で,1955年に松沢病院に入院した患者のうち,その約35%はなお在院する。これに対し,1964年度の入院者では,その残留率は約15%となる。時間経過を考慮すれば,確かにこの数値は残留率の著しい減少を示す。が,年間入院者約300名の実態からすれば,その絶対値はかなりの数となる。加えて,ここ数年間,この数値に変動はない。したがって,さまざまな治療に抗し,なお長期にわたり在院する分裂病者の絶対値は必ずしも減少しないことが予想される。当然のこととして,この長期在院者の治療のすすめ方を,くり返し問わざるをえないのが病院精神医療の現状ともいえよう。
 もちろん,これは今に始まる課題でもない。おそらく,いわゆる働きかけとしての治療的姿勢が登場する背景に,当時,圧倒的多数を占めた長期在院の陳旧例を,どのように治療するかの切迫感のあったことは否定しえまい。そして,この切迫感は陳旧例を他律的に動かしえたことにより,急速なテンポでどう動かすかの技術論に向かったといえよう。だが,技術論だけがおしすすめられるとき,そこに治療をめぐる多くの空洞が残る。さらに,技術論を支える病態へのさぐりを欠くかぎり,働きかけと称し,誤った方法論を採用する可能性も否定しえない。例えば,あの患者は荷札作業をよくやる,活動的である,という場合,それがその患者のもつ病態としての常同・固執,あるいは孤立への志向性によって支えられた活動性であるかも知れない。そうであるならば,そこで行なわれる荷札作業は,むしろ常同・固執,孤立の志向を強化していることとなり,技術論としての誤りを犯していることにもなりかねない。したがって,働きかける側の基本的態度として,例えばある患者が孤立的であり,自律的には動きにくいとするならば,(Wasとしての視点),何故動きにくいのかを(Warumを問う視点),どう動かすか(Wieを考える視点)の技術論の実践的展開の中で,より具体的に多方向的に見つめなおし,この<Was-Warum>の構造から,Wieの方向をくり返し検討し直すことが,働きかけの技術論に常に問われているというべきであろう。もちろん,陳旧例でWieを射程内におき,Wasの視点をどこに定めるか,さらにはWarumを問うむつかしさはあらためて述べるほどのことでもない。が,問うとも答えずと,他律的ゆさぶりにのみ力点を注ぎ,それやれ,それやれの勢いだけを強め続けてきたのが,働きかけの軌跡とみることも,ひとつの反省的見解として許されよう。とすれば,むつかしくとも,Wasを知る視点をさまざまに移動し,Warumを問う試みを続けることが働きかけの技術論を,より治療の本筋に近づけるためには必要な手段といわざるをえまい。

Cyanamideによる飲酒嗜癖者の外来治療効果

著者: 有川勝嘉 ,   小鳥居衷 ,   向笠寛

ページ範囲:P.219 - P.227

I.はじめに
 飲酒嗜癖あるいは慢性アルコール中毒者が近年激増しているにもかかわらず,これら患者に対しては入院にさいして身体的中毒症状の治療は行なわれていても,慢性中毒の基盤をなす嗜癖に対する治療は効果的に行なわれていないのが現状であろう。嗜癖に対する治療が効果的でないかぎり患者はふたたび飲酒を試みる結果たちまち治療前のように大量飲酒をつづけるようになり,再入院を余儀なくされる破目におちいる。このような患者が入退院をくり返し,次第に人格の崩壊者として病院に沈澱していきつつあることも現実として見逃せない。これに対してわれわれは身体的・社会的にできるだけ酒害の軽微なうちにこれら飲酒嗜癖者を外来で治療する努力を重ねている。
 すなわち,われわれは毎年全外来新患の約7%を占める飲酒嗜癖または慢性アルコール中毒者を取りあつかい1)12)27),何らかの形で抗酒剤Cyanamideを投与して外来治療を行なってきた。向笠がCyanamideの純正品を用いてその抗酒作用を確認し17),その臨床的応用をなす18)うちに種々の特殊な治療法があみだされ19)20),この治療の適応と限界も明らかになってきた。この特殊な治療法は症例にあわせて工夫され決して単一なものではないが,"節酒療法"という特異的な概念で貫かれている19)20)24)。われわれはこれらの外来治療の臨床的効果を過去4年間(昭和41〜44年)にわたり調査し,高い治療効果が毎年ほぼ同水準で持続していることがわかったのでその実態を報告し,この治療法の適応と限界あるいは酒害者に対する治療者の姿勢等についても若干の検討を加えてみたい。

てんかん発作とヒステリー発作のKombinationについて—その治療抵抗の問題を中心に

著者: 大原貢 ,   工藤勉

ページ範囲:P.229 - P.236

I.はじめに
 従来起源を異にすると考えられているてんかん発作とヒステリー発作が同一患者に現われうるということは,既に古くから臨床的に知られている。1816年Louyer-Villermay7)がこのような現象を示す疾病にHystérie-épileptiformeの名称を与え,1874年Charcot4)がそれをHystéroépilepsieとして系統的に記述して以来,今世紀前半にかけてこの問題についての論議が活発になされるようになった。そしてその臨床的事実を描写し,それを説明しようとする努力は当然のことながらてんかんとヒステリーの間の境界をめぐる診断的,疾病分類的,病因的,病態遺伝的問題へと集中されることとなり,その結果論争の中心は前世紀末から今世紀初頭にかけてのてんかんとヒステリーの結合の立場をとるHystéro-epilépsieの問題から,Affektepilepsie(Bratz,19113)),さらにはPsychomotorische Epilepsieの問題へと移っていった。しかしこれらはいずれも結局は発作現象を器質性あるいは心因性のいずれかへ帰属せしめようとする二者択一的,二元論的立場から論ぜられていたのであり,てんかんとヒステリーとの関係についての疑問には何ら基本的に答えていなかったといえよう。その後このような現象を示す病者が治癒しにくいという治療面の困難性もあって,この問題はほとんど論ぜられなくなった。そしてRabe19)も指摘するように,この30年間における文献においては「それぞれの発作のKombinationは,存在しないかあるいは少なくとも診断学的にはさして価値ある問題ではない」といった傾向がうかがわれており,さらに最近30年間においてはきわめて少数の人々がその発作のKombinationの可能性について報告しているにすぎない(Marchandund de Ajuriaguerra9)1948,Arnold1)1954,Gastaut5)1954,Paal15)1961など)。
 一方日本においてもこの問題についての報告はきわめて少なく,わずかに三浦(1941),丸井(1952),浅尾(1954),新福,田中(1956)のそれがあるにすぎない。しかし彼らもそのKombinationの存在することは認めながらも,その症例の臨床的記述はきわめて簡単であり,またその論点も診断的,疾病分類的問題のみに終始しており,従来の外国における報告の域を一歩も出ていない。

高齢の分裂病患者におけるPraecoxgefühlについて—Praecoxgefühl成立の背景に関する一考察

著者: 杉本直人 ,   赤座叡 ,   関谷重道 ,   四十塚竜雄 ,   天野宏一

ページ範囲:P.237 - P.243

 われわれは分裂病と診断されている高齢の患者において,彼らが状態像に大きな相違を示していたことを知り,彼らの分裂病という診断を疑うことから出発し考察を進めた。
 高齢者では縦断的な観察によって分裂病を診断しあるいは確認することが困難であるという条件がそろっているため,横断的な観察によらなければならず,ここで分裂病診断の有力な決め手の一つであるP. G. の問題を論じた。
 高齢者ではP. G. の感得されえた症例は少なかったという事実を確認するとともに,高齢者では分裂病の診断あるいは確認が困難であることをのべた。
 分裂病以外の患者においてP. G. の感得された症例を根拠とし,P. G. は分裂病にのみかかわるものでないことを論じた。

Sheehan症候群の1症例

著者: 神野佳也

ページ範囲:P.245 - P.251

 臨床的にSheehan症候群“不全型”と診断し,Hydrocortisoneによる代償療法により,軽快した1症例を報告し,その精神症状と脳波所見についての検討をくわえた。

CS-370の精神神経科領域疾患に対する臨床効果について

著者: 大海作夫 ,   田中義 ,   有岡巌 ,   西村公宏 ,   浅尾之彦 ,   中野志隆 ,   橋本栄修 ,   夏目誠

ページ範囲:P.253 - P.266

I.緒言
 このたび,三共株式会社中央研究所において開発されたCS-370は,化学名を10-chloro-11b-(0-chlorophenyl)-2, 3, 5, 6, 7, 11b-hexahydrobenzo(6, 7)-1.4-diazepino-(5, 4-b)oxazol-6-oneと称し,融点(分解点)204〜206℃を示し,無味,無臭の白色結晶性粉末で下記の構造を有する化合物である。
 本剤はchlordiazepoxide,diazepamおよびさきに三共株式会社において開発されたoxazolam(セレナール)と同じくbenzodiazepine誘導体の一種で,これらと類似の化学構造を有しており(図1),薬理実験でも本剤はdiazepamと同程度の馴化作用,闘争反応抑制作用が認められている。しかし一方,本剤の毒性はdiazepamに比べてはるかに低く,強力な静穏作用を有するので安全性の高い精神調整剤として有望であると考えられる。

短報

新抗うつ剤Noxiptilinの使用経験

著者: 森温理

ページ範囲:P.267 - P.268

I.はじめに
 Noxiptilin(BAY-1521,Agedal)は三環系抗うつ剤の一つであるが,図1のような新しい構造式をもつ薬物である。本剤に関する報告は本邦ではまだみられないが,われわれは本剤を各種うつ病に試用する機会を得たので,その結果を簡単に紹介する。

C.P.C. 松沢病院臨床病理検討会記録・5

脳動脈硬化性精神障害と診断され,病理的には脳動脈硬化を合併した老年痴呆であった症例—痴呆の臨床的鑑別について

著者: 石井毅 ,   吉田哲雄 ,   松下正明

ページ範囲:P.269 - P.273

I.まえがき
 臨床的に脳動脈硬化による痴呆と,老年痴呆とを鑑別診断することは,時として非常にむずかしい。この例は脳動脈硬化による痴呆と診断されて入院したが,剖検後の検討では老年痴呆との合併であり,むしろ老年痴呆が主病変ともみられる症例であった。

資料

韓国における精神障害—講演および質疑応答

著者: 李定均

ページ範囲:P.275 - P.285

 韓国の精神病の頻度について話をする前に韓国の事情に対する説明を簡単にさせていただきます。
 恥ずかしいことですが,まだ韓国には精神保健,こちらでいう精神衛生を私たちは精神保健といっておりますが,それがまだ法律化されておりません。学会では15,6年前から,その精神衛生法の制定を要求していますが,国家の予算が少なくて,取り消されてしまうんです。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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